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「部下は自分を慕っている」経営者が陥りがちな勘違いの罠

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/05/19 小宮一慶
「部下は自分を慕っている」経営者が陥りがちな勘違いの罠: 小宮一慶 小宮コンサルタンツ代表 © diamond 小宮一慶 小宮コンサルタンツ代表

「自分は偉い」と勘違いしてしまう罠

 社長の周りには多くの「罠(わな)」が潜んでいます。今回取り上げる罠は、周囲の人物が社長を陥れようと仕掛ける罠ではなく、自らがはまってしまう罠。まず最初は「部下は自分を慕っている、尊敬している」という勘違いのことです。

 社長が部下に何かを命じれば、即座に動いて結果を出そうとするでしょう。良い部下ほど額に汗をかくほど一生懸命動いて、良い結果を出すはずです。罠にはまった社長は、額に汗をかく部下の姿を見て、「自分の偉さ」に内心満足することでしょう。

 しかし現実は違います。

 部下が動くのは、社長という仕事上の役割を持った人が命じたためです。社長の人間的な偉さに部下がひれ伏して動いたわけではありません。尊敬して動いているわけではないのです。

 そうした話を、企業の経営者を対象にした講演会をする時、言葉だけではなかなか通じないため、私は聴衆に向かってときどき次のことをします。それは、「皆さん、右手を挙げてください」と言うのです。

 すると数百人の社長さんたちが、一部怪訝そうな表情を見せながらも右手を挙げてくれます。

「もう少し高く挙げてくれませんか」というと、疑うことなく、ピンと腕を伸ばしてくれます。

 そこで私は、前列の人に「なぜ右手を挙げたのですか?」と聞くのです。

 すると、私が右手を挙げろと言ったからそうしただけなので「変な質問をするな」と思いながらも、たいていこういう答えが返ってきます。

「それは小宮さんが右手を挙げろと言ったからです」

 そこで、私は、こんな例え話をします。

「私はこの講演会場まで電車で来ました。改札を出たところで改札を出る人たちに右手を挙げてくださいと頼んだら、挙げてくれるでしょうか? 挙げませんよね。挙げるどころか、変なおじさんだと思って、目をそらして避けて通るのではありませんか?」

 私が言ったので手を挙げるというのなら、電車の改札を出たところでも皆、手を挙げてくれるはずです。でも、誰も手を挙げません。

 講演会場で大半の社長が右手を挙げたのは、私が“講師”という「肩書き」で壇上に立っているからです。「講師が挙げろと言ったから、何か理由があるのだろう」と手を挙げただけで、私に敬意を払って挙げてくれたわけではないのです。電車の改札を出たところだと、単なる「変なおじさん」なのでだれも手を挙げないのです。

 右手を挙げてもらって種明かしをした後、「今度は左手を挙げてください」と言うと、もう誰も挙げません。

「次はだまされないぞ」と思うからです。

 心理学では肩書きのことを「権威」と呼んでいますが、人は権威によって動くのです。ところが社長業を長く続けていて、自分の命令で社員が動くことに慣れてしまうと、自分が偉いから動いているという勘違いの罠にはまっているというわけです。

 社長の場合、人事権や昇給・昇格の権限があるから、余計に人は肩書で動くのです。しかし、それでは、本心から動いているとは言えないのです。人望や人格を身につけ、そして、きちんと結果を出し、尊敬されてこそ、部下は本気で動くのです。

同じ肩書きでも、命じる人によって部下の働きが違うのはなぜか

 また人は「お金」でも動きます。賄賂というような話ではなく、お金を払った対価として動くという話です。

 高級ホテルに宿泊すれば「○○様」と呼ばれ丁寧な扱いを受けるはずです。それは自分が偉いからではなくて高い宿泊料を払っているからで、「ただで泊めろ」と言えばけんもほろろの扱いに変わるでしょう。

 当たり前のことなのですが、偉い肩書きの上にあぐらをかいていると、それが分からなくなってきます。

 ただし、肩書きが同じでも、命じる人によって同じ部下でもパフォーマンスに差が生じることがあります。それは部下とのコミュニケーションがよくとれているかどうかの差です。

 以前にも書きましたが、コミュニケーションとは「意味」と「意識」の両方です。「○○をやってくれ」という命令は意味ですが、パフォーマンスを上げるためには良好な意識の共有が不可欠なのです。

 いくら仕事上の命令だとはいえ、誰だって好きな上司に命じられれば一生懸命やっていい結果を出したくなるし、嫌いな上司に命じられれば前向きでなくなり、怒られない程度に済ましたくなるものです。

 そこで社長がやるべきことは、部下と意識の疎通を図ることです。それは難しいことではなく、部下の話を聞く、たまには馬鹿話をする、食事をする、飲みに行く……といったこと。そうした“意識の共有”を怠ると、人は本気で動かなくなります。経営とはある意味、実践的な心理学なのです。

「自分は仕事ができる」と思ってしまう罠

 もう一つ陥りやすい罠は「社長の役割」を忘れてしまうことです。そして、部下の仕事をして、「自分は仕事ができる」と勘違いすることです。

 社長の仕事は「経営」です。具体的には「企業の方向付け」「資源の最適配分」「人を動かす」です。それらを適切に行うために、正しい意思決定をしていく必要があるのです。

 ところがそれをおろそかにして、部下がやっているのと同じ現場仕事に逃げ込んで、そこで成果を出し、「自分はやっぱり仕事ができる」と自己満足してしまう社長がいるのです。

 大部分の人はいきなり社長になるわけではなく、平社員から始まって係長、課長、部長という出世の階段を上ります。創業者の息子であっても、現場や中間管理職としての修業を経験するはずです。

 ですから、部下の仕事というのは、社長にとっては自分が過去に経験のあることです。ですから、部下以上にできるかある程度できて当たり前なのです。それではだめなのです。社長には社長としてやらなければならない「経営」という仕事があるのです。

 中小企業であれば、社長も日々の業務に携わることもあるでしょうが、それが本来の仕事ではありません。経営をきちんとした上で、日々の業務を行うのです。経営は部下はやってくれません。

 社長が仕事をしないなどというのは論外ですが、社長が日々の業務ばかりをやっていても、その先に会社の未来があるわけではないことを肝に銘じておくべきです。

(小宮コンサルタンツ代表 小宮一慶)

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