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ゾゾタウン社長:「アートは人をつなぐ」高額落札の理由

毎日新聞 のロゴ 毎日新聞 2017/11/11

 これほど注目される日本人アートコレクターはバブル期以来、初めてだろう。衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイ社長の前沢友作氏(41)は今年5月、ニューヨークのオークションで米国人画家ジャン・ミシェル・バスキアの作品を約1億1050万ドル(約123億円)で落札し、世界のアート界の“時の人”になった。精力的に作品を収集する一方、若手美術家を応援する現代芸術振興財団(CAF・東京)を設立し、出身地の千葉に美術館を開設する計画も進める前沢氏に聞いた。【聞き手・学芸部編集委員・永田晶子】

 ◆今回のドクロのようなモチーフが描かれたバスキアの無題作品(1982年制作)は6000万ドルの予想価格を大きく上回り、米国作家の作品の落札額として過去最高を記録しました。経緯を教えてください。

 --まず現地に出向いて事前のプレビュー(下見会)で作品を見せてもらいました。直感的に絶対ほしいと思った。当時、大方の人の予想価格は70億~80億円くらい、約1年前に購入した同じバスキアの作品が約60億円だったので、「それより上に行っちゃうか、まあ仕方ない」と、多少無理してでも買う意気込みでした。

 当日は東京の自宅にいて、インターネットの生中継をパソコンで見ながらスマホ片手に入札金額を告げる体制で臨みました。そしたらあれよあれよという間に価格が1億円ずつくらい上がり、最終的な落札価格は9800万ドルで、手数料等を入れると123億円になりました。本当にほしいと思った作品なので追っかけちゃいましたね。僕と同じように思った競争相手が2人くらいいたようです。落札できた時はうれしかった。感無量という感じ。

 ◆作品のどのような点にひかれましたか。

 --バスキアは多種多彩な作品があり、さまざまな作品を見てきたし、過去に購入もしましたが、今回の作品が僕には断トツに響いた。構図がいいとか、色遣いが素晴らしいとか、理由を挙げればきりがないけれど、間違いなく彼の最高傑作の1枚だと思います。いわゆるマスターピース。競争相手の2人もそう感じたからこそ、予想をはるかに上回る価格まで入札が続いたのでしょう。

◆1988年に27歳で死去したバスキアの作品は美術史上の評価が確定しているとは言えません。なぜ、それほど魅了されるのですか。

 --ユニークだからです。誰が見ても明らかに彼だと分かる個性がある。だれもまねできず、誰かのまねをしたわけでもない唯一無二の存在。僕はビジネスをやっているので、人と同じ事をやってもダメだとよく分かっていますから、人と違うことをする人間にひかれるし、見たことがない作品にひかれがちなんです。バスキアはストリートから身を起こした一匹オオカミで、絵筆とスプレー缶だけでのしあがった。作品だけでなく生き方にも共感します。

 ◆記録的な価格が今後、評価に影響を与えるという意見もあります。

 --もし僕がそうした動きを牽引(けんいん)できたなら光栄だし、これを機にバスキアを知らない人に彼の名前や作品が届くならこれほどすばらしいことはないと思いますね。入手した作品を自分だけで楽しむのではなく、多くの人と共有したいと思ったので今回初めて公開展示しました(東京・代官山で10月31日~11月5日)。今後、国内外の美術館などの展示にも貸し出す予定です。

 ◆約10年前からアート収集を始めたそうですね。きっかけは。

 --最初はインテリアの延長くらいに考えていました。元々、建築や家具が大好きなので家具や住まいにはこだわりがありましたが、壁に良い作品を飾りたいと思い、アートの研究を始めたんです。最初に買ったのはロイ・リキテンスタイン(1923~97年)の78年の絵画。グリーンとイエローをふんだんに使った、いかにもリキテンスタインらしいポップな作品です。それを会社の壁に掛けたり、家に飾っていたりすると、作品の存在感もさることながらアートと暮らしたり、働いたりする感覚にすっかり魅了されてしまいました。真っ白い壁の部屋は落ち着かなくてもう住めません(笑い)。今ではアートは家族みたいな存在です。

 ◆コレクションの規模と内容は。今回の展示ではバスキアのほか、クリストファー・ウール(1955年~)やマーク・グロッチャン(1968年~)ら米国作家の作品を公開しましたが、海外作家が中心ですか。

 --点数は非公開ですが、大御所から若手まで、海外や日本の作家の作品を幅広く収集しています。現代美術が中心ですが、茶道具や家具も集めています。日本人作家では河原温さん(1932~2014年)の「日付絵画」が好きで、結構持っています。最近、山口長男(たけお)さん(1902~83年)の作品も幾つか購入しました。

 先日、ついにピカソの絵画を手に入れることができました。愛人だったドラ・マールを描いた1938年の小品で、色遣いがとても美しい。茶道具は主に安土桃山時代の美濃焼です。堅苦しいお茶事はしませんが、特別な日は実際に使うこともあります。鑑賞するだけでなく、使った方が器も喜ぶと思うので。フランスの建築家ジャン・プルーヴェ(1901~84年)がデザインした家具もコレクションしています。世界に2点しかない彼の組み立て住宅「F8×8BCCハウス」も所有しており、昨年は財団が主催してそれらを公開するプルーヴェの回顧展をフランス大使公邸で開催しました。

 ◆作品を選ぶ基準は。アドバイザーはいますか。

 --いないんですよ。鑑定が必要な時は第三者機関に依頼しますが、基本的には自分の目で見て判断し、買っています。投資目的ではないので購入後に値段が上がる、下がるは全然関係なく、自分が作品を好きでほしいかどうかが基準です。「値段は上がるの?」と聞きながら買う方も結構多いと聞いたことがありますが、僕は全く関係ありません。

 買い方は大きく二つあって、「この場所にこういう感じの作品がほしい」と思い、探して購入するパターンとアートフェアやギャラリー、オークション会場を回ってほしくなり買うパターン。若い人の作品はインスタグラムで見つけて買うことが結構ありますね。最近、自作をインスタにアップしている若手が多いので。気に入れば連絡を取って作品写真を集めたポートフォリオをもらい、「ほかに販売している作品はありますか」と聞いた上で選んで買わせていただく。一番若くて25歳くらい、無名の作家でも気にならないですね。自分がその作品が好きになれば。

 ◆作品を見る目はどのように養っていますか。

 --オークションの下見会場はとても良いですよ。なぜなら全部にエスティメート価格(予想落札価格)がついているから。悲しいかな、値段は現時点での作品の価値を表しています。作品と値段をセットで見ていくと、どういうものが評価され、あるいは評価されないか、オークション会場は教えてくれます。もちろん美術館やギャラリー、スイスのバーゼルをはじめアートフェアにも行きます。特にアートフェアは若い人から大家まで、あらゆる作品が集まっているので、それこそ目が養えます。

 ◆コレクションの目的は。

 --千葉市の街中に美術館を作ります。既に敷地を取得し、どのような形で運営し、どのような美術館にするのか、詰めている段階です。もう少し具体的な完成時期が見えたら発表したい。コレクションは僕のものですが、会社は上場企業だし、財団は公益財団といずれも公的な器なので、どのような仕組みでやるのがベストか、皆さんの了解を得ながら進めていく必要があります。それほど大きい美術館にはならない予定ですが、コレクションを常設展示するほか、企画展の開催や、若い作家の展示の場に使ってもらうことも考えています。それなりに楽しんでもらえる規模になると思いますよ。

 ◆美術館を開設する目的は?

 --国内外さまざまな美術館に行きましたが、特定の作品が特定の場所で輝いているのを見ると無性にうれしくなるんです。単なる真っ白い箱に作品が並んでいる美術館ではなく、ロケーションと建築、アート作品が三位一体になった時にしか生まれないオーラが感じられる場所。その感動を多くの人に伝えたいと思い、ではどうしたらと考えた時、自分でつくった方が早いと思った(笑い)。

 例えばデンマークのルイジアナ美術館には彫刻家アルベルト・ジャコメッティ(1901~66年)の代表作「歩く男」が置かれたスペースがあるのですが、ガラスの向こうに美しい風景が広がり、この作品のため展示室をあつらえたんじゃないかと思うくらいオーラがある。米国・ヒューストンの「ロスコ・チャペル」もすばらしいし、スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館や韓国のサムスン美術館リウムも好きですね。千葉の美術館もアート作品が一番輝く場所にしたいと思っています。

 ◆目標とするコレクターはいますか。

--特にいませんが、ペギー・グッゲンハイム(1898~1979年)は素晴らしいコレクターだと思います。彼女の旧宅を美術館にしたイタリア・ベニスのペギー・グッゲンハイム・コレクションを訪れたことがありますが、小さいけれど良質な作品を丁寧に集めている印象があり、彼女が身近に思えて感動しました。

自身のアートコレクションについて語る前沢友作さん=東京都渋谷区で2017年11月1日、根岸基弘撮影 © 毎日新聞 自身のアートコレクションについて語る前沢友作さん=東京都渋谷区で2017年11月1日、根岸基弘撮影

 ◆2012年に現代芸術振興財団を設立しました。目的と活動は。

 --アートを盛り上げたい、アート好きな人を増やしたい、アートに打ち込む人を応援したい。なぜならアートは素晴らしいから。そんな極めてシンプルな思いで始めた財団です。

 主な活動としては2014年に美術系の学生を対象とする「CAF賞」を創設し、先日第4回を実施しました。全国から寄せられた公募作品の中から専門家に入選作品を選んでもらい、その中から選出された最優秀者に賞金や個展開催の機会を提供しています。若手の美術家と音楽家に活動資金を援助する助成金制度もあります。

 ◆前沢さんにとって現代アートの魅力とは。

 --すべてのモノが情報化され、機械化され、効率化される中で、言葉にできないもの、数値化できないモノがアートにある。その数値化できない価値と向き合った時に自分の感性が試される気がします。常に数字を追いかけるビジネスの世界に生きているので、それと真逆の感性勝負の世界に身を置くことで自分自身のバランスが取れる。社会にとっても、感性が重要なアートは今後、一層必要なものになっていくし、さらに盛り上がっていくのではないでしょうか。AI(人工知能)やロボットが出現し、人間の存在が問われる中、人間が人間でいられる最後の世界かもしれないし。音楽などもデジタル化が進み、複製が容易になっている中で、アートは一点もので、価値も人それぞれだからいいのだと思います。

 ◆今夏にスタートトゥデイ社の時価総額が1兆円を超えるなど、業績は好調です。アートはビジネスに役立ちますか。

 --僕個人で言うと、右脳と左脳のバランスをとってくれますね。数字で左脳を酷使したあと、アートに目をやると右脳が刺激される。別の視点で言うとアートは人と人をつなぐ力がある。年齢や立場を超えて、互いに「この作品は素晴らしいね」と言い合って意気投合することもあるし、その関係が仕事に有益に働くこともあります。

 特にこのバスキアを買ってからは想像を絶する数のコンタクトが世界中から寄せられました。その中でビジネスにつながったり、友達になったりすることもありました。俳優のレオナルド・ディカプリオさんからも、落札直後に突然メールをいただいて。「おめでとう。いいもの買ったね!」って(笑い)。それまで面識はなかったのですが、彼もバスキアが好きなので、家にも招かれて親しくなりました。ちょっとびっくりする話ですよね。

略歴

 まえざわ・ゆうさく 1975年生まれ。千葉県出身。高校在学中にバンドを結成し、98年にプロデビュー。同時期に輸入CDなどの通販ビジネスを始め、98年にスタートトゥデイ社を創業した。2004年に開設した「ゾゾタウン」は国内最大級の衣料品通販サイト。

 ジャン・ミシェル・バスキア(1960~88年) ニューヨーク生まれのハイチ系米国人画家。正規の美術教育は受けず、最初は地下鉄や街中の壁にスプレーで描いた落書きで注目された。荒々しい奔放なタッチと大胆な色遣い、社会批評的なモチーフが特徴。短く、破天荒な生涯は映画(96年)にもなった。

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