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レッドソックスが日本企業にも人気なワケ 「ハイチュウ」や「ENEOS」の米国展開に一役

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/08/10 岡田 真理
大リーグの人気球団ボストン・レッドソックス。販促やブランドイメージ向上などの目的で手を組む日本企業が後を絶たない。生え抜きのダスティン・ペドロイア選手は、日本人選手と変わらない身長175センチメートルの体格ながら、8月17日に34歳を迎える今年もメジャーリーグで活躍を続ける(写真:AP/アフロ) © 東洋経済オンライン 大リーグの人気球団ボストン・レッドソックス。販促やブランドイメージ向上などの目的で手を組む日本企業が後を絶たない。生え抜きのダスティン・ペドロイア選手は、日本人選手と変わらない身長175センチメートルの体格ながら、8月17日に34歳を迎える今年もメジャーリーグで活躍を続ける(写真:AP/アフロ)

 7月30日、メジャーリーグの人気球団ボストン・レッドソックスの本拠地球場「フェンウェイパーク」で、2007年のワールドチャンピオン10周年の式典が開催された(現地時間)。当時の優勝メンバーで今も同球団に在籍しているのはダスティン・ペドロイア選手のみ。だが、この日は昨年まで主軸として活躍したデービッド・オルティス氏ら当時の所属選手たちも、ファンとともに祝おうと集結。日本からは、中継ぎ投手として優勝に貢献した岡島秀樹氏も駆けつけた。

 レッドソックスは2004年、2007年、2013年と、2000年以降ワールドチャンピオンに3度も輝いている。しかし、2004年までは86年もの間その偉業を達成することができなかった。それは、1919年オフにベーブ・ルースを10万ドルで宿敵ニューヨーク・ヤンキースに放出したことによる“バンビーノ(ルースの愛称)の呪い”とまで言われていた。

 その2004年、86年ぶりに呪いが解けて世界一になったチームを熱い眼差しで見つめる男がいた。大物投資家としても知られるレッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリー氏である。

 大の野球ファンだったヘンリー氏は、現在、イチロー選手が所属しているマイアミ・マーリンズ(当時はフロリダ・マーリンズ)のオーナーを経て、2002年に人気球団ボストン・レッドソックスを買収。これが、レッドソックスを中核の一つとするスポーツ企業「フェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)」が踏み出した大きな一歩となった。FSGの名は、サッカーファンの方も耳にしたことがあるかもしれない。英サッカーチーム「リバプールFC」の親会社でもあるからだ。

レッドソックスと組んできた日本企業たち

 レッドソックスには岡島氏のほかにも野茂英雄氏など、これまで幾人もの日本人選手が所属してきた。

 そのこともあり、これまでレッドソックスに対しては、日本からも名だたる企業がスポンサーとして名乗りを挙げてきた。ニコン、コニカミノルタ、ソニー、船井電機、KUMON、三菱電機、森永製菓と、その業種もさまざまである。企業ブランドでは、ユニクロ(ファーストリテイリング)とENEOS(JXTGホールディングス)が名を連ねる。今年からは製薬会社のサノビオン社(大日本住友製薬の米国子会社)がその仲間入りを果たした。

 だが、もちろん、日本企業だけではない。FSGは米国のニューイングランド(ボストンのあるマサチューセッツ州などアメリカ北東部6州の総称)からスタートし、現在では全米はおろか、欧州やアジア、アフリカにも勢力を及ぼすグローバル経営を実現しているのだ。

 いずれは日本の球団も目指すべきなのかもしれない、レッドソックス親会社FSGがグローバル規模で展開する画期的なスポンサーシップの手法と日本企業のスポーツに対する協賛活動(スポーツ・スポンサーシップ)の可能性について、本稿で紹介していこう。

 球団親会社であるFSGの歴史は、レッドソックスを買収する前年の2001年にさかのぼる。ヘンリー氏は、FSGの前身企業「ニューイングランド・スポーツ・ベンチャーズ」をこの年に設立、その後、買収したレッドソックス球団とフェンウェイパーク、ニューイングランドのスポーツ専門ケーブルテレビ局「NESN」の持ち株会社となり、2011年に現在の会社名に改称した。

 その間、2004年には、レッドソックスとフェンウェイパークのスポンサーセールス(企業などのスポンサーを得るための営業活動)を担う子会社「フェンウェイ・スポーツ・マネジメント(FSM)」も設立。この会社は、前に例を挙げた日本企業など、レッドソックスのスポンサーになりたい企業との間で、窓口としての役割を担っている。

 オンラインの施策は別だが、メジャーリーグの場合、チームの"リアル"のスポンサーシップ施策をフランチャイズエリアに限定している。そのため、当初はFSMがスポンサー企業の商品販促やブランドイメージ向上の施策を展開できるのは、レッドソックスのフランチャイズエリアである、ニューイングランドだけに限られていた。

 しかし、その後、FSGは2007年に米国で高い人気を誇る自動車レース「NASCAR(ナスカー)」のチームに参画して「ラウシュ・フェンウェイ・レーシング」をスタート。FSMがそのスポンサーセールスを行うようになると、全米のNASCAR開催地でもイベントと連動した施策を打てるようになった。2010年には英サッカーチームのリバプールFCを買収し、活動範囲を欧州に、そして欧州サッカーの視聴者が多いアジアやアフリカを含む全世界に広げることに成功した。

 もちろん、米国内での事業領域も着々と広げている。野球ではレッドソックスのほかにも、メジャーリーグのデジタルコンテンツを一括管理する「MLBアドバンストメディア」が、スポンサー獲得の営業活動を委託。バスケットボールではNBAのトップスターであるレブロン・ジェームス選手のコート外での活動、ゴルフでも松山英樹選手も出場したトーナメント「デル・テクノロジー」に関して、同様の契約を結んでいる。

レッドソックス親会社が世界展開する意味

 FSGの「ワールドワイド」な展開の恩恵を受けた代表例が、本社がレッドソックスの地元マサチューセッツ州にあり、古くからの球団スポンサーである「ダンキンドーナツ社」だ。同社は中国への進出を考えていたが、レッドソックスへの協賛では前述のとおりエリアが制限されるため実現できない。

 そこで見事に生きたのが、事業領域が広大であるからこその“引き出しの多さ”である。FSMの担当者は中国でのNBA人気の高さに目をつけ、現地でレブロン・ジェームスのバスケットボール教室を開催し、中国での同社の認知度向上において大成功を収めたのだ。すると、今度はジェームスのスポンサーである韓国サムスン電子が、ニューイングランドに市場を広げたいという意向を示した。言うまでもなく、それはFSMにとって得意とする事業領域だ。こうして、多くの引き出しがあるからこそのクロスセルが実現したのだ。

 米国内の事例で興味深いのは、レッドソックスの親会社が、傘下のFSMを通じて、MLBアドバンストメディアでメジャーリーグの他の29球団のスポンサーシップも扱っていることだ。すなわち、ヘンリー氏はレッドソックスのオーナーでありながら、最大の宿敵といってもいい球団であるニューヨーク・ヤンキースのバナー広告のセールスにもかかわっているということになる。FSGの米国での存在感の大きさを示すエピソードだと言えるだろう。

 日本企業では、森永製菓の米国子会社「米国森永製菓」の事例が実に面白い。

 森永製菓の「ハイチュウ」といえば、日本ではおなじみのお菓子だ。ハイチュウの場合、実はアメリカでは、大リーガーが野球の現場でビジネスチャンスを生み出した。ハイチュウを米国などの大リーガーに“輸出”したのは、2009年から2016年シーズンまでレッドソックスで中継ぎ投手としてプレーしていた田澤純一選手。森永製菓のハイチュウをブルペンで食べていた田澤選手からもらって、口にしてみた他の選手の間でも大好評となった。

「ハイチュウ」が全米展開にこぎ着けられた背景

 たくさんの選手が欲しがるので、それに応えてあげているとすぐになくなってしまう。田澤選手は遠征先でわざわざハイチュウを買いに出掛けていたのだが、当初はロサンゼルスやニューヨークなど日系のスーパーがある都市でしか購入することができなかった。そこで、球団が米国森永に「まとめ買いしたい」と連絡。それならばと、米国森永が好意で球団にハイチュウを無償提供したことが、スポンサー契約のきっかけとなったのだ。

 地元の人気球団レッドソックスとタッグを組むことで、これまでハイチュウになじみのなかったニューイングランドの人々の間でもその味が親しまれるようになり、商品の認知度は爆発的に向上。結果的に、ともに米ドラッグストアチェーン大手の「CVS」でのテスト販売、そして「ウォルグリーン」での全米展開が実現した。

 2015年にスポンサー契約を締結したのが、ENEOS。レッドソックスとの最初の接点も同じく田澤選手だった。野球ファンはご存じかと思うが、「新日本石油ENEOS(現JX-ENEOS野球部)」は田澤選手がアマチュア時代に所属していたチーム。しかし、それはあくまでもきっかけであり、ENEOSにはアメリカでレッドソックスの力を借りて解決したい課題があったのだ。

 ENEOSが主に扱っている商品はエンジンオイル。安心・安全なイメージが売り上げを左右するため、印象として「みんなが知っているブランド」であることも求められる。しかし、ニューイングランドでのENEOSの知名度はほぼゼロに等しかった。

 日本では自動車の保有率が減少傾向にあるため、今後、アメリカ市場をどう攻めるかは非常に重要である。特に日本車が多く見られるニューイングランドは有望市場であり、ぜひとも開拓したいエリアだった。そこで、ご当地球団のレッドソックスとタッグを組むことにしたのだ。

 知名度を上げるためには、まずENEOSのロゴを知ってもらうことが必要だ。そこで、フェンウェイパークのバックスクリーン右下に縦7.3メートル、横4.8メートルのロゴを掲示。ほかにもオープン戦で使用するジェットブルーパークの外野フェンス、ブルペン、インタビュー時の背景としてテレビなどに映り込むボードなどを使い、徹底的にロゴの露出を行った。

 さらに、レッドソックス傘下の非営利組織「レッドソックス財団」のスタッフとENEOSの社員が、貧しい地域にある学校のペンキ塗りや医療サポートセンターでの子供のケアを一緒に行う取り組みも実施。

 そしてENEOSのオイル交換所にはワールドチャンピオンのトロフィーを展示し、顧客が自由に記念撮影できる機会を提供した。

 タッグを組んだENEOSとFSMは、このように球場外でもレッドソックスファンとENEOSの距離を徐々に縮める施策を矢継ぎ早に展開。地元の人々との多様な接点を作り出すことでENEOSの認知度向上やイメージアップを果たすことに成功した。

 米国森永製菓とENEOS。双方のスポンサーシップを手掛けたFSMアジア事業戦略担当の吉村幹生氏は、「我々のミッションは、顧客に対しニューイングランドの“ドアを開く”ことでした」と語る。

 「地元で大人気のレッドソックスが『ENEOSは僕らの友達だよ』と紹介すれば、ファンは高い確率で振り向いてくれます。レッドソックスはメジャーリーグの中でSNSのフォロワー数は1位ではありません。ですが、レッドソックスのことを、わざわざ検索してウェブサイトを見に来る人の数は30球団でナンバーワンというデータが出ています。つまり、それだけ熱狂的なファンが多く、球団との結びつきが強いということ。だからこそ『友達の友達はみな友達』という方程式が成立するわけです」(吉村氏)

 アメリカのスポンサーシップ専門のコンサルティング会社「IEG」の2014年の調査によると、全米におけるスポンサーシップビジネスの70%がスポーツ関連であり、その次がエンタテインメント関連で10%。その差を見れば、アメリカではスポーツ分野でのスポンサー活動が有効であるという認識が非常に高いことがわかる。

米国でスポーツの求心力がこれほど高いワケ

 なぜ、スポーツがそれほど求心力を持っているのか。「アメリカでは家族で政治的な考えや宗教が違うということは日常茶飯事です。それでも、年に1度のスーパーボウル(アメリカンフットボール・NFLの決勝)はテレビの前で家族そろって観戦することがほとんど」と吉村氏は話す。

 つまり、スポーツが言語、宗教、価値観など、あらゆる壁を越えられる存在になっている、ということだ。「コミュニケーション方法も人々の価値観もこれだけ多様化した現代では、そのような存在は希有です。しかし、スポーツにはその多様な価値観を一気に巻き込む力がある。2020年の東京オリンピックも、その機会の一つになるはずです」。

 吉村氏は、自らが手掛けるスポンサーシップを「パートナーシップ」ととらえているという。つまりは、ある意味では対等の立場でお互いにアイデアを出し合い、ベストなやり方を探し出すことで、双方の利益を最大化、いわゆる“ウィンウィン”の関係を作ろうという考えだ。

 「単にスポンサーになっていただくという一方通行の図式ではなく、パートナーとして課題解決を共に目指していくイメージです。そうすることで、パートナー(クライアント)も『リバプールと組むならこうしたい』『レッドソックスにこんなことをしてほしい』とビジョンを持って踏み込んできてくれますし、われわれもそれに応えるべく自分たちの力を目いっぱい提供できる。われわれを使えば使うほど、投資効率が上がるということ。パートナーの皆様には、とにかく、『われわれを使い倒してほしい』とお願いしています」(吉村氏)

 東京オリンピックが決まり、日本でも注目度が高まったスポーツのスポンサーシップだが、「とりあえず」の精神で時代の流れに乗ることが必ずしも正解とは限らない。

 吉村氏はこう指摘する。「オリンピックは確かに魅力的なコンテンツです。でも、自社の課題を解決するためには、極端な例ですが、地元の少年野球のスポンサーになったほうがいいケースもあるかもしれません。自分たちの課題と目的、ターゲットによって、どういった施策、アプローチ、プラットフォームがベストなのか。そういった視点が成功のためには不可欠だと思います」

 球団スポンサーなど、スポーツへのスポンサーシップで成功している企業は、自分たちがミッションを達成するためにどんなスポーツがどのように有効なのかも、やはりある程度理解していることが多いという。ここに一つのヒントがあるのではないだろうか。

 どの企業も避けたいのは、「スポンサーとして、たくさんお金はかけたけれど効果がよくわからなかった……」という事態のはず。そうならないためにも、トレンドではなく、まずは何が自社の課題なのかに目を向けたうえで、それを共に解決しうるパートナーを見つけることが何よりも大事なことなのだ。

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