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中国、党大会控え守りたい「偽りの経済安定」

The Wall Street Journal. のロゴ The Wall Street Journal. 2017/09/14 Andrew Browne

――筆者のアンドリュー・ブラウンはWSJの中国担当コラムニスト

***

【雄安新区(中国)】中国経済は奇妙な中ぶらりんの状態にある。

 中国政府が副都心として開発することを発表した「雄安新区」。北京の南に位置するのんびりとしたこの農村地帯は発表後、国内で最もホットな不動産投資先となり、ほんの少しの間だけ目の回るような投機マネーの渦に巻き込まれた。

 国営メディアは今春、習近平国家主席がニューヨークの2倍の大きさの新たな巨大都市を設立する場所として「雄安新区」を選んだと報じ、中国国務院(内閣に相当)はこの新区の建設を「来る千年紀(ミレニアム)にとって極めて重要な戦略」と銘打った。報道を受け、投資家は雄安新区へ一斉に資金を投じた。だが、一夜にして不動産価格が3倍に上昇すると、当局は習主席のモデル都市が投機筋の活動の場と化すのを放置しておくわけにはいかないとばかりに不動産開発を停止した。

 現在、新経済特区「雄安新区」プロジェクトは中断されている。辺り一面に点在する完成半ばのマンション建設現場の上でクレーンがぶらぶらと揺れており、新しく完成した豪華な別荘の門には南京錠が掛けられている。

 これと同じような見せかけだけの平穏が中国の大半に広がっている。

 習主席は10月18日から開催される中国共産党第19回全国代表大会(第19回党大会)で2期目の権力基盤を一段と強固にする構えで、この5年に1度の党大会を前に、政府は国内市場を厳しい監視下に置いてきた。何か混乱が起きてこの政治的ビッグイベントを台無しにすることは許されない。

 上海や北京などの大都市の当局は、住宅の買い手にさまざまな制限を設けることで、上昇の一途をたどる不動産価格を辛うじて押さえ込んできた。

 雄安新区の開発プロジェクトの中断に続き、中国当局はこのほど国内の仮想通貨ビットコインの取引所を閉鎖した。ビットコインは中国経済がバブルに陥りやすいことを改めて露呈した。

 海外への資金流出に歯止めをかけるため、当局は海外資産を買いあさる有力資産家を何人も拘束・尋問してきた。現在、資本逃避は抑えられている。

 こうした市場の規律はあくまでも「官製」とはいえ、一部の海外投資家から見れば、まるで経済が大きく好転したかのようだ。人民元は昨年の下げ幅の大半を解消し、上海株式市場では、鉄鋼、アルミニウムなど「オールドエコノミー」の国有企業を筆頭に幅広い銘柄で株価が回復しつつある。また、中国本土の不動産コングロマリットが香港市場で発行した債券が大人気で、投資家の資金が殺到している。

 わずか数カ月前の時点では、人民元はじりじり下げるというのが欧米エコノミストの間でほぼ共通の見方だった。多くのエコノミストは、住宅融資ブームを追い風に不動産市場は危険なミニバブルの様相を呈しており、巨大国有企業は経済成長のけん引役どころかむしろ足かせだと考えていた。

© Provided by The Wall Street Journal.

 現在、これらの不協和音は全てうまく溶け合い、心地良い交響曲として流れ始めたようだ。

 だが、基本的には何が変わったのだろうか。習主席は政権1期目で、経済不均衡の根本的原因を取り除くための策をほとんど講じなかった。すでに山のような債務が存在しているにもかかわらず、成長エンジンを担うのは依然として信用緩和だ。習氏は膨れ上がった国有企業の規模を削るどころか逆に増大させつつある。

 確かに、世界の貿易額が急増する中、中国の輸出は拡大し、工業部門の企業利益も押し上げられた。そして、ドナルド・トランプ米大統領の経済政策の行き詰まりがドルを圧迫し、ひいては人民元高につながっている。

 とはいうものの、中国共産党は可能なら策略を使い、必要な場合は至上命令を下して経済を指揮しており、総じてその統制力は実に見事だ。

 中国経済は危機を脱したと思っている人たちは、当局が人民元相場を市場に委ねたり、海外への資本流出をそのまま容認したり、あるいは債務削減に本腰を入れたりすれば果たして何が起きるかを考えるべきだ。人民元が暴落し、経済成長が大打撃を受けることはほぼ間違いない。

 楽観的な人たちは足元の株高について、習氏が秋の党大会で一段と権力を強め、それをてこに経済改革を進めるという期待によるものであり、当然の成り行きだと考えている。

 雄安新区は1つの試金石となるだろう。習氏は雄安新区を「新しいタイプの都市化」のモデルとして想定している。環境に優しく、超ハイテクで革新的な技術を利用し、社会的に孤立した人がいない全員参加型社会を実現するほか、投機筋や汚職政治家ではなく中間層のために実質雇用・所得を創出することに重点を置く都市、というのが目指す姿だ。

 だが、中国の大都市郊外には、これまで抱いていたビジョンが現実の壁にぶつかり失敗に終わったユートピアが散在している。

 上海は10年前、都心への人口集中や交通渋滞などを解消し、持続可能なライフスタイルをいち早く開発するため、欧州をイメージした一連の衛星都市を築こうとした。実用性のない新奇な建築物が次々と計画されたが、上海の構想は実現には至らなかった。上海郊外にある英国風ニュータウン「テムズ・タウン」にはパブや石畳の通りがあるほか、教会の尖塔(せんとう)がそびえ立ち、第2次世界大戦中の英国首相ウィンストン・チャーチルの像もあり、現在は結婚写真撮影の人気スポットとなっている。

 長江河口に位置する世界最大の沖積島、崇明島に自然豊かな大都市を作るという上海のもう1つの都市計画(英国の技術コンサルタント会社アラップは「新世界創造への探求」と呼んだ)も、計画段階で立ち消えとなった。

 雄安新区から渤海湾沿いを車で少し走ると、胡錦濤・前国家主席が国家プロジェクトとして「国際エコシティー(環境に優しい国際都市)」の建設を目指した土地が現れる。ここにはモノレールを設置し、風力発電と太陽光発電でほぼ全ての電力供給をまかなう都市を築く予定だった。現在は、負債が積み上がったゴーストタウンだ。

 「雄安新区」プロジェクトは投機熱に巻き込まれ、最悪のスタートとなった。

 とはいえ、中国政府にとって、根本的な原因を解決するよりもこうした投機的な動きを抑えることの方が容易だ。全権力を握る共産党指導部は当面、混乱を引き起こしかねない要因をうまく寄せ付けないようにする可能性が高い。だが、それらの要因は消えたわけではない。雄安新区に群がった投機筋のように、ただ隠れて待っているだけだ。

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