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世界で日本ビジネスの存在感が減退するワケ 「日本エリートはズレている」の著者に聞く

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/03/13 福田 恵介
なぜ日本企業のプレゼンスは中東で落ちているのか( 写真:monzenmachi / PIXTA) © 東洋経済オンライン なぜ日本企業のプレゼンスは中東で落ちているのか( 写真:monzenmachi / PIXTA)  

 日本企業にグローバル経営の波が押し寄せて久しい。この20年来、日本ビジネスのプレゼンスは低下し、中国や韓国などが力を伸ばした。しかし、「日本企業への世界的評価は高い」「技術も営業も勤勉さも日本が一番」と思っている日本人は、今も多い。

 実態はどうなのか。アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ総領事の道上尚史氏が書いた『日本エリートはズレている』(角川新書)は、そんな日本人に警鐘を鳴らす。アジア通の外交官が、グローバルビジネスの最先端ドバイで見た、日本と世界の差は何か。

 ――著者は韓国、中国の日本大使館に長く勤務し、経済界にも知人が多い。世界では、中国、韓国企業のプレゼンスが増し、日本をしのいでいるとの話をよく聞く。

 中国、韓国のビジネスには、それぞれ弱点も少なくない。だが、日本企業が「足で稼ぐ営業と緻密な準備は負けない」「人材が優秀。ネットワークも強い」と今も思っているなら、それは実態と違い、認識を改めたほうがいい。ドバイにいるとよく見える。英米独仏や中韓より、日本は弱い場面が多い。

「日本企業は一度も来たことがない」

 ――具体的には?

 UAEの長官から「韓国も米国もフランスも、企業幹部はここ(長官室)によく来て話をし、ランチもするが、日本企業は一度も来ない。彼らは営業をしていない」と言われたことがある。日本の大学院で学んだドバイのビジネスマンは「日本はやり方が下手でもったいない」とこぼす。「日本人は勘違いしている。商品を持ってきて『売ってくれ』ではだめ。アラブ人は日本が思うほど、おカネをポンと出さない。日本ビジネスはもっと現地社会に根を下ろして、関係を築くべき」と言う。

 ――世界各国に進出する日本企業は多い。営業もしっかりやっているのではないのか。

 日本の駐在員自らが、「われわれは東京の本社ばかり見て、昼夜、日本人とばかり食事している。現地での人脈づくりはできていない」と言う。現地では「一軒一軒店を回る地道な商売を日本は知らない」と見られている。営業しない、怠慢、準備不足。自己イメージに反するだろうが、日本企業は真剣に考えたほうがいい。これは出先の問題でなく、本社の意識の問題だ。

 ――中国と韓国とは感情的な対立が生じ、それが乗じて両国の企業には負けない、負けていないと見る日本人も少なくはない。

 外交安保での指摘は(中韓に)しっかりすべきだが、中韓の欠点だけ見て悦に入っているとすれば、厳しいのでなくて、甘いのだ。単純すぎる。現地への食い込みは韓国が積極的。中国は国営企業が典型だが、財布(予算)が大きく、世界規模で展開している。中東のある国で「中国企業の方が日本より仕事熱心でスピードもあり魅力が大きい」との声もある。各国に住む人の数でも大きな差がある。

 中国社会の「いい加減さ」や、サムスン電子、大韓航空のスキャンダルだけを見て、安心する日本になっていないか。世界でのビジネス拡大は、彼らの努力がまさる面がある。上から目線でいるうちに他国に後れをとり、世界の実態認識も自己イメージもズレていないか。これでは日本の力が弱まる。

他国のスキャンダルを見て安心する愚

 ――中東ビジネスについては、日本企業のプレゼンスが大きかった時代があるが、現在はどうか。

 1970年代にイラン、イラクなどで日本企業は強かったが、相次ぐ戦乱や混乱で縮小・撤退した。その間、欧米が巻き返し、また1990年代末から中韓が急に伸びてきた。ドバイで開催される巨大な各種ビジネスイベントで、日本企業のプレゼンスが非常に小さく、ショックを受けた。中国やドイツ、英国は、企業数も展示面積も、日本の10~30倍。フランスやイタリア、韓国が日本の4~10倍。台湾やブラジル、トルコも、日本よりずっと大きい。UAEや中東には日本へのリスペクトがあるが、日本はそこにあぐらをかいて、シェアやプレゼンスが低下してしまった。

 ――日本の中東イメージが「戦乱、テロ、対立」と否定的・一面的すぎることも作用している。

 私もそうだった。ドバイに来て驚いたが、ここは日本社会のはるか前を行く、グローバルビジネス社会だ。イスラム教のスンニ派もシーア派も、キリスト教もヒンズー教も、みな同じ職場で協力して、流暢な英語を駆使して働いている。外国留学経験者が非常に多く、世界をよく知っている人たちが各国とネットワークを築いている。逆に、日本は世界の実態を知らず、腰が引けている。

 日本は「自分だけが努力している」「本物は日本だけ。他はずるいかラッキーなだけ」かのような錯覚があるようだ。国づくりでもビジネス拡大でも、他国の方が汗をかき、努力していることは多い。物まねや石油だけで、ここまで来たわけではない。UAEにも課題はあるが、日本の中東イメージはあまりに一面的すぎる。

 ――中東の知日派が、そんな日本・日本ビジネスを心配している、との指摘があった。

 「日本は研究熱心で、積極果敢なファイターだったが、今は違う。慎重なだけで意欲に乏しい」「国内の尺度に縛られ、世界が見えていない」と心配している。「日本企業は、その国にじっくりはりつき、利益もリスクもシェアする関係を築こうという、意欲や体力がないのか。案件受注だけさっとやるつもりか。であれば、将来は厳しい」との声がある。

 日本企業に長所は多いが、他国との比較の習慣を持たず、世界に関心が向かないことが根本的な制約になっている。中東や中韓の方が、日本よりも自分の欠点を自覚し、世界をよく見ている。世界の動向や力関係などのルールを知らないまま、ゲームに参加しても、勝つのは難しい。

 ――記者も海外で取材すると、日本の常識は世界の非常識、日本は井の中の蛙、と思えることがしばしばだ。日本が外から学ばなくなりズレてきたのは、成功による慢心ということか。

 それもあろうが、中東の富裕層からは、「世界のダイナミズムから距離を置き、小さな支流で清く正しく暮らす奇特な人たち」「それでは世界の舞台で活躍できない」と見えている。 技術格差が縮小し、各国にチャンスが広がる中、人が海外に食い込み、ネットワークを築くことが従来以上に重要なのに、日本は逆にここが昔より弱くなっているのでないか。対照的に、中韓はここを格段に強化し、力をつけた。

日本は「別格」などではない

 日本は、自分だけ「別格」で、世界との関係性やアジア各国との競争を「超越」したかのような意識があるようだ。自分では、グローバル化に過剰適応した”町のネズミ”のつもりでも、外からは、グローバル化に乗り遅れた”田舎のネズミ”に見えている。

 ――内向き指向を克服し、”裸の王様”から脱却すべきということか。どうしたらいいと思うか。

 刺激的な表現は避けたいが、上述のイベントのように日本ビジネスの存在が小さいこと、それを誰もが知っていて日本が知らないことは、”裸の王様”とも言えるだろうか。それから抜け出す方法は簡単で、事実を知ることだ。裸だと気づいてすぐ服を着ればいい。よい服はたくさんある。足を使った営業は、元は日本の長所だった。ドバイのビジネスイベントで日本の小ささを見たら、どんな日本人も慢心や内向き指向は吹き飛ぶ。気づきさえすれば盛り返せる。気づかないとさらに沈む。

 もう一つ、人は評価を見て動くものであり、「本社ばかり見ず、海外で営業する人」を評価するシステムにすれば、その方向に進む。今は逆になっている。UAEや中国では、日本よりも国際派人材が重用され、知へのリスペクトがあると感じる。各企業や経済界、教育界、政府などで戦略が必要だが、その前に、世界の実態として、日本が諸国との競争の中のワンノブゼムであることに気づくのが第一だ。

 ――著者は国力を重視し、「中国の子どもは日本の2倍勉強する」と教育強化をうったえる。同時に傲慢を戒め、「世界の中の日本」を強調している。

 国力というのは政治家や役人の点数稼ぎでなく、次世代の幸不幸を現実に左右する。日本は自信喪失が他国への反感、傲慢と結合してしまった。自信とプライドを持つべきだが、「日本がイチバン!」と叫び、他国の失態を見て上から目線をキープし安心するのは、少し違う。内向きや独善、視野狭窄では贔屓の引き倒し、日本の足を引っ張る。

愛国心も国際性もどちらも弱い

 「愛国心という骨」と「国際性という翼」が相まって国は伸びると思う。世界各国との比較で言えば、日本はどちらも心もとない。この15年間ほどは国際性の低下が目立つ。国力増強の方向に効率よくまわっていない。

 ――世界が「接戦の時代」に入った、と書かれているが、この真意は何か。

 1980年代以降、先進国との差を縮める途上国が相次いで現れた。今世紀に入り、逆に先進国は苦しく、新興国や資源大国が有利な状況もあった。だが、油価低落などこの2年強で、「資源バブル」がはじけた。どの国もみな苦しく、どの国もチャンスがある。技術や資源、市場規模どれも、他を圧倒する決定打ではなくなった、つばぜり合いの「接戦の時代」。課題をとらえて、改革していけるか否かが、その国の明暗を分ける。

 接戦を制するには多面的な国力が関係する。軍事安保に加え、学術や文化、技術、国際性、外交力などのソフトパワーがカギだ。海外への関心、外国への人の派遣・プレゼンス・ネットワーク、知的なものへのリスペクト。日本はここを強化しなければ、勢いが低下していくだろう。

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