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フランスが日本よりも「IoT」で先行する理由 国の支援に大きな差はないはずなのに

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/02/15 池澤 あやか
今年のCESで話題となったウィジングズ社のスマートウォッチ(筆者撮影) © 東洋経済オンライン 今年のCESで話題となったウィジングズ社のスマートウォッチ(筆者撮影)  

 こんにちは!池澤あやかと申します。私はタレント活動やさまざまなメディアへの寄稿などを行っているほか、IT分野のエンジニアとしても活動しています。そんな私がいま気になるテックトレンドに切り込んでいく新連載。第1回は話題のキーワード、「IoT」で意外な国が存在感を放っている理由に迫ります。

 1月初旬。今年も、アメリカ・ラスベガスで「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」が開かれた。世界最大の家電見本市として、世界中の大手企業から創業ほどないスタートアップまでが集結するイベントだ。

 そこに日本の存在感は感じられなかった。各国からの出展数をみてみると、1位は開催国でもあるアメリカの1713、2位は中国の1307、そして3位はフランスの275である。スタートアップエリアでの展示に限ると、フランスからの出展数は1位アメリカの203に次ぐ、178という盛り上がりっぷりである。

 「え?フランス?」

 意外に思われた読者も少なくないだろう。フランスはアメリカや中国のように人口が多いワケでもなければ、同じヨーロッパでもドイツのような製造業が強い国とは違って、「農業大国」というイメージが強い。テクノロジーからは少し距離がある印象だ。

フランスと日本との差はどこで生まれたか

 一体なぜ、ここまでフランスが台頭してきたのだろうか。それを読み解くキーワードの1つが「IoT」だ。「Internet of Things」の略で、よくある解説の言葉を借りれば「モノのインターネット」と訳される。現在のハードウエア業界のトレンドとなっている。

 パソコンやスマートフォンだけではなく、家電、自動車、ロボット、施設などの「モノ」がインターネットにつながるようになった昨今、モノから生まれたデータを活用した、さまざまなサービスが生まれつつある。

 IoTが世界経済にもたらす影響は非常に大きいと考えられており、野村総合研究所によると、2015年に5200億円だった市場規模が、2022年には3.2兆円に成長するといわれている。まさに次世代の巨大市場である。

 IoTに強い国といえば、グーグルやアマゾン、アップルなどの巨大テクノロジー企業を抱えるアメリカが思い浮かぶ。また日立製作所、ソニー、パナソニックなどのハードウエア企業を抱える日本なのではないか、と思っている読者も多いかもしれない。実際はそうではない。

 日本は自動車や家電などのBtoC、つまり消費者向けのメーカーが多いのに比べ、フランスは核発電施設などのBtoG、いわゆる政府や自治体など向けが中心ながら、実は日本と同じ工業大国である。

「BtoCのハードウエアメーカーが少ない」

 フランスにハードウエアスタートアップが多いことの要因のひとつに、「BtoCのハードウエアメーカーが少ない」という点がある。その点、日本にはBtoCの大手メーカーが多いため、優秀な学生も、まずは安定している大手メーカーを選択するケースが多いそうだ。

 「IoT」は日本ではいまだにバズワードにとどまっているが、フランスではすでに成功したといえるようなハードウエアスタートアップも出てきた。

 たとえば、ペッパーを開発したアルデバランロボティクスはソフトバンクに、スマート体重計を開発したウィジングズはノキアに、それぞれ高額で買収されている。

 「フランスと日本は似ているが、最大の違いは『空気感』だろう」。そう語るのは、ヨーロッパ最大級のハードウエアスタートアップに特化したベンチャーキャピタルであるHardWare Clubのジェネラルパートナー、Jerry Yang氏である。

 2014年よりフランス貿易投資庁は「フレンチテック(La French Tech)」というスタートアップ支援プログラムを開始した。フランスのテクノロジースタートアップが国際レベルで活躍できるネットワークの形成とブランド力向上を主目的としている。

 こうしたプログラムによって、テクノロジースタートアップが資金を獲得しやすくなったり、コミュニティが育ってきていたりしているのはもちろんながら、このプログラムをオランド仏大統領自身が積極的に推進してきたおかげで、フランス全体に「起業する若者を応援する『空気感』」が生まれているそうである。

 フレンチテックでは、世界中のテクノロジー企業が多い都市にハブとなる「フレンチ・テック・ハブ」を創り、その都市の企業とフランスのスタートアップのコラボレーションや、その都市のスタートアップとフランスの企業とのコラボレーションを促進する取り組みを進めているようだ。

 また、昨年度には、スタートアップの創業者や従業員、およびその家族をサポートするビザ「フレンチテック・ビザ」の発行をスタートさせ、フランスのスタートアップムーブメントに大いに貢献している。

 実際、「フランスのテクノロジースタートアップの海外進出を推進する」という目的どおり、フレンチテックの雄鶏のシンボルマークはCESの会場でも数多く見かけた。

支援だけなら日本も負けていない

 このような取り組みを見ていると、圧倒的にフランスがリードしているように見えるが、国の支援だけなら日本も負けていない。

 政府は昨年度より、2020年までに日本のスタートアップを世界進出させることと、大学・研究機関の研究成果の事業化や、大企業とのオープンイノベーションの推進を目的とした「ベンチャーチャレンジ2020」という支援プログラムを開始している。政府からの支援額も数百億円程度と他国に大きく劣っているわけではない。福岡市では、フレンチテックが発行しているようなスタートアップビザも導入されている。

 そんな日本の現状を、日本で唯一と言っても過言ではないハードウエアアクセラレーターであるABBALab代表の小笠原治氏はこう分析する。「日本政府もちゃんとスタートアップ支援政策を打ってはいるのだが、それがキャッチーに見えないというのが大きな問題。だからリーチすべき人たちに知られていない」。

 また、小笠原氏は「そもそも、政府の支援が必須というより、スタートアップが投資家と出会えたり、官僚とスタートアップが結びついたりするようなコミュニティを育てていくことが重要」とも指摘する。

 フランスの場合は、そのコミュニティづくりを国が促進する仕組みがうまくいっただけであり、その旗振り役が必ずしも政府でなくても良いということだ。

 日本でもそういったコミュニティづくりは進められている。DMMが運営する「DMM.make AKIBA」は、モノづくりのためのコワーキングスペースだが、そういったコミュニティの形成を促す役割も期待して設立された。ここには、日本にあるハードウエアスタートアップが集い、投資家や官僚が視察に来るようなエコシステムが整いつつある。

 シャープではスタートアップ向けに、大手メーカーの開発現場や量産体制のプロセスを学ぶ合宿「IoT.make Bootcamp」を3カ月に1度開催している。スタートアップにプロダクトの量産方法を学んでもらい、新しい製品が世に出ていくまでのサポートを行っている。

 さくらインターネットでは、メーカーやスタートアップ向けに、IoTインフラのことを気にせずにモノ及びサービスづくりに集中できる「さくらのIoT Platform」の提供を開始した。

日本がIoT市場で生き残るには

 今後、こういったスペースやインフラが、ハードウエアスタートアップが生まれるための良い土壌となるはずだ。

 土壌づくりは進んでいるものの、日本にはそもそもスタートアップの数が少ないだとか、機能しているハードウエアアクセラレーターが少ないだとか、まだまだ問題は多い。

 「正直、日本にはまだハードウエアスタートアップが少ない。フランスがスタートアップの量で勝負してくるなら、日本は質で勝負したい。ただ、量が質を生むことも事実なので、量を増やす取り組みも積極的に続けていきたい」と小笠原氏は言う。

 また、フランスの例を見ていると、こうした取り組みが世間に知られることも大切であることがわかる。こうしたメディアを通じた発信も業界を盛り上げるためには必要だ。スタートアップ、大企業、政府、メディア、そして私たち自身が協力しあい「空気感」をつくっていくことこそが、日本のIoTムーブメントをつくっていくことにつながるはずだ。

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