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介護現場が2025年までに直面する重大な課題 人材育成を呼びかける若き経営者の危機感

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/07/10 17:00 GARDEN編集部
Join for Kaigo代表の秋本可愛さん(写真:GARDEN Journalism) © 東洋経済オンライン Join for Kaigo代表の秋本可愛さん(写真:GARDEN Journalism)

平成30年版高齢社会白書によると、2017年10月時点で65歳以上の人口は3515万人となり、高齢化率は27.7%に達しています。これは、現役世代2.3人で1人の65歳以上の者を支えているということになります。しかし、団塊の世代が75歳以上となる2025年にはさらに高齢者人口が増大し、65歳以上の者1人に対して1.9人の現役世代という「肩車型」の社会になることが予想されています(出典:平成30年版高齢白書)。また、65歳以上の認知症高齢者数も年々増加し、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症となるという内閣府の推計もあります〔出典:平成29年版高齢白書 第1章 高齢化の状況(第2節 3)〕。

医療と介護のニーズの高まりを見込んで、政府は「2025年をメドに、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築」を推進しています(出典:厚生労働省 地域包括ケアシステム)。「病院から在宅へ」という方向性で在宅医療・介護連携の体制を整えていこうとしていますが、医療・介護従事者の人材確保など問題は山積しています。

そんな中、介護の未来を見据えて前向きにアクションを起こしている若者グループがあります。「KAIGO LEADERS (2018年5月に「HEISEI KAIGO LEADERS」から名称変更)」です。「課題解決に向けてアクションを起こす人を増やしたい」と2013年に東京でスタートし、現在全国展開を目指してとクラウドファンディング(現在支援募集中:今こそ介護の未来を変える。若手リーダーコミュニティを全国へ!)に取り組んでいます。

KAIGO LEADERS発起人で株式会社Join for Kaigo代表の秋本可愛さんに、介護現場の現状やKAIGO LEADERSとしての取り組み、そして今回のクラウドファンディングについてお話を伺いました。

「2025年問題」を前に、「一人ひとりのリーダーシップを」

 :KAIGO LEADERSさんの活動は、すごく前向きで介護に関して希望を見出すなと思って見ていました。今回、クラウドファンディングを立ち上げようと思ったきっかけは何だったのですか?

 秋本:東京を中心にKAIGO LEADERSという若手の介護領域のプレーヤーのコミュニティを5年間運営してきました。5周年を迎え、これから自分たちがどこまで目指すのかというのを改めて考える節目の年ということで、私たちが掲げているビジョン「2025年、介護のリーダーは日本のリーダになる。」について改めて考えました。

 秋本:私たちは、カリスマ性を持ったリーダーがこの社会を変えていくというよりは、介護の問題は日々の生活の中で起きているので、問題に気づいた時に一歩踏み出せるように一人ひとりのリーダーシップを高めていくことが重要だなと考えています。今はまだ東京でしかできていないので、これを全国に広めたいなと思い、2025年に向けてこの機会に全国展開をするためのクラウドファンディングを始めました。

 :なぜそもそも「2025年」なのでしょうか?

 秋本:2025年は、団塊の世代の方たちが後期高齢者の75歳以上になると言われている年です(参考:今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~)。その時に、たとえば今のままだったら、人材は37万7000人不足すると言われているという現状があったり、最期を迎える場所がない看取り難民や介護離職の問題など、今ある課題が2025年にはさらに深刻になるというのが、私が学生の時から介護の領域では当たり前に言われていました〔出典:厚生労働省 2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について〕。今から私たちがどんなアクションをしてその年を迎えるかによって未来が変わってくるなと思い、2025年を1つの区切り、目標年数として活動を始めています。

 :そうなると、介護士不足の問題もますます深刻になってきますね。

 秋本:介護職員数は圧倒的に伸びているのですが、日本の高齢化のスピードが速すぎて追いついていません(出典:厚生労働省 介護労働の現状)。

介護現場でのアルバイト、祖父の認知症で見えた課題

 :どうしてもメディアでは、介護の現場の過重労働や低賃金など、待遇面のことがよく言われます。実際にご自身の介護の現場での経験を振り返ってどうですか?

 秋本:私は大学生の時に2年間だけ介護の現場でアルバイトをしていたのですが、介護の仕事は楽しくて、人の可能性に寄り添える仕事だなと感じました。一方で、課題もたくさん見つかりました。私が働いていた現場は、2年間で現場歴が上から2番目になったのですが、それくらい離職率がすごく高かったです。また、ご家族が介護を自宅ではできなくなって放置してしまったり、一部では虐待があったりする中で、課題意識は強くなっていきました。

 :どういう状況で、介護の放棄や虐待が起きてしまうのでしょうか?

 秋本:本当の意味で、虐待をしたくてした人は1人もいないんじゃないかなと思います。私がかかわっていたご家族さんも、もともとはものすごく思い入れが強くて、何でも1人で頑張ってしまう方でした。しかし、普段働きながらも家に帰ったら両親の介護をするという状況があり、認知症で思いどおりにいかないこともあった日々の中で手を上げてしまったというのは、その人が悪いということではなく、環境がそうさせてしまうという現状があるというのは感じましたね。

 :誰にでも起こりうる状況だとも考えられますよね。

 秋本:家族の役割って、愛情として接することとか、家族であるということがまず尊いことだと思うのですが、介護をすべて家族だけでやろうとするとやっぱりしんどいものがあって。やはりそこは専門職に頼っていくことがすごく大事になると思います。実際に、私のおじいちゃんも現在認知症になり、実家で叔母とおばあちゃんが介護をしている状況です。今は週に5回デイサービスに通いながら、自分で歩くことや食事を摂ることは本当にゆっくりですができるので、家族や事業所の皆さんとのかかわりの中で、おじいちゃんを支えているという状況です。

 :介護現場の方々の支えは大きいですね。

 秋本:本当にそうですね。家族が全部担うとなると、どうしても大きな負担になってしまいます。それは、どれだけおじいちゃんのことが大好きだとしても、それを家族だけで支えるとなると、やはりどこか無理が生じてしまうと思います。無理をしない程度に支えていくということを家族としては意識しながら、借りられる手は借りるようにしているので、介護の事業所のスタッフの皆さんには本当に支えられているなと思います。

 :介護をしてくれる職員の皆さんがかかわってくれているというのは、どういう部分が助かっているなと思いますか?

 秋本:毎日ずっと家にいて、食事や排泄、入浴のお世話もそうですし、ずっとみないといけない状況が続いてしまうと、家族の心理的な負担は大きい。週に5回、日中帯デイサービスに通ってお風呂を終えて帰ってくるので、すごく負担が減っているなと思います。専門職は、ご家族の心の状態を含めて身近な存在として関係を築きそこに対してアプローチできる、すごく大切な存在です。まず働く人がどう生き生きと働けるかとか、活躍できる環境をつくれるかが大切だなと思い、今のKAIGO LEADERSの取り組みをやっています。

2025年に向け、何を学び、どうアクションするか

 :KAIGO LEADERSでは具体的にどのような取り組みをやってきたのでしょうか。

 秋本:KAIGO LEADERSでは2つの取り組みをやっています。1つは、隔月でやっている学びの場「PRESENT」というイベントです。「2025年に向けて私たちが何を学び、どうアクションをすべきか」という問いから生まれ、業界内外のトップランナーをお招きして開催しているものです。開場からお酒もご飯も楽しみながら、自分の職場を超えて人と人とがつながることのできる場となっています。参加者の年齢層は20〜30代が中心なのですが、職種はバラバラで、専門職や介護職もいれば、官僚や行政マン、ITやテクノロジーの分野にかかわっている方もいます。

 :イベントでの食事にもこだわっていらっしゃいますよね。

 秋本:介護の現場で2年間アルバイトをしている時に、モヤモヤしたまま終わってしまって。というのも、だんだんかむ力や飲み込む力が衰えて「ミキサー食」を食べているのを見た時に、顔から食べたくないのが伝わってきながらも与えないといけないという現状がありました。そこでは状況を変えられなかったのですが、介護の現場を離れた後、飲み込む力がなくても食べやすくておいしくて見た目も良い食事があるということを知りました。食事の時間をすごく楽しみにしていらっしゃる利用者さんが多いので、食事の大切さは忘れたくないと思い、イベントのケータリングもお腹を満たすだけのものではなくて、香りや見た目、食べたいという気持ちなど、五感で楽しめるようにしています。

 :具体的に、これまでどのようなテーマでイベントを開催してこられたのですか?

介護のあり方もどんどん変わっていこうとしている

 秋本:たとえば、お腹に当てたら「あと何分で排泄するよ」と排泄を予測してくれるデバイス「D Free」(参考:D Free)があるのですが、そうしたテクノロジーの進化によって、今まではお声かけするなど尊厳を完全には確保できないような状況でのかかわりしかできなかったのが、私たちの介護のあり方もどんどん変わっていこうとしているというような、最先端な兆しについて取り上げたこともありました(参考:HEISEI KAIGO LEADERS ACTIVITIES)。

 また、介護は入浴や排泄など「高齢者のお世話をする」というイメージが強いと思うのですが、ある事業所では地域の中でおじいちゃんおばあちゃんが活躍できるような環境をどうつくっていくかということにチャレンジし、それを仕事に変えているケースもあります。たとえば、洗車をやるデイサービスがあったり、公園のお掃除などを市から委託を受けてやっていたり。認知症があってもなくても誰でも活躍できる環境をつくろうという取り組みをされている事業者さんが事例をお話しくださったこともありました(参考:HEISEI KAIGO LEADERS ACTIVITIES)。さらに、介護の現場では下は高校生から上は60代、70代の方、また最近は外国人の方とも働くという環境が当たり前になってきている中で、多様な人たちとどう良いチームを築いていくのかということをサイボウズ・青野慶久社長の視点から学んだこともありました。

 :参加者の皆さんの反応はいかがでしたか?

 秋本:業界の中だけにいると、自分の現場のやり方がすべてで、課題があっても解決策も思いつかないという状況で。学びの場「PRESENT」ではいろんな知恵の交換もできるし、講師の方からのインプットもあるので、すごく活性化した議論もされていましたし、「明日から現場にこういうことを持ち帰りたい」という意見も出てきました。

「何を本当に学ぶべきなのだろう」という問い

 :いったん現場に入ってしまうと、研修のような学びの場はなくなってしまうのでしょうか?

 秋本:現場だと、介護の専門職として資格を取得するために学ぶということはするのですが、今の時代の中で求められるのは、その専門性はもちろんなのですが、「目の前のおじいちゃんをハッピーにできたら終わりかと思ったら、隣のおじいちゃんが孤独死しているという状況が地域の中である中で、それをどう解決していくか」というようなミッションに解決策を提示する力だと思っています。そうなると、専門職としての専門性を高めていくだけではなくて、「どう人を巻き込むか」ということなども学んでいかないといけないなと思っています。私たちが取り組んでいる学びの場「PRESENT」では、「今から私たちが何を本当に学ぶべきなのだろう」という問いをずっと自分たちに投げかけながらやっています。

 :多様な環境がある中で、点では対応できないから面で対応していきましょうということですね。実際に活動を始めて5年。新たな発見や予想外だったことはありますか?

 秋本:まず、学びの場「PRESENT」で皆さんがいろんな想いや問題意識を持っているなということに気づきました。その気づきから、KAIGO LEADERSでもう1つやっている取り組みがあります。介護領域や超高齢社会における問題に対して課題意識を持ち何かやりたいと思っている人が自分の思いをアクションに変えるための全6回のプログラム「KAIGO MY PROJECT」です。毎回アットホームに皆さんが対話をするような場を設けながら、自分の問題意識や思いを言語化しながらアクションへと変えていける環境をつくっています。ここでのかかわりや変化は大きかったです。

 :具体的にどのような成果がありましたか?

 秋本:これまで、専門職だけでなく、お医者さんや看護師さん、リハビリ師さんなど計121人が参加してくださいました。その中で、実際に現場で働いている介護職の方が自分の現場をよりよくするために事業所内で企画提案をして実際に取り組みを始めたり、地域の中で独居高齢者同士をビデオ通話でつなぐ取り組みを始めた方がいたり。また、視覚障害者のお母さんを持つ人が同行援護をするサービスを立ち上げたり、管理者が参加した時には「離職ゼロを目指そう」ということで1年間実際に離職者ゼロを実現したり。

 さらに、お医者さんで、「毎回病院に通院するたびに深刻な状況で来られるけれど、もっと早い段階でかかわれていたらこんなにつらい思いをしないで済んだのに」ということを介護職とのかかわりの中で気づき、大学病院での医者を辞め、介護職の人がお医者さんと気軽に相談できる「ドクターメイト」(参考:ドクターメイト)というサービスを立ち上げたというケースもありました。環境さえあれば思いのある人の可能性を開けるんだなということを、5年間のいろんな人との出会いや変化ですごく感じさせてもらいました。8月から14期が始まる予定です。

全国展開に向け、クラウドファンディングをスタート!

 :今回クラウドファンディングを立ち上げました。これまでの積み重ねをさらに広げていきたいということですよね。具体的にはどのようなことを展開していきたいですか?

 秋本:「介護職は大変だ」というイメージが世間的に先行していて、思いを持って現場に飛び込んだとしても利用者さんの思いに寄り添うことはあっても、自分の思いを語るという機会がなかなかない中で疲弊してしまうという現状を見てきました。人が本来持っている可能性がそこに留まっているというのは勿体ないなと思っているので、その環境を広めていきたいと思っています。現在KAIGO LEADERSは東京だけなのですが、今年中に大阪と金沢、さらに札幌、仙台、広島、福岡、名古屋の全国8都市に支部を展開していきたいと思っています。

 :8都市に展開すると、それぞれに地域で運営する担い手が必要になってきますね。

 秋本:そうですね。今年の8月9日から関西支部(大阪)が始まるのですが、大阪の介護職の方や介護領域にかかわっていらっしゃる専門職の方々とSNSでやり取りをしています。大阪の人たちがどうしたいか、どういうコミュニティをつくっていきたいかということが大切になってくると思うので、皆さんと一緒にやり取りをさせていただきながら、今企画を練っている段階です。

 :全国展開しようという、何かきっかけはあったのですか?

 秋本:ここ2年くらいなのですが、ありがたいことにKAIGO LEADERSの取り組みを知ってくださって、全国各地で講演や研修に呼んでいただけることが増え、その都度その地域の方々とかかわってきました。その場にはたくさん人が集まっているのですが、そこから何か生まれるかというと、講演だけではやはりやり切れなくて、すごくもどかしいなと感じていました。いつかそういうきっかけをつくれたらいいなと思っていたのですが、5年目にしてやっとつくろうとしている段階です。

地域の介護士さんなどから実際に耳にする課題とは?

 :各地で講演をしたり、全国展開に向けた準備をしたりという中で、地域の介護士さんなどからは実際にどんな課題を耳にしますか?

 秋本:すごく印象的だったのは、私が講演に行かせていただいた際に1人の介護職の方が声をかけてくださって、「こういう機会ですごく共感をして実際に自分の現場でもやっていきたいと思っているのですが、なかなか同じ思いの人に出会えません。でも現場ではまだ下っ端で、まずは自分が専門職として専門性を高めて仕事を覚えることに必死だから、そんなことはできない」と話してくれたことです。せっかくいい思いを持っているのに孤立しているんだなということを感じました。つながりによって解決できると思うので、早く届けたいなと思っています。

 :最後に、メッセージをお願いします。

 秋本:クラウドファンディングは残り2週間を切ったのですが、達成するためにはあと半分、約300万円のご支援が必要になっています。今回600万という大きな額にチャレンジをしていますが、これでも2年間で8都市に行くための最低限の金額です。今まで1カ月半走ってきて、自分たちも想像もしていなかった方々のご支援が私たちの活動への自信になっています。私自身も今おじいちゃんが認知症ですが、これからますます誰にとっても介護が重要なテーマになってくると思うので、私たちと一緒に介護の領域を盛り上げてくださる仲間を募集したいと思っております。ぜひご支援をお願いします。

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