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日本にただ一人の“天気痛外来医師”に聞く「どうして雨の日は調子が悪くなるのか?」

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 2017/06/26 西所 正道

 低気圧が近づくと頭痛や関節の痛みがひどくなる。とくに梅雨時のように天気の悪い日が続くと、その頻度が増すので、もしかしたら何か病気が隠れているのか不安になったりする。しかし……、

「実はそうした痛みの中には、気象の変化がもたらしているものがかなり含まれています」

 というのは、愛知医科大学学際的痛みセンター客員教授・佐藤純医師である。佐藤医師は、20数年にわたって、気象と痛み、慢性痛との関係を、動物実験や臨床実験で本格的に研究してきた。

佐藤純医師 © 文春オンライン 佐藤純医師

「天気痛」は推定1000万人! うつの原因にも

 天気の変化による痛みや体調不良を抱える人は日本全体で1000万人を下らないのではないか、とも推測する。ざっと10人に1人である。これは立派な病気だということで、5年前「天気痛」と名付けた。

「“気象痛”だと難解な感じがするし、“お天気痛”だと丁寧すぎて男性は嫌がるかもしれない。それで“天気痛”に落ち着いたのです」

 2週間に3日のペースで患者を診ているが、訴えでいちばん多いのは頭痛だという。

「頭痛持ちでないと理解できないかもしれませんが、片頭痛を訴える方の中には、頭痛薬を飲んでも治らず、寝込むほど重い症状を抱える方がいらっしゃいます。そういう方は、気圧変化の激しい季節になると、『また明日も痛むんじゃないか……』と不安になり、眠れなくなったりもするのです。その結果、うつっぽくなったりもします」

©iStock.com © 文春オンライン ©iStock.com

親が誤解しやすい子どもの「頭痛」

 子どもはうまく症状を説明できない面もあり、問題が見過ごされがちだ。頭痛の特性として、その日のうちに痛みが引いてケロッとしたりすることもあるので、怠けているんじゃないかと誤解する親がいるという。

「とくに受験を控えた中学生や高校生を持つ親は、出席日数が足りないと内申点に影響するからと、子どもが頭痛を訴えても、無理やりベッドから引きずりだして学校に行かせてしまうケースもあります。理解してもらえないお子さんは本当に辛いと思いますね」

天気痛はどうして起きるのか?

 それにしても、天気痛はどのようなメカニズムで起きるのだろう。天気痛を引き起こしている要因は、気圧、気温、湿度などいくつかがあるが、佐藤医師がもっとも注目しているのは「気圧」である。その変化を敏感に感知するのが内耳。内耳とは、中耳のさらに奥に位置し、三半規管や前庭など体のバランスを保つ器官が集まっている部分である。

「内耳の感度は、人によってかなり違いますが、敏感な人は気圧のちょっとした変化も感じ取ってしまいます。低気圧が近づく2日前になると古傷が痛むという人がいるのはそのためです。これから多くなるゲリラ豪雨のときに生じる細かい気圧の変化も感知してしまう。ゲリラ豪雨のときは気圧が一度グンと下がって、すぐに一気に上がるのですが、それを感じてしまって、具合が悪くなるのです」

© 文春オンライン

 内耳が感じ取った気圧低下などの情報は、内耳の前庭神経を通って脳に伝達され、それによって自律神経はストレス反応を引き起こし、交感神経が興奮する。その結果、痛み物質が分泌され、痛み神経を刺激し、痛みを感じるというわけだ。

腰痛や関節リウマチ、変形性関節症、心臓病や歯周病にまで影響

 天気痛を含め、気象の影響を受けやすい病気にはバリエーションがある。頭痛以外にも、腰痛や関節リウマチ、変形性関節症などの症状も悪化させる。また痛みだけではなく、心臓病や脳卒中、ぜんそく、歯周病、そしてうつ病などの精神疾患に影響を及ぼす。

 漫画家の田中圭一さんが、自身のうつ病体験だけなく、他の人のうつ脱出エピソードを書いた『うつヌケ』がベストセラーになった。そのなかで田中さんは、春先になると決まって治ったはずのうつ症状がぶり返してくるので、おかしいと思って原因を探った結果、気温の変化が原因であることをつきとめたいきさつを書いている。

「ああ、これ私も読みましたよ。確かに、気温差というのはすごく大きなファクターで、うつの人は気温差をすごく訴えます。外国では、1日の気温差や、前日と気温差が10℃違うと、うつが悪化するという研究があります」

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天気と不調のメカニズムがわかれば、体調も回復しやすい

 佐藤医師は、あくまでも推測だがと断りながら、セロトニンが関係しているのではないかという。セロトニンとは、一時期“幸せホルモン”などとメディアに取り上げられた神経伝達物質だ。うつ病の治療薬にもセロトニンの濃度をあげるSSRIがあるぐらい、うつと関係の深い物質だが、気温差によってセロトニンの分泌量が下がるからではないかというのだ。

『うつヌケ』の田中さんは、気温差によってうつ症状が変動するというからくりがわかったことで、「いっきに霧が晴れた」「つきあい方がわかればけっして怖くない」と書いている。

「気温差が体調に影響しているとか、雨が降りそうだと体がおかしくなる、低気圧だと不調になる……。それにはちゃんとしたメカニズムがあるんですよ、と説明することで『気分が晴れた』と、体調が戻った人も多いんです。人間にとって、何が原因かわからないという“霧”が晴れることはとても重要なんです」

佐藤さんの著著『天気痛』(光文社新書) © 文春オンライン 佐藤さんの著著『天気痛』(光文社新書)

「痛み日記」をつけると、自分の法則を把握しやすい

 佐藤医師も田中さんが言うように、天気と体調の関係、ある種の規則性を知ることが、天気痛脱出の第一歩だと話す。つまり、痛みが起きる自分なりの法則を把握するのだ。

 それを見つけるのに役立つのが「痛み日記」である。記録するのは、天気、気圧の変化、日記(感じたストレス、めまい、耳鳴りなど)、痛みの強さ(11段階評価)、運動、睡眠(3段階)。「頭痛ーる」というスマートフォンアプリもあるので、それを活用してもいい。頭痛の人以外でも使えるアプリだ。

 では気になる治療法だが、佐藤医師がよく処方するのは抗めまい薬である。肝心なのは飲むタイミングなのだが、それを探るときに役立つのが、さきほどの痛み日記。たとえばめまいや耳鳴りといった、痛みが現われる予兆の症状が出たら、先回りして薬を飲んでおくのだ。抗めまい薬と五苓散などの漢方薬を併用することで改善したケースもある。

「抗めまい薬には神経の興奮を抑える作用もありますが、この二つの薬に共通しているのは、内耳の循環をよくし、いわゆるむくみをとることです。内耳の敏感さと、むくみには関係があるのではないかと考えられます」

今も実験室で内耳の研究を行う。「人間の第6感ともいえる、“気圧感覚”のメカニズムを、いつか証明したいんです」 © 文春オンライン 今も実験室で内耳の研究を行う。「人間の第6感ともいえる、“気圧感覚”のメカニズムを、いつか証明したいんです」

内耳のむくみをとるマッサージ

 内耳のむくみをとるマッサージも効果的だ。両耳たぶを上下横の3方向に5秒ずつひっぱったり、耳たぶを軽くひっぱりながらぐるぐる5回まわす。また、紙コップに蒸しタオルを入れて耳たぶを隠すように当てて温めるのも効果が期待できるという。

 こうした治療法、対処法により、佐藤医師を受診する患者の8割は、よく効いた、まあまあ効くなどの感想を寄せているという。ただ、天気痛を診る医師は佐藤さん以外にほとんど見当たらず、同医師の外来は、来年の春先まで予約でいっぱいなのだという。

「仲間を育てるしかないですね。まだ始まったばかりですが、天気痛の治療に関する研究会を立ち上げました。こういう会をとおして医療者のネットワークが広がっていけばいいと思います」

「仲間を育てるしかないですね」 © 文春オンライン 「仲間を育てるしかないですね」

「天気痛は“よくある病気”と理解する人が増えてほしい」

 あとは、天気痛の辛さを、しっかり理解してくれる人が増えることが必要だろう。

「気圧で体調が変わりやすくて……」

「ああ、天気痛って言うんだっけ、この前ネット記事で読んだよ」

 というような会話が、普通にされるようになれば理想的だと佐藤さんは語る。

「怠けていると誤解されると孤立しやすい。そうではなく、天気痛はよくある話なのだということを理解する人が1人でも増えてほしいですね。そういう環境にならないと、職場の上司にも言いづらく、結果的に無理に仕事をして症状を重くしてしまいかねない。もっと理解が広がれば、患者さんも通院しやすいし、治りやすいと思うのです」

 天気痛は梅雨時だけでなく、梅雨があけるときも要注意だという。くれぐれも対策を。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

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