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なぜ日米金利差が拡大しているのに円高になるのか

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/03/22 06:00 野口悠紀雄
なぜ日米金利差が拡大しているのに円高になるのか © diamond なぜ日米金利差が拡大しているのに円高になるのか

 アメリカの金利が上昇している。他方で日本の金利は上昇しない。このため、金利差が拡大しており、常識的に言えば、円安になってしかるべきだ。

 ところが、実際には円高が進行している。

 日本経済は為替レートの変動によって大きな影響を受けるので、円高になるか円安になるかは、今後の日本経済にとって極めて重要だ。したがって、なぜ円安にならないのかのメカニズムを理解する必要がある。

円高期待があると、円キャリー取引が生じない

 アメリカの10年国債利回りは、2016年には2%を下回る場合が多かった。16年7月には1.5%割り込んだ。

 ところが16年11月頃から急上昇し、11月には2%を超えた。17年を通じて、2%を超える水準にあった。18年になって急上昇し、最近では3%に近づいている(図表1)。

 他方で、日本の10年国債利回りは、ほぼ0%で変わらない。

 このように金利差が拡大しているので、本来であれば、アメリカの高い金利を求めて資金が日本から流出し、円安になるはずだ。

 ところが、為替レートの実際の動きは、そうではない(図表2)。

 16年11月から急激な円安に転じたあと、17年中はほぼ一定であったが、18年になってからは円高に向かっているように見える。

 なぜなのか。

 まず、金利差が拡大しているにもかかわらず、円キャリー取引(低金利の円を借り入れて高金利国の資産で運用する取引)が生じない理由を考えよう。

 円キャリー取引が起こるのは、将来、円高にならないという保証がある場合のことだ。

 もしアメリカでの運用を経た後、その資金を日本に戻すとき、投資時点より円高になっていれば、アメリカの高金利で得た利益はキャンセルアウト(相殺)されてしまい、結局、利益は生じない。

 つまり、少々の金利差では、為替レートが円高になっただけで、利益は簡単に打ち消されてしまう。

 現在の日米金利差は3%程度なので、3%程度円高になれば、そうなる。これは大いにあり得ることだ。

 だから、金利差が開いてもキャリー取引が生じないのだ。

 04年頃に円キャリー取引が拡大したのは、日本政府が為替市場に介入しており、円高にならないという保証があったからだ。

 では、為替レートに関する期待はどうなっているだろうか。

 シカゴ取引所における円先物取引のポジションを見ると、図表3のとおりだ。

 18年2月頃から、売りポジションが減少している。これは、円安期待が後退していることを示すものと考えられる。

 円高が進んだ16年には、買いポジションが売りポジションを大きく上回っていた。現時点では、売りポジションが買いポジションをまだ上回っており、明白な円高期待が形成されているとは言えない。

 しかし、アメリカの金利が上昇しているにもかかわらず、こうしたことが起きているのは注目すべきことだ。

「平均・分散フロンティア」の枠組みから考えると

 なぜ為替レートに関する期待が変化しているのだろうか?

 それは、平均・分散フロンティアの枠組みで、つぎのように理解される。

 ここで「平均・分散フロンティア」とは、縦軸に資産の期待収益率、横軸に収益率の分散をとって、さまざまな資産をプロットしたものだ(図表4)。これは、資産の選択にあたり、期待収益率だけでなく、リスクをも考慮すべきことを強調している。

 新興国の資産は期待収益率が高いが、分散も高いので、右上に位置している。それに対して、円資産は収益率が低いが、分散も低いので、左下に位置している。ドル資産は、これらの中間にあると考えられる。

 投資家は、期待収益率と分散で定義される目的関数(最適化問題において最大化される関数)を持っており、これを最大化するように資産を選ぶ。

 図表4では、目的関数は右下に向かって凸であるような曲線で示されている。

 収益やリスクの変化と、目的関数の変化とが、このようにして区別される。

 経済条件の変化は、資産の期待収益や分散に影響を与える。

 他方で、金融緩和が終了すると、短期資金を借り入れて行なうリスクの高いレバレッジ投資が不利になるので、目的関数が移動する。図表4では、これをAからBへの移動として示してある。

 これが「リスクオフ」だ。つまり、投資家が安全志向になることである。

パーティーはやはり終わりになる「投機の時代」が終わる

 2015年に起こったことは、この枠組みではつぎのように解釈される。

 15年にアメリカが金融緩和を終了した。これはリーマンショック以来の金融緩和時代の終わりであり、投機の時代の終わりだ。

 これによって目的関数がAからBにシフトし、「リスクオフ」への動きが生じた。

 その結果、原油価格の下落、新興国からの資金還流、株価の下落といった現象が起きた。

 そして円高が生じた。

 ところが、16年11月、大統領に当選したトランプ氏の積極経済政策への期待が突然生まれ、目的関数が急激に変化し、「リスクオン」への移動が生じた。

 これは、「パーティーが終わる頃にテキーラが出てきた」と表現されることがある。

 株価が上昇し、為替レートが円安になり、原油価格が上昇したのは、このためだ。

 では、いま生じていることは何か?

 トランプ政策は、完全雇用下の財政拡大策である。このため、クラウディングアウトで実質金利が上昇するとともに、インフレリスクが高まる危険がある。

 したがって、金融正常化が進んで、金利が引き上げられ、リスク投資は難しくなる。

 そうした意識が強まり、目的関数が「リスクオフ」に移動し左下に移動していると解釈される。

 パーティーはやはり終わりになるのだ(「世界株安は『トランプ期待』が止めていた正常トレンドへの復帰だ」参照)。

 これによって、為替レートに関する期待が変化し、ドル安円高に向かっていると解釈される。

 ただし、円高の可能性により、日本の株式の資産は図表4で下方に移動する。

円高で物価が下落し、企業利益は減少する

 日本の経済は為替レートに大きく影響される。

 これについては、すでに本コラム「経済停滞化の企業の利益増は単なる『帳簿上の変化』に過ぎない」で書いた。

 繰り返せば、つぎのとおりだ。

 まず、物価に対する影響だ。

 日本では、円高になれば、物価上昇率が低下する。円安が止まっただけでも、そうなる。他方でアメリカでは、景気拡大に伴って物価が上昇する。

 そのため、今後は、実質為替レートを一定にしようと、名目レートが円高になる可能性が強い。そうなれば、さらに円高が加速されるだろう。

 したがって、日銀の2%物価目標は達成できないだろう。

 また、円高によって企業収益が悪化する、2013年以降、企業収益が増加した期間が3回あり、いまはその3回目だが、そのフェーズが終わりになる。

 さらに、金融緩和政策からの脱却をどのように進めていくかが課題となる。

 金利上昇圧力が強まり、金融緩和の「出口」を探る必要性が高まるだろう。

中国債務問題は依然、深刻金融危機が起こる危険も

 アメリカの金利上昇は、中国に対しては大きな影響与える。それは、中国企業の負債が高水準になっているからだ(図表5)。

 中国では、リーマンショック後の「4兆元対策」によって国有銀行から大量の融資が行なわれ、企業債務の対GDP比が、2007年末の97%から、16年6月には167%にまで上昇した。

 元の対ドルレート維持のために金利が引き上げられれば、企業の負担が増加し、金融危機が起きる危険がある。BIS(国際決済銀行)は、その危険性を繰り返し警告している(「China Banking Crisis Warning Signal Still Flashing, BIS Says」参照)。

 中国のリスクは依然として高い。

 上海総合指数が、急落以後あまり回復していないのは、こうした事情を反映したものだろう。

(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)

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