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40代から増え始める「緑内障」 注目の「アイステント手術」とは?

NIKKEI STYLE のロゴ NIKKEI STYLE 2021/10/23 11:00
緑内障は、自覚症状もなく見つかることが多い。早期の段階で見つかれば、治療により日常生活に必要な視野と視力を保てる可能性が高い。(写真はイメージ=123RF) © NIKKEI STYLE 緑内障は、自覚症状もなく見つかることが多い。早期の段階で見つかれば、治療により日常生活に必要な視野と視力を保てる可能性が高い。(写真はイメージ=123RF)

日本人の中途失明原因のトップである緑内障は、視野の見えない部分が広がっていく病気だ。初期には気づきにくく、一度失った視野を取り戻す治療法のない病気のため早期発見・早期治療が重要だ。治療は眼圧を下げる点眼薬の使用が中心だ。薬を複数使用することもあり点眼剤をきちんと使用できずに緑内障を悪化させてしまうケースも少なくないが、最近は、軽度の緑内障向けの、傷口が小さく目への負担の少ない低侵襲手術で眼圧を下げる治療も登場。その中の一つ、白内障手術と同時に行うことで点眼薬の手間を減らし治療効果を上げることが期待できるアイステント手術について、東京女子医科大学東医療センター(東京都荒川区)眼科の須藤史子教授に伺った。

■失明原因第1位の緑内障は40代から増え始める

緑内障とは、なんらかの原因で視神経が障害され、それによって視野が欠ける病気だ。目に入った光は、網膜細胞で捉えられ、その信号が脳に伝えられるが、網膜全体の神経線維は視神経乳頭という部分で100万本の束となる。これが視神経だ。緑内障では、この視神経が障害され、徐々に減り、消失した視神経の領域の視野が欠けていく。

図1 緑内障による視野の消失のイメージ

視野が欠けていっても、両目で見ると異常に気づかないことがほとんどだという。(原図=123RF) © NIKKEI STYLE 視野が欠けていっても、両目で見ると異常に気づかないことがほとんどだという。(原図=123RF)

緑内障は、眼科医が眼底写真という方法で網膜の視神経乳頭を調べると、40代で20人に1人に見つかり、年齢が上がるにつれその数はもっと多くなるといわれている。ただ目は常に動いている上、脳は視神経全体の情報を処理して見ているため、かなり視野が欠けても気づかないことも多い。

失った視野は取り戻すことができない上、症状が進むと治療が難しく、2018年に発表された厚生労働省の調査[注1]では、緑内障は中途失明原因の第1位(28.6%)であった(第2位は網膜色素変性の14.0%)。

緑内障で大切な視力を損なわないために、最も重要なことは早期発見・早期治療だ。東京女子医科大学東医療センター(東京都荒川区[注2])眼科の須藤史子教授は、「緑内障で失った視野を回復することはできないものの、症状が進む前に発見し、適切な治療で進行を抑えれば、寿命を全うするまで日常生活に必要な視野を保つことができます」と訴える。

[注1]Morizane Y,et al. Japanese Journal of Ophthalmology. 2019;63:26-33.

[注2]東京女子医科大学東医療センターは、2022年1月からは足立区へ移転し、東京女子医科大学附属足立医療センターと名称が変わる予定

■正常眼圧緑内障も眼圧を下げることで進行を食い止められる

緑内障の発症メカニズムについて確実なことは分かっていないが、眼球内部の圧力(眼圧)が高いほどリスクが高いこと、そして眼圧を下げると緑内障の進行を抑制できることは分かっている。眼圧は10~20mmHgが正常範囲といわれているので、これを大きく超えると視神経が障害される可能性が高くなる。

ただ、眼圧が正常範囲でも少しずつ視神経がダメージを受けてしまう「正常眼圧緑内障」もある。日本人に多く見られ、薬の副作用や基礎疾患など明らかな原因のない緑内障(原発開放隅角緑内障)の患者の9割を占めているという報告もある。そして正常眼圧緑内障でも眼圧を下げることで進行を抑えられることも分かってきた。

■目の中を満たしている房水が眼圧をコントロール

眼圧を管理するために重要なのは、眼球の内部を満たしている房水の流れをコントロールすることだ。房水は、目でレンズの働きをしている角膜、水晶体に酸素や栄養を補給している体液だ。

房水は毛様体という部位で作られ、眼球が正常な形を保つように圧力を調節しながら眼球内を循環。役割を終えると、虹彩の縁にある隅角(ぐうかく)という部分にある線維柱帯(せんいちゅうたい)を通って眼球の外の静脈に排出される。なんらかの原因で隅角が狭くなったり、隅角の房水の出口が詰まったりすると眼圧が高まるわけだ。緑内障の治療は、房水の作られる量や排出量をコントロールする医療である。

図2 目の構造と房水の流れ

毛様体で作られた房水(青矢印)は、隅角にある線維柱帯を通って眼球の外の静脈に排出される。(原図=123RF) © NIKKEI STYLE 毛様体で作られた房水(青矢印)は、隅角にある線維柱帯を通って眼球の外の静脈に排出される。(原図=123RF)

■治療の中心は薬物治療 正しく使い続けることが重要

緑内障の治療の中心は、点眼薬による薬物治療だ。点眼薬には、房水を流れやすくする「プロスタグランジン関連薬」、房水の量を減らす「β(ベータ)遮断薬」「炭酸脱水酵素阻害薬」などがある。症状の程度や進行の速さによって、1剤で済む人もいれば、2剤、3剤を組み合わせることが必要な場合もある。点眼の手間を省くために、複数の成分を組み合わせた配合剤も発売されている。

須藤教授は「点眼薬の治療では、アドヒアランスの問題があります」と指摘する。アドヒアランスとは患者が治療の内容をよく理解し、正しい治療をきちんと続けることだ。緑内障の点眼薬治療は、中止すると再び眼圧が上がるため、生涯、薬を使い続ける必要がある。しかし、初期では自覚症状がほとんどない上、毎日決まった時間に点眼を続けるのが困難、あるいは点眼薬を正しく使うのが意外に難しい(下表)といったことから、治療を途中でやめてしまうケースや、間違った使い方をして本来の治療効果が得られず進行してしまうケースも少なくないのだという。

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■点眼薬1剤程度の効果のある低侵襲手術も普及

点眼薬の負担を減らしたい患者や、点眼薬だけでは眼圧がコントロールできない患者に検討される治療が、手術だ。これまで房水の排出路である線維柱帯の一部を切り取り、別の排出路を形成する手術(濾過手術)の一つである「トラベクレクトミー」などが実施されてきた。眼圧を下げる効果は高いが、眼球の切開範囲が大きいため縫合の必要があるほか、出血、感染症などによる術後合併症の問題もあった。

そこで近年、傷口が小さく患者の目への負担が小さい緑内障手術(低侵襲緑内障手術〔MIGS(ミグス) : micro invasive glaucoma surgery〕)が登場している。これにはいくつかの手術方法があり、例えば2010年に厚生労働省より認可された「トラベクトーム手術」は、細い針の先に取り付けられた特殊な電極により線維柱帯の一部を焼くことで房水を排出しやすくする手術だ。

■“極低侵襲緑内障手術”であるアイステント手術も登場

さらに、より患者の負担が小さく“極低侵襲緑内障手術”ともいえる新たなMIGSとして登場したのが、iStent(アイステント)と呼ばれるチタン製の極小の管を使った手術だ。2016年に承認された手術で、長さ1mmのL字形のステントを線維柱帯のシュレム管に1個埋め込むことで房水の排出を促す。トラベクトーム手術と比較してもさらに出血や痛み、合併症のリスクが低い上、須藤教授は「これまでの研究で、点眼薬1剤分程度の眼圧を下げる効果があることが分かりました。2~3剤使っている方だと、薬を1つ減らせる可能性があるということです」と評価する。

そして2019年10月には、より小さな新型のステントを線維柱帯に2個挿入する手術方式が厚生労働省に承認された。これは「アイステント インジェクト ダブリュー」と呼ばれ、大きさは1mmの3分の1ほど。弾丸のような形をしたこのステントを、インジェクターと呼ばれる機器を用いて線維柱帯に2カ所打ち込む。アイステントを埋め込む作業が簡便になったことで手術が容易になり、さらに排出路が2つになることでより効率的に眼圧を下げられる。須藤教授は「海外の報告では旧型のアイステントより有効性が高いとの報告もあります。私の患者でも1剤使っていた点眼薬が必要なくなったケースもありました」と話す。

2019年に承認された新型のステント

「アイステント インジェクト ダブリュー」(画像提供=Glaukos社、以下2点も) © NIKKEI STYLE 「アイステント インジェクト ダブリュー」(画像提供=Glaukos社、以下2点も)

線維柱帯に2カ所打ち込まれたアイステント(イメージ)

アイステントの筒の中を房水が通り、眼圧が下がる効果が期待できる © NIKKEI STYLE アイステントの筒の中を房水が通り、眼圧が下がる効果が期待できる

新型ステントの大きさは0.36mmほど

アイステントの耐久性に関するデータはないが、「生体適合性の高い材質であり、長期間の留置でも問題ないと考えられる」(Glaukos社)という。 © NIKKEI STYLE アイステントの耐久性に関するデータはないが、「生体適合性の高い材質であり、長期間の留置でも問題ないと考えられる」(Glaukos社)という。

■アイステントは白内障手術と同時に!「人生でワンチャンス」

緑内障患者の眼圧を下げる治療法は、従来の「点眼薬による薬物治療」「合併症などのリスクは比較的高いが眼圧を下げる効果の高い手術」に加え、「患者の体の負担の小さい低侵襲手術」、そして「体の負担がさらに小さくなったアイステントによる極低侵襲手術」がそろった。これらは患者の症状、進行のスピードなどを考慮して選ばれる。

例えば、アイステント手術は緑内障の初期から中期の一部の人に向いている方法で、症状のより重い人には濾過手術などが用いられる。アイステント手術は目への負担が小さいとはいえ出血などの合併症はある。ただ、濾過手術と比較して軽度だ。また、眼圧を下げる作用は濾過手術より小さいため、アイステント手術で十分な効果が得られないケースも考えられるが、その場合、他の方法での再手術が可能なこともアイステント手術の利点の一つだ。

また、アイステントによる治療は点眼薬の数を減らす効果を期待できるので、脳梗塞などの後遺症や関節リウマチで手の自由がききにくく点眼薬がうまく差せない患者や、認知症で決まった時間の点眼を忘れがちな患者とその介護者などの点眼薬治療の負担を少なくすることにも役立つ可能性がある。ただし、この治療を受けるにはいくつかの制約がある。

まず、日本眼科学会が作成したアイステントの使用ガイドラインである「白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準(第2版)」によれば、この治療は製品や治療方法に関する講習を受け、一定の経験と技術が認められた医師しか施術できないことだ。この条件を満たしアイステントを使用している施設はGlaukos社のホームページで確認することができる。

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さらに白内障(目のレンズである水晶体が白濁する病気)の手術と同時に行わないと保険適用にならないことも知っておきたい。白内障も加齢とともに多くの人がかかる病気で、緑内障と同様、早い人は40代から始まり、50代で5~6割の人が発症しているといわれる。アイステントは、もともと白内障手術(眼内レンズによる水晶体再建術)のときに行うことで、目の加齢性疾患に一度に対処できる医療として開発されている。

手術時間は、白内障の手術にかかる時間が1眼当たり15~30分で、同じ切開創から行うためアイステント手術は5~10分の追加でできる。費用は自己負担3割の場合、白内障手術込みで1眼約10万円(編集注:保険点数は白内障手術込みで27990点。1点=10円なので費用は27万9900円、その3割として計算)である。

須藤教授は「既に白内障手術を受けたことのある患者さんには残念ながら行えません。同時手術を受けられるのは『人生でワンチャンス』ですので、白内障手術を受けるときに、アイステントの治療について知識のある眼科医に相談してください」とアドバイスする。

■自分の受けている眼科の検査を確認

最新医療の登場により治療の選択肢が増えた緑内障。失明はもちろん、視野の障害で快適な生活が損なわれることがないようにするには、やはり早期発見が重要だ。そのためには40歳を過ぎたら緑内障発見に適した眼科検診を定期的に受けることが重要だ。

眼科の検査には、企業などの健康診断でも行う「視力検査」のほか、「眼圧検査」や「眼底検査」「視野検査」などいろいろある。このうち視野検査は、緑内障による視野の異常を発見するための検査で、眼底検査による視神経乳頭所見や、網膜神経線維層の欠損と視野の欠損が一致すると緑内障と正確に診断することができる。緑内障の症状である視野の欠けを調べる「視野検査」だけでもいいのではと思う人もいるかもしれないが、須藤教授は「前視野緑内障といって、視野検査が正常でも、眼底写真などを調べると網膜の視神経に異常が認められることがあります」と指摘する。

図3 緑内障で行う主な検査

※このほか、基本となる視力検査や、隅角の開き具合を調べる隅角鏡検査なども行われる © NIKKEI STYLE ※このほか、基本となる視力検査や、隅角の開き具合を調べる隅角鏡検査なども行われる

緑内障の早期発見を実現するためには、まずは、ほとんどの眼科で比較的簡単に受けられる「眼圧検査」と「眼底検査」を定期的に受けることが重要だ。眼圧検査や眼底検査は人間ドックのメニューに入っていることも多い(眼底検査は人間ドックに眼科が入っているのが必須)。特に「肉親に緑内障の患者がいる人、強度近視の人はリスクが高いので、より積極的に検査を受けてほしい」と須藤教授はアドバイスする。具体的には、誰でも40代で1度、リスクの高い人は50代で5年に1度、65歳以上は2年に1度程度受けると早期発見につながる。

適切な検査と正しい眼圧管理。それが、人生100年時代にずっと快適な視力を守るために必要だ。

(文 荒川直樹=科学ライター)

[日経Gooday2021年9月10日付記事を再構成]

須藤史子さん

東京女子医科大学東医療センター(東京都荒川区)眼科教授。1988年東京女子医科大学卒業。92年同大学院修了(医学博士取得)。米国クリーブランドクリニック コール眼研究所留学などを経て、2016年より東京女子医科大学東医療センター眼科教授。監修書に『眼科スゴ技 白内障手術』(メディカ出版)、編集企画書『これでわかる眼内レンズ度数決定のコツ』(全日本病院出版会)がある。

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