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「ポケットドルツ」の成功を決定づけたインサイトとは何か

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/06/13 06:00 桶谷功
「ポケットドルツ」の成功を決定づけたインサイトとは何か © diamond 「ポケットドルツ」の成功を決定づけたインサイトとは何か

ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出だけでなく、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

パナソニックが生んだ大ヒット商品「ポケットドルツ」

「ポケットドルツ」は、2010年に発売されてヒットした携帯用の電動歯ブラシです。当時、電動歯ブラシ市場は、横ばいが続いていました。各メーカーは、振動数の多さや歯垢除去率の高さなどを競い、その性能の良さをアピールしていましたが、2006年~2009年まで、220万本前後で伸び悩んでいました。

高性能・高品質のモノをつくったからといって、市場を拡大できるわけではないとい典型的な状況です。また、振動数といった性能面での「同軸競争」に陥り、消費者から見ると、何がどう違うのか差がよくわからない状況にありました。この「同軸競争」は、技術主導型のメーカーが陥りやすい一種のワナのようなものです。競合が性能の良い製品をつくると「負けてなるものか」とばかりに開発競争をしてしまいます。その結果、逆説的ですが、「差別優位性」を競うほど「同質化」していきます。

また、この同軸競争は、消費者調査を行っても陥ることがよくあります。各メーカーが振動数を競っていて、広告などでそれをアピールしていると、消費者はその差がわからなくて興味を持っていなくても、「電動歯ブラシを選ぶとき重視する点は何ですか?」と訊かれると「振動数」と答えるのです。それは、各メーカーが振動数をアピールしていて、それ以外の選択基準を与えられていないからです。

これが消費者の気持ちを見極める難しさで、消費者調査は、各メーカーのマーケティング活動の結果を表しているにすぎないことがよくあるのです。また、当時、電動歯ブラシのユーザーだったのは、主に中高年の男性でした。使用場所は、主に自宅。使用目的は、歯周病予防などのためで、口腔衛生用機器という位置付けでした。女性や若年層は電動歯ブラシを使っておらず、自宅外で使用されることはありませんでした。

そういう状況の中、パナソニックの担当チームは、若い女性がランチ後に歯磨きをしていることに着目しました。歯磨きという行為はしているけれども、電動歯ブラシを使わずに手磨きをしている。もし、女性がランチ後の歯磨きに電動歯ブラシを使ってくれたら、市場を拡大できるのではないか。これが、「市場機会の発見」です。

ランチ後に化粧室で歯磨きしている女子は、なぜ電動歯ブラシを使わないのか?市場機会が設定できてはじめて、消費者インサイトを掘り下げていくことができるようになります。まず、ターゲットが「ランチ後に歯磨きをしている、働く女性」に仮設定され、彼女らの心理を探ることになります。今までのユーザーである中高年男性の使用理由などを、いくら掘り下げていても有用な発見はできません。

市場機会はどこにあるか?

彼女たちは、手磨きしているのに、なぜ電動歯ブラシを使わないのか?それは、「大きすぎる」というサイズや「音が大きい」という機能的な問題だけではありません。さらに理由を掘り下げていけば、「今の電動歯ブラシは、おじさん臭くて、使うのが恥ずかしい」「そんな大きな電動歯ブラシで、ブワーンとか鳴らしながら歯磨きしたら、まわりの女子から歯周病にでもなったの?と思われてしまう」といった心理的な抵抗感があることもわかります。

一方、化粧品は人前でも堂々と使えるし、「それ、いいね」と話題になったりもします。女子に化粧室で使ってもらうためには、化粧品のような「見え方」が大事だというヒントが得られます。さらに、このチームが素晴らしかったのは、化粧室で使うものは、「化粧ポーチ」に入れていくということに目を付けたことです。

聞くところによると、開発リーダーは男性でありながら、まわりの女子社員に頼み込んで100人くらいの化粧ポーチの中を見せてもらい、写真に撮ったといいます。そして、「マスカラ」サイズの大きさなら、まだ1本入るスペースがあるという発見を得たのです。

そして、働く女子がオフィスでランチ後に使う「マスカラのような、電動歯ブラシ」という新製品のコンセプトを開発しました。ここで大切なのは、「化粧品のような」にとどまらず、「マスカラのような」に特定するまで、インサイトを掘り下げたことです。

その後、製品を開発するにあたって、技術開発部門との間で議論があったといいます。サイズをマスカラまで小さくすると、既存の電動歯ブラシと同じ「フルスペックの性能」を実現できるかどうか。「もう少し大きくてもよいか」「質感やデザインを化粧品のように女性向けにすれば十分なのではないか」という議論です。

第三者が客観的に見れば、「スペックとしての性能」より「化粧ポーチに入る小ささ」のほうが消費者にとって価値があり重要なことは、すぐにわかるでしょう。これを読まれている方も、議論の余地なしと思われたことでしょう。

しかし、実際の企業内の現場ではよくあることだと思いますが、技術主導で「モノづくり」をしてきた多くの日本企業では、(消費者のニーズより何より)性能や品質が重要という伝統や文化があるのではないでしょうか。

製品上は、さらにマスカラのような「質感」のカラーリングをしています。ここでも、なぜ似たような色が7色も必要なのか?が議論になったようです。女性から見れば、この濃いピンクと薄いピンクは、ぜんぜん違うと感じるバリエーションでも、男性の経営陣からすれば、なぜ?という疑問が湧いたということです。

このポケットドルツは、「女性用のオフィス使用」という新しい市場を創造することに成功しました。2009年度まで、220万本前後で推移していた電動歯ブラシ市場を、2010年度には400万本にまで拡大したのです。

さらに、電動歯ブラシという商品カテゴリーの定義を「歯周病予防のための口腔衛生用品」から、「身だしなみのためのビューティケア・アイテム」に変えることにも成功したといえます。商品カテゴリーに革新をもたらし、リフレーミング(再定義)をすることにも成功したのです。

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