大ヒット木村拓哉「マスカレード・ホテル」で一つだけつらかったこと
木村拓哉、並びにジャニーズ事務所、やっぱりすごいっす。やるときはやるっす。
大ヒット中の主演映画「マスカレード・ホテル」について、あれこれ考えた末の結論だ。実に凡庸である。
2月4日発表の映画ランキングによれば、公開3週目で累計207万人を動員、興行収入は26億円を突破したという(興行通信社提供)。2ケ月以上独走していた「ボヘミアン・ラプソディー」に動員数で勝った、最初の映画でもある。
SMAPは解散したが、木村はずっと木村している。映画にドラマと途切れることなく主演、昨年はゲームソフトのキャラにもなった。年末ビックカメラに行ったら、天井から木村の超デカいポスターがぶら下がっていて驚いた。そして、その頃からテレビ界全体に「キムタク祭り」的な空気が流れ出した。
祭りに参加したつもりはないのだが、私の頭も次第にキムタク色を帯び、ついつい公開直後に「マスカレード・ホテル」を観に映画館へ。
日頃はファンでもない私の、この行動に至る道を説明するなら、「オールドテレビファン」として毎朝新聞のテレビ欄をじっくり眺めるという習性に起因する。
「マスカレード・ホテル」を製作したフジテレビが12月14日から1月18日まで、連日木村主演のドラマ「HERO」を再放送していた。1月18日は映画公開日。その日まで少しずつ、「ほーら、あなたはだんだん、マスカレード・ホテルに行きたくなーる、行きたくなーる」という作戦。
フジテレビはテレビ欄の一番右にいる。15時50分~だから真ん中あたり。右の真ん中にいつも「HERO」。週末の夜は、映画「HERO」。実際にチャンネルを合わせなくても、その気になってくる。
「振り向けばテレ東」などと言われるフジテレビ。「マスカレード・ホテル」をヒットさせねばという必死さが、圧になって伝わってきた。木村拓哉主演映画を外すわけにはいかないのね、大変ね。そんな気持ちにもなった。
2018年の映画「検察側の罪人」も木村&二宮和也のダブル主演で、公開の前後はテレビCMもたくさん流れていた。だがその時に比べて今回はフジテレビの「圧」に加え、ジャニーズ事務所の存在もビシビシ感じた気がする。
1月2日、「ニンゲン観察バラエティ モニタリング」(TBS系)に木村が出演。映画に絡んで「何やってもキムタクって言われる」と語った。1月20日には「ザ!鉄腕!DASH!!」(日テレ系)に出演。山口達也メンバー脱退以降視聴率が低迷していたTOKIOの番組だが、キムタク効果で18.6%の高視聴率。どちらも即座に記事化され、ネットの世界を駆け巡っていた。
局を超えての出演、即ニュース。さすがメディアごとに担当者を置き、日頃から関係性作りに余念がないとされるジャニーズ事務所。そんなことを思いつつ、公開からすぐの月曜日に映画館へ。フジテレビ&ジャニーズの思う壺。
昼過ぎの回だったが、初老の夫婦、会社をサボってるらしい男性、若いカップル……要は老若男女でほぼ満席だった。
そして「マスカレード・ホテル」、ちゃんとおもしろかった。
連続殺人事件が起きていて、犯人は殺害現場を数字で予告している。次は都心の超一流ホテルと判明、木村扮する刑事がフロントマンになり潜入捜査をする。それが大筋。
前半は豪華俳優が宿泊客となりチェックインし、エピソードを終えるとチェックアウト。濱田岳、高嶋政宏、松たか子、生瀬勝久らが次々と問題多めの客を演じ、それはそれで巧みなのだが、「これじゃあ、ホテルあるあるじゃん。捜査はどうなったわけ?」と退屈しかけたところから事件が動き出す。最後はなるほどー、こう来たかー、と思わせてくれて、終わってみればあっという間の2時間13分だった。
「マスカレード・ホテル」の鈴木雅之監督は「ロングバケーション」(1996年放送)に始まり、「HERO」(2001年放送も2014年放送も)を演出した人だというから、木村を使う才能が抜群なんだと思う。
スター性というか、オレさま性というか、そういう彼の見せ方がわかっているのだろう。「上から」の物言い。型破りの変わり者。誰よりも強い正義感。「HERO」の久利生公平検事の人物像が、ほぼそのままに「マスカレード・ホテル」の新田浩介刑事だ。そんなカッコいい役を、木村はカッコよく演じている。
「マスカレード・ホテル」には、他にも「HERO」との共通点があった。仕事で相棒を組む女性と「同僚以上、恋人未満」な感じになることだ。
2011年放映の元祖「HERO」は、松たか子演じる検察事務官が相棒。木村と松の掛け合いがラブコメっぽいドキドキ感で、それがドラマの魅力になった。「マスカレード・ホテル」は、長澤まさみ演じるホテルウーマンが相棒。緊張感あるやりとりが続くが、そこは美男美女、ドキドキ感も醸し出す。最後は「恋人未満」を暗示させるシーンも用意され、めでたし、めでたし。
ではあるのだが、一つ気になったことが。新田刑事、一体、いくつなんだろう。
現実の木村、1972年生まれの46歳。長澤は87年生まれの31歳。画面の木村を見ていると、現実の長澤の年齢に近い設定だと思う。同年代の男女が、次第に信頼感を上げていくお話。そうわかるのだが、ちょっと苦しい。
「HERO」の松たか子は77年生まれで、木村とは5歳差だった。「恋人未満」にリアルさがあった。長澤とは15歳差。だから「おんなじぐらいの年ってことよね」と頭で確認しながら観る感じ。
別に構わないと言えば構わないが、少しつらいと言えばつらい。
木村が「ニンゲン観察バラエティ モニタリング」で「何やってもキムタクって言われる」と語ったのは、案外この辺りのことを感じているということではないだろうか。(矢部万紀子)