古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

フィンランドのビジネスの起爆剤 エスポー市のエコシステムの実力

Forbes JAPAN のロゴ Forbes JAPAN 2019/03/13 08:00 国府田 淳

© atomixmedia,inc 提供 2月に2日間にわたって開催された、世界最大級のスタートアップイベント「Slush Tokyo 2019」。36カ国から600以上のスタートアップと200人の投資家、7000人を超えるオーディエンスを動員し、大盛況のうちに幕を閉じたことも記憶に新しいところです。

そのSlushの発祥は、北欧のフィンランド。今まで北欧といえば福祉や教育のグローバルリーダーとして知られてきましたが、昨今ではスタートアップやビジネスイノベーションでも注目を集めています。今回は世界レベルのビジネスイノベーションを生み出すフィンランドのエコシステムが、いかにして醸成され、進化を遂げているのかを現地からレポートします。

イノベーションの鍵を握るエスポー市

企業、研究機関、投資家などを含め、様々な領域の人たちが技術やノウハウ、知見を集結させてイノベーションを起こす事業生態系を「エコシステム」と呼びますが、フィンランドの優れたエコシステムを解き明かすにあたり、エスポー市を語らずにはいられません。

同市は首都ヘルシンキから地下鉄で15分の所に位置し、教育機関や国立の研究所がコンパクトに集まることから、”スマートシティ”と称され、マイクロソフト、ノキアなどの世界的企業や、スタートアップの本社も軒を連ねています。人口28万人(2018年末時点)で、2018年の「世界で最も知的なコミュニティ都市」に選出され、「ヨーロッパで最も持続可能な都市」を過去2年連続受賞しています。

また、ヘルシンキ証券取引所の取引総額の45%以上はエスポーの企業で、25歳以上のエスポー住民の51%が大学卒業者、10以上のスタートアップコミュニティが存在するなど、人口や面積こそ小さいものの、同市にはイノベーションを生み出すポテンシャルが十分にあることが伺えます。

© atomixmedia,inc 提供

エスポーマーケティング社の清水さんとは、アールト大学内の会議室でお会いしました。

そんなエスポー市が推進するのが、イノベーション・エコシステム「Espoo Innovation Garden(エスポー・イノベーション・ガーデン)」です。

「Espoo Innovation Gardenは、1万8000人の学生と40の研究開発組織、100以上の国籍の異なる人々が参加する国内最大級のエコシステムです。人材や企業のマッチングが行われ、オープンイノベーションの機会となっています。エコシステムの基盤となっているのはアールト大学。2010年にヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ芸術デザイン大学の合併により誕生し、スタートアップ発展の鍵を握る学生や大学主体の団体が中心となり、さまざまな起業プログラムが運営されています」

そう話してくれたのは、同市が運営するエスポーマーケティング社のビジネスアドバイザー清水さん。Slushや欧州最大のハッカソンJunction(ジャンクション)も、ここから生まれたといいます。

企業×学生のプロジェクトも充実

Espoo Innovation Gardenの中でも重要なのが、120社以上のスタートアップと国連イノベーションテクノロジーラボ、欧州宇宙機関ビジネスインキュベーションセンターなどからなるスタートアップコミュニティ「A-Grid」の存在。アールト大学の施設に入居しているこのコミュニティには、コワーキングスペースや工房、ラボなどが完備されているほか、有能な卒業生や元ノキア社員などの人的ネットワークも充実しており、スタートアップのハブ的な役割を果たしています。

  © atomixmedia,inc 提供

イベントスペース、カフェスペースのほかに、コワーキングスペース、メーカーズスペースなどが完備されている「A-Grid」。(Martin Sommerschield / Mikko Raskinen / Aki Rask  提供 : Aalto University)

他にも大学の敷地内には、「Aalto Design Factory(ADF)」という学生のためのクリエィティブスペースがあり、クリエィティブ人材の育成を目的とした企業協働プログラム「PDP(Product Development Project)」なども行われています。こうして官民学が一体となるエコシステム「Espoo Innovation Garden」から、毎年さまざまなスタートアップが生まれているのです。

© atomixmedia,inc 提供

3Dプリンタをはじめ様々な商品プロトタイプを制作できる環境が揃っている「Aalto Design Factory」。

秀逸な仕組みを支える価値観「タルコ」

これらのエコシステムの原動力になっているのが、「タルコ」というフィンランド人特有の価値観。ボランティア精神に似たこの言葉は、「みんなが抱えている問題を、みんなで解決して行動をしよう」という意味を持っています。

実際にスタートアップコミュニティの代表からボランティアまで、さまざまな方にお話を聞きましたが、「我々はタルコという考え方のもとで活動している」とみんなが口を揃えて言っているのが印象的でした。自分の属する組織の利益だけでなく、「自分たちが社会にどのように貢献できるか」という視点を、みんなが常に持ち合わせているのです。

さらにフィンランドでは「仕事を通して学習する」という考えが一般的で、結果よりもプロセスをとても大事にしています。現地で子育ても経験したラクソ美奈子(フィンランド在住20年)さんによると、その考え方は教育と関係があるようです。

「フィンランドでは、暗記や反復といった学びは少なく、小学生の頃からパワーポイントを用いたプレゼンをし、良い点や悪い点のフィードバックを得ながら自ら思考力や発想力を高めていきます。こうしたプロセス重視の学びは、共創をベースとしたエコシステムで、とてもアドバンテージがあると考えられます」

日本にも、大企業と大学研究所や地域が組んだエコシステムは存在していますが、フィランドでより効果的に機能しているのは、独自の価値観や教育に支えられている部分が大きいようです。

オープンイノベーションの価値を見出したい日本企業

2018年12月、ヘルシンキで開催された本家Slushには、130カ国以上から3100人を超える新興企業、1800人の投資家、650人のジャーナリストが集まり、運営メンバーの学生も自信に満ちた言動でイベントを盛り上げていました。ピッチングコンテストでは、エスポーのスタートアップ「ミースカン(Meeshkan)」が優勝し、同市のエコシステムの実力をさらに世界に知らしめる結果となりました。

© atomixmedia,inc 提供

「Slush」はNPOのため、利益至上主義ではなく多くの学生ボランティアで運営されています。

日本からも、一般個人、ジャーナリスト、スタートアップ企業の出展など、年を重ねるにつれて参加者は増えています。また、現地の優秀なスタートアップや教育機関と連携しながら、同市のエコシステムに積極的に参加していこうという日本企業の動きも活発化しています。これらのニーズに応えるために設立された完全招待制のサイドイベント「Knights of #slush 2018」では、Forbes Global 2000にランクインする日系大手企業も顔を連ねていました。

フィンランドは今後、投資先としてだけではなく世界のイノベーションリーダーとして更に注目され、この国から様々なゲームチャンジャーが生まれることでしょう。日本の企業もそのエコシステムと連携しながら、シリコンバレーやイスラエルなどとはまた違ったイノベーションの地平を開ければ、世界でも独自の存在感を放っていけるでしょう。

連載:クリエイティブなライフスタイルの「種」

過去記事はこちら>>

Forbes Japanの関連リンク

image beaconimage beaconimage beacon