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ニュースがネコ動画とPVを競い合う時代の不幸

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/05/18 ダイヤモンド・オンライン編集部
ニュースがネコ動画とPVを競い合う時代の不幸 © diamond ニュースがネコ動画とPVを競い合う時代の不幸

ネットメディアがページビューを追求しすぎた結果、記事の内容よりもどれだけ読まれたかが重視され、結果としてネット上には劣化した情報があふれている──。元ヤフー・トピックス編集責任者で現在ウェブメディア「THE PAGE」編集長を務める奥村倫弘氏は、新著『ネコがメディアを支配する』の中でそう指摘する。奥村氏にウェブメディアが抱える問題点について話を聞いた。(聞き手・構成/田上雄司)

取材もしないコタツ記事はニュースではない

 インターネットメディアの売上のほとんどを支えているのは、広告収入です。ニュースを提供する会社はネットに配信した記事でマネタイズができ、その恩恵を受けた読者は無料で記事を読むことができます。

 ただ、ページビュー(PV)数に収益はほぼ連動するので、「ネットメディアはPVをとにかく稼げばいい」というPV至上主義が生み出されてきました。何が書かれているかより、どれだけ読まれるか(見られるか)のほうが、残念ながら重要になってしまった。

 今でもコストをかけながら、本来あるべきメディアとしての活動をしている多くは、新聞社や出版社、通信社などの伝統メディアです。一方、ネット専業のメディアでもまじめにメディア活動をしようとしているところもありますが、多くは収益性に苦しんでいます。

 よいニュースかどうかは、けっして扱うテーマが硬いか柔らかいかではありません。エンタメは価値がなくて、政治経済は価値があるという話でもありません。むしろコンテンツが作られるプロセスの違いです。

 要は、客観的に人に取材し、事実かどうかを検証したうえで記事にしているかどうかということ。新聞や雑誌といった伝統メディアが強いのは、意見をただ連ねるだけではなく、事実を集めてきて編集者がしっかりと整理して記事にまとめるプロセスを経ているから。それがニュースの一番のベースだと思います。

 今、ネット上の多くのメディアの中で、「コタツ記事」と呼ばれる“ニュース”が激増しています。取材に出ていかなくてもコタツに入りながら書けるようなお手軽な記事を意味します。たとえば、芸能人ブログの更新状況や、テレビで流れたゴシップの紹介記事。ビジネスのことだけ考えれば、自分で取材をして手間のかかる記事をつくる必要性はなく、大変効率がいい。でもはっきり言って、これはニュースではないと思います。

「ネコ動画」もニュースと呼ばれてしまう違和感

 ネットの記事において、「ニュース」と「感情的なコミュニケーション」の線引きがなくなってきています。頭を使って理解しないといけないものよりも、感情を揺るがせるコンテンツのほうがより多くに受け入れられやすいのは、古今東西を問わない事実だと思います。それがネット社会となり、より感情的なコンテンツが流通しやすくなってきました。

 私の著書のタイトルにもあるとおり、今ネット上で簡単に配信できるうえ、大きな反響を呼べるコンテンツの代表格が「ネコ動画」です。これまでのニュースは、PV面においても生産コストにおいても、ネコ動画に完敗してきました。新規参入した新興メディアほど、こうしたネコ動画の類で事業を成立させようとしています。

 動物の動画は私も大好きで否定するつもりは全くありませんが、そればかりが見られるようになると、本当のニュースがやせ細ってしまい、気づいたときには手遅れになってしまうと思います。

 ネコ動画自体は当然ですがニュースではありません。私は、感情的なコンテンツもひっくるめて「ニュース」と呼ばれる現状に対して、強烈に違和感を覚えています。

 年齢的に40、50代以上だと、ニュースとは何かが肌感覚で分かると思いますが、若い世代になると、あらゆるものをニュースと認識するようになっています。言葉は生き物なので意味するところが変わっていくことはあるでしょうが、ことニュースに関しては、読まれないから必要ない、という類のコンテンツではないのです。それを守っていかないといけない危機感はあります。

ネットの自由はついにWELQに行き着いてしまった

 昨年、大手キュレーションサイトであるWELQが著作権や薬事法遵守などの点で問題視され、公開中止になる事件がありました。それに先立って、バイラルメディアであったBUZZNEWSが他人のコンテンツを剽窃し、フリーライターのヨッピーさんに追及されてついに閉鎖に追い込まれました。そこで当事者が反省していれば、WELQ問題も起きなかったわけですが、そうはならなかった。

 低品質なコンテンツを大量に作るサイトを「コンテンツファーム」と言いますが、WELQが目指したのはまさにこれだと思います。かつて「ワードサラダ」というコンテンツがよく目につきました。個人のアフィリエイターなどがブログに出ているキーワードをかき集めて、自動の文章作成ツールを使って記事を作る。内容的には意味不明なんだけど、検索エンジンには引っかかりやすいので、そこに広告を貼って稼ぐことができる。

 ネットの世界は、これまで自由を謳歌してきたのだと思います。ソーシャルが出てきた頃は、コンテンツはシェアしてナンボみたいな空気があり、リンクも自由だった。その自由な世界がお金儲けにつながったとき、行き過ぎて一線を超えたということだと思います。

 インターネットは「リンク」がその本質の一つだと思いますが、それがいつしか無許可転載に変質してしまった。ネットにあるものはタダで使ってもいいんだ、という意識がいつしか広がったことが問題でしょう。それはいけないんだという意識を、ネットメディアづくりに参加する個々人も、リテラシーとして持っておくべきだと思います。といっても、それほど難しいことではなく「人のものを盗んではいけない」という当たり前な話なんです。

スマホの影響でニュースが薄く軽くなってきた

 昨今、インターネット閲覧の環境が急速にパソコンからスマートフォンに取って変わられています。多くのメディアで、閲覧比率においてスマホがPCを凌駕しています。

 スマホはPCとは違い、よりスキマ時間に読まれるデバイスですから、ニュースでも薄くて軽いもの、インスタントなものが選好されます。日常のコミュニケーション的な軽いものがスマホでは読まれやすいのです。

 たとえばニュースアプリと呼ばれるスマホのプラットフォーマーにしても、ニュースとそれ以外の感情的コミュニケーションとを峻別せずに同じように並べるので、どうしてもニュースじゃないものにアクセスが偏りがちになります。

 また、スマホというデバイスは、どうしても受動的にならざるを得ない。インターフェイス的にPCに比べて使いにくいので、自ら能動的にスマホで調べものはしにくい。スマホはあくまで消費ツール、パソコンは生産ツールという本質的な違いがあります。

 昨今、経済的事情でPCを持てなかったり、持つ必要がないと考える若い世代が増えてきています。彼らはPCの持つ生産的手段を失っているわけで、結果として考える力が損なわれていきかねません。この状況がさらに強化されていくのがこれからの時代ではないのか。物事を深く調べたり、与えられた情報を疑ったりしない読者が増えていくとしたら怖いと思います。

 95年にインターネットが世に出たころは、ネットサーフィンと言って、自分で興味のあることを積極的に調べて、自分の知識が広がっていくのが楽しいという体験がありました。最近は、まとめサイトで、「ちょっと○○について調べてみました」とかいうページがあります。それ自体も単に検索で調べただけのことを載せているのですが、読者として自分で調べる手間すら、他人に預けてしまっているという状況は憂慮すべきことだと思います。

PV至上主義からどこに軸足を移していくか

 この先、PV至上主義のままでは、まともなメディアはビジネスを維持できなくなります。ネット上に日々生み出されるコンテンツが、メディア自身の存在意義を危うくする「退化」「絶滅」の方向に向かっているのではないか、という危惧は拭い切れません。

 これまでのPV連動の広告収入モデルを、どう軌道修正できるかが問われていると思います。有料課金は一つの可能性でしょう。日経新聞はすでに有料電子版で成功しつつありますし、雑誌もたとえば週刊文春では、ウェブ記事課金やテレビ局が支払う素材使用料などでそれなりの収益を得ているようです。今後、無料から有料へと、ビジネスの軸足を移していく伝統メディア企業も多いのではないでしょうか。

 過去20年はバーゲンセールの時代だったのかもしれません。本来有料でしか読めないものがほとんどタダで読めた。実際、インターネット以前は雑誌の記事が無料で読めることなどありえなかったわけです。いずれにしても、現在20代の情報コンテンツにお金を払った経験のない世代の、今後の動向次第という気もします。

 ニュースの定義が変わり、次は編集者の定義も変わってきます。編集者は記事の品質を担保する最後の砦だったのが、今のネットメディアでは単なる入稿係になってしまいかねません。それを受け取る消費者側にも、真贋を見抜くリテラシーは当然求められるのですが、たぶん読者はほとんどそこに問題意識は持っていません。だからこそ、提供側がニュースの質を守ることで、読者のリテラシーを肩代わりする必要がある。とにかく、PV依存ではなく、まともなコンテンツを生産し続けるしかないのだと思います。

奥村倫弘1969年、大阪府生まれ。92年同志社大学文学部卒。同年、読売新聞社大阪本社入社。福井支局、奈良支局、大阪経済部を経て、98年、ヤフー株式会社入社。メディアサービスカンパニー編集本部長を経て、現在ワードリーフ株式会社が運営するウェブメディア「THE PAGE」取締役編集長を務める。著書に『ヤフー・トピックスの作り方』(光文社新書)。

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