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ラップバトルにも参戦する女性MC、セルラ伊藤の「思想がないというメタな思想」

ローリングストーン日本版 のロゴ ローリングストーン日本版 2018/08/10 18:40 Renge Ishiyama

© Culture Entertainment Co.,Ltd. 提供 セルラさんを知ったのは、とびきり美人の友達が「私のお姉ちゃん、ラッパーなんだ」と、教えてくれたMVのURLからだった。そのラッパーは「脂肪細胞の申し子・セルラ伊藤」という、ちょっと自虐めいたMCネームを名乗っていた。

※この記事は6月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.03』に掲載されたものです。

「アイスクリームポップアップトゥギャザー」のMVで、セルラさんはふわふわのパニエを履き、アイドルソング的なトラックでぴょんぴょん、それはもうほんとうにぴょんぴょん飛び跳ねていた。ほんの5歳の頃に憧れたアイドルがそのまま少女を通り越したように、ひとりの女性がぴょんぴょん跳ねて歌っていた。普段は会社員をしているというその人の、めちゃくちゃに楽しそうな姿とキャッチーなメロディ、そしてどこか生真面目な眼差しが頭から離れなかった。

「絶対忘れるな(以下、ぜわす)のメンバーの多くは、アイドルオタクでもあるんです。9月以降に音源をリリースするんですけど、そこでは自分たちが、会社、オタクとしての現場、ぜわすとして出る現場を自在に往来しているということを押しだしたリード曲を出そうとしていて、それは私たちならではかなって。オタクと会社員とラッパーを行ったり来たりする自分をメタ的に見ているというか。『絶対忘れるなのテーマ』という曲にも”思想がないというメタな思想”という歌詞があるんですけど、メンバーの志賀ラミーを筆頭に、そういうものの見方が好きなのかもしれません」

セルラさんは週休2日の会社員として働きながら「絶対忘れるな」のクルーや、フリースタイルラッパーとしてステージに立ち、たまにスナックのママとしてカウンターに入る。

「ぜわすはもともと全員、大学のバンドサークル仲間で。卒業して何かやりたいってなったときに、楽器を持ってスタジオに行ったりするのがだるいという話をしだして(笑)。楽器が重い、めんどくさいと(笑)。それならPCと体ひとつで宅録みたいなことをしてみようと、だいぶ消極的な理由でラップを始めました。

みんな社会人としての生活を大事にしていて、でもそれだけじゃ潤いがないからやりたい、みたいなところがすごくあって。仕事や家庭は大切にしつつも、働いてて感じるストレスとか愚痴とか、カッコよく言うと悲哀みたいなものを出しながら面白くやれればいいなと思っています」

セルラさんはおよそ1時間のインタビューの間、4、5杯のお酒をさらさらと飲んでいた。特に「香ばし茶ハイ」を3杯ほどお代りしていたのに顔色はまったく変わらなかった。香ばし茶ハイってどんな味だったんだろう。ともかく、この世には香ばし茶ハイとただの緑茶ハイがあるのを初めて知った夜だった。

「今は”スナックしろくま”というところで月に一日、店長みたいなことをやっているんですが、そこは 今度音源を出すパーフェクトミュージック(以下PM)さんの系列だったり、ラップバトル出場もPMの方のお誘いがきっかけだったりと、ぜわすの活動からいろいろと広がっています。来た話はよっぽどじゃなければ断らないというのを信条にしているのもあるかな。会社員としての仕事も、ラッパーも、スナックのママも、私にできることというか私にやってほしいと思われること自体ありがたいので、言われたらとりあえず『やります』って。

去年から始めたラップバトルも、バトルどころかフリースタイルすらしたことがないから初めは無理だと思ったんですけど、すごく面白そうな企画(※しろゴリラ presents「フリースタイルゴリラゴリラ」)だったので、気づいたら『やります』と返事をしてました。どついたるねんの山ちゃんとか、トリプルファイヤーの吉田さんとか、クリトリック・リスさんとか校庭カメラガールさんとか、ラップをやったことのないバンドマンやアイドルの人たちが初めてバトルする企画だったんですが、根が真面目だから、めっちゃ勉強して(笑)。勉強するものじゃないんですけど、晋平太さんの『フリースタイル・ラップの教科書 』って本を買ったり(笑)。

でもラップバトルをやってると、本音が出るんですよ。咄嗟に何言われるかわからないし、即興で出る言葉ってめちゃめちゃ本音になっちゃうんです。だから、そういうときにメタな視点で自分がこんなこと思っているんだって気づいたりするのが面白い。”ラップバトルをしている会社員としての私”とか”サブカル好きだけどゴリゴリのヒップホップ界隈にいる私”という状況を楽しんでもいるんだなと思います」

メタでありながら、どこにいてもセルラさんのままで踊り続ける。はしゃぎながらもキャップの下に生真面目さを持つ。

「上手い人もガチな人もめちゃめちゃいるので、そこで勝負すると言うより、ちょっと外から来た人って視点もあるかなと。普通の会社員でもラップできるんだって思ってもらえたりしたら面白いかなと思ってて。だからあまりガチ勢に好かれるタイプじゃないかもしれないですね。でもこの立ち位置だから楽しんでもらえることもある気がしています。半端だと言われたらそのとおりなんですけど、好きなときに好きなところを行ったり来たりする、そうありたいしそれができる現状がとても楽しいです。

生活に根付きながらもいろいろやることを大事にしていきたいから、そこはずっと変わらないと思う。その中でラップバトルを極めて、頂点を目指すのもそれはそれで面白いと思うけど、そこに居続けるとかはない。私にすごくセンスがあって、ラップや楽器が上手ければ、そっちを突き詰めればいいんですけど、凡人レベルなのが分かるからこそ、凡人だからできることを探していきたいみたいなのはあると思います。ぜわすは、たぶんみんなそんな感じかな。30すぎてみんな急にラップを始めても、PMからリリースできますよとか、楽しくライブしたり、推しのアイドルの子と共演という夢のようなことが実現できたりしますよ、とか。

私はこれまで人から来た話で面白そうだったら飛びついていくというのをぜわすやソロ活動でずっとやってきたので、今後も行き当たりばったりでちょうどいいかもしれないと思っています。変に先を見通さないで」

そう語るセルラさんは楽しく人生を謳歌しているようだが、これからの目標はと聞くと意外な答えが返ってきた。「目標はBzのオープニングアクト(笑)。Bzと共演するのが私のドリームなので。だいぶ難しいとは思うんですけど(笑)」

© Culture Entertainment Co.,Ltd. 提供

Photo by Motoki Adachi

右:セルラ伊藤(絶対忘れるな)

志賀ラミー、貫地谷翠れん、セルラ伊藤、アルバ伊藤、ピーチジョン万次郎、益若つばめの5MC1DJからなるヒップホップ・クルー、絶対忘れるなの一員として活躍。2017年、日本初フィメールのみのMCバトル、シンデレラMCバトル第3回に単身で出場し、見事準優勝を果たす。

https://twitter.com/cellulito

左:石山蓮華

女優。埼玉県出身。日本テレビ「ZIP!」にレポーターとして出演中。主な出演作は、映画『思い出のマーニー』、舞台『遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-』、テレビ『ナカイの窓』など。趣味は電線、配線の写真を撮ること。Rolling Stone Japanで音楽ライターとして活躍中。

https://twitter.com/rengege

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