古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

「大阪王将」に後れを取っていた「餃子の王将」の業績が復活したワケ

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/09/04 06:05

 2017年12月に創業50周年を迎えた「餃子の王将」を運営する王将フードサービスの業績が好調だ。17年の組織改正で新しく設置した社内教育部門「王将大学」と「王将調理道場」が奏功し、QSC(品質・サービス・清潔さ)が向上したのが要因と同社は見ている。

 2019年3月期の第1四半期における直営全店の売上高は、180億2700万円(前年同期比7.3%増)、客数1929万人(同8.4%増)と、一時期の低迷状態を脱出した。直営既存店も、売上高が同4.1%増、客数が同5%増となっており、完全に復活を果たした。

 今回は、餃子の王将が復活した背景を探ってみたい。

●前社長の死を乗り越えて

 18年7月の単月ベースにおいて、売上高は直営全店で対前年同月比4.5%増、直営既存店は同1.9%増となっている。客数も直営全店で同3.9%増、直営既存店で同1.2%増と好調を持続した。店舗数は734店(18年7月末時点)で、直営店が510店、FC(フランチャイズ)店が224店となっている。顧客単価は直営店実績で958円だ。

 王将フードサービスの売上高(連結)は、15~17年にかけて3年連続で減少していた。ところが18年3月期は781億1700万円(前年同期比4.0%増)となり、過去最高を更新した。直営店既存店における売り上げの伸び率も1.4%増となった。新規出店のみならず、既存店の底上げが目立っている。

 王将フードサービスは13年12月に、信望が厚く同社を東証1部上場企業に導いた前社長・大東隆行氏が京都市山科区の本社敷地内で何者かに射殺された。渡邊直人常務が新社長に就任したが、いまだ犯人は逮捕されておらず、真相は究明されていない。社内では突如大黒柱を失ったことによる喪失感が広がり、社員に落ち度があったわけではないが、客足も鈍くなって低迷を余儀なくされていた。

●ギョーザ市場の変化に乗り遅れた

 渡邊氏が社長に就任した14年3月期における王将フードサービスの売上高(連結)は762億8100万円(前年同期比2.6%増)だったが、直営既存店の売り上げは1.6%減、経常利益は20.4%減だった。この頃からギョーザ市場に変化があり、対応への遅れが顕在化し始めていた。

 ちまたでは新たなギョーザブームが起こり、宇都宮や浜松にあるようなご当地ギョーザに加え、首都圏や関西圏をはじめとする大都市を中心に、“女子受け”するギョーザ店やギョーザをメインとする居酒屋が台頭してきた。

 声優の橘田いずみ氏がギョーザ評論家として活動を始め、14年5月には『橘田いずみのザ・餃子』(角川書店)といったギョーザ愛にあふれた本を出版。渋谷と青山の「立吉餃子」や、青山の「ギョウザバー・コム・ア・パリ」などの新鋭店がワインに合うギョーザを提唱。器や内装にもおしゃれ感が漂う雰囲気を提案し、これまで考えられなかった“餃子女子”が大量発生した。

 一方で、11年に誕生したギョーザ専門大衆居酒屋「肉汁餃子製作所 ダンダダン酒場」は東京都西部を中心に60店舗超を展開するまでになった。肉汁が飛び出すようなジューシーさと、昭和の大衆酒場をイメージした店づくりが売りで、類似店が多数生まれた。

●ニーズが高まる“ニンニクレス”ギョーザ

 新たなギョーザブームを背景に、ニンニクを入れない、または使用量を抑えたにおわないギョーザへのニーズが高まっていると判断した餃子の王将では、16年5月より「にんにくゼロ餃子」(240円、税抜、以下同)を発売して一定の成果を得ている。値段は通常の「餃子」と一緒で、注文する際、店員に「にんにくゼロを食べたい」と言えば無料で変更してくれる。

 見た目は普通のギョーザと同じだが、生姜を効かせてあっさり目に仕上げている。ニンニクが入っていなければ、ランチでも安心して食べられ、デートの前でも安心だ。

 ただし、従来のギョーザを食べ慣れたお客は、にんにくゼロ餃子が物足りないと感じるようで、新商品の投入だけでは業績が回復しなかったのも事実である。

 競合チェーンの「大阪王将」では12年、味を変えることなくにおいを抑えるギョーザの開発に成功している。ニンニクに含まれるアリインという成分が酵素と反応することでにおいが発生するのだが、アリインの酵素反応量を抑制する独自の加工を施した。

 ニンニクありとニンニクなしの2種類を食べ比べられる餃子の王将。技術力でニンニクのにおい発生源を抑えた大阪王将。結果を見ると、大阪王将は12年から16年までの4年間で、外食と物販を合わせたギョーザの売り上げを33.3%伸ばした。内訳は外食が0.3%増、市販が55.6%増となっており、大阪王将が冷凍食品を戦略的に拡大した面もある。しかし、におわないギョーザの場合、消費者は大阪王将のほうを選ぶ傾向が強く、餃子の王将は後塵を拝した感がある。

●食材の国産化で取り組みに差

 また、ギョーザの具材国産化に大阪王将は11年から取り組んでいるが、餃子の王将が提供するギョーザとラーメンの主要食材国産化は14年10月にズレ込んでいる。

 餃子の王将は同年9月に円安の進行で輸入食材価格が上昇したこともあり、40品目以上のメニューの値上げを敢行。5~10%の値上げで、「餃子」の価格も20円上がり、東日本で240円、西日本で220円となった。値上げと引き換えに国産の安全・安心を消費者に届ける狙いだったが、結局この値上げが消費者の足を遠のかせた。

 なお、大阪王将は餃子の王将の創業者一族が暖簾(のれん)分けの形で大阪に開店したチェーンだ。一時期、2社が同名の屋号である「餃子の王将」を名乗って京都や大阪で競合した。裁判により、大阪の側が屋号を「大阪王将」と改名。社名も「イートアンド」として独自の発展を遂げており、こちらも東証1部上場企業である。店舗数は353店ある(18年6月末時点)。

低迷していた状態から復活を果たした餃子の王将 © ITmedia ビジネスオンライン 低迷していた状態から復活を果たした餃子の王将

●女性向けの新業態を開発

 16年3月、王将フードサービスが京都市中京区にオープンした新業態「GYOZA OHSHO」は、従来の「餃子の王将」のイメージを覆すもので、女子会やデートにも使えるバルスタイルのカフェ風店舗となっている。ビールはもちろんワインやウイスキーなどもそろえる。

 「ジャパニーズカジュアル」をテーマにモダンな空間を構築し、女性料理研究家が一部監修する国産野菜を使ったメニューを提供するなど、ヘルシーさを前面に出している。

 現在、この店舗は京都や愛知県などに5店あるが、外国人観光客も多い店だ。東京・大阪の都心部に出店すれば大変な話題になるだろう。

 メニューの主流は従来と同じもので、今まで餃子の王将に入りたくても入りづらかった女性客の拡大を狙っている。GYOZA OHSHOでは滞在時間が2時間、顧客単価も1200円程度まで上昇している。ゆったりと接客できるため、顧客と密なコミュニケーションが取れるのがメリット。そこで得られた情報が、全店のメニュー開発など業務の改善に生かされているという。

●ちょい飲みにも対応

 女性向けの業態開発だけでなく、14年から取り組んでいるのが分量を減らして安価に提供する「ジャストサイズ」の提案だ。

 ボリュームたっぷりで提供される野性味が餃子の王将の魅力で、2~3つの料理を組み合わせたセットもあったが、もっと自由に選びたいお客も多かったので、その声に応えたのだ。

 ジャストサイズは、従来の店舗でもお酒のおつまみとして求められており、300円程度で「麻婆豆腐」「ニラレバ炒め」「酢豚」といったおなじみの中華料理が楽しめる。ジャストサイズなら、餃子は3個で130円、ビールは180円であり、物足りなくてもう1品追加したい時にも重宝されている。

 お酒のおつまみとして、100~200円台でキムチ、枝豆などクイックで提供されるメニューが用意されている店も多く、ジャストサイズと合わせて、ちょい飲みできる低価格の中華居酒屋としても機能するようになった。

 このように、新しいギョーザブームの担い手である女性ファンとギョーザ居酒屋への対応策も着々と打ってきた。

●業績回復の決め手は「王将大学」

 18年の第1四半期では直営既存店の売上高が前年割れしていたものの、7月以降は10月を除いて全ての月で前年を上回っている。同社の広報によると、業績回復の決め手となったのは、17年7月の組織変更で新設された店舗社員の教育を担う「王将大学」の存在が大きいという。

 王将大学では10人前後の店長・副店長を順次招集し、日帰りや宿泊を伴う研修を行っている。研修では、店舗管理や人材管理で指導者・管理者はいかにあるべきかを学び、ノウハウを共有することで、切磋琢磨する社風の醸成に成功している。

 特に力を入れているのは、飲食業の基本となるQSC(品質・サービス・清潔さ)の徹底である。例えば餃子の王将の店舗は全店共通のグランドメニューやキャンペーンメニューの他に、店によって独自のメニューを設定できる。この独自メニューに関する成功事例の共有が、大きな知的財産になる。創業50周年を機に、経営陣はもう一度原点に帰ろうと社員に呼び掛けている。

 調理レベルの向上を目的とした「王将調理道場」も開設。メニューの調理法を、もう一度確認し合う機会となっており、こちらは店長が出席している。

 このような従業員教育に、延べ1200人が参加した。

 一方で、従業員満足度の向上にも取り組んでおり、週休2日制、有給消化の浸透、3年連続の給料ベースアップなど、労働環境の改善を推進している。これにより、退職率は業界最低水準に達したという。

●今後の課題は?

 このような社内融和とモチベーションアップ、女性や居酒屋のニーズへの対応、商品の改良が相乗効果をもたらし、業績が回復したと同社では分析している。

 スマートフォン用の公式アプリも18年3月にリリース。40万ダウンロードを突破し、顧客と双方向のコミュニケーションを取れるメディアに育てる方針だ。

 今後の課題は、魅力的な月替わり商品を投入し続けられる商品開発力とそれを実現する調理力の向上だろう。そして、現状の営業利益率は7.0%となっており、外食チェーンとしては決して悪くないが10%は欲しいところ。原材料費や人件費の高騰、景気の先行き不透明感で消費マインドが活発とはいえない厳しさがあるが、店舗の魅力アップで乗り越えて欲しい。

(長浜淳之介)

ITmedia ビジネスオンラインの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon