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トランプ政権で米国の景気後退は逆に早まる 金利上昇で住宅への投資が落ち込む懸念

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 6日前 中原 圭介
米自動車大手首脳と会うトランプ大統領。米国の株価は好調だが、筆者は「むしろ景気後退に移行する時期が早まった」と分析する(写真:代表撮影/ © 東洋経済オンライン 米自動車大手首脳と会うトランプ大統領。米国の株価は好調だが、筆者は「むしろ景気後退に移行する時期が早まった」と分析する(写真:代表撮影/  

 米国経済が他の主要国や主要地域と比べて好調であるのは、個人消費が経済全体を下支えできているからです。近年、設備投資や輸出の伸びが芳しくないにもかかわらず、個人消費は平均して3%台の増加を続けてきているのです。

なぜ米国の個人消費は伸びているのか?

 個人消費が伸びている最大の要因は、原油安をきっかけに物価が下落し、米国民の実質所得が上がってきているためです。2015年の消費者物価の上昇率が0.1%と低迷したばかりか、卸売物価指数にいたってはマイナス0.9%とデフレの状況にあったのです。その結果、2015年の家計所得(物価上昇を考慮に入れた)の中央値は5万6516ドルと5.2%増加し、その増加率は1967年の調査開始以来で最大となったというわけです。

 自動車や住宅の販売が消費や景気のバロメーターになっているのは、先進国や新興国では共通していることです。米国では今のところ、自動車市場が2009年を底に、住宅市場も2010年を底にして、拡大基調を継続してきています。とりわけ、2014年の後半以降、米国の家計は大きな買い物、すなわち、自動車と住宅の購入に踏み切れるようになってきています。

 自動車産業は製造業の要といわれるように、非常に裾野の広い産業です。グローバル経済下の競争激化により、米国の自動車産業は弱体化したといわれて久しいですが、それでも大手メーカー・部品メーカーを含めた直接間接の雇用者は約700万人にものぼり、全米の雇用者の4.5%を占めているのです。

 そのうえ、完成車を構成する部品数は2万点から3万点も必要になります。自動車産業の生産における波及効果は、全産業平均と比べてずば抜けて高く、まさに自動車産業なくして米国はもちろん、日本、欧州、中国などの経済は成り立たない状況にあるのです。要するに、米国のように自動車の売れ行きが良ければ、企業活動や雇用、消費への波及効果も大きいというわけです。

 住宅の販売についても、同じことがいえます。米国では住宅投資はGDPの5%を占めているにすぎませんが、経済への波及効果が非常に大きいことで知られています。というのも、住宅が売れるということは、それに付随して家電製品や調度品、生活用品などの購入も増加し、米国ではGDPの7割を占める個人消費への波及効果が大きくなるからです。

 おまけに、米国では住宅市場の9割が中古住宅であるため、住み替えのため住宅を売った家計は、必ずといっていいほど新しい住宅を買うことになります。消費の波及効果はもちろん、消費の速度も上がるという好循環を期待することができるのです。

米国の自動車市場に見る景気減速の「影」

 では、今後も米国経済は好調なのでしょうか。確かに、米国における2016年の新車販売台数は、1755万台と7年連続の増加となり、2年連続で過去最高を更新しています。しかしながら、拙書『経済はこう動く』(2016年10月出版)でも指摘しているように、私は2017年の新車販売台数は減少する可能性が高いと考えています。それは、販売が減少する典型的なパターンが2016年の夏ごろからすでに表れてきているからです。

 その典型的なパターンの行程を具体的に示すと、次のように「3段階」に分けて見ることができます。

 第1段階 - 新車市場がピーク時に、メーカーはシェア維持のために安売りを始める。

 第2段階 - 安売り競争の激化によって、メーカーの利益が減少する。

 第3段階 - その後に、新車市場の販売減少が顕著になる。

 2015年と2016年の新車市場で明らかに異なっていたのは、2015年は値引きをしないでも新車の売れ行きが良かったのですが、2016年はかなり値引きをしないと売れなくなっていたという点です。大手メーカーはディーラーへの販売奨励金を積み増して、需要の先食いをしてでも販売台数を増やそうとしていたのです。2016年の新車販売価格に対する販売奨励金の割合は、すべての大手メーカーで健全水準の境界とされる10%を優に超えていたというわけです。

 その背景には、6年にもわたる新車市場の拡大を受けて、中古車市場への供給が増えすぎてしまっているという事情がありました。その結果として、中古車の価格が大幅に下がり、新車の需要が落ち込み始めていたのです。米国の新車市場ではたった1年のあいだに、構造的に需要と供給が逆転するという不健全な状態に陥ってしまったと見るべきでしょう。

 公表されたばかりの大手自動車メーカーの2016年10-12月期の決算を見てみると、新車市場はすでにピークを過ぎた第1段階には達していて、これから利益が拡大から減少に向かう第2段階に突入しつつあるという兆候を読み取ることができます。ですから、米国の新車販売台数が減少に転じる第3段階は、2017年のうちに訪れるだろうと見るのが妥当なわけです。

 次に、米国の住宅市場の動向についてみると、米国の住宅販売のおよそ9割を占める中古住宅の販売件数は、2010年7月の345万件を底にして、2016年11月の561万件まで右肩上がりの増加を続けてきています。住宅バブル時の勢いはないとしても、住宅の販売がここまで活況を呈しているのは、自動車と同じく、2016年以降にさらに進んだ原油安や低金利によって、米国民の購買力や購買意欲が引き続き高まっているからです。

住宅投資の伸びが止まる可能性が高まっている

 ただし、これまでの住宅販売の回復を牽引している主要因は、金融緩和によって溢れている投資マネーであるという点には注意を払う必要があるでしょう。そもそも投資家の多くは、折からの低金利で運用に困った挙げ句、相対的に利回りが高い投資商品として住宅を買っています。とりわけ2016年は、ECB(欧州中央銀行)がマイナス金利を拡大し、日銀までもがマイナス金利を導入し、国債に代表される債券の運用では利回りの確保がいっそう難しくなったため、投資家による住宅への投資に拍車がかかっている状況にあるのです。

 現状の中古住宅販売件数は、バブル最盛期の725万件と比べて70%台半ばまでしか戻っていないので、投資家の多くは「住宅市場にはまだ幾分の伸びしろがあるだろう」と考えているかもしれません。

 ところがその一方で、住宅の重要指標である「ケース・シラー住宅価格指数」の動きを冷静に眺めてみると、そのような楽観的な考え方は成り立たないということがわかってしまいます。主要20都市の住宅価格指数は、2012年からバブル期並みの上昇基調を継続し、2016年10月時点で190.45と、2006年4月の最高値206.6に接近してきているのです。世界的に超低金利が長期化している副作用として、国内外の投資家が住宅投資へと傾斜してきたために、住宅価格はかなり割高になってしまっているわけです。

 米国で歴史的な低金利が続くかぎりは、投資家は住宅への旺盛な投資はあと1年くらい続くことも考えられます。

 しかし、大都市部を中心として住宅価格にかなり割高感がある現状では、長い下降トレンドを辿ってきた長期金利が上昇トレンドへ反転するようなことになれば、金利に非常に敏感な住宅市場は縮小していくことが予測されます。要するに、これからの住宅市場の趨勢は、金利動向および投資家が握っているというわけです。

 その意味では、2016年11月の米大統領選にトランプ氏が勝利して以降、もっとも注意すべき現象が市場では起こっています。米国の長期金利は1.7%台から一時2.6%台まで急騰し、現在は2.4%前後で推移しているのです。長期金利が急騰した影響は、すでに中古住宅販売件数にも出始めているように考えられます。2016年12月の中古住宅販売件数は年間換算で549万戸となり、前月比で2.8%の減少、4カ月ぶりのマイナスとなっているからです。

2017年にも景気後退が始まる懸念がある

 2016年までの私は、米国は2018年までには景気後退に陥るだろうと予測していましたが、トランプ政権が誕生した今となっては、2017年のうちにも景気後退が始まるのではないかと懸念を抱いています。なぜなら、自動車市場が需給の逆転で縮小に向かう見通しにあるというのに、住宅市場までもが長期金利の上昇によって伸びが止まる可能性が高まってきているからです。

 仮にトランプ政権が掲げる大規模なインフラ投資(1兆ドル規模)を実行できたとしても、成長率の押し上げ効果は0.5%程度であるといわれています。その副作用として金利が上がり住宅市場や消費が失速してしまえば、押し上げ効果は簡単に打ち消されてしまいます。

 「トランプ政権で景気が拡大する」とウォール街は騒いでいますが、実はそうではないということを私たちは認識しておく必要があるのです。

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