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「あれがドコモショップのリアル」──“クソ野郎”事件はなぜ起きたのか 現役店員が漏らした本音

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2020/01/14 19:31
問題後の「ドコモショップ市川インター店」(画像は読者提供) 臨時休業のお知らせが張られ、店内は暗い © ITmedia NEWS 問題後の「ドコモショップ市川インター店」(画像は読者提供) 臨時休業のお知らせが張られ、店内は暗い

 「彼は口が悪かったが、紙にあったような客対応自体は一般的に行われていることだ」。あるドコモショップ店員は、ITmedia NEWSの取材に対しこう打ち明けた。

 1月8日、あるTwitterユーザーがドコモショップの書類の画像を投稿した。

 「親代表の一括請求の子番号です。つまりクソ野郎。新プランにかえて、Disneyはベタ付け。『バックアップめんどくさくないですか?』からのいちおしパックをつけてあげて下さい。親が支払いしてるから、お金に無トンチャクだと思うから話す価値はあるかと」──。

 これはTwitterユーザーの知人が受け取ったもので、ドコモショップに機種変更に行った際に書類に紛れていたという。

 「クソ野郎」などと客を侮辱する内容で、当該ツイートは2万RTされるなど話題に。メディアも9日には報道し始め、NTTドコモは10日に謝罪文を発表。問題の発生した「ドコモショップ市川インター店」を運営する兼松コミュニケーションズは、当該店舗を「社員研修のため、11~14日の間お休みする」とした後、「当面の間臨時休業」にあらためた。

 客の立場にしてみれば、ドコモのプランを契約しているだけなのに「クソ野郎」などといわれる筋合いはない。

 しかし、ITmedia NEWSの取材に応じたあるドコモショップの店員Aは、「口が悪いのはダメだが、このような伝達を店員間で行い、客対応に当たること自体は一般的に行われる内容。ドコモショップのいびつな評価体系が、今回のような事態を引き起こしたのではないか」と語る。

●店舗ごとに課された“指標”という名のノルマ 「悪ければ営業権剥奪も」

 まず前提として、ドコモショップは全てがドコモ子会社(ドコモCS)の直営店というわけではない。むしろ、ドコモショップの約2400店舗(19年3月時点)のうち、大多数は「代理店」と呼ばれる別の会社がドコモと委託契約を結び、運営している。

 今回問題があった店舗を運営する兼松コミュニケーションズは全国で約350店舗を展開する「一次代理店(広域代理店)」で、店舗によっては二次代理店に運営を再委託している場合もあるが、問題の店舗は兼松コミュニケーションズの直営だ。ドコモショップと聞くとドコモが直接運営しているサービスのようにも思えるが、実態としてはこのような下請け構造がある。

 ドコモからすれば、ドコモショップは消費者との主たるタッチポイントだ。端末の修理依頼や利用方法の相談などを受ける場でもあるが、新規契約を取れる場でもある。ここでいかに契約を取れるかで、ドコモの業績も左右される。

 すると、下請けである代理店は必然的に「契約獲得数」を課される。

 「現場ではずっと、ドコモ光、タブレット(dtab)、dカードや、オプションなどの“指標”を追わされている」とA氏は話す。

 店舗ごとにこのような指標が設定されており、指標を満たすと「インセンティブ」という形で奨励金がドコモから入る。このように書くと任意の目標のように思えるが、A氏は「そうではない」という。

 「指標を追わないような態度でいると、代理店の上層部がドコモに呼ばれて怒られる。あまりに評価が下がると営業権も剥奪される可能性がある。結局、やらないという選択肢はない」

 つまりドコモショップの店員は指標という名の「実質的なノルマ」を課されており、好むと好まざるとにかかわらず、来店した客に対し新規契約などの訴求をしなければならないということだ。

○「あれがドコモショップのリアル」

 ここで、問題の記載について振り返ってみよう。「親代表一括請求の子番号」は、持ち込まれた回線の支払いは親が行っており、持ち込んだ本人の支払いではないことを意味している。実際、メモを受け取った男性はメディアに対し、「父親が個人事業主で、会社用の携帯を機種変更しに来た」と話している。

 A氏は「この状態からは確かに、ディズニーのオプションかいちおしパックくらいしか獲得できないだろう。会社の経費で落としているという情報も加味すると、他にも可能性はあったかもしれないが」と語る。

 つまり指標を追わなければならない店員側からすれば、“金にならない客”と映る。「問題の店員は、これを口悪く表現してしまったのではないか」とA氏はみている。

 「紙に書くのはこういう事故が起こるのでやらないが、“そういう客だ”という伝言をインカムで他の従業員に伝えることはありえる」とした上で、「どの店舗もだいたいあんなもの。あれがドコモショップのリアルですわ」──同氏はそう吐露した。

●現場へのしわ寄せ、総務省規制後は「冬の時代」

 “ベタ付け”ともいわれるオプションの強制加入や、固定回線やタブレットなどの強引な訴求などは、「いらないものを案内された、知らないうちに勝手に契約させられた」などと、ドコモに限らずたびたび話題になってきた。

 ユーザーにきちんと同意を取らない販売方法は論外だが、数年前までは今とは別の方法でこういった商品を訴求する手立てがあった。キャッシュバックだ。

 ショップとしては、指標をクリアすればドコモからインセンティブをもらえる。このインセンティブの一部を客に渡すことで契約数を獲得していたのを、総務省が「不当廉売」として2014年ごろから問題視し始めた。

 キャッシュバックの全盛期には、「MNP一括0円10万円CB」など、他社からMNPで契約を移行してくると端末代金を無料(実質ではなく、本当に無料)にした上、2~3カ月後に10万円を客の口座に振り込むというような“案件”が全国で出回っていた。こうした案件はMNPの他にもオプションや外部コンテンツ、見守りケータイやフォトフレームなどを同時に契約することを条件にしていることがあり、ショップ側としては1人の顧客を取るだけで複数の指標の数字を作れた(逆に、そうした抱き合わせがないものは客側から“良案件”と呼ばれていた)。

 一方で、客の中には解約のタイミングを見極めることで解約料を抑え、次々にMNPを繰り返すことでキャッシュバックを利益とする「買い回り」と呼ばれるユーザーも現れた。キャリアを渡り歩くユーザーに金が多く渡り、契約中のキャリアから動かないユーザーは高い料金を払わされている──という状況だった。

 この状況を総務省は問題視。こうして同省主導の下、キャッシュバックは段階的に規制され、19年にはプラン加入による端末割引を禁止した「分離プラン」を各社が導入するに至った。

○規制先行でショップが苦しい状況に

 総務省の規制により、買い回りユーザーへの“不当”な金の流れはせき止められたが、ショップには契約数獲得のノルマが残った。販売手段を失ったのに、目標だけが残っている状況だ。

 では値引き以外の努力をすればいいではないかとも思うが、それも難しい状況らしい。

 「今となっては、自店舗の努力による値引きはおろか、POPを作るといったことすらほとんど認められていない。ただ言われたことをこなすだけ。毎日がつまらない」とA氏はこぼす。

 規制の波は、各キャリアの契約を取り扱う「携帯電話ショップ(併売店)」にも及んでおり、19年は分離プラン導入に前後して併売店の閉店が相次いだ。ある併売店の店長は「(19年の)6月からはもうずっと冬の時代だ」と取材に答えた。

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