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なぜメルカリはホワイトな労働環境をつくれるのか?

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/04/12 06:58

 上場を目前に控えたメルカリの福利厚生がホワイトすぎると話題になっている。

 昨今、多くの日本企業は働き方改革を実践するため、残業時間の規制などに取り組んでいるが、根本的な誤解も多い。新興企業に過ぎないメルカリがなぜホワイトな環境を構築できるのか。その理由を考えることで、働き方改革の本質が見えてくるはずだ。

●常に最新のPCを使える

 フリマアプリを手掛けるメルカリは、自社サイトに労働環境や福利厚生に関するページを設けている。その内容は、一般的な日本企業を基準にするとかなり先進的だ。

 同社はコアタイム方式のフレックスタイム制を導入している。大企業であればフレックスタイム制を導入しているところは少なくないので、この制度そのものは珍しくない。だが、メルカリのコアタイムは正午から午後4時までとなっており、一斉に拘束される時間が短い。これだけの余裕があれば、柔軟に1日のスケジュールを組むことができるだろう。

 社員の業務環境も良好だ。それぞれが希望するスペックのPCを自由に使うことができ、最新のPCが発売されれば、すぐに交換できる。ディスプレイを2台並べて使いたい希望があれば、それもOKだという。

 スマートフォンの支給についてもちょっとした工夫がある。OSがAndroidのスマホを持つ社員にはiPhoneが支給され、iPhoneを持つ社員にはAndroidのスマホが支給される。要するに、両方の環境で日常的にスマホを使うことを推奨しているわけだ。人はどうしても自身が所有するデバイスの価値観に偏りがちなので、ネット企業としては合理的な制度と言ってよいだろう。

 社員が有料セミナーに参加することも可能で、レポートを共有すれば、費用は全額会社が負担してくれる。語学についてはオンライン英会話など複数の学習環境が提供されている。このほか、副業は全て自由で、会社としてはむしろ副業を推奨している。細かいところではドリンクが無料で飲める。

●働き方改革の本質はマネジメント

 子どもを持つ社員に対する支援も手厚い。産休・育休期間中の給与については、女性の場合には約8カ月間、男性の場合には約1.5カ月間、全額が保証される。子どもを産むことも支援しており、不妊治療については、年齢に関係なく費用の全額もしくは一部を会社が負担してくれる(治療開始から10年間)。

 子どもが病気になった場合のベビーシッター代や、認可外保育園に入園する場合の費用差額なども会社負担にできるほか、全社員が死亡保険に加入する制度があり、万が一のときにも家族が路頭に迷うことはない。ユニークなところでは、結婚マッチングサービスも無料で利用できるという。

 多くの人は、この話を聞いて条件の良さに驚くだろうが、重要なのはそこではない。福利厚生はそれほどコストのかかるものではなく、社員の年収を上げることに比べれば企業側の負担は少ない。ある程度の収益力を持つ大手企業であれば、実現はそれほど難しくないはずだ。

 では、なぜメルカリなど一部の企業だけがこうした制度を導入できて、多くの従来型日本企業では実現できないのだろうか。

 フレックスタイム制であれば、すでに20年以上も前から、一部の大企業を中心に導入が進められてきた。だが、現実にはうまく機能しないことも多く、最近ではフレックスタイム制を撤廃するところも出てきている。

 フレックスタイム制では、各社員は始業時間と終業時間を自分で調整できるが、コアタイムの時間帯は必ず会社にいなければならない。この時間が短ければ短いほど、社員は自由に働けるわけだが、現実にはいろいろとやっかいな問題が発生する。

 例えば、メルカリのように午前中の出社が自由となると、午前中に何かトラブルが発生した場合、偶然、午前中に会社にいた社員に大きな負荷がかかる。フレックスタイム制度を取りやめた企業の多くは、こうした社員の不公平感を理由にしている。

 制度をうまく運用するためには、誰がどの業務に対して責任を持つのか事前にはっきりさせておくか、仕事の偏りも含めて、各人の成果を正しく評価できるマネジャーを配置する必要がある。つまり、制度をうまく運用できるのかは、全てマネジメントの質にかかっているのだ。

●高収益を実現することが最も大事

業績だけにとどまらず、さまざまな面で注目されるメルカリ(出典:同社サイト) © ITmedia ビジネスオンライン 業績だけにとどまらず、さまざまな面で注目されるメルカリ(出典:同社サイト)

 他の制度も同じである。働き方改革を実現するには生産性を上げることが重要である。生産性は企業が生み出す付加価値を労働時間で割って算出する。つまり生産性を上げるには、付加価値を上げるか、労働時間を減らすしかない。

 だが現実には、労働時間の削減には限度があり、一定以下に減らすことは不可能である。つまり簡単な数学の問題として、生産性を上げるためには付加価値の増大が必須なのである。企業の付加価値を会計上の具体的な数字に置き換えた場合、それは売り上げ総利益(粗利益)となる。

 つまり、もうかる製品やサービスを提供できなければ、そもそも働き方改革などあり得ないのが偽らざる現実なのだ。実際、先進諸外国の労働生産性は日本の1.5倍から2倍も高いが、多くが労働時間要因ではなく、付加価値要因である。

 確かに欧米企業の平均労働時間は日本と比較すると短いが、彼らの生産性が高いのは、労働時間を削減したからではない。企業がもうかった結果として、高い生産性と労働時間の短縮がもたらされているにすぎない。労働時間の短縮は、付加価値が上がったことの結果なので、これを取り違えてしまうととんでもないことになってしまう。

 もうかる企業を作れるかどうかは、全て経営者の手腕にかかっている。経営者はこうした責任を追っているからこそ、高い報酬や社会的地位が約束されている。逆に言えば、付加価値の高い経営を実現できない経営者はトップに立つ資格はない。

 日本企業の中には、単なる年功序列の延長で経営者になった人物が少なからず存在しているが、こうした人材が、マネジメントの質を向上させることは難しい。結局のところ、働き方改革は、全て経営の問題なのである。

(加谷珪一)

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