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いきなり!ステーキ、NY1号店大成功のワケ アメリカ人は「立ち食い」をしないはずが…

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/04/11 圓岡 志麻
ニューヨークのイーストビレッジに2月23日オープンした「いきなり!ステーキ」ニューヨーク店(写真提供:ペッパーフードサービス) © 東洋経済オンライン ニューヨークのイーストビレッジに2月23日オープンした「いきなり!ステーキ」ニューヨーク店(写真提供:ペッパーフードサービス)  

 ステーキの本場であるニューヨークに進出を果たした「いきなり!ステーキ」。2月23日(現地時間)のオープンからひと月以上が経過した現在の状況はどうなっているのだろうか。

 「日に400人程度のお客様が見えます。最初は中国系の方が多かったですが、現在はもっと客層が広がって、さまざまな人種の米国人がいらしていますね」(ペッパーフードサービス取締役営業企画本部長・川野秀樹氏)

 川野氏によると、ニューヨークでは、新店舗がオープンした際にはまず富裕な中国系の客層が注目し、人気が出ればその他の客層に広がっていく傾向があるとのことだ。

日本とまったく同じ「立ち食い」スタイル

 ニューヨーク店は、日本とまったく同じような立ち食いスタイルで、ロゴや一瀬邦夫社長の看板も同じ。メニューはリブロースとワイルド、サーロインの3種類で、グラムでの量り売りという方法もそのままニューヨークに持って行った。いきステのファンがニューヨーク店に足を運んでも、客とスタッフの国籍が違うだけで、日本にいるのと変わりがないぐらいだ。ただし、「カウンターは日本より10センチ高くし、食事スペース(幅)もストレスがない程度にゆったりさせています」(川野氏)という。

 冒頭に説明したように、1日400人もの客が訪れる繁盛ぶりを見せている同店だが、開店までにはさまざまな懸念があった。

 まずは立地だ。ニューヨーク第1号店の立地であるイーストビレッジは、学生など若者に人気の街で、場所によってはレストランやバーも多く繁華であるが、同店が選んだ立地は、「一級の場所ではなく、人通りもそれほどない」(川野氏)場所。イーストビレッジには、海外に63店舗を展開している博多ラーメンチェーンの「一風堂」も店舗を設けているが、大通りに面しているもう少し条件のよい立地らしい。

 ただし、今でこそ、業態に合わせ立地の幅を広げてきた「いきステ」であるが、スタートの地となった銀座4丁目店をはじめとして、駅から少し離れた場所に展開するのが同チェーンの特徴だ。意識したわけではないというが、結果的に、日本での戦略を踏襲した形になった。

 そして、同チェーンの最大の“売り”であるスタンディング形式など、いきステのスタイルがニューヨークで受け入れられるかということは、開店ギリギリまで判断がつかなかった。

 3年を要した準備期間には、「立ち食いなど100人中100人がしない」「レアステーキを食べない」「テーブルチェックできないとダメ」など、“ニューヨーク通”や弁護士からさまざまな助言があったという。特に立ち食いスタイルは、オープン前の記者発表でマスコミから最も指摘を受けた点でもあった。川野氏によると、一瀬邦夫社長は「日本人も、もともとは立ち食いをしませんでした」で押し通していたという。

 また、米国では普通、「ポンド」「オンス」を用いるため、グラムでの表示を理解してもらえるのかも、大きな心配だった。単位を変えればよいだけなので、それほど重要ではないと傍からは見えるが、いきステスタイルを貫くためには絶対と言っていいほど必要な条件だったのだという。

 というのは、食べた肉の量に応じた特典が得られる会員サービス「肉マイレージカード」では、グラム表示を用いているからだ。また、特典以上と言ってもよいほど、ファンの心をつかんでいるのが、食べた肉の量を競う「ランキング」。ニューヨーク店オープンの暁には、これを世界基準にして世界ランキングを行うのが、一瀬氏の構想だったのだ。

 「グラムを使うことに関しては私自身、かなり心配していました。ランキングだけ、オンスからグラムに変換できるようにすればいいのじゃないですか、と社長に進言したのですが、“ダメだ。そんなんで伝わるわけない”と一蹴されました」(川野氏)

懸案事項だった「チップ」を廃止

 また、チップをどうするかも、最後まで決断が揺らいでいた一件だった。
「最初は“慣習だから”とチップ制を決定していましたが、最後の最後に、やはりノーチップで行こうと決断をしました。メニューがすでにできていたので、作り直さなければなりませんでした」(川野氏)

 ちなみに、ニューヨークでは数年前から、日系の企業をはじめとする「チップ廃止」の動きがある。米国大戸屋も、2016年3月にニューヨークの3店舗においてチップを廃している。同店の決断も、大戸屋の動きを受けてのことだったようだ。

 「日本ブランドとして知られる和牛をあえて使わなかったのも、大きな決断でした。日本でさえ高いのに、米国まで持っていくと1グラム30セントと、米国産牛肉の3倍以上の値段になってしまいますので」(川野氏)

 不安材料は限りなくあったが、いざ、オープンしてみると、すべてポジティブな方向に運んだ。日本の店舗と同じく、時間によっては行列ができるが、米国の人々も、意外に機嫌よく1時間程度は並ぶらしい。

 「並んでも日本の人より大らかな感じがします。その代わり、“早く席を空けなきゃ”と焦ることもないですね。店内の滞在時間は日本が30分なら、ニューヨークは40~45分、1時間になることもあります」(川野氏)

 そういえば、米国にはスタンディングバー、つまり「立ち飲み」という文化があった。実は、立ったまま飲んだり食べたりするのは平気な人々だったのだ。

 その他のいきステスタイルも、スムーズに受け入れてもらえたそうだ。

 「アミューズメントパークのように“その世界観を楽しもう”という感覚で来られている気がします。面白いのが、紙エプロンがすごく受けたこと。そのほか、足元やカウンター下の荷物置きスペースも、米国人には不思議だったようです。“何これ?”という感じで、マスコミにも必ず紹介されます。“これがジャパンホスピタリティです”と説明して、エプロンのひもが結べない人がいたらスタッフが手伝っています」(川野氏)

 考えてみれば、日本文化は今、世界的によく知られるようになり、また高く評価されることも多くなった。いきステスタイルが好意的に受け入れられた背景には、そうした風潮もあったのかもしれない。

評価を勝ち取ったのは「質」

 日本でのやり方をすべてそのまま、「これがジャパンスタイルだ」と、ニューヨーカーにぶつけたことは、一瀬氏の大きな決断であり、勝負だった。しかしこの勝負に勝てたのは、単に運や世界的な風潮の助けだけによるものではない。最終的に、ニューヨーカーの評価を勝ち取ったのが「質」だったという。

 「米国のマスコミは辛口だとさんざん脅かされていました。でも、記者発表後の報道を見ると、非常に好意的な論調だった。うれしかったのが“ユニーク”“サプライズ”だけで終わらず、“本質はクオリティである”と評価されたこと。つまり、味に満足してもらえたということです」(川野氏)

 価格設定も的を射ていたのだろう。たとえば日本でもニューヨークでも1番人気だという、ランチのワイルドステーキは20ドルと、日本の1350円よりもやや高めの設定にしている。しかしラーメン1杯「15ドル+チップ」がニューヨークの相場であれば、ステーキの20ドルは手頃に感じられる。価格設定が日本より高めなので、当然ながら客単価も3500円と高め。日に400人の客が来れば、140万円の売り上げとなる。日本では原価率の高さをスタンディング形式にして回転率を上げることでカバーしたが、アメリカではもともと原価率が低いのだという。

 「考えてみれば、米国で和食のレストランをやるよりも、米国でステーキ店をやるほうが理にかなっているわけです。つまり、地産地消ですから、原価も低く済む。後はお客が来てくれるか、という問題だけです」(川野氏)

 原価率が低い分、肉も日本のものより質を上げることができた。
「日本では、米国産、オーストラリア産、国産を部位によって使い分けていますが、ニューヨーク店では、すべて米国産牛を使用します。それにより、関税がゼロ、輸送費、輸送時間も大きく削減されます。日本で使用している牛肉より低コストで高品質な牛肉を提供することができるため、米国の中でも高品質なオーロラビーフを使用しています」(川野氏)

 また基本的にウェルダンの文化であるため、店内に「レアがおすすめです」と表示した。やはりウェルダンにこだわる人もいるが、多くの人には「レアもフレッシュでいい」と受け入れられているそうだ。

 人気のメニューは、日本と同じくリブロース(300グラム当たり27ドル)。それから、ペッパーライス(6ドル)が大人気だそうだ。これは、ペッパー(コショウ)などで味付けをしたライスの周囲に、ステーキの端肉をダイス状にカットして並べたものだ。つまり、ペッパーフードサービスの別業態、ペッパーランチのメニューとほぼ同じということになる。

 「これなら、ペッパーランチもニューヨークに進出できるのではないかという感触を得ました」(川野氏)

 また、米国人はたくさん食べるイメージがあるが、1人250~350グラムぐらいで日本と変わらない。3割が女性客で、女性を含め1人客も多いという点も、日本と同様だ。違いは、ワインがよく出るぐらいとのこと。

 今回のいきなり!ステーキの成功を受け、一瀬氏は現在、軸足を1本ニューヨークに移し、日本に20日、ニューヨークに10日、といった生活を送っているという。まずはニューヨークに年内10店舗を目指し、米国に的を絞って海外展開を進める予定だ。ペッパーランチの進出も視野に入れ、3年後にナスダックへの上場を目標としているという。

 日本で進めている戦略は、他業種とのコラボレーションなどによる裾野の拡大。ちなみに先般のことだが、ニッスイから3月1日に発売した「いきなり!ステーキ監修ビーフガーリックピラフ」が、予想の5倍売れ、販売態勢を整えるために一時販売停止しているという。

ソースの消費量が日本の「倍」

 ニューヨークではまだ他企業とのコラボまで考えていないが、「いきなり!ソース」の小売りを構想しているそうだ。というのも、世界的に通用する味「TERIYAKI」を連想させるためか、ソースの人気が非常に高いためだ。

 「ソースを使う量が日本の倍なんです。単に容器が扱いにくいということなのかもしれませんが、皆さん肉がびしゃびしゃになるほどにかける。ただ、味を気に入ってくださっていることには間違いがないので、徳用サイズにして、店頭やネット、スーパーなどで販売すれば売れるのではないかと考えています」(川野氏)

 ステーキの本場ニューヨークで、同店が受け入れられるか。構想の時点から、運営するペッパーフードサービス自身も勝負を懸け、周囲も固唾(かたず)をのんで見守ったところであった。しかしフタを開けてみれば、日本と同じビジネスモデルが何の問題もなく通用してしまった。業界のプロが考える「~でなければならない」という固定観念は、消費者にとってはあまり意味がないのかもしれない。またしても、規制の枠を飛び越えてしまう、一瀬氏の信念の勝利となった。

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