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【日本】新幹線をガラパゴス化させるな[運輸] 鉄道工学の曽根悟教授(中)

NNA ASIA のロゴ NNA ASIA 2018/07/10 01:59 株式会社エヌ・エヌ・エー

鉄道工学の第一人者、東京大学名誉教授・工学院大学特任教授の曽根悟氏のインタビューの2回目。「前例に従う」を積み重ねる日本の新幹線技術や鉄道に関する施策は、世界からみれば「ガラパゴス化」しつつあり、高コスト体質になりやすい。低コストな高速鉄道を求めるアジアにそのまま新幹線を輸出しようとすれば、大きな障害になると指摘する。

——日本人は、新幹線技術が最新で世界最高水準だと信じている。

鉄道技術では「日本の常識」が「世界の非常識」な場合も多い、と話す東京大学名誉教授・工学院大学特任教授の曽根悟氏(NNA撮影) © 株式会社エヌ・エヌ・エー 鉄道技術では「日本の常識」が「世界の非常識」な場合も多い、と話す東京大学名誉教授・工学院大学特任教授の曽根悟氏(NNA撮影)

鉄道関係者でさえも、日本の新幹線システムが世界一のように思っている人が多いのだが、誤解であり過信だ。新幹線は高速鉄道の「元祖」だが、今や世界の高速鉄道の常識からかけ離れ「ガラパゴス化」している。

最高速度では1981年にフランスのTGVに、2008年には中国にも抜かれた。高速鉄道技術全体に関しては既に中国が上回っている。

日本が強みを持つのは新幹線の50年間の安全運行という「経験」だ。新幹線技術自体は世界一ではないが、技術に裏打ちされた経験を世界に伝えるべきだ。

また、日本が世界一のノウハウを持つのは民鉄型の都市鉄道。日本の鉄道ビジネスを活性化させるためには、海外展開を加速させるべきで、それが世界貢献にもつなげられる。

■北海道新幹線、札幌まで5時間は遅い

——新幹線技術のどこがガラパゴスなのか。

買う立場からすると、こんな陳腐な技術をなぜ高額で買わないといけないのか、というくらい非常識だ。世界標準の「単線並列信号」を採用していないほか、分かりやすい例は最高速度。

中国の上海—北京(1,300キロメートル余り)は現在最高時速350キロ、最速4時間18分で、航空機とシェアを争っている。一方、日本では2015年に金沢まで延伸開業した北陸新幹線も、31年全通予定の北海道新幹線も最高時速260キロだ。東京—金沢のような近距離なら2時間半で到達できるから良い。しかし、東京—札幌(1,035キロ)が13年後に開通しても5時間を超える。この程度の距離なら4時間を切るのが今や世界の常識。これでは飛行機から旅客シェアを奪うことはできず、世界の高速鉄道からみれば「笑いもの」にされるスピードなのだ。

© 株式会社エヌ・エヌ・エー

東北(盛岡以遠)・北海道・北陸・九州の新幹線は最高時速260キロの規格である「整備新幹線」として1973年に定められ、世界の高速鉄道の進歩とは無関係に現在に至っている。

技術的には320キロ運転が可能なのに、「整備新幹線」だという理由で、JRは高速化を放棄している。(※1)

© 株式会社エヌ・エヌ・エー

——最高速度を出せないだけで、日本の技術水準は高いのではないか。

技術開発力も今では中国に比べて劣っているのは明らかだ。東海道新幹線の開発計画に携わったのは、行き場を失った戦闘機「ゼロ戦」の優秀な航空技術者など。60年代も大卒トップレベルが国鉄に入社した。しかし、JR発足(87年)前後の約10年間、採用を凍結し、鉄道技術者は育っていない。今の日本の鉄道業界は前例主義で新しいことはやりたがらない。一方、中国は巨額資金と優秀な人材を投じて、高速鉄道に取り組んでいる。中国との差は開く一方だ。

欧州と比べても技術の優位性は高くない。

欧州主要国より軌道幅が広いスペインの高速鉄道は、同国メーカーのCAFとタルゴが軌間可変電車(フリーゲージ・トレイン)を実現させ、スペインから欧州主要都市へ直通で乗り入れている。一方、JR九州は新幹線から在来線に乗り入れるフリーゲージ・トレインを九州新幹線長崎ルート(長崎新幹線)で導入しようとしたが失敗し、昨年に開発を諦めた。(※2)

——日本政府は「インフラ輸出」を推進するが。

日本政府の新幹線の海外展開支援は、政府が旗を振っているように見えるが、実態は民間連合任せ。民間企業も、本音の部分では海外展開に消極的だ。

■インドで日本人技術者が遭遇する問題

——新幹線技術が導入されるインドで、日本が注意すべきことは何か。

安全対策だろう。これはインドを含めたアジアの国でも同様だが、「鉄道の安全性が大事だ」と各国の関係者は主張はする。しかし、それは表向きの話だ。低コストを求めるアジアでは必要以上の安全対策費を削る傾向があり、日本人の技術者が現地で悩まされているとも聞く。

インドではドア開けっ放しで走行する通勤電車からの転落死亡事故が毎日のように起き、時には100人単位の衝突死亡事故も発生する。本心は余分な投資をしたくないことの表れではないだろうか。

また、日本人が接するインド人技術者は優秀だが、これらの技術者が現場の作業員にしっかり伝えているかの検証が必要だ。製造や運行、保守の現場で、技術水準が低い、という前提で「見える化」「自動化」などの制度システム設計を導入すべきだ。

これは17年12月に新幹線「のぞみ」の台車亀裂という重大事故が起きた日本も同様だ。日本の「現場の力」も弱くなっている。(聞き手=遠藤堂太)

インドの鉄道は混雑が激しい=デリー首都圏(NNA撮影) © 株式会社エヌ・エヌ・エー インドの鉄道は混雑が激しい=デリー首都圏(NNA撮影)

<メモ>

(※1)整備新幹線はJRの保有ではなく、鉄道建設・運輸施設整備支援機構がJRに貸し付けている。時速260キロを超えると貸付料が上がることをJRは恐れているという。

(※2)JR西日本は北陸新幹線の敦賀への延伸時に、湖西線からの直通を狙ってフリーゲージ・トレインの開発を継続している。近畿日本鉄道(近鉄)も今年5月、フリーゲージ・トレインの実用化を発表。近鉄は路線により線路幅が異なっている。

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