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「すしざんまい」危うし!? 東京進出する「スシロー」が蹴散らす同業者とは

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2019/06/25 05:10
郊外で成長したスシローが東京進出 © ITmedia ビジネスオンライン 郊外で成長したスシローが東京進出

 回転寿司チェーン最大手、あきんどスシローが経営するスシローが突如戦略を転換。東京都心部の山手線沿線に重点的に出店する計画を発表したことが、大きな波紋を呼んでいる。

 これまで、4大寿司チェーンのスシロー、くら寿司、はま寿司、かっぱ寿司は、いずれも家賃の安いロードサイドに駐車場付きの大型店を出してきた。回転レーンと寿司ロボットを活用した効率性の高さと、スケールメリットによる有利な仕入れで、基本「1皿2個のにぎり寿司が100円」という低価格を実現してきた。

 ところが、スシローは郊外への出店を継続しつつ、都心部の駅前にも出店を加速するというのだ。

 現状、東京の都心部は、職人が握る回らない寿司が主体の喜代村「すしざんまい」、立ち食いのにっぱん「魚がし日本一」、値段の違いで皿の色が変わるグルメ回転寿司のサカイ総業「廻る元祖寿司」といったように、数店から数十店の中小チェーンが駅前繁華街に共存する状態にある。しかし、スシローが本格的に進出するとなると、他のライバル3チェーンも負けじと出店してくる事態も想定され、都内の業界地図が数年のうちに塗り替わる可能性も出てきた。

●大手チェーンにとって都心はほぼ空白地

 回転寿司の市場規模は6000億円を超えるといわれている。大手4社の売り上げは、スシローグローバルホールディングスが約1749億円(2018年9月期)、くら寿司が約1325億円(18年10月期)、はま寿司が約1185億円(17年度実績、非上場のため「リクナビ2020」を参照)、カッパ・クリエイトが約762億円(19年3月期)。これに第5位となる元気寿司の約420億円(19年3月期)を加えると約5441億円となる。ざっくりとした計算だが、5社の市場占有率は8割を超えて9割に迫るということになる。

 全国的に回転寿司は寡占化が進んでおり、商品力が高いこだわりの強いところを除けば、中小チェーンは淘汰されてしまっている。

 店舗数は、スシロー525店、くら寿司453店、はま寿司501店(19年3月現在)、かっぱ寿司331店、元気寿司(「魚べい」を含む)154店。ところが、東京23区に限ると、スシロー16店、くら寿司16店、はま寿司19店、かっぱ寿司6店、元気寿司6店という状態だ。940万人という人口に対して、5大チェーンで60店を少し超える程度でしかない。それも、足立区、江戸川区、練馬区、板橋区などといった郊外に店が多く、家賃が高く広い店を出しにくい都心部であまり見掛けない状況にある。

 山手線沿線とその内側となると、スシロー4店(南池袋、五反田、上野、BIGBOX高田馬場)、くら寿司3店(池袋東口、池袋サンシャイン60通り、品川駅前)、はま寿司2店(高田馬場、駒込白山)、かっぱ寿司0店、元気寿司2店(渋谷、渋谷道玄坂の「魚べい」)と、5大チェーン合わせて11店にとどまる。

●都内は業界再編が進んでいない

 東京都内の低価格寿司のチェーンがいまだに群雄割拠の状態で、1皿の平均的な価格も高めなのは、大手が攻めてこなかったからだ。業界再編が進んでいない全国的にも例外的な場所となっている。

 しかし、今回のスシローは本気だ。都心へと本格的に侵攻するに当たって、5月13日から6月12日までの1カ月間、「山手線全駅スシロー出店プロジェクト」を実施した。これは、どの駅前にスシローを出店してほしいか、一般の回転寿司ファンにTwitterでの投票を呼び掛けるものだ。投票者のうち500人に対して食事券2000円をプレゼントする特典を付けた。

 また、山手線を巨大な回転寿司のレーンに見立てて、寿司の画像でラッピングした「スシロートレイン」を最大で10編成走らせた。そして、山手線の各駅(一部を除く)のホームドアをカウンターに見立て、沿線に出店を加速するという告知をするとともに、物件募集の広告を掲示した。

 このような前代未聞の度肝を抜く“山手線ジャック”ともいうべき大掛かりな交通広告の成果として、中央線の駅前に出店した荻窪店や国分寺店などでも連日、行列ができるほどの繁盛ぶりである。他の路線から乗り換えて利用する人が多い山手線だけに、電車を使って通勤・通学する首都圏の住民にスシローへの関心が飛躍的に高まった。

●大崎駅が1位

 出店場所総選挙の結果はどうだったのか。総計2万1055票のうち、出店してほしい駅の1位は大崎駅(3354票)だった。2位は新宿駅(2508票)、3位は秋葉原駅(2204票)と続いた。

 ターミナル駅でもない大崎駅がダントツの1位となったのは意外だが、再開発が進みオフィスビルや高層マンションも多い土地柄なので、スシローような回転寿司大手の出店を心待ちにしている人が多いのかもしれない。

 あきんどスシローの広報担当者は「結果は真摯(しんし)に受け止め、出店に向けて努力していきたい」としているが、物件の取得が前提となるので、「必ず出す」と明言はできないようだ。すぐには無理でも、大崎駅前への出店を実現させてファンの熱烈な期待に応えてもらいたいものだ。

●必勝パターン確立に向けて動くスシロー

 通常の郊外ロードサイドのスシローなら建物面積は100坪必要だが、都心のビルインタイプでは70坪以上を出店の基準としている。若干狭くてもいいと条件を緩和しているのだ。その代わり、これまで出店してきた山手線沿線の店では、1皿の値段が120円からと高めに設定されている。それでも、今まで都心部にあった回転寿司チェーンよりも相対的に安いので、どの店も好調に推移している。“120円寿司”でも成功している現状があるからこそ、今回のキャンペーンのような大胆な策を取れたのだ。

 スシローでは都心型店舗を成功させるためにさまざまな実験を行っている。荻窪店は2階、BIGBOX高田馬場は9階、国分寺店は地下1階の出店である。イトーヨーカドー武蔵小金井店は、イトーヨーカドーを核としたショッピングセンター内にある。1階路面ではないさまざまな物件を試して、どういう駅前立地なら成り立つのか、必勝パターンを確立するための情報収集を急いでいるように見受けられる。

 また、スシローは近年業態開発を進めており、10坪という狭い立地でも出店できる「スシローコノミ」や、25坪から出店可能な寿司居酒屋「鮨 酒 肴 杉玉」を開発している。スシローコノミはフードコートに向いた業態で3店舗まで増えた。

 一方の杉玉は299円をベースとした値段設定を行っており、回らない寿司を提供している。バルサミコ酢を使った黒っぽいシャリが特徴で、寿司や刺身をつまみにちょっと飲むにはいい感じのチェーン店らしくない落ち着いた雰囲気だ。現在7店あるが、今後、5年で100店を目標にしている。

 スシロー、スシローコノミ、杉玉を織り交ぜていけば、乗客数の多い山手線や中央線の駅前では全駅の駅前に出店するのも可能かもしれない。お手並み拝見といったところだ。

●豊洲移転の影響は避けられないすしざんまい

 さて、スシローの挑戦を受けて立つすしざんまいは、東京を中心に他業態を含めて60店ほどの店舗数がある。外国人観光客が多い浅草雷門店などは順調そのものと見受けられるが、本店を築地場外市場に設けるなど、築地を拠点に経営してきた。改装中・休業中も含めて14店が築地に集中しており、やはり築地市場の豊洲移転が響いているようだ。

 築地場外の何店かで聞き込みをしたところ、休日の来街者は外国人を含めて半分以下にまで減っているという。それでも、移転直後に比べれば「豊洲は歩いてみて面白みがない」と感じ、築地場外に戻ってくる顧客も幾分増えてきている。しかし、パッとしない状況だ。築地市場が豊洲に移転して、築地場外もなくなってしまったと思い込んでいる人も多い。それが来街者激減の一因だが、築地場外が元気に営業しているという宣伝が足りていない。

 東京都は築地市場跡地を見本市会場などに再構築するとしているが、まだ先の話であまりあてにならない。

 この苦境は同じく築地場外を拠点とする「築地すし一番」、「築地すし鮮」などにも共通しており、築地場外の顧客回復に苦慮しているうちに、他の都心部にある店がスシローの侵攻で顧客を奪われると厳しくなる。

 すしざんまいは回転寿司も一部あるが、職人がきちんと握る寿司専門店だ。スシローをはじめとする大手チェーンのように、スイーツに注力し、ラーメン、フライドポテト、コーヒーなども出すファミレス化した路線とは異なる。そして、ロボットが寿司をつくる回転寿司とは全く違った業態である。

 しかし、スシローをはじめ大手各社は100円以上する高級なネタにも力を入れ、顧客単価千数百円で自分の好きなネタをチョイスして食べられるシステムを構築している。

 10月からの消費増税が実行されてしまうと、景気の低迷が長期化するのは避けられまい。懐が寂しくなると、すしざんまいに行きたくても行けない人も多くなるだろう。

●元気寿司が業界再編の鍵に?

 しかし、すしざんまいには「まぐろ」という強烈な売りがある。まぐろの初競りで毎年のように木村清社長が大枚をはたいて競り落とす姿を顧客は驚嘆の目で見ている。一方、そこまでの売りがないチェーンは、駆逐されていくのではないだろうか。

 そうした中で、魚がし日本一は18年9月、JR西国分寺駅の改札内に「nonowa西国分寺店」をオープン。駅ナカという新しい立地を開拓し、中央線と武蔵野線の乗り換えの合間に、寿司をつまんでいく人などで賑わっている。魚がし日本一には座って食べる寿司店もあるが、屋台のような感覚で小さなスペースを活用し、立ち食いのニーズをつかんでいく店づくりは、このチェーン独特の強みである。36店のうち、立ち食いは28店だ。

 去る6月18日、スシローグローバルホールディングスは、米卸の神明ホールディングス及びその傘下の元気寿司との資本業務提携を解消。スシローと元気寿司の統合がなくなった。両社とも業績好調で方向性も異なるので、統合しないほうが良いという結論となったとのことだ。

 神明の藤尾益雄社長が回転寿司業界の再編を諦めていないのなら、これから東京の中規模チェーンをM&Aして、元気寿司に統合することも十分にあり得る。数年後には街の人が見知った店の看板が、一斉に元気寿司に掛け変わっている――そんな事態を目撃するかもしれない。

(長浜淳之介)

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