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チームワークって何だ?サイボウズ青野社長が行き着いた「自分に嘘をつかない働き方」

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/02/12 06:00 青野慶久
チームワークって何だ?サイボウズ青野社長が行き着いた「自分に嘘をつかない働き方」: Photo by Masato Kato © 画像提供元 Photo by Masato Kato

グループウェア事業を創業期から順調に伸ばしたサイボウズは、多角化を図ってM&Aへと舵を切った。しかし、そこで利益が上がらず、隘路にはまり込んでしまう。今日のサイボウズの基礎が培われたのは、当時の苦境の中で、「本当に自分たちがやりたい事業は何か」を再定義することができたからだ。青野社長が経営者としての「転機」を語る。

「一番でなければ意味がない」創業期から走り続け見えてきた限界

 サイボウズのグループウェア事業は、振り返れば出足は極めて順調だったが、創業から6年もすると持続性を失い始め、それがM&Aで多角化を志向する一因にもなった。M&Aでは10億円以上を失う痛い思いをしたが、失敗で腹が据わり、事業と会社を再定義することができて、新たな成長にも繋がった。

 今回は、クラウドサービス「kintone」(キントーン)の開発に投資を集中していくサイボウズ再生のいきさつをまとめておきたい。

 最初のグループウェア「サイボウズ Office」は、創業から3ヵ月後の1997年10月にリリースした。12月には単月で黒字化を果たす。創業1年目の98年7月期は、創業者3人で5800万円を売り上げた。翌年は3億円まで伸ばし、次は半年で4億円、次の年は17億円、さらに次の年は26億円と急成長していく。

 創業メンバーは、極貧生活でもまったく苦にならず、会社が黒字になってからも、もっと成長させたいとの思いから、意図的に無給を続けていたりもした。

 ウェブ技術を使ったアプリケーションは、仕組みがわかってしまえば比較的低コストで開発できる。競争を勝ち抜くには開発スピードを上げ、強いブランドを他社よりも先に確立しなければならない。ソフトウェアの業界は「Winner takes all」だから、一番早く成功した企業が圧勝するし、一番でなければ勝ったとは言えない。

 販売担当だった私は、ブランド浸透のために徹底的に広告を打ち続けた。毎月の売上高が1億円程度だったときに、半分の5000万円を広告宣伝費に投入した。1ヵ月で5000万円の広告宣伝費など、とても使い切れる額ではない。しかし、とにかく手当たり次第に、当時数十誌あったコンピュータ雑誌のほとんどでサイボウズの広告を打ち続けた。

 すると「サイボウズ Office」はさらに売れた。また新バージョンのリリースを急ぎ、広告も打ち、一気呵成にサイボウズをスタンダードブランドに育てていった。

 その間、ユーザーサポート体制の充実が新バージョンのリリースに間に合わない、成果主義の人事制度で従業員のモチベーションが乱れて離職率が20%を超える、といったいくつもの混乱があった。マネジメントなどなく、異様な熱意だけで回っている会社だった。結果、2003年1月期、サイボウズの売上高は前年比で14%、経常利益は同じく37%も減り、初の減収減益決算となった。

 それでもなんとか横ばいを維持していたが、2005年に社長に就任した私は、当時の売上高成長率が10%程度で、売上高経常利益率が20%を切っている状態に我慢がならなかった。「サイボウズの可能性はこんなものではない」と思った私は、約29億円だった売上高を向こう3年で2倍の60億円にしたいと考え、そのための事業計画をまとめた。

 事業規模拡大の柱の1つがM&Aだったが、前回述べたように、結果的に失敗する。M&Aにより売上高は120億円まで増えたが(2008年1月期)、本業のグループウェアは3年経っても40億円弱にとどまっていた。しかも買収した企業の業績悪化により、利益はどんどん落ち込み、手元にあった現預金は使い果たし、会社は借入金で回っている状態になった。突然発生する子会社の損失に怯える日々が続いていた。

本当にやるべきはグループウェアM&Aに失敗し事業を再定義

 そして、これも前回述べたように、松下幸之助翁の「真剣」という言葉に巡り会い、すべてが変わったのである。

 私が真剣に取り組みたいのは、世界中で使ってもらえるグループウェアを開発することだと気付き、グループウェア事業に集中することを決めた。「いろいろな仕事ができると思ったから、この会社にいたのに」と言う従業員には、「残念ですが、グループウェアの他はやりません」と伝え、「辞めるのを思いとどまるよう言ってはくれないのですか」と問いかける従業員には、「辞めると言う人を引き留めることはできない」と甘い思いを断った。

 嫌われようが、何を言われようがグループウェア1本に集中する――。私の決心は、揺るぎないものになっていた。

 2007年6月に開いた役員合宿は、現在のサイボウズに至る「再起点」となる合宿だった。私はそれを「ビジョナリー研修」と呼び、偉大な飛躍を遂げた企業の共通点を分析した経営書『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(日経BP社刊)を読んでおくよう、役員全員にお願いした。共通の議論基盤を持つためだ。

ここで私たちは、(1)どのような偉大な企業にしたいか、(2)「針鼠(ハリネズミ)の概念」はサイボウズにとって何か、(3)私たちが直視できていない厳しい現実は何か、の3点について議論した。

チームワーク溢れる社会を創造それが「ハリネズミ」の概念

 特に「針鼠の概念」は、言葉を換えれば自社事業の特徴を省み、時代に即した形に再定義するためのものだった。針鼠の概念とは、針鼠を仕留めるために毎日あれやこれやと工夫する狐に対して、針鼠はその都度ただ体を丸めるだけで狐を退けてしまうという、古代ギリシャの寓話に由来するものだ。つまり、さまざまな分野に手を広げるのではなく、自分たちの生命線はどこにあるのかを認識し、そこに特化して生き残っていくという考え方である。

 合宿で私たちは、向こう30年間という長い期間を見据え、「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」という共通の理想を掲げた。世界中のあらゆるチームで、私たちがつくったグループウェアを使ってもらい、すべてのチームワークを高める。チームワークあふれる社会を創造する――。これこそ私たちが取り組むべきことであるとし、サイボウズ全社共通のミッションに掲げたのだ。

 この理想に対する社内の反応は、微妙だった。そんなに甘くはないものだ。特に「グループウェアという言葉はダサい」という反応は、プロモーション活動で私も実感していたことだけに、気持ちが揺れた。世の中に「コラボレーション」「ソーシャル」など活きのいい言葉も登場してきた頃だ。しかし、ここはグッと我慢した。

 私たちが目指す「チームワークあふれる社会」とは、チーム活動が高いレベルにあることを示し、それを支えるのがグループウェアである。根本的にコラボレーションやソーシャルとは意味が違う。

 ただ、グループウェアという言葉の再定義は必要だと考えた。そこで、私たちがつくるのは単なるスケジュールの共有ソフトではなく、「チーム内のありとあらゆる情報を共有し、チームワークを高めるソフトウェア」と再定義した。しかし当時あった機能では、その一部しか支援できていない。グループウェアは、もっと幅も奥行きもある総合的なソフトウェアでなくてはならない。

「チームワーク」と言うけれど、そもそもチームとは何で、チームワークとは何なのか。これがわかれば、私たちが提供すべき機能も見えてくるのではないかと考えた。チームやチームワークについての論文や文献に片っ端から当たり、識者にも意見を聞きに回った。そこからは、いくつものヒントが得られた。

「チームワークって何だ?」から始まった理想と機能の追究

 まず「チーム」には成立条件があるということだ。チームとは、単に人が集まっただけの集団ではなく、「共通のビジョン」「チームの構成員」「役割分担」「仕事の連携」の4要素が必要なのだと学んだ。ここから、チームを支援するグループウェアに必須となる基本機能が浮かび上がってくる。

 次が「チームワーク」だ。チームがワークするからチームワークであり、一口に言えばそれは「仲間と働くこと」だ。当然、チームワークには良い状態と悪い状態がある。では、良い状態をもたらすものは何かと言えば、「効果」「効率」「満足」「学習」の4要素であるという。ある論文にあった指摘だが、そうした考え方に巡り会えたのは目から鱗だった。

 それまでの私は、チームワークが良い状態とは、単純に「成果物が多い状態」だと考えていた。しかし、創業期の私たちがそうであったように、がむしゃらに働いて成果を上げるだけの非効率なチームや、メンバーの満足度が低いままのチーム、さらに学びが少なくメンバーの成長に繋がっていないチームが、チームワークが良い状態と言えるのか。効果・効率・満足・学習の4要素がすべて揃って、初めて「チームワークが良い状態」になる。

 そもそも、サイボウズのグループウェア開発は、松下電工で部門のネットワーク管理を任されていた私が、パソコンやメールを全員が使えるようにして、同僚の働き方が効率的になるだけでなく、仕事への満足度が高まっていくのを見たことに端を発している。ネットとウェブブラウザの技術が登場し、情報共有の大変革が起きると確信して創業したのがサイボウズだった。

 しかし、私たちが開発してきたグループウェアは、単に作業を効率化するだけのものであった。グループやチームというものが担う幅広い領域を支援するものではなかった。私たちはもっともっと、大きな価値を提供できる存在でなくてはならない。

 チームワークというテーマは奥が深い。しかし実際の営業現場では、製品の機能強化や価格競争力こそが求められる。私たちがチームワークについて思想から伝えようとしても、お客様には「それで? それよりもこの機能はあるの?」と言われる。  私たちが掲げる全社共通の理想は、30年にわたって目指し続ける長期の理想だ。掲げたばかりなのだから、現実との乖離が大きかったとしても仕方がない。私はここでも腹をくくったのだ。

 現実との乖離が大きくても、これからの製品開発や営業現場で理想を掲げ、目指し続けるならば、私たちの理想への努力は徐々に製品に反映され、お客様にはツール以上の付加価値を提供できるようになり、競合他社には大きな差を付けられるだろう。

 グループウェア製品の選択は、チームワークの向上のための重要な意志決定であり、「安かろう悪かろう」ではいけない。チームワークを高めたいのならば、「チームワークに一番こだわってつくっているサイボウズの製品を使おう」と考えてもらえるように、日々の活動を継続するしかない。そこまでいけば、営業の現場も理解してくれる。

 何よりも個々がバラバラだった社内に、共通の理想を掲げることが大切だったし、創業から約10年で、自分たちの目標や特徴、個性、事業の在り方などを再定義できたことが、サイボウズを次の時代へと導くものになった。後に形づくられてくるサイボウズ流の働き方改革や勤労観などは、すべてがここを起点としている。

プラットフォームビジネスへ赤字決意の大転換をした理由

 多角化による収益の低下に苦しんだ時期もあったが、サイボウズの業績は総じて堅実だった。創業から18期連続で黒字(当期利益)を確保した。しかし私は、2015年12月期は「今年は赤字にする」と宣言した。実際同期は、売上高は約70億円で増収となったが、営業利益を3億8100万円、経常利益を3億3800万円、そして当期利益を2億1700万円の「赤字にした」。その理由は、クラウド上に情報共有アプリケーションをつくれる基盤サービス「kintone」(キントーン)への思い切った投資を決断したからだった。

「サイボウズ Office」がバージョンアップを重ねるうちに、ユーザーが自由に情報共有データベースをつくれる「カスタムアプリ」機能の人気が高まっていることが確認できた。その経験から開発したのが「kintone」だ。

 組織が使うアプリケーションの開発に必要な機能は、データベース、ワークフロー、コミュニケーションの3つであり、それまではこれらの機能は別々のソフトとして提供され、組み合わせて使われていた。しかし「kintone」では3つの機能を1つの製品に盛り込んだので、組み合わせの必要はなくなり、開発効率は圧倒的に高まった。

 開発効率の高さは、ソフトウェアの受託開発業界に“旋風”を巻き起こすほど支持された。「kintone」のリリースは2011年だが、社会を変えていくには思い切った投資が必要だと考え、決断したのが15年12月期の赤字というわけである。

「kintone」は、私たちに多くの気づきと自信を与えてくれている。たとえば、多様な個性を活かす組織にはイノベーションを生み出す力が備わっていることを確信させてくれた。「kintone」は定型ではなく、多様な個性をかけ合わせ、衆知を集めて開発するプラットフォームとなり、さらなるイノベーションの創出を支援している。

 それを最も強く実感させられたのが、米国市場での反響だ。創業時から「サイボウズOffice」を米国市場に投入し、経営の現地化にも取り組んだものの、思わしい成果は出ていなかった。振り返れば理由は明白で、まず米国は「個人の能力」をベースにした競争社会だからこそ、企業の社員は自分のスケジュールを不特定多数の人に見られることを嫌う。また会議室の予約システムにしても、米国では出世すればすぐに個室が与えられるので、会議も個室で済ませてしまうことが多いのだ。

 しかし「kintone」はまったく異質なソフトウェアだ。そもそも多様性をベースとする米国で、個々の事情や狙いに沿ったチーム力向上のためのアプリケーション開発の基盤、つまりプラットフォームになるのが「kintone」なのである。社名は明らかにできないが、誰もが知る米国の大手IT企業にも「kintone」は導入されている。

世界初の「クラウド配当」を実施利益の考え方さえ変わった

「kintone」への投資のために赤字決算を決めたとき、私は利益についての考え方も変えた。松下電工時代に教えられた「利益は社会への役立ち高」という幸之助翁の理念は、サイボウズの社長になっても変わらずに持ち続けていた。しかし、赤字決算で法人税が払えなくても、従業員の給与を減らさず、取引先の業績も上向けば、巡り巡って彼らが所得税や消費税を多く払うことになるため、間接的に社会への責務を果たしていることになる。社会をより良いものにするには、お金をより良い社会のために使いたいと願う人たちに回せばよい。つまり社会への貢献は、法人税だけではないということだ。

 当然ながら、利益は大きく増えないので株価が上がらない時期もある。それでもなお、サイボウズの株主であり続けてくれる人たちがいた。私たちの理想に共感してくれた人たちで、株主総会はファンの集いのようになった。

 しかし、ありがたいファン株主に甘んじてばかりもいられない。15年から17年の3年間はクラウドサービスの売り上げに応じて配当を出すことにした。クラウドサービスで世界を変えたい私たちと、投資を回収したい株主の理想を重ね合わせた仕組みで、「クラウド配当」と名付けている。こんな配当政策は、世界でも初めてのものだろう。

(サイボウズ代表取締役社長 青野慶久)

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