古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

「サード」だけが理由でもない韓国企業の「中国不振」

JBpress のロゴ JBpress 2017/09/13 玉置 直司
韓国・慶尚北道星州郡にある元ゴルフ場付近で、米国の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(サード)」の装備を搭載したトレーラーが通行する中、抗議する住民やデモ隊を阻止する機動隊員ら(2017年9月7日撮影)。〔AFPBB News〕 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 韓国・慶尚北道星州郡にある元ゴルフ場付近で、米国の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(サード)」の装備を搭載したトレーラーが通行する中、抗議する住民やデモ隊を阻止する機動隊員ら(2017年9月7日撮影)。〔AFPBB News〕

 「安保は米国、経済は中国」――都合の良い話だが、韓国では特に2000年以降、こんな言い方が頻繁にあった。それほど中国に対する経済依存度が急上昇していた。

 だが状況は最近、急変してきた。「地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD=サード)の配備に対する中国の報復措置のせいだ」という見方が多かったが、実は、それだけが理由とも言えない深刻な事情もある。

 「自動車、スマートフォン、流通業者など、中国市場で韓国企業の苦戦ぶりは、予想以上だった。サード配備への報復だという声をあちこちで聞いたが、果たしてそれだけが理由なのか?」

 最近、中国で韓国企業関係者と会って来たばかりのある大学教授は、危機感を強めている。

「悪いニュース」が続く・・・

 なにしろ、中国とのビジネスがらみで、悪いニュースばかりが目立つのだ。

 現代自動車の2017年1~6月の中国での販売台数は35万1292台で前年同期比40.7%減だった。グループ企業である起亜自動車は、14万9672台で同54.2%減だった。1年間で販売が半減してしまったのだ。

 2016年の世界全体の販売台数のうち中国市場が占める比率は、現代自動車が23%、起亜自動車が22%で、きわめて販売依存度が高い重点市場だ。

 販売不振は、中国工場に供給する部品を製造するグループ部品メーカーも直撃している。中国での販売不振は、現代自動車グループにとって大きな打撃だ。

 さらに追い討ちをかける出来事があった。

 中国での販売不振で中国合弁工場の操業率が低下し、業績が悪化した。部品供給先への代金支払いが滞ったため外国系の一部部品メーカーが部品供給を拒否し、工場の操業が止まる「事件」が起きた。

 さらに、中国共産党系の「環球時報」の英語版が、「現代自動車との合弁解消を検討している」との合弁相手(北京汽車集団)幹部の発言を報じた。

 同紙は、現代自動車が、グループの部品メーカーから高い部品を購入していることが業績不振の一因だとも報じた。

 現代自動車は、中国に進出しているグループ部品メーカーの業績も悪化しており、高額で部品を発注している事実はないと説明するが、こうした報道が出たこと自体に戸惑いを隠さない。

サムスンのスマホは9位に転落

 自動車だけでない。

 「毎日経済新聞」は、「3年ほど前までは中国市場で1~2位を占めていたサムスン電子のスマートフォンが、中国企業に追い抜かれて最近は9位に低下、シェアも3%に墜落した」と報じた。

 中国に進出した流通企業の苦戦も深刻だ。

 韓国メディアによると、新世界グループが運営する「Eマート」は、中国からの撤退を決めた。

 1997年に上海に出店して以来、26店舗まで拡大させたが業績不振で6店舗にまで縮小していた。このうち5店舗をタイのCPグループ、残りの1店を他企業に売却する交渉を進めている。

 ロッテも事情は同じだ。「朝鮮日報」によると、「ロッテスーパー」を99店舗運営するが、9月3日現在87店舗が休業中だ。

 中国当局が、消防、衛生、環境規定に抵触しているとして営業停止処分を下したためだ。ロッテスーパーは巨額の赤字に陥っており、大半を売却する方針だという。

 韓国への団体旅行や「韓流イベント」も目に見えて減っている。

 ソウルの中心部の明洞(ミョンドン)。1年ほど前までは、メーンストリートは夕方になるとまっすぐ歩けないほどの混雑ぶりだった。中国人の団体観光客を乗せたバスが次々とやって来て、周辺は中国語だらけだった。

 ところが、本当にぴたりと止まってしまった。

中国人観光客はほぼ半減

 韓国観光公社によると、2017年1~7月に韓国を訪問した中国人数は、253万4178人で、前年同期比46.5%減となった。ほぼ半減したのだ。

 過去数年間、明洞で聞こえてこなかった日本人観光客による「日本語」が最近はあちこちから聞こえてくる。中国語ばかりだった化粧品やみやげ物店の「客引き」も日本語が復活しつつある。

 韓国メディアは、「中国の旅行会社に対して、韓国向けの団体旅行自粛指示が出た」と報じる。「中国ビジネス」で一気に苦境に立たされている韓国企業が続出しているのだ。

 韓国メディアでは、「サード配備に対する中国からの経済報復のせいだ」という論調が多かった。確かに、2016年7月に韓国政府が、米軍のサード配備の方針を決めて以来、これに強く反発した中国側の措置があったはずだ。

 団体観光客の急減などは、そうした影響だったといえる。

 また、サード配備場所となったゴルフ場を売却したロッテグループに対する執拗な「措置」もなんらかの関係があるという見方が多い。

 だが、最近、「経済報復だけが原因なのか」という見方も産業界では強まっている。ある企業人は語る。

 「5年前に尖閣問題があったとき、中国側が日本企業に対してとった措置と比べれば、今回のサード配備に反対して中国側がとっている措置が強いとは言えないのではないか」

 「にもかかわらず、深刻な打撃を受けている企業が多いのは、そもそも競争力にも問題があるのではないか」

競争力あるクルマなのか?

 現代自動車、起亜自動車は2000年代半ばから中国市場で急速に販売を伸ばした。しかし、ここ数年は、中国メーカーに追い上げられていた。

 さらに、品質面で日本メーカーとの差が開いているとの指摘も少なくない。にもかかわらず、決して安くなく、「結果としてクルマの競争力が差が低下していた」(前出の企業人)という。

 最近中国を訪問した大学教授はこう話す。

 「サードの影響は確かにある。だが、政府が、現代自動車や起亜自動車を買うなという指示など出していない。消費者が、『政府がこれだけ批判するのに、現代や起亜を買う必要があるのか』という雰囲気はある。こういう空気を乗り越えるプラスαが両社のクルマに欠けていたことは事実だ」と話す。

 スマホについては、中国企業の躍進で、サムスン電子やLG電子の商品が埋没してしまったのだ。流通業も同じだ。

 もともと、中国で流通業を運営することは容易ではない。新世界もロッテも、積極経営で店舗数を増やしてきたが、成功したという評価は、サード問題の前から聞こえてこなかった。

 サード問題が起きて、長年の問題が一気に顕在化してしまったのだ。

 「中国なら売れるという時代は終わった」

 韓国紙デスクはこう話す。

中韓国交樹立25年周年だが

 2017年は、中韓国交樹立25周年にあたる。1992年以来、韓国企業は中国に本格的に進出して売り上げを伸ばしてきた。韓国の輸出の25%は中国向けで、最大の輸出相手国だ。

 だが、この数字もよく見ると、2013年をピークにして徐々に減少している。

 2017年1~7月の中国向け輸出は増加に転じている。だが、これも、よく見ると、かなりの変化がある。

 半導体の輸出が急増、無線通信危機も善戦してるが、自動車部品は大幅減になっている。半導体は、8月に入っても、前年同期比40%増という伸びが続いている。

 「中国にとって必要な製品」は相変わらず、絶好調だが、そうでない製品は、まったく不振なのだ。

 2017年9月7日、韓国南部の慶尚北道星州(ソンジュ)に米軍のサードが配備された。地元住民や一部市民団体が強く反発する中での「配備強行」だった。中国政府は、中国駐在の韓国大使を外務省に呼んで抗議するなど強く反発した。

 韓国メディアによると、一部中国のテレビは、星州に中継車まで送り込んでサード配備の模様を「ほとんど生中継のように大きく報じた」という。

 中国政府だけでなく、メディアもサード配備に批判的な報道を続けた。中でも、韓国政府が配備方針を決めた6日付の「環球時報」の激烈な内容の社説だった。

 「サード配備を支持する韓国の保守派はキムチばかり食べてぼけてしまった」

 あまりの表現に、韓国政府は、韓国の食文化などを貶めたと抗議したほどだ。韓国の産業界は、中韓関係の悪化に恐怖感さえ感じている。

 「こんな時にわざわざ韓国製品を買う必要があるのか・・・」というイメージは、それなりに強烈だ。すべてを「サードのせい」と言えないことも、これ以上に深刻な問題だ。

 サードは、一部韓国企業の競争力の低下をさらに増幅させているからだ。

10年前の李健熙会長の警告

 いまからちょうど10年前の2007年、サムスングループの李健熙(イ・ゴンヒ=1942年生)会長は、就任20年を迎え、こう話した。

 「サムスンが大きくなったのは良いことだが、20年後が心配だ。中国は追いかけてくるし、日本は先に行く状況で、韓国はサンドイッチのようなものだ」

 有名な「サンドイッチ論」だ。世界最大の中国市場で、韓国企業はかなり善戦してはきた。だが、日本企業はさらに先行し、中国企業には追い抜かれ始めている。サードが、これをさらに加速させている。

 10年後に李健熙会長の警告は現実となってきた。これが一時的現象かどうか。韓国企業も、その見極めに、頭を痛めている。

JBpressの関連リンク

image beaconimage beaconimage beacon