古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

「コロナ禍で年収1000万から無職に」59歳独身を襲った悲劇

プレジデントオンライン のロゴ プレジデントオンライン 2020/06/30 09:15 黒田 尚子
※写真はイメージです © PRESIDENT Online ※写真はイメージです リタイア後の人生を楽しく暮らすにはどのような準備が必要なのか。年収1000万円だったAさんは今年3月、60歳直前で勤め先を退職。再就職をするつもりだったが、コロナ禍でそれができずに苦しんでいる。ファイナンシャル・プランナーの黒田尚子さんは「コロナ時代には老後の資金計画も変える必要がある」という――。

年収1000万円だった59歳男性が青ざめた理由

「今の生活がこれだけ厳しいのだから、これからの老後生活は、ますます厳しいものになるのでは……」。コロナ禍によって、多くの人がそう感じているのではないだろうか?

このような災難が降りかかる前、リタイア直前の人々の老後に対する考え方は以下のような感じだったと思う。

「長生きが当たり前になったから、公的年金だけでは家計は厳しいはず。ま、元気で働ける間は働くとするか。その収入で生活をまかなって、公的年金が受給できるようになれば、年金と預貯金を取り崩しながら、悠々自適とはいわないまでも、たまに旅行に行ったり、孫や子どもにお小遣いをあげたり。多少なりとも、ゆとりある生活ができれば満足だ」

こうした庶民のささやかな夢をかなえるのはもはや実現不可能なのか。ここに、コロナによって「老後の計画が狂ってしまった」という無職のAさん(59歳)がいる。

新型コロナ感染拡大でセカンドステージの就労のメドが立たない!

都内在住のAさんは、長年IT関連のシステム開発に従事してきた技術職である。今年3月に、長年勤務してきた会社を60歳直前で退職。本来であれば、しばらく休んで、今頃は新しい職場に転職しているはずだった。

それが、新型コロナウイルスの感染拡大により再就職のための就活もままならなくなり、4月7日に「緊急事態宣言」が発令されたことで、外出すらできなくなってしまった。

Aさんは、10年前に離婚。前妻との間にできた2人の子どもの養育費も数年前に終わり、これからは、本格的な老後生活に入るまで、自分一人が食べていけるだけの収入があればよいと考えていた。

「前職での年収は1000万円くらいでした。これまでのキャリアやスキルなら、高望みしなければ、すぐに再就職できるはずだと安易に考えていました。実際、すこし前に転職した同僚もそうでしたし、これまでと同じくらいの待遇で、再就職を打診されている企業もいくつかあったんですが、コロナの蔓延でそれどころではなくなったみたいで……」

話を進めていた企業も含め、再就職は「コロナが落ち着いたら改めて」という対応で白紙の状態になったという。Aさんとしては、想定外の災難で、セカンドステージでの働き先のメドがつかない状態になったことに困惑するしかなかった。

コロナ禍に続き、まさかのがん(ステージⅢ期)の告知を受ける

コロナによる影響をモロに受けたAさんだったが、災難はこれだけではなかった。

5月中旬に、緊急事態宣言の実施地域が限定され、下旬には、全国的に解除されるのでは、という雰囲気が濃厚になってきた頃、ようやく再就職に向けて就活を再開できると張り切っていたAさんに大腸がんが見つかったのだ。

「これまで自覚症状などはまったくありません。ただ、ここ数カ月、下痢や便秘が続いていて、体調はよいとはいえませんでした。でも、コロナで外出自粛するようになってから、お酒の量が増えたり、生活が不規則になったり。再就職もうまくいかないしでストレスがたまっているんだろうなと。本来なら、もっと早く病院に行っていたかもしれませんが、コロナに感染するのが怖くて。便に血が混じっているのをみて、さすがにこれはマズいんじゃないかと、受診したんです」

精密検査の結果、ステージはⅢ期。Aさんは、すぐに入院して、がん摘出の手術を受けた。退院後は、半年間の抗がん剤治療を受ける予定だという。

話の途中で、Aさんは、「数カ月前まで、まさか、こんなことになるとは思いませんでした」と、何度も口にしながら、ため息をついた。今回のコロナ禍で、どれだけ多くの人がこの言葉を口にしただろう。

「こんなことになって(がん告知を受けて)も、働く気力や体力は十分にあるつもりです。実は、離婚した時に、住んでいたマンションは前妻に渡し、新たに住宅ローンを組んで分譲マンションを購入したんです。残債は1000万円以上あり、返済期間は70歳までです(約20年のローン)。今年3月に会社を辞めたとき、70歳までの約10年間は、転職してこれまでと同じような収入を見込めると思っていたので、退職金はローン返済に充当せずに、そのまま投資に回しました。でも、もし、再就職がうまくいかず収入がなくなれば、ローン返済計画は完全に狂い、生活は確実に苦しくなります。それに、そんなに長生きできないなら、公的年金も繰り上げ受給したほうが良いのかと考えたりもして……」

離婚とコロナ禍を経ての「無職(転職先見つからず)・多額のローン・がんⅢ期」という三重苦に見舞われたAさんはこれからのことを考えると心が暗くなるという。

老後生活は、まず予定通りにいかないものと覚悟しておく

Aさんの事例は、コロナ禍の影響や病気の発症などが、タイミング悪く重なってしまったケースとも言える。しかし、筆者がファイナンシャル・プランナーとして相談を受けている限り、不運・不幸な状況に陥り、さらにそれが重なってしまった中高年は少なくない。

たとえば、

「離婚したので、支出を節約しようと保険を解約した直後に病気が見つかった」

「リストラされて、家族で実家に戻ったが、すぐに父親が亡くなり、母親が認知症発症。父親が遺した借金と母親の介護を背負うことになった」

「国内外を問わず、転勤などで引っ越しした先々で、大きな地震や台風被害などに遭ってしまう」

など、まさに“弱り目に祟り目”である。

こうした事例をたくさん聞いてきてきた筆者として、読者に言いたいのは、「とりわけ老後生活については、予想や予定通りにはいかないことが多い」と、あらかじめ覚悟しておいたほうが良いということだ。

その原因は、Aさんのような災害や病気やケガの場合もあるし、親の介護や夫婦間で意見が合わない、熟年離婚など家族間の問題、再就職できないなど経済的な問題など、さまざまだが、Aさんの世代では年齢的に健康上の理由が特に大きい。

公的年金受給の目前で住宅ローンや教育費負担が残っている人も多い

フコク生命が全国の20~60代を対象に実施した「70歳までの就労意識」に関する調査(※)によると、70歳まで自分が働いているかの予測については、「就労していると思う」が53%、「就労していないと思う」が47%と、ほぼ半々となっている。

※出所:フコク生命「70歳までの就労意識」(2020年3月27日)

ひと昔前までなら、「70歳なんて、そんなに長いこと働きたくないし、働けない」と思っている人が多かっただろう。だが今年3月には、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が成立。60歳定年後も、より就労を継続できる雇用環境が整備された形となった。

すでに65歳まで再雇用で働く人も多くを占め、もはや、社会全体が70歳まで働くのは当たり前といった雰囲気になりつつある。

その一方、同調査で、「長期的に働く場合に感じる今後のリスク」を聞いたところ、最も多かったのが「病気」だった。次に、働けない状態が続く「就業不能状態」や「入院」、「ケガ」となっている。

実際、病気やケガなどで、本人または家族や知人が就業不能状態になった経験のある回答者は、調査対象のうち約3割にのぼった。

これらのうち、就業不能状態になった期間については、「30日未満」が37%、「30日以上1年未満」が41%、「1年以上」が22%となっていて、「1カ月以上」続いたという人が63%以上にものぼっている。

この調査では、就業不能状態が何歳の頃に起きたものかは不明だが、相対的に、高齢になるにつれ、病気やケガなどのリスクは高まる。

定年退職後で、公的年金受給は目前といえども、住宅ローンが残っている場合や子どもの教育費負担がある場合などもある。

一般的にできるだけ長く働きたいという人は、その理由として「仕事に生きがいや喜びを見出したい」「健康でまだ働けるし時間的余裕もあるから」といった項目を挙げる。ただ、現実的には昨今のプレシニア(40代後半~50代)の懐具合を見る限り、生活のために働かざるを得ないケースも多いはずだ。

コロナ時代の老後対策では1つはダメ! 複数の合わせ技でリスク分散

では、これからの老後を迎える人々が、老後資金を準備する場合、どう備えれば良いのだろうか?

まず、老後資金の不足に対応する方法として挙げられるのは、以下の3つである。

①長く安定的に働き続ける

②運用して“資産寿命”をできるだけ延ばす

③ムリムダがないか家計を見直す

まず、①「長く安定的に働き続ける」については、前述したように、多くの人が働ける間は働いて収入を得たいと考えている。問題は、それが可能かどうかということだ。

コロナが日本経済に与えたダメージは大きく、すでに2021年卒学生の新卒採用にも大きく影響を及ぼしている。そして、高齢者雇用も例外ではなく、採用時にこれまで以上にシビアな目が向けられるのは必至だ。

テレワークの導入などで雇用や働き方が大きく変わる可能性も高い。定年前と同じ企業で働くにしろ、子会社や関連会社に出向するにしろ、独立してビジネスを始めるにしろ、より一層、これまでのキャリアやスキルの棚卸しとブラッシュアップは欠かせない。

要チェック! 2022年4月から徐々に年金制度が変わる

なお、2020年の年金制度改正法案が5月29日の参議院本会議で可決され成立した。これによって2022年4月から徐々に年金制度が変わることも要チェックである。

今回の改正は、年金の受給開始年齢を、現行の60歳から70歳よりさらに後ろ倒して75歳まで遅らせることが可能となる。その分、年金を「繰り下げ受給」すれば、増額された年金を受け取ることができるわけで、一見、できるだけ長く働くことを後押しするかのようだ。

しかしその一方で、年金受給開始時期を前倒しにする「繰り上げ受給」の減額率は0.5%から0.4%へと縮小。働きながら年金を受け取る「在職老齢年金」も、60歳代前半の条件が緩和され、年金と給料の合計額が47万円を超えなければ、年金はカットされない。

これまで、60代前半の人が働きながら、繰り上げ受給を選択すると、繰り上げに伴う年金減額に加えて、在職老齢年金のしくみによる年金減額とダブルで年金が減らされてしまう。

それが改正後は、これまでより小さい減額率の繰り上げ受給の年金を受け取りながら、年金カットを気にせず給料をもらえる人が増える。

要するに、今回の改正によって、年金をもらいながら働くという選択の幅が広がり、今後の年金のもらい方に対する発想やスタンスが大きく変わる可能性が強い。

次の②「運用して“資産寿命”をできるだけ延ばす」については、所有している預貯金や資産のリスク分散などリスクコントロールが今まで以上に重要になってくるだろう。

そして、③「ムリムダがないか家計を見直す」については、「住宅ローン」「子どもの教育費」「保険料」の3大固定費をどうクリアするかが肝心だ。

いずれにせよ、これらの対策は単独で考えるのではなく、①~③のいずれか複数を組み合わせて複合的に行うことをお勧めする。

コロナ禍は、まさに世界的な大災害であり、失ったものは計り知れない。だが、視点を変えれば、「これまで当たり前だと思っていた日常が当たり前ではない」こと、また、「自分の身は自分で守るしかないこと」を現実のものとして感じさせてくれたともいえる。

コロナは人々の意識を変革し、老後への備えのあり方も変えようとしているのだ。

---------- 黒田 尚子(くろだ・なおこ) ファイナンシャルプランナー プレジデント誌でもおなじみのFP。お金の管理に関するプランニングや講演、メディア出演を行うと同時に、自身のがん経験を生かし、病気時の資金繰りサポート活動にも力を入れている。近著に『三大疾病 ライフプランニングハンドブック』(金融財政事情研究会)。 ----------

PRESIDENT Onlineの関連リンク

プレジデントオンライン
プレジデントオンライン
image beaconimage beaconimage beacon