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ものづくりのIoT化が遅れる日本と、そのはるか先をいく他の先進国の大きな差とは

HARBOR BUSINESS Online のロゴ HARBOR BUSINESS Online 6日前

 ここ数年、多くのメディアが「IoT」という言葉を取り上げるようになり、世間一般にもその概念が定着しつつある。

 IoTとは、「Internet of Things」の略で、日本語では「モノのインターネット化」と定義されている。つまり、今までは主にパソコンや携帯電話、プリンタ等の通信機器同士のみが接続されていたネットワークに、あらゆる「モノ」までをも繋ごうとするものだ。

 筆者が個人的にこのIoTを初めて強く意識したのは、家電製品製造・販売会社の象印が2001年に開始した「みまもりほっとライン」の存在を知った時だ。同社は、まだ世にIoTの言葉も浸透していない頃から、高齢者が毎日お茶を飲む習慣を利用し、電気ポット(商品名:iポット)を使うと、離れて暮らす親族などの携帯にメールが届くという安否確認サービスを展開している。このCMを見た時、高齢者をよくぞここまでさりげなく“ネットの世界”へ巻き込んだな、と感心したものだ。

 IoTの概念は、実は1990年ごろからすでに議論されていた。それがここ数年で急速に広まったのは、スマートフォンの普及と、センサーの低価格化・小型化によって、普及環境が整ったためだ。

その後、IoTに関わる開発や商品化は多くの分野で進み、今や家電や自動車はもちろん、施設や生き物などといった「ありとあらゆるモノ」が、今までにない“スマート化”という付加価値をつけ、我々の生活に溶け込んでいる。

 総務省がまとめた最新の平成29年版「情報通信白書」の統計によると、インターネットに繋がるモノの数は2016年の時点ですでに173億個も世に存在し、2020年には300億個にまでなると推測されている。こういったIoT化やそれに伴う企業改革が進展した場合、日本の実質GDPは、2030年までに132兆円押し上がり、39%増の725兆円になる見通しだ。

 当然このIoTの大風は、日本の製造業界にも吹き始めている。最もポテンシャルのある市場の1つと言っていい。しかし製造現場である工場のIoT化や、その取り組み方は、日本と肩を並べるモノづくり大国のドイツやIT先進国のアメリカと比べると、残念ながら大きく出遅れているのが現状だ。

 前回は町工場のIT化の遅れについて紹介したが、今回は、筆者が数多くのモノづくりの現場で感じた「日本の製造業がIoT化に遅れを取っている理由」と、各国の取り組み方の差を挙げてみよう。

◆日本の製造業がIoT化に乗り遅れた原因

 日本がIoT化に乗り遅れた第一の要因は、日本の製造現場の主軸が中小企業であることにある。

 国内の製造企業のうち、実に約74%が資本金1,000万円以下の中小企業だ。それゆえ、彼らが設備投資をして工場をスマート化させる際には、ある程度の「賭け」と「覚悟」が必要となってくる。製造現場のIoT化には、データ収集・解析による「見える化」、機械の制御、さらにはその自動化・自律化といった段階があるのだが、その段階に伴って、センサー、通信機器、データの解析などにコストがかかることになる。しかも、製造の現場にある機械は、通常1種類ではない。モノづくりは「ライン」によって形成されているため、工場のスマート化を目指すのであれば、現場にあるほぼ全ての機械にセンサーを搭載しなければ意味を成さず、初期投資にまとまった資金が必要になることが多いのだ。

 第二に、セキュリティの問題が挙げられる。日本には、IoTに特化した明確なセキュリティ対策がまだ定着していない。既存のITシステムのセキュリティ対策では不十分なことが多く、収集・解析後のデータや個人情報の取り扱い方、それに不正アクセスによるラインの完全停止などを懸念する経営者が、IoT化を躊躇うケースも少なくない。

 さらに、閉鎖的な社会と国民性そのものが、IoT化に今一歩踏み込めない要因となっていることがある。製造のIoT化におけるキーコンセプトの1つは「つながる工場」の構築だ。しかし、日本の製造業界には、他社との協力によって何かを作り上げるという発想が生まれにくい。技術の国だからこそ、自社の技術を隠して守りたがる傾向がある。ゆえに、IoTでデータが「見える化」され、工場同士が繋がることは、彼らにとって技術や情報の漏えいとの格闘だったりもする。効力の有無に関わらず、古くから就業規則に同業他社への転職禁止を明言する製造企業さえあるこの日本で、「見える化」への180度の大転換に、「罪悪感」にも近い感情を抱く経営者も多いのだ。

こういった様々な要因が絡み合い、日本の製造業界の「IoT化」に向けた取り組みは、ブレーキとアクセルを一緒に踏みながら「様子を伺っている」状態となっているのである。

ハーバービジネスオンライン: 筆者の住むNYの街中でもIoT化が進む。写真はバスの到着時間や位置情報を伝える電光掲示板 © HARBOR BUSINESS Online 提供 筆者の住むNYの街中でもIoT化が進む。写真はバスの到着時間や位置情報を伝える電光掲示板

◆一方、世界でははるか先を行く

 そんな日本とは対照的に、ずいぶん前から国を挙げて製造業にIoTを積極的に取り入れている国が、ドイツである。

 ドイツは2011年ごろから、このIoT化に「Industorie4.0(インダストリー4.0)」と銘打って、国ぐるみで製造現場の工場を繋ごうと取り組んできている。今やその動向は世界の指標となりつつあり、「インダストリー4.0」という言葉そのものが、世界中の工場マン共通のスローガンにまでなっているほどだ。

 このインダストリー4.0は、「第四次産業革命」と訳されるが、つまるところ、ドイツではこの「IoTによるスマート化」を、第一次産業革命の「蒸気機関による機械化」、第二次の「電気による量産化」、第三次の「コンピュータによる自動化」に続く「革命」だと位置付けているのだ。

 父の工場が廃業した後、筆者はしばらくドイツの某大手自動車メーカーの日本本社へ赴いていた時期があるのだが、世話になっていたディレクターがしきりに言っていたのは「ドイツの『ミッテルシュタンド(中小企業)』の技術力」についてだった。

 「ドイツの製造業界はその約80%が中小企業。職人は皆繊細で、徒弟制度もある。日本と驚くほど似ているけれども、明らかに違うのは、彼らドイツの中小企業は、上(元請け先)から来る仕事を待ったりしない。下請けに甘んじず、自らの技術を国内外へ発信しようとする自発性がある。だからドイツの中小企業の利益率は、大企業よりも高いところが多い」

 父の工場がなくならなければ、彼らに会うこともなかったのだが、こういう話を聞かされる度に、あの工場が無性に恋しくなった。

 IT先進国であるアメリカも、製造の現場のIoT化を積極的に進めている国の1つだ。

 アメリカが推し進めるIoT化は「Industrial Internet(インダストリアル・インターネット:産業のインターネット)」と呼ばれ、2012年ごろから世界最大の複合企業「ゼネラル・エレクトリック社(GE)」を主軸とする大手民間企業によって、製造、エネルギー、ヘルスケア、公共、運輸の分野をITやICT(情報通信技術)の視点から変えていこうとする大規模な取り組みがなされている。これにより、製造業界のビジネスモデルは、製造、販売、保守や補充といった従来型から、データ収集や解析、コスト削減や効率化、品質向上といった「サービス産業」へと大変革を遂げようとしているのだ。

 インダストリー4.0の「工場のスマート化」や、インダストリアル・インターネットの「産業機器のスマート化」は、今後間違いなく世の中を大きく変える。方向性がすでに定まっている彼らが見据えているのは、「世界の標準化の獲得」という次のステージだ。一方、日本もようやく2015年10月に経済産業省と総務省が、企業や自治体、研究機関などと連携して「IoT推進コンソーシアム」を組織したが、アメリカから3年、ドイツから4年の遅れは、正直かなり大きい。

 それでも「お茶を楽しみながら安否を知らせる」発想が生まれる国だ。IoTに特化したセキュリティ対策の強化や、中小企業がIoT化しやすい環境の整備を、日本が誇る発想力とカイゼン力で推し進めることができれば、今後大逆転も十分にあり得るはずだ。

<文・橋本愛喜>

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。

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