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不要と言われた総合商社が、今でも学生から絶大な人気を誇る理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/06/14 06:00 葉村真樹
不要と言われた総合商社が、今でも学生から絶大な人気を誇る理由 © diamond 不要と言われた総合商社が、今でも学生から絶大な人気を誇る理由

三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅……半世紀以上にわたり、大学生の就職人気ランキングのトップ10の常連に入る総合商社。しかし1980年代には「商社不要論」が巻き起こり、インターネットの時代になるとさらに存亡の機にも直面した。それでも、なぜ総合商社は今も求められる存在なのか。彼らの存在価値から、新時代の再編を生き抜くヒントが見えてくる。グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!

ラーメンからミサイルまで売る総合商社の存在価値

 ソフトバンクが誕生するはるか以前、前回の東京オリンピック(1964年開催)の頃から実に半世紀以上にわたって、男子大学生の就職人気ランキングのトップ10の常連と言えば、総合商社である。

 三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅といった企業は、人気ランキングの他の顔ぶれが時代によって、重厚長大産業から電機メーカー、金融機関、マスコミ、広告会社などと変遷する中で、常に高い支持を得ている。

 総合商社は「日本にしかない業態」ともいわれ、いわば「ラーメンからミサイルまで」、幅広い商品・サービスについての輸出入貿易および国内販売を業務の中心にしていた。言ってみれば幅広い商品・サービスを対象とした卸売業者に過ぎない。

 しかし、貿易立国であることが国の経済成長の柱であった戦前、そして特に戦後の高度経済成長期の日本においては経済成長の牽引役であり、大学生にとっても花形的存在であったのは必然であった。

 しかし、1980年代に素材メーカーを中心に、需要サイドとの共同開発などの取り組みとともに、資金力が高まったことにより、独自の販売網を構築したことで、商社排除が実際に進行するようになる。

 また、商社金融に依存することが大きかった中小企業への貸出に都市銀行が進出したことで、総合商社が取引に関与する必要性が大きく低下する事態が生じた。いわゆる「商社不要論」である。

 さらに、1990年代に入り、本格的にインターネットが普及すると、供給側と需要側が直接取引を行うことが技術的に容易になるため、「中間業者不要論」が盛んに喧伝され、これまで何度も自らの「存在価値」の存亡の機に直面してきた。

存在価値を問われ「川上から川下まで」手をつけ出した商社

 総合商社では、さきほどの「ラーメンからミサイルまで」とともに、「川上から川下まで」という表現がよくなされる。

 ここで言う「川上」とは資源や技術、生産などの「供給」側を指し、「川下」はそれらの資源・技術・生産の供給を最終的に購入する「需要」側を指す。

 商社は、長らくこの「川上」と「川下」をつなぐ「川中」の存在であった。物流、あるいは金融などの役割で需要と供給をつなげており、「ラーメンからミサイルまで」の様々な川の「川中」として存在価値を発揮し、そこでの「中間搾取」で利益をあげていた。

 しかし、1980年代の「商社不要論」の時代、そしてインターネット時代が到来し、その存在価値そのものに疑問符がつくようになると、商社は自ら「川上」と「川下」に手をつけるようになるのである。

 すなわち、原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでを、価値の連鎖=バリューチェーンとして捉え、川上、川中、川下でそれぞれ利益をあげるようになっただけではなく、これ全体を構築するオーガナイザー機能を自らの「存在価値」=バリュー・プロポジションとして位置づけし直したのである。

 総合商社は「川上」に対しては、まずは投資という形で関与を始める。最初は、1980年代中盤からメーカーまたは海外の現地パートナーが主体となるプロジェクトに少数株主として参加する形であったが、積極的に海外の資源・技術・生産などへ投資を行うようになってくる。

ソフトバンクと総合商社は極めて似通った企業

 さらに1980年代後半から1990年代にかけては、先端技術産業としての新素材や情報通信分野への進出の可能性をうかがいながらも、事業投資が増えていくようになる。そして、1990年代に入ると「川下」への進出が進むようになる。

 まず、大手総合スーパーが、経営危機で子会社のコンビニエンスストアの株式を手放した際、総合商社がそれを取得する形で、コンビニ業界へと進出した。現在では、コンビニ業界2位のファミリーマートは伊藤忠傘下、同3位のローソンは三菱商事傘下である。

 ただし、総合商社は単純に「川下」である小売事業者を押さえるだけではなく、自身の子会社である食品卸を中核に関係会社の統合を進め、中間流通も含めて影響下に置いている。

 自らが持つ機能を有機的に組み合わせ、情報収集から企画・立案、資金調達、原料・資材などの調達、建設受託、販売先の開拓などを行うというオーガナイザーとしての機能をこうして総合商社は身につけていくのである。

 総合商社のオーガナイザーとしての能力は、そもそも商社が「川中」の存在であった頃から、「目利き」や「見立て」、あるいは「リスクヘッジ」という価値を提供してきた事実に依拠している。

 もちろん、90年代における情報通信分野への事業投資については、その多くは失敗に終わったという声も多い。

 しかし、収益力強化を至上命題として掲げる総合商社は、経営の中心を事業への投融資へとますますシフトさせるようになっている。今や、総合商社は「総合事業投資運営会社」と言った方が適切だ。

 総合商社のユニークな点は、単なる投資会社とは異なり、自ら経営と事業の育成を行っている点である。総合商社は投資主体と言っても、初めから売却などの出口を考えるのではなく、事業の継続を前提としており、自らが持つ他事業との連関を強く意識しているのである。

 そうして考えると、ソフトバンクと総合商社は極めて似通った企業である。すなわち、そもそもは卸売事業会社(トレーディングカンパニー)として始まった企業であったにもかかわらず、現在は、川上から川下までを押さえた総合事業投資運営会社として、事業の継続を前提としてバリューチェーンを構築するオーガナイザーとしての機能を生業としている点である。

 そして、実はそれ以上に重要とも言えるのが、両者ともに、自らの事業活動のミッションとして社会貢献を明確に意識していることである。

総合商社の核となる「三方良し」の精神

 大手総合商社の一つである伊藤忠商事は「事業活動を通じて社会の期待に応えていくことが、その持続可能性(サステナビリティ)を保ち、さらに成長につながる」と説いた上で、その考えは創業者の伊藤忠兵衛が事業の基盤としていた近江商人の経営哲学「三方良し」の精神につながるものとしている。

「三方良し」とは、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つを指し、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのが良い商売であるという近江商人の心得を言ったものである。

 そして、三つ目の「世間良し」=社会貢献に対する意識というのは、伊藤忠商事に限らず、総合商社が普遍的に持つ価値意識と言える。これには、総合商社の歴史的な背景も多分にあると考えられる。

 総合商社、特に三菱商事、三井物産といった財閥系商社は、第二次世界大戦前後を通じて、国の成長戦略に関わる国策的な役割を担い、国内産業を発展させていく期待を背負ってきた。

 それには、その時代時代の潜在的なニーズを掘り起こしつつ、国益に結びつく事業を展開していくことを求められるのだが、総合商社は愚直にそれを実践してきたのに過ぎないとも言える。

 そうして考えると、第8回で見たような、マズローの段階欲求説で言うところの「自己超越欲求」の実現、すなわち社会貢献というミッションを掲げるというのは、何もシリコンバレー企業の専売特許ではないことがわかる。

 近江商人の「三方良し」を事業基盤とする伊藤忠商事だけでなく、日本の戦前戦後の成長を支えた総合商社は何かしら社会の期待に応えているという矜持を持っており、それが今なお、自らの存在価値を見失わないで隆盛を誇り続けられている原因と言えよう。

総合商社は時代の変化の中で自らの存在価値を変革させた

 ところが、それぞれの総合商社がどのようなミッション・ステートメントを掲げているかを見てみると、第7回で見た東芝やキヤノンにも似た「誰にでも当てはまる」ものとなっており、ミッション・ステートメントとして見るべきものは何もないのが現実である。

 例えば「三方良し」を事業基盤とする伊藤忠商事は「Committed the Global Good:個人と社会を大切にし、未来に向かって豊かさを担う責任を果たしていきます」を企業理念とし、「三方良し」を言い換えたに過ぎない。

 また、業界最大手の三菱商事は三菱第4代社長・岩崎小彌太の訓諭をもとにした「三綱領」と呼ぶ行動指針を企業理念としているが、これを端的に言うと、「全世界的、宇宙的視野に立脚した事業展開」を通じて「物心ともに豊かな社会」を「公明正大で品格のある行動を旨とし、活動の公開性、透明性を堅持する」ことで実現する、といった調子である。

 これは同じ大手の三井物産、住友商事、丸紅にも通じ、決して彼らはシリコンバレー企業ばりのミッション・ステートメントを持っているわけではない。

 それでも、何度も存亡の機に直面しながら、今なお総合商社が隆盛を誇っていられるのは、そのようなお題目とは無関係に、時代の変化の中で常に自らの存在価値を自問しながら、自らの存在価値を時代に合わせて変革させていったという事実に負う部分が大きい。

 そして、その結果として、総合商社は世界でも稀有な業態として彼らの存在価値を強固なものとし、現在の地位を保っていると言える。重要なのはミッション・ステートメントの存在ではなく、常に自らの存在価値を考えて事業を構築していくという姿勢と実践であることを、この総合商社の例は示している。

(この原稿は書籍『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)

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