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結局、大型ショッピングモールは街を生かすのか、殺すのか

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2019/12/03 08:27
SCは地元を破壊しているのか © ITmedia ビジネスオンライン SCは地元を破壊しているのか

 テラスモール松戸、南町田グランベリーパークなど首都圏で大型ショッピングモールの開業が相次いでいる。ということもあってなのか、以下のような巨大ショッピングモールに好意的な報道がチラホラと出てきた。

 『開業続々!巨大ショッピングモールは「シニアの楽園」』(毎日新聞 12月1日)

 クルマ社会とネット通販全盛の米国では巨大ショッピングモールが廃墟化しているが、日本のモールは電車やバスのアクセスが良く「徒歩客」も多いので集客が好調。図書館でヒマをもて余すような、リタイアしたシニアらの新たな憩いの場にもなっているというのだ。

 一方で、地方都市になると、ちょっとムードが変わる。巨大ショッピングモールの出店が激しくなった2000年代から、一部の人たちから「古き良き商店街を殺し、町を破壊する悪のスキーム」と長らく目の敵にされてきたからだ。分かりやすいのが、「無印良品くらしの良品研究所」による、「郊外のショッピングモールが町を壊す」(2013年10月30日)というコラムだ。

 欧州あたりの小さな町は、ウィンドウショッピングなんかして楽しむ人でにぎやかだが、日本の町は面白くなく、人通りも途絶えている。これは「人々の行動は郊外のショッピングモールと駅に二分され、その間の町は空洞化していく」からだというのである。

 「あれ? ウチの近くのイオンモールにも確か無印が入っていたような……」というツッコミはさておき、このような主張をされている方はいまだに多い。つまり、巨大ショッピングモールは一見すると、地域の人々に便利と、楽しさを提供しているが、実のところはその町独自の魅力を殺して、どこにでもある個性のない町へと変えてしまう「破壊者」だというのである。

●筆者が注目している3つのこと

 では、本当のところはどうなのか。

 18年末時点で3220ある日本のショッピングセンターの中でも店舗規模区分が5万平方メートル以上のものは160まで増えてきている。イオンのショッピングモールも国内外で200拠点を展開している。ここまで社会に定着してきた巨大ショッピングモールは結局のところ、町を殺しているのか、生かしているのか――。

 いろいろな意見があることは百も承知だが、個人的には「町を生かしている」面も否定できないのではないかと思っている。

 もちろん、物事にはプラスの面もあればマイナスの面もあるので単純に白黒がつけれるものではないだろう。例えば、地域に巨大ショッピングモールが出店して、周辺の商店街が売上激減するというのは、さまざまなデータが示している。地方の老舗百貨店の衰退にも影響を与えているという指摘も少なくない。しかし、その半面、巨大モールに入るテナントが多くの雇用を生み出し、県外に流出していた若者を呼び戻しているというプラス面も否定はできない。

 そのような巨大ショッピングモールが町にもたらす「恩恵」の中でも、筆者が特に注目をしているのは以下の3つである。

(1)娯楽の少ない地方都市に「レジャー」が増える

(2)百貨店や商店街の中では閉店するような店舗が成立する

(3)大規模災害の避難場所など、地域の防災・復興の拠点になる

 まず、(1)の「娯楽の少ない地方都市に『レジャー』が増える」については多くの説明はいらないだろう。ディスっているわけではなく、地方はどうしても大都市圏に比べて、若者や家族連れが楽しめる「レジャー施設」が少ない。だから、休日になると地元の商店街を飛び越えて県外へと遊びに行く。このような人の流出を巨大ショッピングモールが防いでいる側面があるのだ。

 事実、良い悪いは別にして、イオンモールなどの巨大ショッピングモールで1日を過ごす若者や家族連れは少なくない。シネコン、ゲームなどアミューズメント施設、カフェ併設の大型書店、ショッピングゾーン、フードコート、レストランエリアなど、最近は地域の交流イベントや、お笑い芸人のライブ、コンサートなどを行う施設も多い。

●ショッピングモールに行く理由

 このような「レジャー」を地方都市の昔ながらの商店街が提供できるのかというとリソース的にもなかなか難しい。

 そのあたりは、全国で唯一の「イオンなし県」として知られている福井県の商工会議所が実施した「県外大型店と買い物に関するアンケート調査結果報告書」が分かりやすい。

 実はこのアンケートは、隣接している石川県に17年3月、イオンモール新小松が開業した際に行われたもので、オープンから4カ月のうちにイオンモール新小松に行った人は43.6%。「また行ってみたい」という回答は65.6%だったのはまあなんとなく分かるとして、注目すべきはその理由だ。

 もっとも多かったのが、「気分転換に」という点だったのである。

 欲しいブランドの店があったとか、ショッピングを楽しみたい人もそれなりにいたが、「ブラブラするだけ」という人がかなりいる。実際に、約8割が使ったお金が「1万円未満」だというのだ。このことから、商工会議場は福井の消費者にとって隣の県のイオンモールとは、「買い物というより気分転換やレジャーとして出かけたい場所と捉えていると思われる」と結論づけているが、筆者も全く同感だ。

 少し前に、イオンモール新小松とそう変わらぬ時期に長野県初出店した「イオンモールまつもと」に行くことがあったが、観光地のように混んでいた。ナンバーを見ると、松本以外や他県の人もいて、地域住民というよりも、近隣県の人が「ちょっと遠出」というノリで来ているのだ。

 このように「レジャー施設」として外の人間を呼び込むことを考えれば、地域にとっては悪い話ばかりではないのではないか。

 次に(2)の「百貨店や商店街の中では閉店するような店舗が成立する」で、もっとも分かりやすい例が大型書店だ。先週の本連載でも述べたが、出版は構造的な不況で、町の書店がバタバタ潰れている。あまりに本が売れないため、販売力の高いコンビニに書店化を進めているような状況だ。。

 先ほどのアンケートでも例に出した「イオンなし県」の福井も同様で、福井駅前には北陸を中心に展開する「勝木書店」の本店があるのだが、少し前にそこで「騒動」があった。勝木書店のTwitter公式アカウントが以下のようにツイートしたことが物議を呼んだのである。

 『実は駅前の再開(発)にのまれて、店の存続があやしくなってきています。作家の皆さんに図々(ずうずう)しいお願いです。盛り上げるためにサイン色紙をください。壁一面埋めたいと思います。店をなくさないように、福井の人からより一層愛される店になるように、色々やっていきます』

●大型書店を運営するのは非常に困難

 前代未聞のSOSに当然、メディアも食いついた。「オトナンサー」の取材に応じた店長は、苦しい台所事情を明かし、「撤退」の可能性も否定しなかった。

 『店は自社ビルの中にありますが、なかなか採算が取れない状況です。車社会の進展で、無料駐車場が確保できない店の集客は難しくなっています。ここ数年は、北陸新幹線敦賀開業を見据えた再開発計画で、公共交通機関の乗り場が店の近くから駅側に移動し、店周辺の人の往来が急減しています。来店客は3割減少しました』(オトナンサー 2018年7月17日)

 もし勝木書店本店がなくなってしまったら、福井の中心部で「品揃えの豊富な大型書店で本を選ぶ」という体験をすることはかなり難しい。駅前の西武百貨店新館には紀伊国屋が入っているが、そこまで大規模店ではない。しかも、この新館は2021年2月末に閉館されると先日と発表があった。「だったらもうアマゾンでいいじゃん」と思う人も多いかもしれないが、検索エンジンではなく、リアル大型書店を散策することで、出会える本もあるのだ。

 そんな大型書店絶滅の危機に瀕する福井駅周辺と対照的に、郊外のショッピングモール内にはそれなりの規模の書店がある。が、それを上回る規模のものがイオンモール新小松にある。勝木書店が運営する「Books KaBoS」という大型書店で「約1,000m2の店舗に約25万冊の蔵書」(イオンモール新小松プレスリリース 2017年3月24日より)を誇っているのだ。

 もうお分かりだろう。「町の本屋さん」が苦境のいま、このような大型書店を単体で運営するのは非常に困難だ。しかし、巨大ショッピングモールという「レジャー施設」の中の一つの機能として求められることで、なんとか大型書店が存続できている現実があるのだ。

 このように巨大ショッピングモールというスケールメリットがゆえ、地域の人々にもたらされる恩恵が確かにあるのだ。その中でも実はもっとも大きいのが(3)の「大規模災害の避難場所など、地域の防災・復興の拠点になる」ことではないかと思っている。

●地域の防災・復興の拠点として

 2011年3月11日。東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市で、多くの地域住民が避難したのが、やや内陸にあったイオン石巻ショッピングセンターだったというのは、有名な話だ。

 津波が迫る中で、警察官からの要請を受けたモールマネージャーは現場判断で、およそ900人を屋上に避難させて、2階の飲食コーナーも「臨時避難所」に開放した。食料、水、毛布などを提供して欲しいという要請にも本社の判断を待つことなく独断で対応して、倉庫にあった商品在庫を出した。震災から5日経過した際に、イオン石巻には2400人の被災者が集まった。

 コンビニは社会インフラだ、災害時の拠点になると訴える人は多いが、実は避難所としての収容力や、商品の備蓄、立体駐車場など、ショッピングセンターのほうが防災拠点としての機能ははるかに優れているのだ。

 この時の教訓を受けて、イオンモールでは災害対応の拠点としての機能を積極的に打ち出している。18年6月28日~7月8日に西日本に激甚な被害をもたらした豪雨の際、岡山県の高梁川が氾濫危険水位に達した際には、近くの「イオンモール倉敷」の立体駐車場を一時避難所として開放した。

 同社Webサイトによれば、警備員のほか社員6名が緊急出勤して対応して、一部館内のトイレも開放。この情報は倉敷市からの災害情報(エリアメール)で発信されて、7日午前1時には約2300台の車両を受け入れたという。

 このように、人口減少でリソースの足りない地方では、実は避難や復興の拠点として巨大ショッピングモールが注目されている。施設の開放はもちろん、イオンは小売業として初めて、陸上自衛隊補給統制本部との間で「大規模災害時における物資の供給要請に関する協定」を締結しているのだ。

 残念ながら、このような災害対応は、個人経営の集まりである商店街では難しい。巨大ショッピングモールという規模がゆえに実現できる「強み」だ。

●そこにいるだけで楽しめる場

 こういう話を聞くと、「こいつは巨大ショッピングモールのいいところばかりを持ち上げている!」とかなんだと批判をしてくる方も多いと思うが、先ほども申し上げたように、この問題は「昔ながらの商店街は善、ショッピングモールは悪」みたいな単純な話ではない。

 巨大ショッピングモールがもたらす弊害も当然ある。が、一方で地方にとってのプラスがあるのも事実だ。「ショッピングモールのせいで地方はめちゃくちゃなので絶対に認めん!」みたいな全否定をしても、地域の人々にとって「得」がないと言いたいのである。

 もっと言ってしまうと、そのようにショッピングモールを敵視して、「昔ながらの商店街」を礼賛しているだけでは、地方には未来がない。

 例えば、商店街再生の成功モデルとしてもてはやされ、「奇跡の商店街」と評される高松丸亀町商店街。では、ここが「昔ながら」とか「人情」で復活したのかというと、そうではない。

 行ったことがある人ならば分かるが、ここは全長470メートルにも及ぶアーケード商店街を、北からA~Gまでの7つの街区に分けて、中心には圧巻の巨大ガラスドームとなっている。隣接する形で、駐車場も完備されており、美術館などもある。要するに、商店街というよりも巨大なショッピングモールなのだ。

 全国で成功した商店街も往々にして、このようなモール化したケースが多い。規模はそれぞれだが、全店共通のキャンペーンやイベントを企画して、商店街を散策するだけでも楽しくさせる。つまり、ショッピングモールのように、「買い物をする場所」ではなく、「レジャースポット」という機能を強化させているのだ。

 このことからも分かるのは、大切なのはショッピングモールか、商店街かという話ではない。人口が減っていく地方において、小売業がただ「モノを売る場」を提供することから、「そこにいるだけで楽しめる場」をつくりだすことができるかということだ。商店街や百貨店の衰退は、「売り場をつくれば客が金を落としてくれる時代」が終わりつつあることを示しているのではないのか。

(窪田順生)

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