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みずほ34歳支店長が象徴する銀行らしからぬリーダー育成術

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/07/17 佐藤康博
みずほ34歳支店長が象徴する銀行らしからぬリーダー育成術: 指名委員会の5人が全員、社外取締役であるみずほでは、佐藤社長自身も、自らの辞める時期や後継者をコントロールすることはできない © diamond 指名委員会の5人が全員、社外取締役であるみずほでは、佐藤社長自身も、自らの辞める時期や後継者をコントロールすることはできない

伝統的な人事体系を固持する銀行業界にあって、みずほは人事改革でも注目を集めている。34歳支店長も誕生するなど、動きの早い時代にマッチした改革の内容とは?

みずほは年功序列を止めたリーダーを若い頃から育てる

 今年4月、玉川学園前支店に34歳の支店長が着任した。みずほ史上、最年少の支店長で、ほかの金融機関からも驚きの声が上がったようだ。

 銀行業界以外では、30代の幹部なんていくらでもいる。同じ金融業界の中でも、証券会社では若い幹部も珍しくない。しかし、銀行に関して言えば、いまだに伝統的な年功序列の人事体系が維持されてきた。

 従来、銀行の支店長は若くても入行20年目くらいの40歳代にならないと登用されなかった。みずほも数年前までは44、45歳くらいが最年少支店長だった。その後、50歳前後になると更にマネジメントを担う人材が選抜されていくというのが、従来の銀行の一般的なスタイルだった。

 しかし、このスタイルでは、変化の激しい時代に本当の意味でのリーダー育成はできない。一方で、ただ若手を登用すればそれで良いというものでもない。若手の登用と同時にシニア層の活用や優秀人材の長在化も進めるほか、一定の年次になったらリーダーを「選ぶ」という従来の選抜スタイルから、変化の激しい時代に組織を牽引し得るリーダーを組織として意識して「育てる」という方向に思い切って舵を切っていかないと、総合的に組織力を高めていくことはできない。

 現代は、金融とテクノロジーを融合した、いわゆる「フィンテック」が加速度的に進化していくような時代だ。金融機関のトップが考えるべき課題は複雑多岐にわたる。従来のような硬直的ともいえるリーダーの選び方では、世の中や競争環境の変化のスピードに到底ついていけないのではないか。そうであるならば、組織を率いていくリーダーを、一定の段階で同じような母集団から「選ぶ」のではなく、様々な特性を持ったやる気に満ち溢れた人材を「若い頃から育てる」というやり方に変えていかなければならない、と考えた。

 私がリーダーに求める要件の1つに「相手に対するエンパシー(共感)を持ち、想像力を持って接する事ができる」というものがある。これからの時代、単に金融のプロというだけではリーダーに相応しいとはいえない。みずほはグループ全体で8万人を抱える巨大な金融グループであり、お客さまはもちろんだが、社内の人間も、グローバル化や金融ニーズの多様化・複雑化によって、さまざまなバックグラウンドを持つ人間が集まっている。どんな人ともエンパシーを持って対話できる力は、リーダーに必須のものなのだ。

幹部候補生が男泣き異色のリーダー研修

 みずほが昨年から導入した「次世代経営リーダー育成プログラム」では、これまでの画一的なリーダー育成・登用と一線を画し、室次長クラスから従来の部店長クラスまで、大まかな年次やポストごとにいくつかのレイヤーを設け、各層から次世代経営リーダーの候補者をグループワイド、グローバルベースで数百人選び出して、それぞれのレイヤーごとに密度の濃いプログラムを組んでみっちりと鍛えあげていくというものにしている。

 プログラムの内容は非常に多様だが、金融のノウハウではなく、むしろ文化や哲学、社会学など、いわゆるリベラルアーツの科目を学んでもらっている。さらに、これらのうち中堅幹部向けの研修では、ビジネススクールの「INSEAD(インシアード)」と連携して、みずほのために新たに開発したプログラムに参加してもらうが、一年間にわたる研修のうち2回ほど、1週間シンガポールのキャンパスに缶詰になり、英語で徹底的に人間力と総合力を鍛え上げる。

 この研修は独特だ。ビジネススクールでは「内省型プログラム」と呼ばれているものだが、例えば「自分の今のリーダシップスタイルは何なのか、何故そうなのか」「自分や組織はこの後、どこに向かおうとしているのか」、さらに「自分の人生が終わった時に皆に自分をどのように回顧してほしいのか」など、自らの人生や行動を徹底的に見つめ、今の自分について客観視について徹底的にイメージする。「一体自分は何者なのか?」という根源的な問いを1週間、とことん追究するのだ。多くの人は普段、仕事や家庭などに忙殺され、自分自身を抑え込んで社会生活を営んでいるものだが、この研修では、自分でも見えていなかった“本当の自分”が解放される。

 メンバー同士が心の内側を見せ合い、これまで家族以外には言わなかったような事もさらけ出して、1人の人間として向き合う訳だから、自ずと連帯感も生まれる。例えば、議論した内容は少人数のグループメンバーとコーチ以外には、例え同僚や人事部といえども絶対に口外しないと宣誓した上で、自らの過去と、現在に到る人生、そして未来への展望を皆で話し合う。

 こうした中では、子どもの頃から人知れず抱えていたトラウマを泣きながら打ち明け、それをコーチのガイダンスの元で全員が正面から受け止めて真剣に議論するというような、およそ普通の研修ではあり得ないような体験もする。まだ昨年から始めたばかりの研修だが、参加者からは口々に、「人生観が変わるような、深いインパクトのある体験だった」という声が寄せられている。

 私自身が日々痛感していることだが、社内外のさまざまな人たちと対話し、ビジネスを進めていくにあたって、もっとも必要とされるのは、知識ではなく「人間力」とでも呼ぶべきものだ。自分の真の感情を押さえつけて表面だけで生きている人間は、他者がどんな思いを持っているかを想像する力は持ち得ない。心の内面をとことん見つめ、「自分は何者か?」と問う経験は、この「人間力」を培う上で大いに役立つはずだ。

 他者への想像力を産み、コミュニケーション力の源泉ともなる「人間力」を持つ人材は、みずほ、金融業界のみならず、これからの日本社会が求めるリーダーだと思う。

トップ選抜を社外取締役に任せることの意義

 前回(記事はこちら)述べたように、指名委員会等設置会社に移行したみずほでは、取締役の選任・解任議案は「指名委員会」が決定する。そして、委員会の5人のメンバーは全員、社外取締役だ。国内では、指名委員会メンバー全員が社外取締役という企業はまだほとんどない。

 指名委員会では定期的に、私がいつ社長を辞めるべきか、次の人はどういう候補者がいるのか、さらにはどういう人材が今後のみずほを担うトップにふさわしいのか、といったサクセッションプランを徹底的に議論しているが、その結果は私にも知らされていない。

 多くの企業では、社長の任期は慣例で「○年」というように決められているようだが、時代が大きく変化している中で、任期を固定することはあまり意味がないと私は考えている。また、トップ像も同様で、ある時期にはフィットしているトップが、別の時期には逆に組織の足かせになりかねない、ということもある。だからこそ、定期的に、豊富な経験と人を見る深い洞察力をお持ちの社外取締役の方に第三者の目で見ていただき、徹底的な議論をした上で「今この時代」にふさわしいトップ選定、交代時期を探る必要がある。

 社外取締役なんてお飾りに違いない、という批判的な見方もあるようだ。「結局は社長が実質的な決定権を持っていて、社外取締役たちは単にOKを出す役割をしているだけだろう」、と。もしかしたら他にはそういう会社もあるのかもしれないが、みずほではそうした見方は全くあたらない。社外取締役の方々にはかなり時間をかけてきっちり情報や材料を共有してもらっているが、その結果としての指名委員会の議論は極めて重く、私の意向が反映されるとは限らない。  指名委員会だけでなく、私も参加している毎月行っている取締役会自体も相当な緊張感がある。少しでも気を抜けば、社外取締役の方々から厳しい指摘をいただき、私も含めた執行側の思い通りには物事が進まない事もある。取締役会の場で具体的な条件や指示事項が出ることも多い。

 もちろんハードな議論をしていただくからには、豊富な経験、知見を持ち、かつ本気で関わる意欲を持ってくれる社外取締役に来ていただかなければならない。

 幸いなことに、みずほは素晴らしい方々に取締役にご就任いただき、最強の布陣を敷くことができたと自負している。「この人は」と思える方に、何度も足を運んで我々の目指す姿を説明し、相当な負担と労力のかかるこの仕事を引き受けていただいた。今の体制に到るまでは様々な困難があったが、今やみずほの人事のあり方は、どこに出しても恥ずかしくない、透明性と合理性のあるものになっていると思う。

全ての社員にとって働きがいのある組織に

 34歳支店長は、年次をベースとした従来の画一的・硬直的な人事運営から転換していくなかでの結果の一つだが、一方で、50歳超で初めて登用された支店長もおり、高いレベルでの実績が期待できれば、年次や年齢にかかわらず活躍してもらうつもりだ。例えば、従来は2~3ヵ店支店長を経験し50歳を過ぎると転出することが大半だったが、現在は4~5ヵ店目の支店長も増えている。今後は支店長登用だけではなく、専門性が高く一層の活躍が期待できるベテラン層を更に活用していく。

 そしてもう1つ、みずほの人事改革で重要なのは、将来組織を牽引するリーダー候補だけではなく、グループ8万人の多様な人材の働き方だ。人生をどう生きたいか、というのは人によって随分と違う。たとえば、一般職も、意欲と能力次第で総合職になれる道を用意してはいるが、実際に総合職になりたいと思う人は限られている。「頑張って課長になれよ」などとハッパをかけても、本人は、むしろ勤務時間内にしっかり働き、それをきちんと評価してほしいという場合も多い。

 そういった社員に対しては、育児休暇や介護休職制度をしっかり整えるとか、職場で休職者が出たときに、ほかの人たちに負荷がかからないように人材を増員するなど、よりよい働き方を提供できる職場づくりに意を用いなければならない。

 また、仕事だけにすべてを懸けるのではなく、会社で全力投球した後は、ボランティア活動に力を入れている、というような人もいる。だったら会社は、そのボランティア活動をサポートするような仕組みを持ってもいいだろう。

 年代や国籍もバラバラな、実に多様な人材がみずほで働いている。人生観、そして心から求める生き方のスタイルは人さまざまだ。そうした多様な生き方、働き方への希望にできる限り応えていき、みずほで働くことを、喜びにしてもらいたい。そんな願いを持っている。

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