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人事部にも時短の波、「30秒研修」「1日採用」は是か非か

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/03/20 山口 博
人事部にも時短の波、「30秒研修」「1日採用」は是か非か: 研修も採用もスピード化が顕著になっている昨今。「じっくり取り組むべき」か、「時間を極限まで短縮すべき」か、という議論に終始しても意味がない。もっと本質的な問いとは一体、何だろうか? © diamond 研修も採用もスピード化が顕著になっている昨今。「じっくり取り組むべき」か、「時間を極限まで短縮すべき」か、という議論に終始しても意味がない。もっと本質的な問いとは一体、何だろうか?

ドッグイヤーならぬ100倍速で変化するインセクトイヤーにあって、米国では秒単位のトレーニングが横行し、わが国でも1デイリクルートにトライする企業が増えてきている。30秒トレーニングや1デイリクルートの是非が議論され始めているが、議論すべき論点はどこにあるのだろうか。(リブ・コンサルティング人事部長兼組織開発コンサルティング事業部長 山口 博)

1クリックトレーニングに1デイリクルート短縮競争はどこまで続くか

 技術革新による変化の激しさを例えて、「われわれはドッグイヤーのまっただ中にいる」という表現が用いられる。イヌの1年がヒトのおよそ7年に相当することから、7倍の速度で成長や変化をしているという意味だ。今日ではさらに加速し、ラットイヤー、ひいては、インセクトイヤーという言い方もされる。

 ラット(ねずみ)の1年は人のおよそ20年、インセクト(昆虫)の1年は人のおよそ100年(蚊の場合)に相当するだろうことから、20倍、100倍の速度を示す。スピード経営を示す際に用いられる比喩だ。

 トレーニングプログラムにおいても、スピード化の傾向が見られる。ケン・ブランチャードが「1分間マネージャー」を世に出したのは1982年だが、今日では、30秒トレーニングや10秒トレーニングと、もはや秒単位で競走しているかのようだ。

 ついには、1クリックトレーニングまで登場した。これは、スマートフォンをクリックすることは確かに一瞬であるが、その後の修得には、ある程度の時間をかけるというトレーニング形態だ。日本でもスピード化の流れはあるが、それ以上に米国では、この傾向が顕著だ。

 採用の領域も時間短縮がトレンドになっている。例えば、これまで応募からオファー提示まで2ヵ月かけて進捗させていた中途採用プロセスを、1ヵ月以内で進めようとしている企業は多いし、応募から複数回の面接を経て採用決定までを1日で完了させようという、1デイリクルートを実施する企業も日本で出始めている。

 スピード経営は、はやりのキーワードとなっており、どこまでいくのかというほどに、時間短縮競争の様相を呈している。驚異的に加速している環境変化に対応していくためにスピード経営が不可欠だと言われれば、誰も二の句を継げない。しかし、スピード経営の流れに逆らう声なき声がある。それは人事部が発している声だ。

アリバイ作りの長時間トレーニングが後を絶たない

 その最たる例が、「トレーニングを短い時間で実施すると、人事部が仕事をしていないように思われたり、内容が充実していないと思われたりするので、最低でも半日コースくらいのプログラム設計をしなければならない」というものだ。

 受講者を送り出すビジネス部門は、本来のビジネス展開をするために1時間でも惜しい。限られた時間で最大の効果を享受したいにもかかわらず、人事部の「仕事をしているように思われたい」という欲求のために、社員を長時間拘束されたのではたまらない。

 トレーニング提供会社も人事部の味方をする。「ある程度まとまった日数にならないと、大きな報酬を得られない」から、長時間研修は都合がいいのだ。かくして、研修を実施する側の都合がまかりとおることになる。

「受講者の理解速度は低いので、長い時間が必要だ」という見解もある。これは、人事部やトレーニング提供会社側の都合でない分、まだマシだ。

 採用の領域では、候補者を厳選して紹介し、採用される確度を上げたいエグゼクティブクラスの人材紹介会社ほど、1デイリクルートには懐疑的だ。1日で候補者の志望企業に対する関心とチャレンジする意欲をかき立てられるかどうかという点が問題だからだ。一方、大量採用で、比較的定型業務を遂行する層の採用アレンジをしている会社は、1デイリクルートを歓迎しているように思える。短期間で大量に人員補充する目的が果たせるからだろう。

 かくして喧々囂々の議論が行われている。人事部長同士で話をしていると、30秒トレーニングは有効か、1クリックトレーニングはどうか、1デイリクルートは機能するか、効果があるか否か、実施可能か否か…という話題に事欠かない。

 しかし私は、これを議論することは意味がないと思っている。なぜならば、例えば、2日バージョンのトレーニングと30秒トレーニングとでは、また、2ヵ月でプロセスを進捗させる採用と1デイリクルートとでは、能力開発プログラムのモデルや採用プロセスの前提が異なるからだ。

モデルと前提を峻別した議論が不可欠

 そもそも、例えば、30秒トレーニング、10秒トレーニングなど、秒数できざむトレーニングは、筋肉トレーニングで用いられる。文字通り、筋肉運動を反復させて、一定秒数をワンセットとするなどして、連続的に取り組んでいくものだ。ビジネススキル向上プログラムにおいても、30秒トレーニングや10秒トレーニングと称する場合は、一定秒数で反復して話法を繰り出したり、動作を反復させたりして、そのスキルを体得するプログラムを指す。

 私の用語でいえば、身に付けたいビジネススキルをパーツ分解して反復演習する「分解スキル・反復演習型能力開発プログラム」である。いわば、ビジネススキルの筋トレだ。それを、目的が異なる1日バージョン、2日バージョンのレクチャーと同じまな板に並べて是非を論じても、そもそもスキル開発のモデルが異なるので意味がない。

 1デイリクルートは、候補者の真の実力レベルと面接者が見極める評価レベルとの間の乖離幅をうんぬん言っても意味がなく、候補者が入社後に示すであろうパフォーマンスの変動幅を考えるべき、という前提によって成り立っている。要するに、入社後のさまざまな要因により、パフォーマンスは桁違いに大きく変動するのだから、採用プロセスの中で過度に厳選したり、選考を繰り返して時間をかけたりしても効果が薄いという考え方だ。

 これも、いい悪いという話ではない。繰り返し面接をして真の実力レベルとの誤差を極小化できる職種であったり、面接官であったりしたら、じっくりと採用すればよい。そうでなければ、1デイリクルートを実施することも1つの方法だ。

 実施するトレーニングが2日バージョンか30秒トレーニングか、採用プロセスが1ヵ月か1日かは、とるべきビジネスモデルと前提に応じて、最適なものを選択していけばよい。モデルや前提を区分せずして、単にかける時間にばかり着目して議論したり、是非を問うても意味がないのだ。

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