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あの鴻海・郭台銘がトランプを意識し始めた シャープを買った豪腕経営者が放つ大胆投資

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/01/10 劉兪青、林宏文
鴻海の郭台銘会長はライバルの韓国サムスンを追い落とし、米国やインドの広大な市場も標的にしている(撮影:Leon Suen) © 東洋経済オンライン 鴻海の郭台銘会長はライバルの韓国サムスンを追い落とし、米国やインドの広大な市場も標的にしている(撮影:Leon Suen)  

 2016年12月14日、「シャープが2017年に韓国サムスンへの液晶パネル供給をストップする」、とのニュースが流れた。シャープに資本参加した鴻海精密工業(HONHAI)とサムスンというライバル企業同士が一触即発に陥った。韓国メディアは”鴻海の奇襲”と見出しを付けて報道した。

 「シャープ」というブランドを手に入れたことで、液晶パネル事業で鴻海グループの郭台銘会長が持つカードは、従来と比べてはるかに大きくなった。ライバルとの利害関係を洗い直し、市場での需給関係を計算したのち、顧客に対して値上げを宣言、特にサムスンに対しては、従来より2倍の価格を提示した。この顧客は失ってもかまわないと言わんばかりだ。これで郭会長は、市場の主導権を獲得し、業界に衝撃を与えた。

まず大型液晶、次に自動車分野に照準か

 いまや「鴻海帝国」は、全世界に戦線を広げている。中国からインド、メキシコからチェコ、さらに米国での生産も計画している。世界各地の従業員は約125万人。従業員数で見ると、現在では世界最大の製造業だ。移動する司令塔である郭会長が行く先々では現地の産業に激震が走る。日本メディアは「鴻海流」という言葉で、郭会長の管理方式や仕事のスタイル、そして世界征服の野望を形容している。

 その鴻海は2016年4月、1株88円、総額3888億円で、シャープの株式の66%を買収した。この一手はまず、サムスンを恐れさせた。そしてトランプ氏が米国大統領選挙で当選、世界の企業に向け製造拠点として米国への回帰を要求すると、鴻海は同年12月7日に次のような声明を発表した。

 「鴻海は米国での潜在的な投資のチャンスを評価しているところで、それによって現地での業務を拡大したい。投資の内容に関しては今のところ未定だが、引き続き米国の関係機関と直接議論したうえで、ウイン・ウインの関係となることを条件に計画の詳細を公表する」。この声明は、近年ではシャープへの投資とともに、鴻海として最も重要な行動となるはずだ。

 この声明の前日、ソフトバンクグループの孫正義社長は、当選したトランプ氏のオフィスに入り、米国での投資計画を手渡した。その中には、鴻海の中国事業である富士康(Foxconn)が将来約70億ドル(約8120億円)を米国に投資し、5万人の雇用を創出することが含まれていた

 トランプ氏の発言よりも早く、郭会長はすでに米国での生産計画作成に数回、着手している。初期は高オートメーション率、ロボット活用、AI(人口知能)といった、米国が強みを持つ分野を中心とする。この原則の下、これまでわかっているところでは、短期的には大型サイズの第11世代液晶パネル工場が考えられているもようだ。しかし、長期的には、自動車分野向けが米国での生産の主軸になると考えられる。

 自動車は単価が高いうえに粗利も高く、オートメーション率が3C(家電、情報、通信機器)よりも高いため、米国での生産に適しているからである。電子製品はすでに中国で大規模な生産拠点を持っており、これを大挙して移動させるのは効率が悪い。米国への投資計画を発表すると、郭会長のオフィスには、米国各州から招待状が吹雪のように舞い込んできた。どの州も郭会長による米国の最初の投資先になりたがっているためだ。

 この声明発表の1週間後、中国で高い信頼を受けているメディア『悦涛』は、「富士康が逃げ出すのを防げ」と題する文章を発表した。「中国の実体産業で本当にレベルアップするチャンスがあるのは、富士康のような蓄積とリソース、サプライチェーンを持つ従来型産業であり、口先ばかりを追求するような新興産業ではない」というのだ。

印モディ首相の自宅にも招かれる

 同時にインドも富士康への誘致を続けている。2016年の鴻海の株主総会で、郭会長は自ら、2015年1年間だけでインドを2回訪問したことを明らかにした。「私はインドのモディ首相から自宅に招かれて食事をした数少ない企業家の一人」という。

 こうして鴻海は一躍、米国や中国、インド、韓国の綱引きの中で、各国共通の土俵にのし上がった。郭会長の一挙手一投足が、世界のハイテク産業を揺り動かす。2016年4月2日、鴻海のシャープへの資本参加の記者会見が開かれたが、それ以降、郭会長の影響力は、それまでよりはるかに大きくなったのだ。

 日本メディアの郭会長に関する報道には、しばしば「軍隊式管理」「独裁者」といったマイナスイメージが根強い。このため、郭会長はより低姿勢を貫くようになっており、シャープへの投資に関して台湾メディアの独占インタビューを一切受けていない。メディアに登場するのは、シャープのトップとなった戴正呉社長ばかりである。

 だが、4年の歳月と巨費をかけて手に入れたシャープに対して、郭会長の思い入れは並大抵でない。シャープに投資してからこれまで、郭会長が台湾にいる時間ははっきり減った。ほとんど毎晩、広東省深セン市にある富士康・龍華工場の戦情室で、夜遅くまでシャープのために戦っている。

 この部屋には、12台のモニターが並ぶ大きな壁があり、1つのモニターには1つの工場が充てられている。郭会長が指示すると、1時間後には工場に充てられたモニターにその工場のすべての重要幹部が現れ、郭会長が会議を取り仕切るのだ。12台のモニターを通じて、世界各地にあるすべての工場と会議を開き、最新の動向を把握することができる。そのうち、シャープのモニターには、戴正呉社長がほとんど毎日登場している。

 同時に郭会長は、鴻海の重要な事業群の責任者に対し、シャープの製品をそれぞれ1項目選び、商品の改善やコスト軽減、販売増加に協力するよう要求した。鴻海は現在、本気でシャープ政策を執行している。

 まず鴻海は、シャープが開発した特許と半製品を製品化し、売り上げを増やし、粗利を向上させ、収益を安定化。そのうえで再度資本を投下し、シャープが最も得意とする、先端技術の開発を発展させる方針だと考えられる。

戴社長は給料もらわず、専用車も廃止

 振り返ってみると、シャープ社内の再建に当たっては、従業員の意欲を高めるところから始まっている。9月末時点で、郭会長は手元の現金が少ないにもかかわらず、旧シャープ本社の向かいにある田辺ビルを買い戻した。かつてのシャープの栄華を取り戻そうとする決意を十分に示すことになった。続いて、戴正呉社長が3通の公開書簡を送って社員を激励すると同時にそれまでの減給方針を一転し、インセンティブを追加した。

 さらに郭会長スタイルのコスト管理も登場する。郭会長が持つ、2機のプライベートジェットの飛行時間の9割は、鴻海の仕事に使われている。それ以外の時間はリースされることもある。しかも、満席にならなければ、出発しない。人数が足りなければ、幹部が呼び出される。飛行機が離陸すると、目的地に到着するまで会議が続けられる。

 戴正呉社長は、こうした鴻海流の質実スタイルをシャープに持ち込み、自ら体現した。給料を受け取らず、社長専用車を廃止。高級車に乗り、高級ホテルに泊まり、豪華な美食を楽しむという、過去のシャープ幹部の悪習をすべて廃止。荷物も自分で宿舎に運んだ。

 2016年4~9月期の財務報告では、シャープの売上高は依然として前年同期比28%マイナスだが、厳格なコスト管理によってコストは32%削減されたため、この半年で黒字転換を達成した。

 しかし、長期的に基礎から改善するには、何とかして売り上げを増やす必要がある。このため、このところ郭会長が公開の場に姿を見せるのは、ほとんどシャープ商品を売るためのみだ。10月から年末にかけてのバーゲンシーズンの際には、メディアの取材に応じるなど広報活動に徹し、70インチ+60インチの大型液晶テレビを10万セット以上売った。2016年の鴻海の株主総会で、郭会長はウォーターオーブンを宣伝した。

 これほどの巨大な組織だが、方針決定は極めてスピーディー。まずはやってみる。そして、間違っていたら修正する、というのが郭会長の性格である。ただし午前中の決定が午後には変わっていることがある。となると、会社中は大騒ぎになるが、変わらないことが1つある。それは「郭会長の命令は絶対」ということだ。

 こんなエピソードもある。シャープへの資本参加が最終段階に入ったときだ。日本にいた郭会長は、前日夜になって、翌日の銀行との会議にある幹部を出席させるべきだと考え、台湾の龍華工場にいたこの幹部に緊急の電話をかけた。

 この幹部は、翌朝には会議に姿を現した。電話の後、ただちに龍華工場からバスで深センに行き、そこから船で香港に着いた。そして、夜中0時の航空機で朝5時過ぎに成田空港に到着すると、車を飛ばして8時前には会議の場所に到着し、待っていたのだ。ホテルに入ってシャワーを浴びる時間も取らなかった。このように、鴻海の幹部は郭会長の指示を受けると、条件反射のように使命を達成するため命をかける。

2020年の台湾総統選挙に出馬?

 郭会長は台湾にいる場合、毎朝9時には会議を開く。この会議には、重要幹部のほか、会長室のメンバーが加わる。会長室は、11の事業部門からそれぞれ3~5人派遣された若手社員たちで構成され、会長直属となる。これらの若者を通じて、郭会長はより的確に会社の状況を把握できる。毎日の会議に参加することで、自然に鴻海の精神を植えつけられていく。

 郭会長スタイルに満ちた鴻海流が、海を渡って日本に伝えられた。郭会長は華麗な転身を遂げ、世界のステージに立つことができ、そのグループは、中国、日本から米国にまで拡大しようとしている。

 ただ、台湾人が気にするのは、やはり郭会長が台湾の総統選挙に出馬するかどうかだ。2020年の総統候補として、誰もがよく知るこの人物が登場するのか。答えは郭会長の心中にしかない。

(台湾『今周刊』2016年12月26日号より)


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