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ポストGoProの「Insta360」は一体何が凄いのか 「360度カメラ」がビデオカメラを駆逐する

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/03/22 13:00 本田 雅一
ソフトバンクC&Sの「Insta360 EVO」。折りたたんで撮影することで360度撮影が可能となる(筆者撮影) © 東洋経済オンライン ソフトバンクC&Sの「Insta360 EVO」。折りたたんで撮影することで360度撮影が可能となる(筆者撮影)

 ソフトバンクC&Sが3月14日に予約を開始した「Insta360 EVO」(直販価格5万6570円)は、昨年モデルの「Insta360 ONE X」とともに、ビデオカメラ市場に大きなインパクトを与えるかもしれない。

 両製品はいずれも「全天球カメラ」と呼ばれるジャンルの製品。Insta360はブランド名で、開発は中国とアメリカに拠点を持つShenzhen Arashi Visionが開発している。

 昨年10月に登場したInsta360 ONE Xは、5.7K(長辺が約5700画素の高精細映像)から、3Kながら毎秒100フレームの高速撮影(スローモーション撮影)までの撮影を高画質にこなしつつ、小型軽量かつ5万円台の低価格を実現。別売りにはなるものの、防塵防滴を実現するハウジングを用意することで、GoProが君臨するアクションカム市場に食い込んできている。

新製品の「Insta360 EVO」の特徴とは?

 新製品のInsta360 EVOはONE Xとほぼ同等のスペックを実現しつつ、180度(半球)の3D映像を撮像する機能も同時に備える機構設計が与えられた。180度3D撮影した映像は、VRコンテンツとして楽しむことができる。

 360度映像は独自の再生環境がウェブ上で用意されているほか、Facebook、Instagram、YouTube、LINEなど、多くの動画共有サイトやSNSがサポートしている。また、VR映像もまたYouTube、Facebookで利用できるほか、国内の360度映像サイト「360 Channel」で視聴可能だ。

 全天球カメラは魚眼レンズを2つ背中合わせに搭載し、両映像を合成することであらゆる方向の映像を記録する。このふたつのカメラを横並びにすることで、360度映像とVR映像の両方に対応する。

 このジャンルに先鞭を付けたのは、2013年に発売されたリコーのTHETAだった。

 撮影者の位置から見えるすべての風景が映され、見返す際にはどの方向でもシーンを再現できる全天球カメラは、スマートフォンや一般的なカメラでは実現できない独自の世界を切り開き、静止画、動画の両面で新しいカメラ市場を生み出した。

 しかし近年の高画質化と低価格化により、360度カメラ市場は急伸し始めた。GoProが切り開いたスポーツ向けアクションカムの市場を置き換え、さらにファンを集める魅力的な製品に進化してきたからだ。

 リコーが初代THETAを発表した頃は、画質面で十分に成熟しておらず、動画撮影機能も備えていなかった。しかしその後の改良や競合メーカーの参入、各種動画サイトやSNSによるサポートが続き、動画撮影機能はもちろん、静止画、動画ともに十分な画質を持つようになってきている。

 市場調査会社のMarkets and Marketsは、2016年の360度カメラ市場は3億4770万ドルだったが、2023年には16億3000万ドルに達すると予想している。この市場が成長しているのは、360度カメラが“高画質指向”のカムコーダ(ビデオカメラ)を除くほとんどの用途で多くの利点をもたらすからだ。

 1つは全方向の映像があることを強みに、極めて強力な手ぶれ補正が実現されていることだ。flow stateと名付けられた手ぶれ補正技術は、1メートルほどの棒の先にInsta360 EVOを取り付け、歩きながら動画を撮影しても、まるで業務用のステディカムを使っているかのように安定した映像が得られる。

 全天球カメラの映像は、見るときに好きな方向に視線を向けられるインタラクティビティがあるため、編集ツールを用いれば撮影後に通常の動画・静止画へと好きな方向、画角で切り出すこともができる。

 サーフィンなどのマリンスポーツ、スノーボードなどのウィンタースポーツでは、必ずしも同じ方向の固定カメラ映像が面白いとは限らない。そのときどきのシチュエーションに合わせ、後から任意の方向、画角の動画を切り出せる。

 現状、Insta360シリーズにはGoPro並みの防水製を単体で持つ製品はないが、いずれはアクションカム市場を侵食していくだろう。両製品とも高スペック・高機能であるにもかかわらず、GoPro HERO 7と同等の価格にまで落ちてきた。

 Insta360 EVOの価格は、4Kアクションカムの代表格であるGoPro HERO 7(5万3460円)とほぼ横並びだ。

 

 大股で早歩きしても手ぶれはほとんど気にならない(筆者撮影)

ビデオカメラ市場は今や「アクションカム」が多数派に

 Insta360シリーズが注目されているのは、放送局などプロフェッショナル向けに360度カメラを提供する技術力を備えながら、コンシューマー向けにも積極的に低価格かつ高性能な製品を展開している点にある。

 ライバルにはリコー、サムスンのほか、アクションカム市場では圧倒的ナンバーワンのGoProも参入している。しかしInsta360は製品バリエーションも広く、グローバルで4~5割程度を占めているとみられる。

 カムコーダ市場が縮小し、ビデオカメラ市場は今や台数ベースでは圧倒的にアクションカムが多数派になっている。もちろん、スマートフォンの影響も大きい。高画質な4Kビデオ撮影機能は当たり前になっているほか、手ぶれ補正などの付加機能も進化している。さらに通信機能と統合され、アプリからも呼び出せるのだからカジュアルな動画撮影の道具としてカムコーダの存在意義はなくなった。

 GoProに代表されるアクションカムが伸びたのは、従来のデジタルカメラも、スマートフォン内蔵カメラも及ばない用途を実現していたからだ。しかし、今後はGoProが切り拓いたアクションカムの領域……すなわち「スマホでは撮影できない動画」市場は、全天球カメラが侵食していくと予想する。

 価格帯が近い2つの製品(Insta360 ONE XとEVO)が存在していることからもわかるとおり、現時点ではひとつの製品ですべてのニーズを満たせているわけではない。EVOには防水ハウジングは用意されておらず、ONE Xもハウジングなしでは防水性はない。またEVOはVRに対応できる一方で、手でホールドしにくいというデメリットもある(通常は伸縮する棒を取り付けて撮影することになるだろう)。

 画質面においても、360度画像から映像を切り出して編集するといった使い方では、GoPro HERO 7のような高画質が得られないのもまた事実だ。

しかし、いずれもデバイスの高性能化や設計の洗練などによって解決するだろう要素であることも間違いない。

 一方で360度カメラの映像処理には、このジャンル独特のノウハウが必要になる。その1つは前述した6軸ジャイロスコープを用いた手ぶれ補正だが、もう1つは、2つの魚眼レンズから得られる画像を自然につなぐ「ステッチング」だ。

人気の「ステッチング」機能とは?

 Insta360人気の陰にはステッチングの優秀性もある。例えば、カムを支える棒を取り付けて動画撮影した場合でも、手元にあるはずの棒が見えないよう上手にステッチされる。EVOに限っては、本体に厚みがあるため、とくに近景においてつなぎ目に死角(撮影できない領域)が生まれるが、風景の中では実に巧みに溶け込ませる処理がされる。

 

 EVOは本体が厚いため近景では死角が生まれるが、カメラあたり約200度の範囲が撮像されているため、距離が離れている被写体はキレイに映像がつながる(筆者撮影)

また、楽しむためのハードルが高いと思われがちなVR映像だが、Insta360 EVOにはVR映像を楽しむための簡易的ながら、折りたたんで持ち歩けるゴーグルが添付されている。

 これを手持ちのスマートフォンに装着すれば、VR専用デバイスを用いなくとも手軽にVRを楽しむことが可能だが、何げなく撮影した映像であってもとくに編集することなく、自然な3D感を持つVR映像に仕上げてくれた。

 使い方や特徴が異なる、2つの優れた製品がラインナップするInsta360シリーズは、今後もさらに市場での存在感を強めていきそうだ。ライバルも力をつけていくだろうことを考えれば、近い将来、この市場はアクションカム市場を追い抜く規模に成長するだろう。

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