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ゆうちょ銀の評価が何ともパッとしない理由 集金力は断トツなのに稼ぎ方の効率が悪い

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/04/18 泉田 良輔
国内最大の預貯金を抱える銀行の上場から1年半。株価が冴えないワケは(撮影:尾形 文繁) © 東洋経済オンライン 国内最大の預貯金を抱える銀行の上場から1年半。株価が冴えないワケは(撮影:尾形 文繁)  

 ゆうちょ銀行。郵政民営化に伴って、日本郵政公社から郵便貯金事業を主体として引き継ぎ、発足した銀行だ。そのゆうちょ銀行が2015年11月に上場してから間もなく1年半を迎える。現状でゆうちょ銀行はどう評価されているか、データを基に、ここまでの「通信簿」を見てみよう。

冴えない株価のゆうちょ銀行

 東京証券取引所では、「TOPIX(トピックス:東証株価指数)」という数値を発表している。これは東証1部に上場しているすべての株式銘柄の時価総額を調整し、指数化したもので、要は東証1部企業全体の株価動向を表す数字である。ゆうちょ銀行が上場した2015年11月4日の株価の終値を100として、今年4月7日までの「ゆうちょ銀行」「3大メガバンクグループ」、そして「TOPIX」の週次の株価指数を見てみると、4社いずれもTOPIXに比べて大きく株価パフォーマンスが下回っている。

 

 これは銀行株全体にもいえることだが、2016年1月からの日本銀行による「マイナス金利」の導入以降は、その傾向が顕著だ。その中でも特にゆうちょ銀行は、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)と並んでパッとしない状況である。ゆうちょ銀行は、上場後しばらくはいい状況を維持していたが、その後は大きくパフォーマンスが悪化したことになる。株価がその企業への一定の「評価」だとすれば、どうしてゆうちょ銀行の評価は低いのだろうか?

 ゆうちょ銀行の株式市場での評価を理解するために、まずはゆうちょ銀行がメガバンクと比べてどのくらいの規模なのか、事業内容がどう違うのかについて見ていこう。

 銀行を傘下に持つメガバンクグループ3社とゆうちょ銀行を、財務データをはじめとした数字で比較してみる。まず「総資産」は、預金者や債券市場、株式市場から資金調達した運用資金を合計したものである。これを見れば、金融機関のおおよその規模をつかむことができる。

 総資産が最も大きいのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)で約298兆円。次いで大きいのがゆうちょ銀行の約207兆円だ。ゆうちょ銀行の総資産は、他の2メガバンクグループであるみずほFG(約193兆円)や三井住友フィナンシャルグループ(SMFG、約187兆円)よりも大きい。

 総資産の規模をざっくり頭に入れたところで、集めた資産の「使いみち」はどうなっているか? 最大の特徴は、メガバンクグループがだいたい預金の70%程度を貸し出しすることで利ザヤを稼いでいるのに対して、ゆうちょ銀行は貯金(ゆうちょ銀行や農協では「預金」ではなく「貯金」と呼ぶ)に対する有価証券(株式・債券など)での運用比率が80%と非常に高いことだ。ゆうちょ銀行の総資産が約207兆円であるのに対して、貸出金はわずか2兆円、比率で言えば1%程度しかない。

 では、ゆうちょ銀行はどんな有価証券に投資をしているのか? ゆうちょ銀行が運用する144兆円のうち、82兆円は国債だ。割合で言えば60%弱を占めている。国債以外には、外国債券や投資信託などの外国証券にも約45兆円を投資している。実はゆうちょ銀行は、有価証券の内容だけを見れば立派な「グローバル投資家」だといえる。

ゆうちょの「集金力」はさすが

 預金(貯金)の総額だけを見ると、ゆうちょ銀行が約178兆円と、MUFGの161兆円をはるかにしのぐ規模だ。民営化以前からの郵便貯金への信用に加え、拠点の数やATM設置台数など、預金者との「接点」はメガバンクグループと比較すると圧倒的に上回っている。これまでの金融商品の魅力や地域での信用が厚いといった歴史的な背景がある。

 ここからは、「利益をしっかり生んでいるか」という観点で見てみよう。銀行業務の中心となる貸し出し・運用に伴う収入から費用を差し引いたものを「資金利益」と呼ぶが、この資金利益や保険・投資信託などを預金者に売って得た利益(役務取引等収益という)などの利益の合計である「業務粗利益」や、税金なども払ったうえで残った利益である「当期純利益」などをまとめてみる。

 

 業務純益や当期純利益など、利益の規模はMUFGがナンバーワンだ。業務粗利益に対する業務純益の比率は、SMFGが若干高いものの、メガバンクグループはだいたい40%弱である。その一方で、ゆうちょ銀行の数字は30%を下回り、「総資産が大きい割に、収益の規模も収益性も低い」といえる。

 ついでに業務粗利益の内容についていえば、ゆうちょ銀行では、業務粗利益の9割以上を資金利益が占めているということが特筆される。これも先ほど触れたように、貸したおカネに対する利息収入はわずかで、大部分は国債や外国証券からの利息や配当金などで稼いでいる。ゆうちょ銀行の資産運用の特徴が、業務粗利益の構成にもよく表れているといえる。

 また、保険や投信などの販売利益である「役務取引等利益」の比率と規模も、ゆうちょ銀行のネットワークの広さや貯金残高を考えると小さい。要するに、「貯金以外の金融商品をほとんど売っていない」ということだ。

 これは、「拠点やATMが有効活用されていない」というのと、「これまで顧客に金融商品を積極的に勧めてこなかった」ということが背景だろう。逆に言えば、まだ貯金をほかの金融商品に振り分けることができる「伸びしろ」が大きいといえる。この点はメガバンクグループにとっては脅威のはずだ。

レシオを見るとわかる効率の悪さ

 ここまで見てきた数字をさらに発展させると、メガバンクグループとゆうちょ銀行の経営効率や資本効率などを知ることができる。ここでは3つの代表的な数字を挙げておきたい。

 

 (1)経費率(OHR)

 Over Head Ratio(オーバー・ヘッド・レシオ)の略で、営業経費を業務粗利益で割ったものだ。一般的には、この比率が低ければ効率的な経営がなされており、高ければ経営効率が悪い。

 メガバンクグループのOHRはおおむね60%前後といった水準だが、ゆうちょ銀行は70%超。メガバンクグループと比べると非効率な運営がされていることが数字からもいえる。

 (2)株主・自己資本利益率(ROE)

 また、株主から見た場合に、会社が効率的に運営されているかを知る指標として「ROE」がある。これはReturn on Equityの略で、当期純利益を株主資本や自己資本で割ったものである。

 ROEを見ると、ここでもゆうちょ銀行の水準の低さが目立っている。銀行業に限らず、多くの業種の企業でROEは2ケタの水準が欲しいと考える株式投資家は多いが、その点や同業他行の数字と比較してもゆうちょ銀行の水準は低い。

 (3)総資産利益率(ROA)

 Return on Assetの略で、総資産に対して当期純利益がどのぐらいの比率かを見たものである。このROAでも、ゆうちょ銀行の「資産の運用と費用の使い方」の効率性に問題があることがわかる。

 こうして見てくると、冒頭に見た株価パフォーマンスも、株式市場がゆうちょ銀行に対して厳しい見方をしている結果と見えなくもない。

銀行を知るデータ

 ここまでは銀行の持ち株会社全体(フィナンシャルグループ)を見てきたが、ここからは銀行単体の規模について、データを基に比較していきたい。

 

 まずは口座数から見てみよう。メガバンクはそれぞれ同程度の規模だと考えている方も多いが、実はそうではない。三菱東京UFJ銀行(BTMU)の口座数は約4000万口座ある。日本の世帯数が約5300万であることを考えれば、その口座数の多さがわかるだろう。三井住友はその7割、みずほは6割の規模だ。

経営者が取れる選択肢もまだまだ多い

 なお、銀行が持っている口座数は、株式投資家にとっては基礎中の基礎データといえるが、ゆうちょ銀行については、決算資料を端から端まで読んでも口座数についてはいっさい触れられていない。メガバンクのように口座数を詳細に開示していないものの、口座を保有している人数は約1億2000万人いるようだ。つまり、日本人のほぼすべてに近い人数がゆうちょ銀行との接点を持っているという驚くべき状況にある。

 ATMの設置台数も、意外なほど差が大きい。それぞれの銀行が持っているATMの台数では、メガバンクの中では三菱UFJが頭1つ抜けている。みずほはイオン銀行のATMでもみずほ銀行ATMと同じ条件で利用できるようにし、その合計が約6800台としているが、みずほ単体では1800台だ。

 そのメガバンク3行と比べても、ゆうちょ銀行の約2万7000というATM台数は群を抜いている。国内のセブン-イレブンの店舗数が約1万9000店舗であることを考えれば、その台数の膨大さに気づくだろう。

 従業員数は、メガバンクグループに関しては、約2万7000~約3万4000人とおおよそ事業規模に応じた水準といえるが、ゆうちょ銀行に関しては、総資産の規模の割に1万2000人という従業員数は少ない。これは貸出業務などの比率が小さく、一般的な銀行とはビジネスモデルが異なっていたことが要因と考えられる。

 その一方で、これまで見てきたように、ゆうちょ銀行は収益率が低い。今後、貸し出しを積極化させたり、有価証券投資も国債から他の証券にシフトさせたりして収益率を改善していくのであれば、ビジネスモデルを変えることにもなる。「効率性改善」という観点では、ゆうちょ銀行は経営者が取れる選択肢もまだまだ多いが、今後は人員増を伴いながら経費が増えることも想定され、いずれにせよ難しい経営の舵取りが必要となるだろう。

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