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リクルート、AIにエントリーシートを採点させる真の狙い

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/09/20 11:56

 リクルートグループが自社の人事業務にAIを始めとしたHR Techの導入を加速させている。人材系企業が自社でもITを使った人事サービスを使うことは珍しくない。しかし、同グループはこのプロジェクトのために半数を生粋のIT系人材で占める“専門部隊”を設立した。通常なら外部のサービスを導入するところを自社で内製化しているのだ。

 目玉となるのが、これまで人力で行っていた新卒採用時のエントリーシート(ES)の選考作業を自動化するプロジェクトだ。熟練面接官の「目利き力」をAIに宿らせるという。しかし、リクルートグループは他業種の企業に比べても数多くの採用のプロを抱える人材大手。自社で充足していたはずの人事業務の自動化になぜこだわるのか、そしてこの「採用AI」の実態に迫った。

●人事部署なのに半数がIT系人材

 リクルートホールディングス(HD)傘下でグループ内の事業会社を束ねるリクルートが本プロジェクトを開始したのは約3年半前。人事の部局内に「人事戦略部」を設立し、社内外からエンジニアやデータサイエンティストといったIT系の若い人材を集めた。今では約20人の部員のうち半数をこうした非人事畑が占める。

 人事戦略部の目的は採用から社員の配置、育成、評価などあらゆる人事業務をAIやビッグデータを使ったシステムに置き換えていくことだ。部長の中村駿介さん(35)は「人事は社員の生産性の向上というコアの業務に至る前に集計などの単純作業にとらわれて疲弊している。経験と勘の集積で正しいかどうかが決められ、何十年も業務が進化していない可能性もある」と指摘する。業務の効率化とパフォーマンス向上を狙った。

 既に同部はアルゴリズムを使って社員と相性が良さそうな上司とをマッチングさせる「配属」や、退職の危険性のある社員を予測し先回りしてフォローする「組織開発」など、新システムを形にしつつある。中でも新卒採用で実績を上げているのが、学生のESを熟練の面接官並みに判断できるというAIだ。

 開発を主導したのは16年に新卒で入社した興梠智紀さん(27)。工学部出身でエンジニアとしてベンチャーでインターンシップの経験もある。リクルートのIT職種採用の新卒としては初の人事配属でもある。

 AI導入の目的は膨大な時間や手間のカット、そして属人性を排したチェック体制の確立だ。新卒採用で学生からリクルートグループに送られるESは数万通に上る。まず、「面接に通すべきかどうか」をESの内容から判断できるAIを作ることにした。

●熟練面接官の判断プロセスを分析

 興梠さんらは過去7年間の採用にまつわる人事の資料をデータベース化する作業に取り掛かった。紙やpdfファイルでしか保存されていないデータも手作業で根気強く入力、機械学習の機能を持つソフトウェアに読み込ませた。過去のESの内容と書いた学生が書類通過したかどうかの情報を結び付けることで、どんな内容だと通過させたほうがいいか判断して採点できるAIをまず開発した。

 16年にIT系人材の新卒採用で試験導入したところ「このAIの出した(学生を評価する)数字を本当に信じていいのか」と、AIを信用しきれずESを自分の目で確認しようとする採用担当者が続出した。加えてこのAIが判断しているのはあくまで「面接に通していいか」であって、採用の最終目標である「将来活躍しそうな人材」の目利きではないという課題もあった。

 単なる省力化にとどまらず、人間の人事も信頼の置けるAIにどうすればたどり着けるか。興梠さんらが新たに取り組んだのが「熟練面接官の判断プロセスの徹底的な理解」だ。過去に面接官が良しあしを判断したESの文章内容を解析して、どんなパターンだと評価が高いのか探し回った。立てた仮説を実際に面接官たちにぶつけ、彼らの目利きの裏にある「暗黙知」を突き止めようとした。

 従来、リクルートでは採用担当者がESを採点する際には部活や研究、サークル活動といった学生生活の成果にまつわる12項目を基準にしていた。しかし興梠さんらの調査で浮かび上がったのは、これらの項目のどれかを担当者が重視しているというより、成果の中で「主体的に行動できるか」というポイントに重きを置いて判断している点だ。

 そこで新型AIではESの記述から特にこの「主体的な行動」の有無を抽出し、点数化できるアルゴリズムを導入した。さらに人間の人事がAIの判断をより信頼できるよう、ESの評点を出す際には過去にAIでなく人事が採点した別のESの例を添えて「この学生のESと似た傾向があったため近い評価にした」と説明する機能も付けた。AIの判断をブラックボックス化せず、その根拠を補足することで説得力を持たせるためだ。

 さらにはAIがESに出した評点に対し、過去のデータからはじき出した「信頼度」も示すようにした。この数値が低い場合はAIの採点の精度が低い可能性があり、採用担当者は実際にESを目で見て確認することができる。「機械と人間のハイブリッド作業なら安心感が出る」(興梠さん)。

●問われる企業人事の真の「役割」

HR Techの導入を加速させるリクルートグループ © ITmedia ビジネスオンライン HR Techの導入を加速させるリクルートグループ

 17年にはこの新型AIを採用現場に投入した。リクルートは面接を受けた学生の通過率を特に定めておらず、あくまで自社に合う人材なら人数にこだわらず合格させる方針という。新AIを使った結果、ESを通過した学生の面接での合格率は前年の2倍になったといい、中村さんも「うちに合う学生を高い精度で抽出できるようになった」と評価する。18年にはリクルートHD傘下の大手9社の新卒採用にこのAIを本格導入した。

 「新卒採用をしていると『機械が人を判断するのか』とよく言われる。それでも私たち人事では人間と機械を共存させ、人間がすべき業務に集中できるようにする必要がある」(中村さん)。大幅な人事業務の省力化が期待できるこのAIだが、リクルートが内製化にこだわったのは自社のためだけでない。社内でノウハウを蓄積してシステムを磨き上げた後には、他社にHR Techのサービスとして売り込む方針だ。中村さんも「他の会社にもビジネスの形で(このシステムの)考え方やノウハウを提供したい」と意気込む。

 学生から送られる膨大なESを読み込む作業は長らく企業の採用担当者の負担になってきた。将来、リクルートのAIのサービスが世に出ればその手間を大幅に省けることになる。しかし、それは一方で何となくの「勘や経験」、あるいは学歴や部活動といった表層的な情報のみで学生を判断してきた人事の存在価値が問われかねないことも示唆している。

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