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メディア嫌いだった岡田武史氏に聞く、スポーツとメディアの共存共栄とは

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 6日前 板東浩二
メディア嫌いだった岡田武史氏に聞く、スポーツとメディアの共存共栄とは: メディアの悪意ある報道に苦しんだ時代もあった岡田武史氏が語る、メディアとスポーツの良い関係とは? © diamond メディアの悪意ある報道に苦しんだ時代もあった岡田武史氏が語る、メディアとスポーツの良い関係とは?

板東浩二・NTTぷらら社長が各界のビジョナリストに話を聞く企画、今回は元サッカー日本代表監督、現FC今治オーナーの岡田武史氏にご登場いただいた。「監督でなくオーナーになって初めて、メディアとの付き合い方が変わった」と話す岡田氏が、メディアとの確執、和解、さらには、報道に苦しんだからこそ話せるメディアへの提言までを赤裸々に語った。

メディアの悪意ある報道にのたうちまわった日々

板東 岡田さんは、まさかご自分が代表監督やサッカーチームのオーナーになるとは思っていなかったそうですね?

岡田 ええ。大学卒業後、古河電工でサッカーを続けながら、本気で「将来は社長になる」と思っていました。しかし1993年にJリーグが誕生してコーチ就任を頼まれた時、「サッカー界が面白い流れになっている」と感じ、リスクを持って引き受けたんです。

板東 そこから人生が変わり始めて、98年に監督になられましたね。

岡田 41歳の時、フランスワールドカップの予選でカザフスタン戦を戦ったあと、いきなり加茂周監督が更迭されました。直後にウズベキスタン戦があって、次の監督を招聘する時間なんてありません。だから、コーチだった私がやるしかなかったんです。でも有名になるとか思ってないから、電話帳に自宅の連絡先を載せたままだったんですよ。その結果、私のやり方が気に入らない方からの脅迫状や脅迫電話がひっきりなしに舞い込んでくるようになりました。警察が24時間体制で自宅を守ってくれるようになったんですが、テレビを見れば私がボロカスに言われていて、まだ小さかった長男が泣くんです。最後、ジョホールバルに行ったときは、試合の前日、かみさんに電話して、本気で「もし勝てなかったら俺は日本に帰れない」と言いました。

板東 壮絶ですね…。

岡田 ここで私、怖いものがなくなったんです。電話をかけて、部屋で試合のビデオをチェックしていたとき、突然「もういいや」となった。「明日、俺は今持ってる自分の力を命がけで出す。それで駄目ならしょうがない」「負けたら謝るけど、俺のせいじゃない。俺を選んだ会長のせいだ」と開き直ったんです。言わば、生物学者の村上和雄先生がおっしゃる、何か、遺伝子にスイッチが入るような感覚……。

板東 書籍『生命の暗号』に出てくる話ですね。

岡田 そうです。我々の中には氷河期や飢餓期を超えてきたご先祖さまの強い遺伝子が眠っていて、環境や考え方に影響を受け急にオンになる、という話どおりの感覚でした。あの瞬間から、人生が変わりだしたんです。

板東 そこから、FC今治のオーナーになったのはなぜですか?

岡田 きっかけは、スペインの、ある有名なコーチに「私の国には『プレーモデル』というサッカーの“形”がある」と聞いたことでした。サッカーは野球と違い、試合中にサインは出せません。だから選手の自由な発想を活かそうとします。しかしスペインでは16歳までに共通認識のようなものを伝え、その上で自由な発想を活かそうとすると言うんです。

 この時、長年の疑問が氷解しました。スペインのサッカーは、具体的な戦術より前に「プレーモデル」という共通認識があって、その上に選手個々の創造性がある。一方、日本のサッカーは「プレーモデル」がなく、具体的な戦術から教え始めるから「言われたことしかできない」と揶揄されてしまう……。

板東 マネジメントに似ていますね。プレーモデルを経営ビジョンに置き換えれば、企業の人材育成と同じだと感じます。

岡田 そうなんです。なら日本が世界で勝つための「岡田メソッド」をつくって、これを元にクラブを運営してみたい、と考えたんです。

オーナーに就任してメディア対応を180度変えた理由

板東 そこで伺いたいのは、スポーツとメディアの関係です。オーナーになってみて、メディアについてはどう感じますか?

岡田 そこが実は、監督の頃と180度変わったんです。それまでは「いいサッカーして強けりゃいいだろう」くらいに思っていましたから、サービス精神なんてものはまったくない。そもそも代表監督の頃は、僕より年上の記者に「おまえがこの場面でこうしたのは最悪だった」などと、弾劾裁判のような形で責められていたから、私も自然と「メディアに嫌われようが、それがなんだ!」と思っていました。例えば記者に「私はこう思うんですが監督は?」と聞かれると「あなたと違ってよかった。一緒だったらアマチュアになっちゃうもん」なんて返してましたね。もう、ハーフタイムのインタビューも、とにかく素っ気なかった(笑)。

 ところが経営者になると、今度は「人気面は大丈夫か?お客さんは何人来ていただけた?」と気になって仕方ないんです。自然と選手やスタッフに「お客さまあってのサッカーなんだ!」と言っていましたし、雨が降ったときは「このお客さんは絶対逃しちゃいけない」と、気づけばスタンドでお客様全員と握手していました。周囲は「あの岡田さんが?」といった表情でしたが(笑)。

板東 視点が変わって、別の景色が見えたんですね。

岡田 おっしゃる通りで、私は監督の頃「サッカー」という競技のことしか見えてなかったんです。しかし今は「サッカー界」というステークスホルダー全体の視点で捉えています。すると、メディアとサポーターは共同体だ、と思うようになったんです。

 そんな立場でメディアの方にお願いするなら、純粋にサッカーを楽しむ部分と、それ以外で盛り上げる部分、両方を大切にしてほしいですね。盛り上げるのはいいんです。人気がある選手をアップにして、「この選手がいくらボーナスをもらった」とはやしたて……という部分も世の中から求められているんでしょう。

 しかし、サッカーを詳しく報じる部分は区別して、私たちと真剣に向き合ってほしいんです。例えばイングランドのサッカー放送は、アナウンサーの実況を聞けばすぐ「この人もプレーヤーだったんだな」とわかって、試合の内容も「そういう見方があるのか」と新しい発見があるようなことを話してくれます。

板東 そうなれば、監督や選手もメディアに敬意を持てますね。メディアとプレーヤーの関係がよくなれば、サッカー界も発展しますよね。

岡田 メディアには2種類あるんです。日本サッカーの発展を考えてくれているメディアと、ただ煽っているだけのメディア。そして監督も選手も、「このメディアがどちらなのか」ということは、接していればよく分かります。視聴率なども大切だと思いますが、メディアとスポーツは不可分。お互い、長い目で応援しあっていきたいものですよね。

ITを駆使すればこんなことも可能!岡田氏が描くスタジアムと街の未来

岡田 同様に、いまはサポーターともいい関係を築こうとしています。例えばうちのサポーターは年齢が高い人も多い。するとドーンドーンという太鼓の音が心地よくない方もいらっしゃるわけです。「なら太鼓を禁止にしよう」という話もありましたが、私は「禁止じゃダメだ、ストーリーをつくろう」と言いました。今治は中世期に「村上水軍」という海賊がいた場所で、FC今治も「海賊の末裔が大海原へ出て行く」というイメージを持っています。

 そこで、2017年8月に新スタジアムが完成したら「太鼓と旗で闘うサポーターの方は船(スタジアム)の穂先のボードの方に行って下さい、ほかは太鼓はなしで」とします。そして「ここは船員がいる場所だから、熱いお客様を迎えるスタッフはみんなセーラー服を着て……」としたんです。

板東 メディアともサポーターとも、お互いが敬意を持ってこそいい関係が築ける、というわけですね。

岡田 さらにはスタジアムも変えていきたいんです。NTTぷららさんには新スタジアムのスタジアムソリューションを手伝っていただいていますが、そこにもっと「驚き」がほしい。FC今治はEXILEのメンバーが応援してくれています。だから、たとえばチケットにスマートフォンをかざすとARでEXILEのメンバーが出てきて、「今日は勝つぞ!」と言ってくれるとか。

 サポーターがスタジアムに行く前に「FC今治頑張れ!」と動画を撮って投稿しておくと、スタジアムのビジョンやほかのサポーターのスマートフォンにそれが映せるなんてのも、実現したら面白いんじゃないかと思います。なかには彼女に「結婚してください」なんてのもあっていいじゃないですか。ほかにも、独身の男性客と女性客がきたら、AIが相性も考えた上で隣同士にしちゃうとか。その結果、スタジアムが「ここに行けば何か賑やかで、一体感がある」という場所になればいい。もちろん、お金は必要なんですが(苦笑)。

板東 どれも現在の技術で可能なことですね。

岡田 しかも、AIで「この選手はこの間隔で試合して、これだけ雨が降ったらこの辺でケガをする」とか「このゾーンでこいつがこう動いた瞬間にチームがこうやられる」とわかるとか、そんなところまで行けたら、ITとサッカーも素晴らしい関係を築けるはずです。ただし、そうなったら監督がいらなくなってしまうかもしれませんが(笑)。

板東 いつか、AIが監督の補佐をする時代がくるかもしれませんね。ときに岡田さん、docomoや「ひかりTV」では『DAZN』のコンテンツを提供しているので、サッカーを楽しんでいただけるんですが、観ていただいていますか?

岡田 それが、まだ観ていないんです。最初、Jリーグの村井チェアマンから放映権をDAZNに売ると聞いた時「画質悪いんじゃないか?」と聞いたんです。すると「綺麗に映りますよ。スマホでもどこでも観られます」というから楽しみにしていたんですよ。でも、60歳を超えるとIDだ、パスワードだと言われるのが面倒で(苦笑)。

板東 それはよくないですね。スタジアムソリューションも大切ですが、まずはそこをサポートしなければ(笑)。

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