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あの「グラミン銀行」が日本を救う日は来るか 日本展開における期待と課題

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/07/12 10:00 高橋 成壽
グラミン銀行設立者のムハマド・ユヌス博士。グラミンのビジネスモデルは日本の貧困者救済にも有効か(写真:Ben Hider/Getty Images) © 東洋経済オンライン グラミン銀行設立者のムハマド・ユヌス博士。グラミンのビジネスモデルは日本の貧困者救済にも有効か(写真:Ben Hider/Getty Images)

 バングラデシュのムハマド・ユヌス博士が発案した、グラミン銀行。この銀行のマイクロファイナンス(小規模金融)が評価され、ユヌス博士はノーベル平和賞を受賞しているので、名前ぐらいは聞いたことがある人もいるだろう。マイクロファイナンスとは貧困者に無担保の少額融資を行うことで、融資を受ける側はこれを元手にビジネスを始められる仕組み。これによって、バングラデシュでは多くの女性が貧困から救われた。

 そのグラミン銀行が日本に「進出」する。2017年8月に一般社団法人グラミン日本準備機構が組成された。2018年夏をメドに貸金業法の特例を活用し、銀行ではなく貸金業者として事業をスタートさせる予定だ。事業資金は篤志家からの寄付やクラウドファンディングなどで集められている。直近では2018年3月から5月末までの約3カ月の間に、1000万円の事業資金を募集し、281人の投資家から1038万円を調達した。

日本は隠れ貧困大国である

 なぜグラミン銀行が日本に上陸するのか。それは、日本が徐々に「貧困大国」へと歩んでいるからだ。厚生労働省の「生活保護の被保護者調査」(2018年3月)によると、日本における生活保護世帯は163万世帯で、211万人に上る。

 貧困率も諸外国に比べて高く、2015年のデータでは相対的貧困率は15.6%、子どもの貧困率は13.9%(子どもの7人に1人は貧困状態にある)であるとされている。ワーキングプアという言葉もあるように、働いていても大した稼ぎにならない人もたくさんいる。年収120万円未満の相対的貧困も社会問題となっている。

 これほど多くの人が「貧困層・低所得者層」定義されているにもかかわらず、日本には、貧困問題を解決する抜本的な仕組みはないのが現状だ。貧困は自己責任であるという考えも聞こえてくるが、貧困によって子どもに教育が行き届かず、貧困が引き継がれ再生産されてしまうことが問題となっている。

 最近は親の収入と学歴の相関関係が指摘されている。実際、高学歴になるためにはそれなりの教育投資が必要で、教育資金を準備できるのは所得の高い層に限られている。一度貧困に陥ってしまうとそこから抜け出す仕組みがなく、抜け出せないと貧困状況が後の世代に引き継がれてしまうのだが、それを救済する仕組みがないわけである。

 生活保護は要保護世帯と認定された人に対して生活費を給付する仕組みで、受給者に就労するような働きかけはするものの、成果が出たという話は聞こえてこない。

 数年前に施行された生活困窮者自立支援法は、法的な位置づけは要保護世帯を増やさないために、生活保護予備軍にとどめておくための制度ととらえられる。本来は、就労支援があるのだが、取り組む職員なり担当者はどこかで働くことはできないかという働きかけが精いっぱいで、強制力はない。受け入れる企業側の負担も大きい。

 そもそも、いろいろな事情で働くことが困難だからこそ生活困窮しているのであり、就労ノウハウがない職員がどれだけ面談を繰り返しても、生活困窮状態からスムーズに脱却を促すような仕組みには思えない。

グループ全体が借金の責任を負う仕組み

 一方、グラミンの取り組みは生活費を貸し付けて急場をしのぐような種類の融資ではなく、生活困窮者のための、スモールビジネス資金融資である。しかも、主な対象は女性やワーキングプアで、起業に必要な勉強や資格を取るための資金、材料仕入れなどの運転資金、設備を買うための設備資金など、仕事のための資金であればおカネを借りることができる反面、生活資金の取得はできないことになっている。

 この辺りが、政府の生活福祉資金貸付制度や消費者金融の貸し付けとは違う点である。ビジネス向けの融資でありながら、少額であり、金利も法定金利の上限ぎりぎりではない(貸金業法の非営利特例対象法人に該当のため上限金利7.5%の見込み)。融資する側のグラミンは融資利息によって運転資金を賄うが、必要以上の儲けをよしとしない。利益を求める株主もおらず、あくまでも社会課題の解決のための金融を目指している。

 では、実際にどのような仕組みでおカネを借りることができるのだろうか。

 グラミンでは、5人で構成される互助のグループを活動単位とする。たとえば、貧困から脱却するためにスモールビジネスを立ち上げたい互助グループのAさんにおカネを20万円貸すとする。Aさんは借りた20万円で、塾通いの小学生、中学生のための弁当を作って販売するビジネスを立ち上げる。塾弁の購入者は自分でも探すが、互助グループの4人の協力を得られるだろう。こうして、Aさんは自力で日銭を稼げるようになる。

 Aさんが借りたおカネをきちんと返済できない場合、互助グループの連帯責任となり、評価が下がってしまう。つまり、次に互助グループのほかの人がおカネを借りようとしても借りられない可能性が生じてしまうため、自然と互いを支援するシステムが出来上がり、ビジネスも成功しやすくなるというわけだ。ビジネスにおいて大きな課題となる集客を共同でサポートできることは、ビジネス初心者にとって大きな支えとなるだろう。

 では、グラミンが日本で事業を開始するにあたって、どんなことが期待できるだろうか。まず1つは、貧困層の救済である。日本ではシングルマザーの貧困問題が取りざたされているが、低所得状態にあるシングルマザーをグラミンが支援することで、貧困状態から脱却するチャンスが与えられる。公的部門ではできなかった貧困からの救出を、民間部門であるグラミンであれば担える。

 2つ目は起業家の養成。日本経済を活性化させるために、開業・起業を促進したい国の意向がある一方、廃業数は開業数を上回っている。2017年度の「中小企業白書」(中小企業庁)によると、2009年から20014年の間の廃業数は113万社。開業は66万社なので、実質47万社が減っている。この流れを止め開業数を増やす効果が期待される。

 3つ目は、福祉士の削減である。生活保護費に代表される貧困層に使われる税金や社会保障制度をどのように減らすかという議論に結論は出ていないが、少なくとも生活保護世帯が要保護状態から脱却することができれば、日本全体の福祉費を削減し財政を安定させることに貢献できるのではないか。

日本では借金に対する抵抗感が強いが…

 長期的な視野で見れば、子どもに対する機会提供につながることも期待される。前述のとおり、教育費が高騰する中で、貧困家庭に育った場合、レベルの高い教育を受けることは難しくなってきている。たとえば親がグラミンから融資を受けて、貧困から脱却できた場合、その子どもも教育を受けたり、習い事に通ったりできるようになるかもしれない。また、貧困を理由に子育てをあきらめる、といった状況の改善にもつながる可能性がある。

 一方で、グラミンには課題もある。1つは、起業をしたいというシングルマザーやワーキングプアをどう探すか。グラミンは3月半ばに、日本シングルマザー支援協会と連携することで合意しているが、より多くの起業意欲のあるシングルマザーをネットワークに取り込むことが互助システムを確立させるためにも重要だ。

 その互助グループを組成するのも容易ではない。日本では、江戸時代には「五人組」など互助的組織はあったが、近代においてはどのように組成して運営すべきかノウハウがあまりない。当面は、グラミンがサポートするようだが、知人とグループを作ったとして、自分の失敗が相手に影響し、相手の失敗が自分に影響するという仕組みがどの程度日本になじむのかは、未知数である。

 また、事業を興すためとはいえ、おカネを借りることに抵抗感がある人も少なくない。日本では、借金をして返済できなくなった際、連帯保証人にまで資金回収の督促があるため、起業のためにおカネを借りることに対する心理的な負担感があるように思える。起業だけなら簡単でも、資金を借りて事業を展開したら返済するという仕組みは、少しハードルが高いのではないか。ただし、互助システムの確立も含めて、グラミンがビジネスをサポートする体制が整えられれば、この課題も徐々に解消していくかもしれない。

 近年はクラウドソーシングやスマホアプリのように、簡単に事業を始められるプラットフォームも増えてきている。さらに、グラミンの互助システムなどを通じてビジネスを安定的に続けられる体制が整えば、グラミンを利用したいと考える人も増えるのではないか。

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