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「自由研究」を大手メーカーが手伝う、子どもが知らない深い事情

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/08/14 06:00 ダイヤモンド編集部,笠原里穂
来年度から、小学校ではプログラミング、外国語学習が必修化されます Photo:PIXTA © Diamond, Inc 提供 来年度から、小学校ではプログラミング、外国語学習が必修化されます Photo:PIXTA

子どもの「自由研究」を

老舗メーカーがお手伝い?

「地震が起きたら建物にはどんな影響があるのか」

「電池の仕組みはどうなっているのか」

 夏休み真っただ中の7月某日、都内イベント会場で子どもたちの“先生”を務めていたのは、一般企業の社員だった。

 3日間の日程で開催された「自由研究」をテーマにしたイベントに、小学生とその親を中心に1万人以上が足を運んだ。イベントには、40を超える企業・自治体・官公庁などがブースを出展。来場した子どもたちに向けて体験型のプログラムを提供したり、クイズ形式の講義を行ったりした。

 出展社には、お菓子や玩具メーカーといった子どもたちが「お客様」となる企業だけではなく、老舗メーカーを含めたBtoB企業も名を連ねた。

 エックス線を解説するブースを出展した島津製作所の担当者は、「本社が京都なので、関東での知名度がまだ伸び悩む。参加者が当社のビジネスを知る機会になればうれしい」と話す。オリジナル乾電池を作るプログラムを実施したマクセルの担当者も「体験を通してモノづくりの楽しさを知ってもらいたい。当社事業のブランディングにもつながれば」と意気込んだ。

 企業が子どもと接点をつくること自体は、決して目新しい取り組みではない。社会貢献、地域貢献活動の一環として企業が小中学校で出前授業を行ったり、社会科見学を受け入れたりすることは以前から行われてきた。2000年、小中学校で「総合的な学習の時間」が始まったことも、民間が教育に関わることを後押しした。

 しかし近年、こうした教育支援の“事情”が変わりつつある。

学習指導要領が10年ぶりに改訂

「社会に開かれた教育」が学校の課題に

「最近はESG投資、SDGsの観点から、教育への投資を考える企業が増えています」

 そう話すのは、多数の企業の教育支援活動を長年サポートしてきたキャリアリンク代表取締役の若江眞紀氏。

 ステークホルダーが、業績だけでなく、企業が持続的な成長を実現するために環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への配慮と投資を十分に行っているかどうかを評価するようになってきた。また、2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)には「質の高い教育をみんなに」という指標がある。企業が子どもたちの教育にどう寄与するかが、今まで以上に問われている。

 これまで社会貢献の取り組みとして本業外の限られたリソースをやりくりして行っていた教育支援が、企業の成長や評価により大きく関わるようになる。つまり、「経営課題」になっていく。「今はその過渡期にある」と若江氏は指摘する。

 また、学校側の事情にも変化がみられる。2017年、文科省が学習指導要領を約10年ぶりに大幅改訂。小学校では、来年度より全面実施となる。子どもたちが未来を切り開くための資質・能力を確実に育成することをめざし、「社会に開かれた教育課程の実現」を重視するようになる。

 しかし、日本の小中学校には、教職以外の社会人経験がない教員が多い。2017年度の公立小中学校の教員採用者において、民間企業経験者はわずか3~4%台だった。「社会に開かれた」教育を教職者のノウハウのみで実現するのは、極めて非現実的である。

 そこでより一層、民間企業との連携が求められるというわけだ。

なぜ企業の教育支援が

学びにつながらないのか?

 ただ、民間の力が重要だからといって、自社の知識や成果を単に提供すればよいというわけではない。学校には、指導カリキュラムがある。また、一口に小学生といっても、1年生と6年生では理解能力や関心の高いテーマも異なる。適切なタイミングで、適切なコンテンツを提供することが重要だ。

「これまでは企業側は学校の事情を把握しておらず、環境保護活動の成果など自社がアピールしたいことを伝えるだけ。学校側もどんなコンテンツを提供してもらえればいいのかわからない」(若江氏)ため、肝心の教育の成果につながらないといった問題が大きかった。

 例えば、理科の学習であれば、ある程度基礎の学びがあったうえで、実践的な段階として授業で学んだ物質を使用して製品を作っているメーカー社員が講義をするといったように、あらかじめ企業と学校が学習の目的と提供すべきコンテンツの内容をすり合わせておく必要がある。このとき、歩み寄りができるのは、企業側であると若江氏は言う。

「企業にはマーケットインの発想で、顧客のニーズに合わせて商品やサービスを提供するノウハウがあります。教育現場の現状や求められるコンテンツを理解したうえで支援をすることは、理論上可能だと思います」

 そこまでとことんやるためには、やはり経営戦略として投資していかなければならない。教育支援にかかる費用を、社会貢献活動のために毎年一定額かかる“コスト”と考えているのでは、本腰を入れて取り組むのは難しい。未来に向けて必要な投資だと考える「トップのコミットがあるかどうか」(若江氏)が鍵となる。

本気の企業は教育支援を

CSRではなく、HRと考える

 企業には、先述のESG、SDGs以外の観点から教育支援に投資すべき大義名分がある。それは、人材育成だ。少子高齢化が進み、人手不足は企業にとって重要課題の1つ。今は子どもでも、数年後、十数年後には、貴重な人材候補になりうる。

 こうした背景から若江氏は、教育支援活動に「経営戦略としてHR部門が積極的に関わるべき」だと語る。

「“未来の人材”育成だと考えれば、自社はどういう人材がほしいかという観点から、コンテンツを提供することができます。そうすることで、結果的に質の高い教育支援を実現できるのです」

 就職先候補の横並びから抜きんでる「決め手」が、就活中に見つかるとは限らない。企業が教育に関わることは、自社や業界の将来を担う人材をつくることにつながっていく。そしてCSR部門だけでは、ここまでのスケールで教育支援に取り組むことはできない。

 また、新学習指導要領で示されたような資質・能力が身に付いたかどうかは、すぐに結果として見えるわけではない。そのため、継続的な取り組みが不可欠だ。継続的に支援を行うことで、当事者の子どもたちにとって、そして社会にとっての「自社のブランド価値」も増強されていくだろう。

 産業界が適切な支援をすることができれば、昨今問題になっている教員の労働時間の削減にも期待が高まる。教育界と産業界が足並みをそろえ、新しい教育のあり方を模索することが求められている。

(ダイヤモンド編集部 笠原里穂)

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