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京都発EV、隠し味は和食の「伝統の技」だった

JBpress のロゴ JBpress 2017/08/06 嶋田 淑之

宇治開発センターで試作車を製作している様子。2013年3月頃 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 宇治開発センターで試作車を製作している様子。2013年3月頃

 2017年6月、トヨタ自動車の株主総会で、豊田章男社長は今後テスラモーターズやグーグルが競争相手になる旨の発言をして注目された。EV(電気自動車)時代の本格到来と、IoTやAIの導入加速化を視野に入れての発言だ。

 実際、世界各国のベンチャー企業が、IoT、AIなど先端技術を搭載した新型EVを続々と発表している。しかし、乗用車カテゴリーにおいてEVを量産化し得ているベンチャー企業となると、今なお世界に2社しかないのが現状だ。アメリカのテスラモーターズと日本のGLM(京都市左京区)である。

 GLMは、2010年、京都大学の産官学連携プロジェクトをベースに設立された、資本金32億2914万円、従業員数23人(内技術者16人)の企業(2017年6月27日時点)であり、完成車事業とプラットフォーム事業を展開している。

 完成車事業は、99台限定のスポーツEV「トミーカイラZZ」が現在販売中であるほか、2019年発売予定のスーパーカータイプEV「GLM G4」がある。G4はグローバル市場で1000台の販売を見込んでいる。

スポーツEV「トミーカイラZZ」改良型。世界初となる“フロントウインドーに樹脂製の窓を採用した”バージョンを開発中。2017年秋の販売を予定 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 スポーツEV「トミーカイラZZ」改良型。世界初となる“フロントウインドーに樹脂製の窓を採用した”バージョンを開発中。2017年秋の販売を予定

2019年発売予定のスーパーカータイプEV「GLM G4」。2017年7月、香港企業と資本提携し、開発資金を調達 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 2019年発売予定のスーパーカータイプEV「GLM G4」。2017年7月、香港企業と資本提携し、開発資金を調達

 一方、プラットフォーム事業は、EV事業に新規参入したい国内外の企業に対して、GLMの開発プラットフォームを使って、EV作りのノウハウを提供するビジネスである。国家として次世代エコカーへの軸足シフトを表明している中国の企業からもオファーを受けている。

 今後10年の間に、世界の自動車市場が大きく様変わりしようとする中、“和製テスラ”と称されるGLMは、日本や世界の市場でどのように戦っていくのだろうか? 創業経営者の小間裕康氏(40)に話を伺った。

経済合理性よりもワクワク感を追求

GLMの小間裕康社長 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 GLMの小間裕康社長

「私たちは、“最初の一歩”として、万人受けするクルマではなく、ごく限られた層に愛好されるクルマ作りを目指しています。経済合理性よりも、“遊び心のあるワクワク感”を追求していると言ってよいでしょう」

 京都はEVの研究開発に適した土地柄だとよく言われる。

(1)「京都議定書」(1997)に象徴される環境都市であること

(2)京セラ・日本電産・オムロンをはじめ電機関連の先端的部品メーカーが集積していること

(3)トミタ夢工場、童夢などスポーツカー・レーシングカー作りの伝統があること

に起因するが、小間氏は別の要因にも言及する。

「1つは、京都には東京にない“ゆったりとした時間の流れ”があって、研究開発への集中を可能にしてくれることです。もう1つは、歴史的建造物など、今も生きる古都の伝統が知的創造性を刺激してくれること。とりわけ、今なお生活の端々に見出される“先人たちの智慧”が製品開発へのヒントを与えてくれることです」

“先人たちの智慧”の一例として、和食伝統の「隠し包丁」の考え方をEV開発に取り入れていると小間氏は言う。隠し包丁とは、具材に味がしみ込みやすくしたり、火が通りやすくしたり、さらには食感をよくしたりするために、盛り付け時に見えない箇所に、あるいは目立たないように包丁で切れ目を入れることだ。

走る・曲がる・止まるという基本機能に関し、EVはガソリン車とは異なる点が多く、そのままでは、車好きの方々が違和感を覚えかねない面がある。そこで、気づかないようなところで、ドライビングの快適感を意図的に創出しているのだという。

 たとえば、ガソリン車は、ペダルを外してもクリープ現象で少し前へ進むが、EVはオンとオフしかなく、オフにしてしまうとまったく動かない。そこで、あえてクリープ現象を残すようしている。また、EVはデジタルであり、本来は不必要なのだが、EVシステムの起動にはボタンではなくカギ(シリンダー)を使っている。

 京都には、100年さらには1000年に達する老舗も多いが、老舗企業のご当主たちが口にする言葉に「ムダ・ムラ・ムリを楽しむ余裕こそが大切」というのがある。小間氏は、革新的なEV開発にそれを活かしているのである。

日本の自動車産業初の「水平分業」を実現

 わずか23人のベンチャー企業でありながら、GLMがテスラモーターズと並び称される存在になり得た要因は何であろうか?

 第1の要因は、「系列」の壁を超えて参集した一流のサプライヤー170社以上との水平分業システム、いわゆる「GLMエコシステム」の存在だろう。

「従来、日本の自動車産業は、大規模大量生産を前提とし、各サプライヤーはコストダウンを100%要求通り実現するまでは、どんなに先端的な技術で、どれだけ安全性が担保されても、その技術を外に出すことはできませんでした。

 これまで、“日本企業は技術開発が遅い”と国内外から指摘されてきましたが、“開発が遅い”のではなく“見せるのが遅い”だけであり、各企業にとっては歯痒い状況でした。その点、弊社は中規模少量生産を指向しているため、コストダウンを実現する前の最先端技術をいち早く製品開発に活かし、“外に見せる”ことができます。

 また、従来の自動車産業のような一方的な作業指示ではなく、EV開発コンセプト、開発状況、必要な部品内容、部品の形状理由や仕様理由などをある程度公開し、双方向の情報開示をベースに部品の共同開発を行っています」

「自社の最先端技術の早期活用」、そして「情報共有化を通じた新しい“知”の獲得」の意義・価値は大きいのだろう。「GLMエコシステム」へ参加する企業は増加の一途を辿り、同社EVの品質と開発スピードアップを支えている。

テスラモーターズとGLMの違い © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 テスラモーターズとGLMの違い

 “和製テスラ”と称されるGLMだが、テスラモーターズが大規模大量生産・垂直統合を前提としているのに対して、中規模少量生産をベースに水平分業システムを実現している点で決定的に異なると言えよう(上の表)。

人々を魅了する「重礼積徳」の経営

 第2の要因は、トヨタ自動車や三菱電機など自動車・電機関連を中心に有力各社から優秀な技術者が集まってきたことである。

 大企業の中で工程の一部しか担当できないことへの忸怩たる思いが直接の動機であろうが、同時にその背景にはGLM独特の企業文化がある。社是に掲げる「重礼積徳」とその浸透である。

「“礼を重んじて徳を積む”を意味する造語です。近年、欧米の影響で失われつつある『礼儀作法』を大切にしています。年長者に対してはもちろん、年下であっても優秀だからこそ入社しているわけであり、年下に対するリスペクトも大事にしています。人を大事にし相互尊重することで、結果として、アイディアを出しやすいフラットな環境になっていくのです」

「ベンチャー企業なんかにEVが作れるのだろうか」と半信半疑で開発現場を見に来る人も多いが、誰もが目を輝かせイキイキと働いているGLMのオフィスを見ることで、「彼らなら本当にできるかもしれない(自分も参画したい)」と思うようになるのだという。

 小間氏にとって礼節とは、一緒に頑張ってくれる仕事仲間に対する感謝・報恩の1つであり、業界では類例のない「サプライヤーに対する徹底した情報開示・知の共有」もまた、そうした文脈で理解できるものと言えよう。

 それが「徳を積む」こと、そして「器を広げる」ことにつながるのだと小間氏は明言する。

トミーカイラZZプラットフォームの製作現場。宇治開発センターにて、2012年撮影 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 トミーカイラZZプラットフォームの製作現場。宇治開発センターにて、2012年撮影

 EVの開発を通じた地球環境への貢献はもとより、顧客・従業員・サプライヤーなど、全方位的にプラスの価値創造を推進していく小間氏の姿勢は、本連載でたびたび述べている日本古来の“主客一如型”の経営哲学そのものである(参考「日本の林業復活は“潔白”な木材の活用から」)。

 次回は、深刻な危機を乗り越えてきた小間氏のこれまでの歩みと、来るべき時代に向けたビジョンについて明らかにしたい。

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