古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

いまだに日産を苦しめる、ゴーン氏の「日本人社員軽視」とは?

ZUU Online のロゴ ZUU Online 2019/12/10 20:30
いまだに日産を苦しめる、ゴーン氏の「日本人社員軽視」とは?(画像=THE21オンラインより) © 「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影 いまだに日産を苦しめる、ゴーン氏の「日本人社員軽視」とは?(画像=THE21オンラインより)

■名経営者はどこで間違ったのか

ゴーン氏の衝撃の逮捕から1年。だが、いまだに混乱が続く日産。それは「ゴーン氏の負の遺産」だと指摘するのが、新著『「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影』を上梓した法木秀雄氏だ。

元日産自動車北米副社長。BMWジャパン、クライスラージャパンのトップ。そして早稲田大学ビジネススクール教授という経歴を持つ法木氏は、「ゴーン氏の日産改革には『光と影』がある」と主張する。その「影」の象徴ともいえるのが、この「人事」の問題だったという。

いったい、どういうことなのか。本書から抜粋・再編集してお伝えする。

■「英語の壁」は意外なほどに大きい

欧米企業に勤めた経験を持ち、多くの企業、官庁、大学等とのやり取りを経てきたからこそ実感を込めて言えるのだが、グローバル企業で働く日本人にとって、「英語の壁」「文化の壁」は想像以上に大きい。

言葉の問題ももちろんだが、コミュニケーションのスタイルの問題もある。結論を先に述べ、その後に理由を説明する英語ネイティブからすると、まずは背景説明から入る日本人の説明は非常にまどろっこしく感じるものだ。そもそも日本人は実力があっても謙虚な人が多く、それが相手にとっては自信がないように取られてしまう。

データや実物で説明しやすい技術部門はまだいいが、営業部門や管理部門の社員には特に、このコミュニケーションギャップが大きく立ちはだかる。あくまでイメージだが、技術部門では1~2割、その他の部門では2~3割、日本人社員は実力を割り引いて評価されてしまう傾向があると言えるだろう。

■欧米に「ごますり」がないと思ったら大間違い

一方、母国語が英語あるいは英語が堪能で、自己主張が明確で、プレゼン能力が長けた人は、実務能力が劣っていても評価される傾向が強い。明らかにトップにごまをすることで取り立てられているような人も少なくない。

日本人は「ごますり」をよしとせず、欧米人はごますりなどしないものと考えている人も多いが、筆者の印象は逆である。「ここまでやるか」というほどのごますり社員が、米国にもドイツにもフランスにもいた。

ドイツ系企業にいたときは、本社から会長が来ると聞くと、会長の好むワインを調べて用意するだけでなく、事前にすべての行程を綿密にチェックし、行く先々にて会長の好みのフレグランスを噴霧し、好みの花を準備するといった社員すらいた。むしろそういうことをしない日本人社員が「気が利かない」と評価されてしまうこともあったほどだ。

日本人には「黙って仕事をしていれば、それを誰かが見てくれている」という意識があるが、グローバル企業では必ずしも通用しないことを理解しておくべきだろう。

■なぜ、日本人の海外出向者はこれほど減ってしまったのか

こうした傾向はグローバル企業全般に見られることだが、ゴーン氏時代の日産は特に、この弊害が大きいように思える。北米や欧州の現地子会社への日本人出向者が激減していたのだ。

ゴーン氏がトップになってからの日産の部課長の人事異動リストを見るたびに、トヨタやホンダとの海外への出向者の数の違いに愕然とさせられた。欧米人があまり行きたがらない新興国は別だが、欧米先進国に関しては、オペレーション組織規模では同レベルのトヨタ、ホンダと比べて5分の1以下くらいの印象であった。販売規模では日産の5分の1ほどと思われるマツダよりも少なかったはずだ。

開発部門や購買部門に関してはそれほどでもないが、その他の部門に関してはそれが特に露骨であった。

ゴーン氏が意識して日本人を排除しようとしていたとは思えない。おそらくは、何よりも目先の効率を求めるゴーン氏の姿勢が、このような人事を生み出したと思われる。

■日本人社員より現地採用者のほうが使いやすい理由

まず、日本人社員を海外に派遣するには、手間やコストがかかる。たとえば北米なら就労ビザの取得にかなりの手間がかかる。ならば現地にて採用したほうが早い、という考え方となる。

また、今ではだいぶ常識も変わってきたとはいえ、今でも日本人社員の多くは「終身雇用」の意識を持っている。そのため、日産ブランド強化や、現地のディーラーとの信頼関係の構築など、ブランド価値を長期にわたって維持するにはどうしたらいいかという発想を持つ。

一方、現地採用のマネージャーやルノーから出向した社員にとっては、ゴーン氏のコミットメント目標をいかにクリアするかが最大の課題となる。そのため、長期的な施策よりも短期的な「刈り取り」に力を入れがちになるが、ゴーン氏としてはそうしたマネージャーのほうが使いやすい。そのため、自然と日本人出向者が減っていったのではないかと考えられる。

■北米市場を荒らしてしまったゴーン氏の「イエスマン」

その弊害は確実に現れている。中でもよく聞くのが、過剰な販売施策によって、長年培われてきた日産ディーラーとの関係が悪化してしまった件だ。

その象徴とも言えるのが、ゴーン氏が米国事業のトップに据えたホセ・ムニョス氏だ。もともとメキシコ日産のトップであり、ゴーン氏の「イエスマン」であったムニョス氏は、販売店に対し極端なインセンティブプランを導入し、まさに「アメとムチ」で販売台数を高めようとした。新車モデル投入が少なかったにもかかわらず、多額の報奨金をかけて将来の売上を前倒しさせ、コミットメント必達を図ったのだ。

長年、日産車を取り扱ってきたディーラーの多くが、このやり方に憤慨を隠せなかったという。

結局、一時的に日産の台数は向上したが、その後は反動で大きく下落。利益率も大幅に低下した。日産は現在もこの施策による利益率低下に苦しんでいる。

こんな暴挙とも言える短期台数刈り取り策は、日本人出向者であれば絶対に採用しなかったであろう。もっとも、ゴーン体制下ではイエスマンしか地位を得られないので、そもそも日本人がこの地位に就くこと自体があり得なかっただろう。

ちなみにゴーン氏の信頼を得たムニョス氏はその後、中国事業の責任者に転任したが、ゴーン氏失脚後、即、ライバルである米国現代自動車のトップに就任している。

■「自動車殿堂」入りした伝説の経営者がいた

日本人社員の海外出向者が少ないということは、グローバルにおけるマネジメント能力を磨く機会が失われているということでもある。これは将来、日産の競争力に大きな影響を与える可能性がある。

ダイバーシティは確かに重要だが、日産は横浜に本社がある日本の企業であり、これまで長年にわたって多くの日本人が海外へ行き、現地との関係を築いてきた。そんな企業に海外への日本人出向者がここまで少ないというのは異常である。

そもそも短期雇用者にその会社の「らしさ」を伝えることは不可能だ。ベストなのは、日本人出向者と現地社員とがタッグを組んで経営に当たることである。トヨタやホンダはまさにそうしたスタイルで経営を行い、現地のディーラーとも厚い信頼関係を築いている。

すっかりディーラーからの評価を下げてしまった日産だが、ゴーン氏以前はむしろ、数あるメーカーの中でもディーラーとの厚い信頼関係で知られていた。

そのベースを作ったのは、1965年に米国日産のトップに就任し、日産(当時はダットサン)ブランドを輸入車トップクラスにまで導き、全米の日産ディーラーから熱烈な支持を受けた名経営者・片山豊氏である。

米国には、自動車に関する偉人を表彰する「自動車殿堂」があり、ヘンリー・フォードやトーマス・エジソン、GMを全米最大の自動車企業へと成長させたアルフレッド・スローンなど錚々たるメンバーが選ばれているが、片山氏も彼らと肩を並べ殿堂入りを果たしている。日本人では他に、本田宗一郎、豊田英二などの名経営者が選ばれているが、片山氏は彼らと並ぶ米国自動車業界のスターなのだ。

片山氏とは私も親しくお付き合いさせていただいたが、105歳で永眠された際、葬儀に米国の日産ディーラーの代表など5人もの人がわざわざやってきたことに驚かされた。片山氏が米国日産会長を辞して40年近く経っているにもかかわらずである。

翌週の著名な業界紙「オートモーティブ・ニュース」の一面には、「日産のZカーの父逝去」と大々的に報じられ、同氏の功績が詳細に紹介されていた。

■「公平」という言葉は美しいが……

公平という言葉の響きは美しいが、その公平さのもとで短期的な業績ばかりが追求されてしまっては元も子もない。やはり、「日本人枠」が必要なのだと思う。「女性の管理職は何%、北米日産の部門別日本人出向者の数は何人」といった一定の枠組みの中での平等を図るべきだ。

トヨタやホンダは現地人化を進めているが、主要なポジションには必ず日本人出向者が配置されている。ドイツのBMWの米国法人、ダイムラーの英国法人も、同様にドイツ本社から非技術系スタッフが数多く出向している。長期的な視点を持つ人材が入ることが、人材育成の面でも重要だからだ。

ゴーン氏がいなくなった今、日本人の海外出向者を増やすことは急務だ。人材育成には時間がかかるし、このままでは日産は、学生に選ばれない企業となってしまう恐れもある。

(『「名経営者」はどこで間違ったのか』より抜粋・再編集)

法木秀雄(ほうぎ・ひでお)

早稲田大学大学院商学研究科元教授/(公財)日本英語検定協会理事/八木書店ホールディングス取締役

1945年生まれ。一橋大学卒。スタンフォード大学経営大学院卒。日産自動車にて北米副社長まで務めた後、1992年退社、BMWジャパン常務、クライスラージャパンの代表取締役社長を歴任。その後、早稲田大学ビジネススクール教授に就任。シンガポールの名門大学であるNTUと早稲田大学との合弁にて、ダブルディグリーMBAプログラムを創設。サンデンホールディングスなど複数の企業の取締役を務める。

「名経営者」はどこで間違ったのか-ゴーンと日産、20年の光と影)

法木秀雄(早稲田大学ビジネススクール元教授) 発売日: 2019年10月23日

約20年に及んだ「カルロス・ゴーンの日産」は、ゴーン氏の突然の逮捕によって幕を閉じた。あれから1年、いまだ日産が混乱を続けている理由は「ゴーン氏の負の遺産」にあると著者は指摘する。

元日産自動車北米副社長。BMWジャパン、クライスラージャパンのトップ。そして早稲田大学ビジネススクール教授。そんな経歴を持つ著者だからこそ書ける「ゴーン改革の真実」とは? 成功と失敗のすべてが詰め込まれた最強のケーススタディ。(『THE21オンライン』2019年10月24日 公開)

ZUU Onlineの関連リンク

image beaconimage beaconimage beacon