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リーダーに不可欠なのは「変化への感度」と「身を引く覚悟」

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/01/11 06:00 朝倉祐介
リーダーに不可欠なのは「変化への感度」と「身を引く覚悟」: 松崎正年(まつざき・まさとし)さん コニカミノルタ株式会社取締役会議長 1976年小西六写真工業株式会社入社、98年コニカ株式会社情報機器事業本部システム開発統括部第一開発センター長、2003年コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社取締役、2005年コニカミノルタホールディングス株式会社執行役兼コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社代表取締役社長、2006年コニカミノルタホールディングス株式会社取締役兼常務執行役、2009年4月同社取締役兼代表執行役社長、2013年4月、コニカミノルタ株式会社取締役兼代表執行役社長、2014年4月同社取締役兼取締役会議長(現任)。 © 画像提供元 松崎正年(まつざき・まさとし)さん コニカミノルタ株式会社取締役会議長 1976年小西六写真工業株式会社入社、98年コニカ株式会社情報機器事業本部システム開発統括部第一開発センター長、2003年コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社取締役、2005年コニカミノルタホールディングス株式会社執行役兼コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社代表取締役社長、2006年コニカミノルタホールディングス株式会社取締役兼常務執行役、2009年4月同社取締役兼代表執行役社長、2013年4月、コニカミノルタ株式会社取締役兼代表執行役社長、2014年4月同社取締役兼取締役会議長(現任)。

朝倉祐介さんが著書『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』の中で、ファイナンス思考を実践している企業として紹介したのがコニカミノルタ。同社は、主力だったカメラ事業と写真フィルム事業から撤退したうえで、主力事業への注力と新規事業の確立、また、財務の健全化を進めて持続的な成長を目指す企業へと変貌しました。同社取締役会議長の松崎正年さんがビジネスを通じて身につけてきたリーダーシップの神髄、またリーダーの条件や育成のポイントとは?『ファイナンス思考』著者の朝倉祐介さんの特別対談シリーズで伺っていき、大いに盛り上がります。(構成:大西洋平、撮影:野中麻実子)

経営者に不可欠なのは「変化に対する感度」

朝倉祐介さん(以下、朝倉) ご著書『傍流革命:小が大と戦うビジネス・アスリート経営』を拝読すると、松崎議長ご自身の中で、リーダーシップを明確に理論化なさっていたことがうかがえますが、これは日本人としては非常に珍しいという印象です。そういったリーダーシップはどうやって身につけ、体系化されてきたのですか?

松崎正年さん(正式表記は、立つ崎。以下、松崎) 若いころから開発のリーダーを務めてきたので、リーダーシップには強い興味を持ち続けてきました。そう振り返ると、経験から得てきたものが多いのでしょうね。そして、体系化やフレームワークで捉えることを、日々の仕事にしろ、会社の経営にしろ、さらに講演で話す内容にしても、常に心掛けています。今は取締役会の議長を務めていますが、ガバナンスとは何か、議長や各々の取締役の役割は何か、とひとつずつ整理したうえで進行するようにしています。

朝倉 松崎議長のリーダーシップはご自身の経験を通じて身につけ、体系化されたものであることを強く感じますが、逆に、リーダーというのは育てることができるものでしょうか?

松崎 当社では、社長をはじめトップ層の後継者計画を進めていて、私はその指名委員会の委員も務めています。たとえばCEOについて、その資質のある人を選んで育てていくことが目的ですが、そうした取り組みを通じても、リーダーにはもともと備わっている部分と、経験を積んで伸びていく部分との両面があると感じます。

朝倉 ご著書の中に、小西六写真工業(旧コニカの前身)に入社して新人研修の一環として自衛隊の朝霞駐屯地で3泊4日の体験入隊したエピソードが出てきますね。最終日の体力検定で、松崎議長は自衛隊員と競いながら最高位の1級判定を獲得されたという話がありましたが、こういう体力や運動神経はある程度、先天的な資質による部分が大きいと思います。一方で、ファイナンス思考やITリテラシーについては後天的に学ぶことができます。さまざまなリーダーの資質があるとして、これだけは不可欠だというある種の先天的な資質はあるでしょうか。

松崎 先天的かどうかはわかりませんが、CEOやそれに準ずる立場の人に必須なのは「変化に対する感度」でしょう。世の中の経営者全般に通ずることではないかもしれませんが、少なくとも当社においては、変化に鈍いと致命傷です。ようやく持続的に成長できる体力は備わってきたと私も実感できる状況になってきましたが、後から振り返れば本当に激動の日々で、ちょっと間違えていたら会社が傾いていても不思議はなかった。目の前で起きていることの本質をとらえる能力は、私自身のほか、私の前任者、そして現社長もしっかり持っていると思います。

経営統合とともに敢行したソフトウェア部門の一本化

朝倉 大きな決断と言えば、祖業でもあったカメラ事業からの撤退も然りですね。

松崎 確かにブランドの認知度からすれば重要ですし、デジタルカメラへのシフトでただ存続することは可能だったかもしれません。しかし、これからのカメラは光学技術以上にソフトウェアが勝敗を左右するようになると当時のトップは判断しました。一方で、創業事業のカメラ・フィルム事業が斜陽となり、代わって当時主力事業になっていた事務機事業がキャッシュを稼がなければならなかったという背景も深く関わっています。事務機事業でもネットワーク化やソリューション対応が進み、ソフトウェアの重要性が対数的に高まっていたため、こちらのソフトウェア部門にリソースを集約させるべきだという結論に達したのです。中途半端にやると、両部門とも沈んでしまいますから、「これは絶対に外せない」というところに的を絞ったのです。

朝倉 お話をうかがっていると、松崎議長だけにとどまらず、コニカミノルタの代々の経営者はスタンスが一貫されているんですね。おそらく功名心だけであれば自分の在任期間中はつつがなく過ごしたいと願うのが人情ですし、変化を意識されている方でなければ、任期の最終年度に特別損失をあえて計上されないでしょう。変化に対応できる人が次々と登用される仕組みが、御社の中では構築されているのでしょうか。

松崎 国にしても、スイスやシンガポールが好例であるように、大国よりも中小規模の国のほうが常に危機感を抱いていて、変化への感度も高いのではないでしょうか。そういった感覚がなければ、当社の経営者は務めらないという共通認識は歴任者にあったと思います。

朝倉 非常に激しい環境の中で揉まれてきたからこそ、御社の今の企業風土があるのでしょうし、リーダーシップを発揮するうえでも、そうした経験が大きく影響されているのでしょうね。

松崎 前任の社長が私を後継に選んだことも、今のお話につながるかもしれません。先にも述べたようにリーマンショック直後ですから、財務系の守りの人財を選ぶ選択肢もあったでしょう。あるいは、カメラ・フィルム事業から撤退して事務機事業が主力となっていましたから、その主力事業をリードしていた人財を次期トップに選ぶのが通常です。しかし、前任者は「変革ができる人間だから」という理由で私を選びました。「今の当社には、変革が必要だ」と判断したのだと思います。

大胆な意思決定には、大ケガの予防策も必要

朝倉 大胆な意思決定を行う際には、大ケガしないための対策も同時に講じられる重要性を説いておられたのが印象的でした。

松崎 私は若い頃から積極的に施策を提案するタイプでしたし、任せてくれた上司たちの顔に泥を塗れないという思いで、うまくいかなかった場合のリカバリー策もおのずと用意するようになったのかもしれません。モノクロレーザープリンターが主流であった1990年代初頭に、米国大手が当社のカラーレーザープリンター技術に関心を示して共同開発を提案してきた際にも、これは大きなチャンスだと思って、「ぜひともやらせてください」と志願しました。その米国大手が求めているレベルは非常に高く、決して開発は容易でなかったため、社内でも反対意見が飛び交いました。しかし、それでも私の上司や事業部長がゴーサインを出してくれたわけですから、絶対に製品化を成し遂げなければならないと思いました。とはいえ、会社や部門が再起不能になってはいけない。抑えるべきところは抑えたうえでリスクを取り、「カラー+レーザー」という新しいコンセプトのプリンターの開発に成功しました。

朝倉 そういったご経験が、経営統合やリーマンショックといった大きな試練の場でも生かされたんですね。

松崎 経営統合の目的は、旧コニカと旧ミノルタがともに手掛けてきた事務機事業を一つにしてより競争力を高めることでしたが、開発側の人間にとってはとてつもない難問です。それぞれで既にかなりの規模になっているソフトウェアを一つにするわけですから。経営統合が一段落してから着手するという発想もありますが、そうすると効果は先送りされてしまいます。かなりのリスクがあったわけですが、それでも進めるしかありませんでした。だから、その際にも大ケガをしないように、開発が多少遅れたとしても、販売に大きな迷惑をかけないように心掛けましたね。

朝倉 その場しのぎの経営統合ではなく、もっと先を見据えていらしたわけですね。

松崎 両社経営トップが覚悟を決めて断行した経営統合の目的を考えれば、リスクがあってもソフトウェアを一つに統合して効果を出すほか道はありませんでした。その後、カメラ・フィルム事業の撤退で大きく損失を出しましたが、事務機事業が光学フィルム事業とともにキャッシュを稼ぎ出せるようになっていたので、比較的短い期間で財務も改善できました。無理をしてでもソフトウェアを一つに束ね、競争力のある商品を世に送り出せたことが奏功していると思います。

朝倉 経験に勝る教材はないということを思い知らされるお話ですね。拙著『ファイナンス思考』を読んだ人から、「ファイナンス思考が重要であることはわかったけれど、どうやったら身につくのかがわからない」という指摘をよく受けます。けれど、ゴルフの教本を読んだからといって、いきなりプレイが上達するわけではないのと同じで、松崎議長がおっしゃるように、やはり経験がものを言うところですね。

松崎 単に人から教えられるだけでは、なかなか真の理解には至りませんね。よくある話ですが、事業の責任者が計画通りの売上を達成できない場合に、不要不急の経費を抑えることで、利益を捻出しようとします。しかし私から見れば、不要不急とは思えないような、必要な投資を削ったものも多い。特に新しい事業は3年先、5年先の業績に寄与することを期待して資金を投じているのですから、経営者が期待するのは、顧客における検証状況やパイプラインに関する報告です。「販管費を抑えて利益が増えました」と報告されると、「何を考えているんだ!」と言いたくなります。

朝倉 そうやって目先のPLをよくするという行為は、まさに利益の先食いですよね。

松崎 こういうとき、「その考えは間違っている!」とはっきり言ってあげることが必要ですよ。私は40〜50代のリーダー層のコーチングを頼まれることも多いのですが、その際にも強調しています。

社長業とは武士道にも通ずるもの

朝倉 ご著書『傍流革命』で、社長業とは武士道にも通ずるところがあると指摘されていましたが、その真意をもう少し詳しくお聞かせいただけますか。『葉隠』にある「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」という心境で、社長の5年間を過ごされた、と。

松崎 当社でもガバナンス強化のために社外取締役を任命していますが、彼らが注視しているのは月次の収益の推移よりも、社長の経営能力です。事業の状況を踏まえて、社長がどのような判断を下すのかを見極めています。特に私の在任中は経営環境が悪化していましたし、監督側からいつ不信任を言い渡されるかわからないという覚悟で、毎月の取締役会に臨んだものです。そして、そう宣告される状況に陥る前に、自分のほうから「辞めさせていただきます」と申し出るつもりでした。

朝倉 私も規模は小さいですが経営にあたった際は、孫子の「将、軍に在りては君命も受けざるところあり」という教えを思い浮かべながら臨んでいました。ともすればサラリーマン的な発想ですと、いろいろな人の顔色をうかがってしまうわけですよね。最終的に意思決定を行うのは社長である自分であり、その責任は己が負うわけです。誰かが言ったことに振り回されながら決定を行っていると、責任を取れなくなってしまいます。責任と権限は常に一致させて経営者が負い、「自分がやっていることが間違っていると思ったら、いつでもクビにしてください」と宣言できることだと思います。社外取締役にしても、それが自分の雇用のための職業になってしまってはいけませんよね。

松崎 私自身も3社の社外取締役を務めていますが、次の年もお引き受けするかどうかは自分自身で決めようと思っています。1年間務めてきて、その会社が私に対して抱いた期待に十分応えられたという自信がなければ、引き続き承るわけにはいかないからです。

朝倉 そのお覚悟は、経営者時代と変わらないんですね。今日はありがとうございました。大変勉強になりました。

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