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モーゼス・サムニーが語る神秘的サウンドのルーツ、サンダーキャットとの出会い

ローリングストーン日本版 のロゴ ローリングストーン日本版 2018/07/11 17:00 Mitsutaka Nagira

© Culture Entertainment Co.,Ltd. 提供 昨年発表されたデビュー作『アロマンティシズム』が世界中で絶賛された米カリフォルニア出身のシンガー・ソングライター、モーゼス・サムニー。さる6月に東京・キリスト品川教会グローリアチャペルで開催された初来日公演では、ときに自身の歌声をループさせながら幻想的なパフォーマンスを披露し、超満員のオーディエンスを魅了した。独自のサウンドはどのようにして生まれたのか。『Jazz The New Chapter』シリーズの監修で知られる柳樂光隆が本人に迫った。

─まず高校生くらいの頃って、音楽は何か勉強してましたか?

モーゼス:ノー。特にこれといった勉強はしてないんだ。ただ、高校最後の1年間だけクワイア(合唱団)に入っていた。結構大きなグループで、僕にとってはそれが最もフォーマルな音楽教育だったかな。プライベートレッスンを受けることは許されてなかったからすべて独学だよ。

―クワイアではどんな曲を?

モーゼス:古いチェンバー・ミュージックだね、ヘンデルとか。もう少し現代寄りの作曲家だとモーゼス・ホーガン。彼は1900年代の作曲家で(1957年生まれ、2003年死去)、クワイアのためのモダンな合唱曲を作っている。あとはサミュエル・バーバーもだね。

モーゼス・ホーガン「We Shall Walk Through the Valley in Peace」

―そのあとも音楽教育は特に受けてない?

モーゼス:全然。今、君にコードのことなんて聞かれても僕はわからないよ(笑)。ギターを演奏する時も、耳で聴いて、それを元に弾いてるだけなんだ。

―では、どういう風に作曲をしてるんですか? 譜面やコード譜を用意するわけじゃないんですよね。

モーゼス:楽譜を書くことも読むこともできないけど、歌詞は僕にも書けるからね。音楽はキーボードやギターを弾きながら作っているよ。他のミュージシャンとはこうやって、「フゥーーウーーーウウゥーーウーー」って(メロディを)歌で伝えて意思疎通しているんだ。

―頭の中で作ったものを歌や楽器で出力しているってこと?

モーゼス:そのとおり。僕の音楽のほとんどは頭の中に入ってるんだ。

―譜面にしない代わりにiPhoneのメモに入れたりもする?

モーゼス:そうだね。僕のiPhoneには800くらいのアイデアが入ってるよ(笑)。

―それってどういうアイディア?

モーゼス:ほとんどの場合がメロディだね。(曲作りでは)いつもメロディが先なんだ。だいたいメロディが出来たあとに歌詞が出てくる。たまに一緒に出てくることもあるけど、そのあとにコンセプトや言葉を考えていくんだ。

―あなたの曲は、よくある「A、A、B、A……」みたいなフォーマットじゃないところが面白いですよね。最初からストーリーが頭の中で出来上がっているのか、いろんな部品を組み立てているのか。

モーゼス:それは曲によって違うかな。あらゆるプロセスを試しているからね。ギターを軸にした曲、たとえばアルバムの中では「Dont Bother Calling」「Plastic」「Indulge Me」とかは、ある程度全体像が見えてから一気にギターで作っている。もう少し複雑な構成の「Quarrel」「Lonely World」はチョップドアップして、要らないと思ったパートを削ったり、そこに後からパートを書き加えたりもしてる。あとはコンピューターでエディットしながら時間をかけて作るものもあれば、ライヴで一気に弾き語りしながら作ったものもあるかな。

―特に早くできた曲のストーリーが知りたいです。

モーゼス:早かったのは「Indulge Me」だね。LAの友人でプロデューサーのモッキーって知ってる? ファイストのアルバムをプロデュースしてたりするんだけど。

―もちろん。

モーゼス:彼のスタジオに遊びに行ったときに、彼のアルバムを聴かせてもらったなかで、すごくギターが素敵な曲があったんだ。「ああ、僕のアルバムにもギターの曲が欲しいな」と思って、帰宅して一気に30分で書き上げた。他の曲はもっと数年越しのものもあるんだけどね。

―では、特に長い年月をかけた曲は?

モーゼス:9曲目の「Doomed」かな。曲は1日でできたけど、歌詞に9ヵ月くらい。あとは、僕は書くことよりもプロダクションに時間をかけてしまうんだ。「Quarrel」なんかも歌詞は早々に出来てたんだけど、音作りのほうにこだわりすぎてしまって。完成するのに1年半くらいかかったよ。

―逆に、メロディはいくらでも出てきてしまうんですね。

モーゼス:うん、そうだね。

―それは即興的にいきなり湧いてくるもの?

モーゼス:メロディは大抵の場合、雲の上から降りてくるようなものでね。このアルバムでは、特に歌詞は時間がかかってしまった。語るべきストーリーがほしかったし、アルバムに横たわる大きなアイディアとコネクトさせたかったのもあって。歌詞はね、時々ハードなんだ。じっくり椅子に座って考えたり、場合によっては山に籠もったり(笑)。さっき話した「Indulge Me」は例外だけど。

―あなたはヴォーカリストとしても個性的ですよね。歌がすごくサウンドっぽいというか、他の楽器との混じり合い方がすごくて。言葉である以上に「音」って感じがしたんですけど、そのあたりはどうですか?

モーゼス:自分の言葉の発音や発声自体がクリアじゃないというのが理由かな、僕の声はこもってるからね。自分自身、声を楽器のひとつとして扱っているところはあって、歌が言葉として認識されなくても、その声のエモーションの部分を感じ取ってもらえるようにしたいし、それでコミュニケーションをとりたいってのは意識としてあるね。

―ヴォーカルのレッスンも特に受けてないんですか?

モーゼス:うん、一切受けてないよ。

―それにしては、すごく高い音域まで声が出ますよね。

モーゼス:さぁね、あくまで独学だからさ。いろんなやり方を試しているし、もっとうまく歌えるようになりたいから日々練習しているよ。

―(『アロマンティシズム』に参加している)サンダーキャットにインタビューした時も同じことを言ってました。歌のレッスンは受けたことがなくて、自分で練習してるだけだって。

モーゼス:ハハハ、やっぱり彼はクレイジーだね(笑)。

Moses Sumney © Culture Entertainment Co.,Ltd. 提供 Moses Sumney Photo by Kazumichi Kokei

―でも、あなたのコーラスは物凄く綺麗だし、ハーモニーも豊かですよね。それも独学ですか?

モーゼス:ハーモニーとは何かを学んだのはクワイアでの経験だね。そこでいろんな曲を歌いながら学ぶことができたのはある。あとは独学だけど、大学の頃は僕の周りに、僕よりも音楽に詳しい人がたくさんいたからね。ジャズのプログラムを受けてるジャズキッズたちが、隣で「7thコードが……」とか話してるのをふむふむと聞きながら、家に帰って調べたりしてたよ(笑)。

―独学で培ったものを、自らトライ&エラーを繰り返しながら発展させてきたと。

モーゼス:そう、試行錯誤と練習の賜物だね。

―あなたのプロフィールを調べようとググったら「UCLA」とあったので(※)、てっきりきちんとジャズやクラシックの教育を受けた人なのかと。

※カリフォルニア大学ロサンゼルス校:ジョン・ケージなどの現代音楽家やランディ・ニューマン、スパークスのメイル兄弟、元ソニック・ユースのキム・ゴードン、カマシ・ワシントンなどを輩出している。

モーゼス:いやー、全然。僕が学んだのは文学、ポエトリーだね。

―ポエトリーの経験はどう活きてる?

モーゼス:ポエトリーについては、分析することよりも書くことを学んだんだ。今はこうして歌詞を書いているから、リリシストとして決して無駄ではなかったと思うよ。ただあくまで、学んだことは学んだことって感じかな。役には立ってるんだろうなって感じることも時々あるけどね。

―少し話は戻りますけど、モッキーとはどんなきっかけで知り合ったんですか?

モーゼス:リアン・ラ・ハヴァスの紹介だよ、彼女とはもともと友達なんだ。モッキーの奥さんがDesirée Kleinというファッションブランドをやってるんだけど、リアンがLAにいるときに「あそこのトラウザーを買うから車で連れて行って」と言われて、彼女を乗せてブランドのスタジオに行ったら、そこにたまたまモッキーがいてね。彼はベルリンからLAに引っ越したばかりだったから、LAを案内することになって。それで「僕のギグにきなよ、今度一緒に音楽やろう」となって、それで友達になったんだ。

―サンダーキャットとはどのように?

モーゼス:2013年にLAに引っ越したとき、彼の前座をやったんだ。その時はエージェントを介しての仕事だったんだけど、その数週間後、LAのサンセット通りを車で移動してたら、隣の車から「ヘイ、モーゼス! 番号教えろよ!」ってサンダーキャットに呼びかけられてね。それで窓ごしに電話番号を伝えたんだ(笑)。それからしばらくしてメールが届いたんだよ。

―サンダーキャットとのレコーディングはどうでしたか?

モーゼス:事前に「Lonely World」のデモを送っていたんだけど、スタジオで彼に聞いたら「いやー、何それ?」って言うから、どうしようかなと思ってさ(笑)。でも、「いいからとりあえず聞かせてくれよ」って言うから、その場でデモを流したら、即興でベースを弾いてくれてね。その一発目のテイクをアルバムに使ってるよ。

―あなたはポストプロダクションで作り込むのと同時に、インプロヴィゼーション的な部分でもセンスがありますよね。その辺りはサンダーキャットとも通じるものなのでは?

モーゼス:そう、両方のミクスチャーを意識している。それを僕は「コントロールド・フリーダム(統制された自由)」って呼んでいるんだけど(笑)。

―ちなみに、なんでサンダーキャットと一緒にやろうと?

モーゼス:彼のクレイジーなベースが単純に好きなんだよ。他のベーシストの演奏も聞いてみたんけど、全然良くなかったし気に入らなくてね。このアルバムでは「Quarrel」と「Lonely World」の2曲しかベースは入ってなくて、その両方でサンダーキャットが弾いてる。サンダーキャットのベースしか入ってないんだ。

Twitterで東京のタクシー運転手とのエピソードを投稿されてましたが、ベースにこだわりがある?

モーゼス:あれね(笑)。僕の出で立ちを見て「何をやってる人?」って聞くから「ミュージシャンだ」って言ったら、「マーカス・ミラーはジャコ・パストリアスより上手いと思う」って力説されたんだ。僕はマーカス・ミラーのことは全然知らないんだけど、とりあえず「あー、そうだね」って答えておいた(笑)。タクシー運転手がそういう話をしてきたのは面白かったな。しかも英語でさ。

―さすがにそんな運転手は珍しいですけどね(笑)。

モーゼス:ジャコは僕も好きだし、彼が参加したジョニ・ミッチェルのアルバム(76年の『逃避行』)なんかは大好きだよ。ただ僕自身、低音域に惹かれる部分があるのは確かだけど、ベースについてはまだまだ初心者なんだ。今回のアルバムでも2曲しか入れてないし、まだ足を踏み入れたばかりの領域って感じだね。これから勉強しなきゃ。

―自分の中で一番こだわりのある楽器は?

モーゼス:ハープだね。このアルバムでも「Quarrel」で使っている。それとチェロかな。もちろん自分では弾けないんだけど、その二つは大好き。

―ハープが好きなのはなぜ?

モーゼス:だって、エンジェルみたいな響きだからさ(笑)。

―あなたのアルバムを聴いたときに、音楽のフォームとしては違うけど、ドビュッシーみたいな美しい不協和音をうまく使いたいのかな?と思ったんですが。

モーゼス:ドビュッシーは好きだよ! 彼の作品でハープを使った好きな1曲があったな。詳しくは勉強してないんだけど、そういうところも興味はあるよね。もっと知りたいとは思っている。

―ドビュッシーから影響を受けたアントニオ・カルロス・ジョビンのような人もいるわけですが、あなたの音楽にはブラジル音楽に通じる雰囲気もある気がします。

モーゼス:ブラジル音楽は大好きだよ。カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメント、ジルベルト・ジルとか。その中でもミルトン・ナシメントが特に好きかな。

―ミルトンのどんなところが好き?

モーゼス:まさしく「コントロールド・フリーダム」なところ。ソウルフルだし、誠実で自由なんだよね。それに、ヴォーカルのレイヤーの仕方がとんでもないんだ。

―いま出た「誠実(Honest)」って言葉は、あなたの音楽を示すキーワードのひとつじゃないですか?

モーゼス:うん、僕自身もフェイバリットな言葉のひとつだよ。

モーゼスが作成したプレイリスト「CHURCH 10.17」。ドビュッシーがハープ独奏と弦楽合奏のために作曲した「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」やミルトン・ナシメント「Francisco」のほか、クワイア系やポストクラシカル作品、アリス・コルトレーンや10CC、グリズリー・ベアなど新旧のナンバーがセレクトされている。

―ブラジル音楽に出会ったのは何がきっかけ?

モーゼス:LAのカルロス・ニーニョだね。彼が持ってるヴェニューに僕が出演していて、その繋がりでブラジル音楽のミックステープを2本もらったんだ。そこからミルトンやカエターノを聴くようになった。だから、ブラジル音楽にハマったのは最近の話だね。ただ、誰の演奏をきっかけに知ったかというとホセ・ゴンザレスなんだ。あのブラジル音楽にインスパイアされたギタープレイや、フィンガーピッキング、サンバっぽいグルーヴとか。彼の演奏は、僕のギターのスタイルに影響を与えていると言えるね。ちなみに、もうひとつの影響源はインターネットだよ(笑)。

―ギターも独学だと思いますが、あなたのプレイはユニークですよね。

モーゼス:なにせYouTubeで憶えたからね(笑)。僕はフォーク・ミュージックが好きだから、どうしてもフィンガーピッキングが多くなるんだ。

―それに独特のタイム感がある気がします。

モーゼス:それは自分で何をやってるかわかってないからじゃないかな(笑)。正式に勉強してないからこそ、ギターの演奏に関しても既成概念にとらわれることがないってのはあるよね。

―これから次のステージに進むために、どういうものを見たり聴いたりしてますか?

モーゼス:うーんと、映画かな。映画は感情のレンジが広いからね、歌や音楽では網羅しきれないエモーションの厚みや豊かさを得ることができる。僕はそういうものを音楽を通じて表現してみたいんだ。日本に来るときの飛行機でも映画を観ていたし、(監督でいうと)グザヴィエ・ドランの世界観が好きだな。

―音楽だとどうです?

モーゼス:いわゆるノイズが多いね(笑)。あとは日本のミュージシャンで吉村弘って知ってる? アンビエント、ミニマリズムの。最近よく聴いているよ。

吉村弘は2003年に亡くなった環境音楽の第一人者。82年発表の初作『Music For Nine Post Cards』が海外レーベルのエンパイア・オブ・サインズからリイシューされるなど、近年再評価が進んでいる。

―最後に。あなたの音楽は、とてもプリミティヴで古代の音楽みたいな雰囲気と、フューチャリスティックな新しさを持ち合わせていますよね。自分の音楽が持ってる「時代感」について、自分ではどう思いますか?

モーゼス:いま現在、音楽を作っているから「Now」だとは思うけど、「Now」っていうのは定義付けできないものだからね。「いまこの瞬間」も、次の瞬間には過去になってしまうわけで。僕の音楽にはそういう感覚があるのかもしれない。

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