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オンワード「600店撤退」に映る大量閉店の難題 成長性には見切りをつけ収益性に舵切る戦略

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/10/10 07:25 鈴木 貴博
「23区」はオンワードを代表するブランド(撮影:今井 康一) © 東洋経済オンライン 「23区」はオンワードを代表するブランド(撮影:今井 康一)

 『23区』や『組曲』『五大陸』などのオリジナルブランドで知られるアパレル大手、オンワードホールディングスの保元道宣社長が10月4日の決算記者会見で構造改革の一環として国内外の2割に相当する600店舗を閉店する方針を明らかにしました。

 この方針は上期の営業損益が8億6100万円の赤字に転落したことを受けての発表でした。上半期が営業赤字とはいえアパレル業界では秋冬物のシーズンで売り上げの回復が見込めるわけで、実際にオンワードの通期予想も下期の黒字で盛り返して営業利益は12億円の黒字を計画しています。それでもこのタイミングで大規模な店舗閉鎖という先回りした打ち手を発表したことはある種の驚きを感じました。

地方中心に百貨店からの撤退不可避

 もともとオンワードは百貨店に対する営業に強く、全国の百貨店のアパレル売場ではとても良い場所をおさえてきました。百貨店の側も苦戦が続く中でオンワードの売上に業績が支えられてきたのは事実です。ところがオンワードが600店舗で閉鎖するとなると地方を中心に百貨店からの撤退は避けられないことになります。

 さて、オンワードはなぜこれほどの規模で閉店を計画するのでしょうか。経営学的な観点から大量閉店のメリットと気をつけるべき点についてまとめてみたいと思います。

 過去の日本企業で大量閉店の最大の成功例だと私がとらえているのは1999年からはじまった日産リバイバルプランにおける国内ディーラー網の再編です。

 日産自動車はバブル期に国内首位のトヨタ自動車を追走する拡大戦略をとりました。当時の日産の国内ディーラー網は日産店、モーター店、プリンス店、サニー店(現サティオ店)、チェリー店の5系列にまで拡大していました。ところがバブル崩壊後に国内の消費が低迷する中で、販売網を広げたことで逆に収益が悪化するだけだという状況に日産は陥ってしまいます。1998年には2兆円もの有利子負債をかかえて経営危機が訪れるのです。

 その当時のゴーン改革の狙いは「日産自動車に対する需要に供給サイズをあわせること」にありました。当時でも首位トヨタと日産の国内市場占有率は大きく開いていて、日産のシェアはトヨタの半分以下でした。にもかかわらずその差を埋めようと過去の経営陣が意欲的な計画を建て自動車の供給体制を増やしてきた。具体的に言うと工場を増やし、車種を増やし、宣伝に力をいれ、営業力つまりディーラーの店舗数を増やしていったのです。

 しかし、そういった計画で背伸びした工場や店舗の規模に見合った日産需要が国内には存在しなかった。そのことが日産に危機を起こした要因の一つだったのです。それでゴーン氏が何をやったかというと、販売店に関しては5つあった系列をまずブルーステージとレッドステージの2つに集約・統合、さらにその後、日産1系列に一本化するという戦略を進めました。

 日産の販売会社にはメーカー直系や地場資本もあるので、すべてがメーカーである日産の意向で再編や店舗閉鎖できることではありません。とはいえ、結果としては日産の狙いに沿ってピークには3000カ所を超えていた日産の系列販売店は、現在2000店強まで減るなど、結果として大量閉店が進みました。

 日産の収益はその後、改善していきます。車種も減らし、取引先の部品メーカーの数も半分近く減らすなど、生産側も日産の実際の背丈にあった大きさに縮小させていったことも大きな要素ですが、大量閉店につながった店舗再編によって販売チャネル規模を修正し、国内流通のコストが適正化したことは日産の収益向上に大きく寄与したわけです。

 このように企業経営に劇的な効果をもたらすのですが、企業経営者は大量閉店をあまりやりたがりません。これはオンワードにとってもこれからの課題ということになるのですが、大量閉店には3つのリスクが存在すると私は考えています。

現場との摩擦に向き合うエネルギーの消耗

 ひとつめはこれが何といっても大きいのですが、閉店にともなう現場との摩擦に向き合うことが非常に経営者のエネルギーを消耗させるのです。今回の例で想定されるのは地方の百貨店の抵抗です。なにしろこれまで何十年もかけて培ってきた信頼関係と人間関係があり、実際にお互いに助け合ってきた歴史があるわけです。

 そしてその百貨店からオンワードが撤退することで百貨店そのものが衰退する危険性がある。その背景事情を考えれば、オンワードが閉店を計画する百貨店側は全力でそれを止めにくるはずです。同時にオンワード側の担当者も閉店や従業員の首切りには抵抗するでしょう。そしてその数が全部で600店舗ということですからそれをやり遂げるエネルギーは大変なものになるはずです。

 ふたつめに店舗をどう減らしていくのかの具体的な計画において、ブランドと店舗の縮小計画を連動させるのが非常に難しい。オンワードの店舗といってもそれは女性向けの『23区』『組曲』、男性向けの『J.PRESS』『五大陸』といった具合にブランドごとに細分化されています。たとえば地方都市の百貨店にこの4ブランドの店舗があったとして、4店舗とも閉鎖してしまうとその都市での売上はゼロになってしまいます。

 そこで仮に『23区』と『五大陸』だけ残すといった具合に2店舗だけ閉鎖したらどうかということになりますが、ブランド別に店舗を残しても店舗数に比例して売上が減るだけです。ですから本当は店舗を減らすことと並行して販売ブランドの統合も必要になってくるのです。

 日産の場合は統合した店舗で、過去に別々の専売車種を併売できるようになりました。ただ店舗を減らすだけでなく残した店舗で売ることができる商品を増やすのが望ましいのですが、アパレルはそもそもお店とブランドが一体化しているのでそれが難しい。『五大陸』のお店で『J.PRESS』のポロシャツを扱うことを考えて見ると、ちょっとした無理がある。ここをどう乗り越えるのかが難しいのです。

シェアや存在感の低下は避けられない

 3つめに大量閉店で身の丈にあった店舗網サイズにすることで収益性は確保できるようになるのですが、その反面、規模としてはその後、長期にわたってその縮小された店舗網サイズに売り上げや市場シェア、存在感がとどまってしまうというマイナスの影響がでてしまいます。日産の場合も収益性は高まった一方で、国内の月次市場シェアは徐々に減少して、直近では10%台の前半、10%に近い数字へと張り付いていますし、ランキングではかつての安定した2位ではない、2位と3位を毎月行ったりきたりする状況です。

 結局のところ収益性と成長性はトレードオフ(二律背反)の関係にあって、大量閉店を断行するということは成長性に見切りをつけて収益性におおきく舵を切るということなので、これは当然の結果かもしれません。

 この大量閉店の計画を発表した直後、10月7日のオンワードホールディングスの株価は前日比で4.9%の上昇となりました。資本市場はオンワードの事業計画について高い好感度をもって迎えたということになります。

 でもその好感がこの先も続くかどうかは、ここまで述べた3つの事柄、つまり「摩擦に耐えて断行しきれるのかどうか」「ブランド毎の売上減を最小にとどめることができるかどうか」そして「収益回復後に縮小均衡に陥らないかどうか」にかかっています。資本市場は冷徹にこの3点を見続けていて、オンワードに投資をするかどうかを判断していくはずなのです。

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