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ハンドスピナーがここまで人気を呼んだ理由 「感触」「伝えたい欲求」「謎解き消費」がカギ

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 4日前 常見 陽平
感触って人についついシェアして、伝えたくなるもの(撮影:今井康一) © 東洋経済オンライン 感触って人についついシェアして、伝えたくなるもの(撮影:今井康一)

 今年も「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート語が発表された。30の候補の中に「ハンドスピナー」が入っていた。正式な名称はなく、「フィンガースピナー」「フィジェットスピナー」とも呼ばれる。羽の枚数や形状にはさまざまなパターンがあるものの、基本的な遊び方は極めてシンプル。中央部を指で挟み、回すというものだ。中央部の周辺にはベアリング(軸受け)が搭載されており、1度回すとなかなか止まらない。

 今年の世界的なヒット商品であることは間違いない。そして、なぜ売れたのか不思議に思ってしまう。基本的な遊び方は「指で回す」、それだけだ。同じく、流行語大賞には「インスタ映え」が入っていたが、それが理由なのか。いや、それだけではないはずだ。

 トイプランナー、クリエーターとして活動する、「ウサギ」代表取締役の高橋晋平氏に聞いてみた。キーワードは「感触」「伝えたい欲求」「謎解き消費」だ。

スマホ時代だからこそ、問われる「感触」

 常見陽平(以下、常見):世界的に大ヒットした「∞(むげん)プチプチ」「∞エダマメ」などの開発にも携わった高橋晋平さんに、ハンドスピナーがなぜ流行したのかについてお話を伺います。ハンドスピナーの流行を高橋さんはどう分析していますか?

 高橋晋平(以下、高橋):ハンドスピナーだけではなく、感覚トイである「フィジェット(Fidget)」が今年は流行しました。スクイーズと呼ばれるもんだり押し潰したりして楽しむオモチャもヒットしています。この前、ある小学校に行ったのですが、男子はハンドスピナー、女子はパンやお菓子の形をしたスクイーズを集めている子が多いそうです。

 今は「タングル(Tangle)」も流行しています。世界でなんと1億5000万個も売れているんです。ぐねぐねいじるだけなんですが、気持ちがいい。

 常見:おお、不思議。ついついずっと触ってしまう……。

 高橋:居酒屋ではし袋を折ったり、電話中に落書きをしてしまったりするのと似ています。「オモチャ」の語源は「もてあそぶ」にあるそうです。そんなオモチャの基本ともいえる、もてあそんでしまう商品が人気であるといえます。

 常見:なぜ今フィジェットが売れているのですか? いわゆる「インスタ映え」する商品とは違いますよね。

 高橋:確かに、「インスタ映え」が重視されており、雑貨などもデザイン志向になっています。たとえば、アイスキャンデーの形をしたせっけんなどが非常に売れているんです。

 その一方で、今はスマートフォン1強時代だからこそ、スマホにはない「感触」を私たちは求めていて、実際にクッションのような感触のよい雑貨も人気を集めているんです。

 オモチャや雑貨に限らず、家電などにおいても、これからの商品開発は「感触」がポイントになるとぼくは考えています。性能に差をつけるのは難しいので、いかに扉を気持ちよく開けられるか?といった部分で勝負するようになるんです。

 常見:高級車だって、ドアの重さやシートの革の感触が全然違うので、病みつきになってしまうといいますよね。ついつい周りの人たちにも「ドアを開けてみる?」って勧めたくなります。

 高橋:そうなんです。感触って人についついシェアして、伝えたくなるものなんです。

「伝えたい欲求」がヒットの鍵

 高橋:ハンドスピナーが流行したのも、そういった人々の「伝えたい欲求」にハマったからだと思っています。以前ぼくは「人はモテたいからモノを買う」と考えていました。異性に限らず、職場や家族、学校でモテたいからモノを買うんです。

 ですが今は「伝えたいから」モノを買っているんだと考えを変えています。たとえば、ハンドスピナーはその場で渡すだけで、相手に面白さを伝えることができますよね。難しい言葉はいりません。

 常見:ついつい誰かに伝えたくなるんですね。最近ヒットした「ニンテンドークラシックミニ」、通称ミニファミコンも同様の理由ですよね。買ったことをSNSなどでつぶやきたくなります。

 高橋:ぼくも購入しました。懐かしさはあるものの、そんなにゲーム性は高くない。でも、歴史をコンテンツにして、さらに小さく作り直したのはすばらしいです。

 常見:「復刻版のファミコン、スーパーファミ」として売られていても、これほどヒットしなかったでしょうね。

 高橋:それにそのシェアの仕方がサムくない、スベらない、という点が重要だと感じています。私たちは「いいね!」の文化に毒されていますから。

 常見:実際に使うことと、わざわざシェアすることには差がありますよね。

 高橋:ハンドスピナーがこれほど流行したもう1点の理由として、その情報価値にも注目しています。日本では、「アメリカの小学校で持ち込み禁止になるほど流行しているらしい」という記事が出たことをきっかけに、YouTuberも「使ってみた動画」を作成しました。

 普段ならおもちゃを買わない、今ある事象を分析したい層にもウケたんだと考えています。「なぜ人気なのか、俺が語りたい」というニーズがあるんじゃないか。これも「伝えたい欲求」といえるでしょう。

 常見:なるほど! まさに「謎解き消費」なんですね。今まさに、中公新書の『応仁の乱』が売れています。売れているからこそ「俺も『応仁の乱』を読んだぞ」と言いたくなる。ヒットの秘訣を、知的中年が語りたがるんです。そして、さらに売れていっています。彼らはコンテンツそのものよりも、その裏にある行間を買っているのかもしれませんね。

 ハンドスピナーは、スマホ時代に欠けている「感触」にヒットし、人々のシェアしたい欲求、さらには「俺が語りたい」というニーズにまでマッチしたから、これほど大流行したのですね。

アナログゲームの復活

 常見:これからのオモチャ業界は、どのようになっていくと思いますか?

 高橋:今注目しているのは、アナログゲームです。デジタルゲームの台頭とともに、アナログゲームは絶滅してしまうのではないかといわれていましたが、ゲームマーケットで1万人以上も動員したり、ゲームカフェやゲーム会が人気だったりと、今アナログゲームが流行しています。

 個々でゲームができるようになったからこそ、集まってプレーすることに価値が生まれているんです。「ニンテンドースイッチ」が流行したのも、どこでもみんなでプレーできる点にあると思っています。

 常見:SNSが盛んになり、オフ会が活発になったのと同様の現象ですね。人はやはりリアルに回帰していくと。高橋さんも最近カードゲームを開発されていますよね。

 高橋:「民芸スタジアム」という47都道府県の民芸品同士を戦わせるゲームです。ゲームファンからは、ゲーム性が高いと評価してもらいました。そこには自信があります。

 常見:ちなみに、ゲームの面白さってどのような要素で決まっているんでしょうか?

売れるゲームは勝率7割という法則

 高橋:強い人の勝率が7割のゲームが面白いと考えています。

 常見:へぇ、7割。理論があるんですか?

 高橋:いえ、これはぼくの持論です。たとえば、将棋はほぼ10割強いほうが勝ちます。プロが素人に負けることはありませんよね。その分、はじめての人が挑戦するハードルが高いんです。それを勝率が7割のゲームに設計してみる。すると、弱い人でも運がよければ勝つことができるので、初心者がハマりやすい。

 一方で、強い人も10割を目指して何度も戦いたくなります。ハマるゲームを作るためには、不確実性が必要だと考えています。でも、全部が運任せだと継続してやる気がなくなっていくんです。

 常見:7割が絶妙なバランスなんですね。各都道府県の民芸というのも面白いですよね。自分の出身地の民芸が出てきたら楽しいですし、それをきっかけに会話も生まれます。なるほど、よく考えられている。

 高橋:でも、ゲーム性とコミュニケーションだけでは、爆発的に流行しません。やはり大ヒットするためには、ゲームファンが一般の人にも教えたくならないといけません。ここにも「伝えたい欲求」がかかわってくると考えています。

 ゲーム会を見ていても、みんなにゲームを教えるときの主宰者がめちゃくちゃうれしそうなんです。教える気持ちよさがないと、ゲームは普及しないんじゃないかと感じています。説明する気持ちよさまでデザインに含んだときに、これからのゲームやオモチャは大ヒットにつながると考えています。次からの開発の課題ですね。

 常見:なるほど、教える喜びがあると。教えられるほうも「みんなでゲームなう」と言って、SNSについつい上げたくなるでしょう。

 これから大ヒット商品を作るためには、「伝えたい欲求」までをデザインに組み込む必要があるんですね。ありがとうございました。

(構成・写真:山本ぽてと)

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