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コテコテの鉄道会社が、なぜ、農業に参入したのか?

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/10/11 06:00 唐池 恒二
コテコテの鉄道会社が、なぜ、農業に参入したのか? © 画像提供元 コテコテの鉄道会社が、なぜ、農業に参入したのか?

非常に高額なのに、最高競争率316倍!いま、この日本で、宝くじのように当選するのが難しいサービスが存在することを、あなたはご存じだろうか?JR九州。正式名「九州旅客鉄道株式会社」。名前だけ聞くと、旧態依然の鉄道会社のイメージを持つかもしれない。だが、この会社の「あるサービス」がひそかに感動の輪を呼んでいる。東京だけで暮らしているとわからない。でも、九州に行くと景色は一変する。その名は、クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」(以下、ななつ星)。いまや「世界一の豪華列車」と称され、高額にもかかわらず、2013年の運行開始以来、予約数が定員をはるかに上回る状態が続いている。なんと、DX(デラックス)スイート(7号車の最高客室)の過去最高競争率が316倍というから驚きだ。昨年11月の『日経MJ』には、「ブランド作りとは世界の王でも断る覚悟」と題して、そのフェアな抽選システムが新聞一面に紹介された。だが、驚くべきは、「ななつ星」だけではない。この会社、バリバリの鉄道会社なのに、売上の6割は鉄道以外の収入で、8年連続増収なのだ。かつてこんな会社があっただろうか?JR九州を率いるのは唐池恒二氏。8月27日、韓国と九州を結ぶ真っ赤な新型高速船「クイーンビートル」を2020年8月に就航すると発表。子どもから大人まで博多と釜山の優雅な旅を満喫できるという。さらに、7月には、中国・アリババグループとの戦略的資本提携を発表。2020年の東京オリンピックを控え、ますます九州が熱くなりそうだ。記者は、この20年、数々の経営者を見てきたが、これほどスケールの大きい経営者はほとんど見たことがない。1987年の国鉄分割民営化の会社スタート時は、JR北海道、JR四国とともに「三島(さんとう)JR」と称され、300億円の赤字。中央から完全に見放されていた。それが今はどうだろう。高速船、外食、不動産、建設、農業、ホテル、流通、ドラッグストアなど売上の6割を鉄道以外の収入にして8年連続増収。37のグループ会社を率い、2016年に東証一部上場、2017年に黒字500億円を達成。今年3月1日の『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)でも、逆境と屈辱から這い上がってきた姿が紹介された。今回、再現性のあるノウハウ、熱きマインド、破天荒なエピソードを一冊に凝縮した、唐池恒二氏の著書『感動経営』が、発売たちまち3刷。唐池氏に『感動経営』にこめた思いを語っていただこう。(構成:寺田庸二)

初産みたまごのおいしさに心から感動

 養鶏場から朝産みたての、まさに“ほやほやの”たまごが社長室に届いた。

 福岡県飯塚(いいづか)市にある養鶏場は、6棟からなる。 1棟に1600羽の鶏を飼育しているから全部入居(?)すると、9600羽になる。 4ヵ月前に養鶏場が完成し、その月から毎月1棟ずつ1600羽の雛鳥をケージの中に入れていき、6ヵ月で6棟すべてが満室になる。

 当社が得意とする分譲マンション事業なら、竣工即完売といったところだ。 その日届いたたまごは、1棟めの最初の入居組の雛たちが、入居して半月から1ヵ月ではじめて産んだ、“初産みたまご”だ。

 初産みたまごは祖母に食べさせろ、といわれる。 サイズは小さいが見るからに活力に満ちていて栄養価が高い。 初産みたまごを一度食すと、もうほかのたまごに手が出ない。 格別のおいしさに心から感動する。

 このとき、農業をはじめてよかった、と改めてしみじみ思う。

 私が社長時代に、JR九州は農業に参入した。農業をはじめてから、多くのひとから聞かれたことがある。

「なぜ、鉄道会社のJR九州が農業に取り組むのか」

その答えとして、いつも公式見解を用意している。JR九州が農業に力を入れる理由は3つある。

1 各地に耕作放棄地が増えていくのを見てさびしく感じたから、である2 日本の美しい田園風景を守るため、である3 農業と鉄道業には共通点があること、である

 以上の3つが、JR九州が農業を手がけるおもな理由だ、というのが公式見解だ。

農業には映画や小説と同じ力がある

 しかし、公式見解として表明したことがない、もうひとつの理由がある。

 それは、農業がひとを元気にする仕事だということだ。

 ひとを元気にすることは、素晴らしい。 私は、自称映画好きで読書家である。 だから、映画をつくったり、小説を書いたりするひとたちを尊敬する。

 それは、映画を観て元気になるからだ。 小説を読んで感動するからだ。

 その元気と感動のもとをつくっている映画監督や俳優、作家の方々には、いつも敬意を払うとともに感謝している。

「元気をありがとう。感動をありがとう」

 映画や小説と同じように、農業もひとを元気にする。 農業の本質は、食物をつくり出すことだ。 食物は、生命維持のためのエネルギーとなる。 食物の大半が、米、麦、野菜、畜産品など農産物に由来する。 農業が存在しないと、人類は摂取すべきエネルギーのもとをほとんど失ってしまう。

 農業は食物を提供することにより、ひとの生命を維持している。 さらには、食物はひとの元気と活力を生み出す。 すなわち、農業はひとを元気にしているのだ。

 ななつ星も、農業の恩恵にあずかっている。 ななつ星では、九州各地の農家から厳選された農産物を食材として料理に使用している。 どの食材もお客さまから評判を得ている。

 特に、阿蘇駅のホーム上につくったレストラン「火星(かせい)」での朝食は圧巻だ。 テーブルには、阿蘇のとれたて野菜がずらっと並んでいる。 ビュッフェ方式で自由に選んでもらうわけだが、朝というのに、高齢のお客さまも次々に新鮮な野菜をお皿にとっていかれる。

「阿蘇の野菜っておいしいわね。ついつい食べてしまう」

 九州の農産物がななつ星のお客さまを元気にしている。

農業は生きがいにつながる

 農業は、食としてひとに元気のもとを提供しているだけではない。 もうひとつ、農業は、働くこと、すなわち農作業をすることを通じて、働くひとたちも元気にする。

 JR九州の農場では、以前農家だった多くのひとたちにも農作業を手伝ってもらっている。 自身が高齢になったことと後継者不足から、農業を営むことをやめたひとも、決して農作業自体が嫌なわけではない。

「農作業をしていると、いつまでも元気でいられる」

 農業は、苦労の多いたいへんきつい仕事だが、不思議と、農作業自体は心身を元気にするという。

 引きこもりや不登校の若者が農業に従事することにより、普通の社会人としての生活が送れるようになった、という報告をよく耳にする。

 私も、数年前に宮崎県都城(みやこのじょう)市にある農業法人の視察に行ったとき、同じ話を聞いた。 引きこもりの若者たちも、ここで農業に従事すると、働くことの楽しさや生きがいを見つけ、数年ここで働いたあと独立して、みずから農業経営を行うひとも出てきているという。

 農業は、食の提供という本来の機能だけでもひとを元気にするが、農業に従事すること自体にもひとを元気にする力がある。

 このことが、私が農業への参入を決めた、もうひとつの理由だ。

☆ps. 今回、過去最高競争率が316倍となった「ななつ星」のDX(デラックス)スイート(7号車の最高客車)ほか、「ななつ星」の客車風景を公開しました。ななつ星の外観やプレミアムな内装の雰囲気など、ほんの少し覗いてみたい方は、ぜひ第1回連載記事を、10万PVに迫る勢いの大反響動画「祝! 九州」に興味のある方は、第7回連載 もあわせてご覧いただければと思います。

唐池 恒二(からいけ・こうじ)九州旅客鉄道株式会社 代表取締役会長「三島JR」と称され、300億円の赤字というどん底のスタートを切った同社にあって、全社員と共に逆境と屈辱から這い上がり、500億円の黒字(2017年度)に導いた立役者。同社は現在、売上の6割を鉄道以外の収入にして8年連続増収中。高速船、外食、不動産、建設、農業、ホテル、流通など37のグループ会社を伴い、連結の売上額は4133億円、経常利益670億円(2017年度)を計上。1953年4月2日生まれ。1977年、京都大学法学部(柔道部)を卒業後、日本国有鉄道(国鉄)入社。1987年、国鉄分割民営化に伴い、新たにスタートした九州旅客鉄道(JR九州)において、人気温泉地・由布院の魅力を凝縮した「ゆふいんの森」や、浦島太郎の竜宮伝説をテーマにした「指宿のたまて箱」など、11種類のD&S(デザイン&ストーリー)列車をつくり、次々大ヒット。列車を「移動手段」から「観光資源」へと昇華させた。1991年に博多~韓国・釜山間にデビューした高速船「ビートル」就航に尽力。さらに、大幅な赤字を計上していた外食事業を黒字に転換させ、別会社化したJR九州フードサービスの社長に就任。2002年には、同社でみずからプロデュースした料理店「うまや」の東京(赤坂)進出をはたし、大きな話題に。2009年6月、同社代表取締役社長。2011年には、九州新幹線全線開業、国内最大級の駅ビル型複合施設「JR博多シティ」をオープン。 2011年に制作指揮した「祝! 九州」のテレビCMは「カンヌ国際広告祭」アウトドア部門金賞受賞。2013年10月に運行を開始し、総工費30億円をかけ世界一の豪華列車とも称される「ななつ星 in 九州」では、企画立案からデザイン、マーケティングまで陣頭指揮を執り、大人気となる。2014年6月、同社代表取締役会長。2016年には、長年の悲願であった東証一部上場を実現。2018年7月には、中国・アリババグループとの戦略的提携を発表。今後の動向にさらなる注目が集まっている。【JR九州HP】https://www.jrkyushu.co.jp

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