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トレビーノが重い・高い・邪魔な0号機からヒット商品になるまで

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/02/16 週刊ダイヤモンド編集部
トレビーノが重い・高い・邪魔な0号機からヒット商品になるまで: 佐々木直美・東レ トレビーノ販売部長 Photo by Toshiaki Usami © diamond 佐々木直美・東レ トレビーノ販売部長 Photo by Toshiaki Usami

「君はこれからこれを売るんだよ」。上司が得意げに見せてきたのは、武骨に輝く、いかにも重そうなステンレスの塊だった──。

「水は東レのトレビーノ♪」のキャッチコピーで知られる東レの家庭用浄水器「トレビーノ」は、人工透析に使われる中空糸膜の技術を応用して開発され、2016年に発売30周年を迎えたロングセラーシリーズだ。14年には本体とカートリッジを合わせた累計販売個数で1億個を突破。蛇口に直接取り付ける蛇口直結型では、国内シェア圧倒的ナンバーワンを誇る。

 しかし、ヒットを勝ち取るまでには紆余曲折があった。

 発売当初から同商品のマーケティングや販売に携わってきたトレビーノの生き字引である佐々木直美は、試作品だった冒頭の「幻の0号機」を初めて見たときの衝撃が忘れられない。大きさにして、縦30センチメートル×横13~14センチメートル、奥行き13~14センチメートル。重さは4~5キログラム。蛇口に付けられるタイプではなく、流しの周りに置く据え置き型で、価格はおよそ5万円もした。

 開発者は良かれと思ってこの形にしたのだ。東レが普段身を置く法人顧客相手のビジネスの世界では、頑丈でシンプルな製品を提供することこそ“正解”だからだ。

 入社後に配属された課が円高不況などにより取りつぶされ、トレビーノを扱う課に異動してきた佐々木は、腹をくくって売り歩いた。が、案の定、「重い、高い、邪魔になる」と言われるばかりで鳴かず飛ばず。最後は社内人脈と地縁、血縁にすがり、大幅値下げしてどうにか300台弱を売った。

「駄目なんだ、こういうものじゃ」。あらためて確信する佐々木。トレビーノ改良での試行錯誤は、こうした強過ぎる逆風に煽られたところから始まった。

 まずはステンレス製からの脱却である。「言ったんですよ、私。『これ、足の上に落ちたら骨が折れると思いますけどいいんですか』って」(佐々木)。使い勝手を考えてもとにかく軽くする必要があった。

 また、ステンレス製は傷も付きやすい。「だいたい、台所の中に金属の塊なんて置きたくないでしょ。あのころの炊飯ジャーって花柄だったりしましたから」(同)。

 そこで樹脂製への転換を図る。「一般消費者向けの商品のデザインは工業デザイナーに頼むものらしいよ」と、シンプル・イズ・ベストの精神も改めた。

 そして1986年、ついに据え置き型のトレビーノ1号機の発売にこぎ着けた。見た目はポット風。価格も2万8500円に抑え、百貨店に販路も確保した。

 それでも苦難は続いた。当時は、水は水道水や井戸水で十分だと思われていた時代だ。浄水器の必要性にぴんとこない消費者に対し、2万8500円は高過ぎたのだ。

 あまりにも売れないため、手描きのイラストをコピーしたお手製のチラシを団地にポスティングしに行くという荒業に出たほどである。課が直接、電話注文を受け、課員自ら取り付けサービスにまで出向いていたし、百貨店の店頭に立って推奨販売も行った。

洗濯機のノウハウを使って蛇口直結型の発売を実現

 ところが、この草の根運動が結果的に後の大ヒットを生むことになる。消費者に密に接したことで、開発のヒントを得られたのだ。

 一つが形状だ。0号機を思えば1号機はコンパクトだったが、消費者からは「浄水器を置くためのスペースが常にこれだけいるんだなぁ」といった嘆きがなお聞こえてくる。「私が使ってみても、やっぱりどうしても邪魔なんですよ」(佐々木)。壁掛けタイプなども検討したが、まだうっとうしい。何とか蛇口の先端に付けられないものか──。コンパクトにできれば、「安くしてほしい」という消費者の要望もかなえられる。

 ろ材の小型化は東レにとってさほど難しいことではなかった。問題は水を含むと本体と合わせて350グラム前後になる浄水器を蛇口の先にしっかり固定できるかどうか。しかも蛇口の形状はさまざま。それらに広く対応せねばならない。

 目を付けたのが、ホースが水道の蛇口につながれている洗濯機だった。早速、某大手電機メーカーにノウハウコラボの了承を得て開発に着手。商品化したのが88年に1万2800円で発売した蛇口直結型「トレビーノ ミニ」だ。

 さらに90年には、「1万円を超えるとお父さんに相談しないと買えないのよ」という主婦の声を参考に、消費税込みでも1万円未満に収まる「トレビーノ スーパーミニ」を発売。水道水やマンションの貯水タンクへの不満や不安に後押しされて大ヒットとなった。

 その後も、カートリッジの交換時期を液晶画面ではっきり確認できる液晶搭載タイプを発売するなど、消費者の声を起点にした形状や機能、価格の改良に余念がない東レ。ただ、ロングセラーの裏には、もう一つ秘密がある。

 トレビーノは、カートリッジの互換性が高いのだ。例えば蛇口直結型には、カートリッジが本体の裏に横向きに付くタイプと、脇に縦向きに付くタイプがある。本体もカートリッジも、ベーシックなものから高級版までいろいろあるが、全ての横向きカートリッジは、全ての横向きタイプの本体に付けられる。縦向きもまたしかりだ。

 これは、工場をどうしたら効率的に回せるかを常に考えるメーカー魂のなせる業。同時に、カートリッジの購入時に、どれが自分の家の本体に合うのか分からない消費者のストレスを排除する工夫でもある。「特に女性って、電球を交換するときでも、どれを買えばいいのか分からない」(佐々木)。

 いまやミネラルウオーターがすっかり日常に浸透した。しかしカートリッジ1本から取れるろ過流量を計算すると、トレビーノで浄化された水の価格は1リットルたった5円だ。「消費者もシーンによって水をうまく使い分けている。われわれの立ち位置は十分にある」。そう語る佐々木には自信がみなぎる。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

【開発メモ】トレビーノ アンダーシンク型、浄水シャワー、ポット型なども展開されてきたトレビーノは、取扱説明書にも顧客の声が生かされている。「養魚用などには使用しないでください」という文言はその一例。「大切にしていた金魚が死んだ」と嘆く消費者から学んだ。カートリッジを交換し損ねるなどして塩素を吸着し切れなかった場合、死んでしまうことがある。

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