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会社に売り渡した時間を、自己投資に使う人、使えない人

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 5日前 田坂広志
会社に売り渡した時間を、自己投資に使う人、使えない人 © diamond 会社に売り渡した時間を、自己投資に使う人、使えない人

拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第33回の講義では、「戦略」に焦点を当て、拙著、『知的プロフェッショナルへの戦略』(講談社)において述べたテーマを取り上げよう。

投資すべきは「日々の仕事の時間」

 前回は、我々が「自己投資の戦略」を考えるときに陥る「三つの誤解」について述べた。

 それは、「何を投資するか」の誤解「何に投資するか」の誤解「何を投資の成果とするか」の誤解。

 その三つである。

 前回は、そのうち、第一の「何を投資するか」の誤解について述べた。

 すなわち、我々は「自己投資」において投資するのは「資金」であると考える傾向があるが、実は、最も重要な投資は、「資金」ではなく、「時間」である

 前回は、そのことを述べたが、今回は、第二の「何に投資するか」の誤解について述べよう。

 いま、多くのビジネスパーソンが、「自己投資」とは、仕事が終わった「アフターファイブ」や仕事の無い「ウィークエンド」を使って、専門知識や語学などを身につけたり、専門資格を取得するため学校に通ったりすることであると考えている。

 しかし、残念ながら、この「自己投資」の発想では、知的プロフェッショナルとしての道は拓けない。

 なぜなら、これから第四次産業革命が進み、10年以内に、人工知能が多くの知的職業を代替するようになっていくことを考えるならば、書物や学校で学ぶことのできる「専門的な知識」を身につけただけでは、決して活躍する人材にはなれないからである。

 では、何が求められるのか。

 それは、スキルやセンス、テクニックやノウハウ、さらには直観力や洞察力といった「職業的な智恵」である。知的プロフェッショナルとして活躍するためには、仕事の現場での体験を通じてのみ掴むことのできる「職業的な智恵」をこそ身につけなければならない。

 そして、もしそうであるならば、ビジネスパーソンが、その貴重な「時間」という資本を投資すべきは、実は、「アフターファイブ」の学校でもなければ、「ウィークエンド」の書物でもない。

 それは、「ワークタイム」の仕事である。

 すなわち、ビジネスパーソンは、「日々の仕事」に対してこそ、最大の投資を行うべきであろう。

 それは、なぜか。

人工知能革命で淘汰される「素人スペシャリスト」

 それは、書物や学校では、「職業的な智恵」を身につけることができないからであり、日々の仕事の中でこそ、その「職業的な智恵」を学ぶことができるからである。

 そして、実際の仕事を通じて身につけた「職業的な智恵」こそが、知的プロフェッショナルとしての「商品価値」となっていくからである。

 こう述べると、「専門的な知識も大切ではないか」と思われる読者もいると思うが、これからの時代には、「専門的な知識」は、相対的に、その価値は低下していく

 たしかに、しばらく前の「スペシャリスト不足の時代」においては、専門知識を学び、専門資格を取ることが、自分の「商品価値」を上げるための有効な方法であった。

 しかし、単に書物や学校で学んだ専門知識や、資格試験で取った専門資格を持っているというだけの「素人スペシャリスト」は世に溢れてきている。

 そして、何よりも、いま急速に進んでいる人工知能革命によって、「専門的な知識」と「論理思考」で行える仕事のほとんどは、コンピュータに置き換わってしまうため、「素人スペシャリスト」の多くは淘汰されてしまう。いや、さらに言えば、「職業的な智恵」の初歩的な部分も、人工知能に置き換わってしまう

 例えば、営業でのプレゼンも、「顧客に分かりやすく説明する」という程度の技術であれば、早晩、人工知能が代替していく。そのとき、人間に求められるのは、顧客の表情から心の動きを敏感に感じ取るスキルであり、心のこもった言葉で顧客の不安や疑問に答えるノウハウであろう。

 また、例えば、ある企画について、様々なアイデアを出す程度の仕事は、人工知能が、かなりの仕事をするようになる。そのとき、人間に求められるのは、様々なアイデアを検討しながら、瞬時に、そのアイデアの現場での実行可能性や市場での反応を判断する直観力や洞察力であろう。

 すなわち、これからの人工知能革命の時代には、これまで以上に、我々に、スキルやセンス、テクニックやノウハウ、さらには、直観力や洞察力といった「職業的な智恵」が求められるようになるのである。

 そして、その「職業的な智恵」を学べる「最高の修業の場」は、いかなるビジネススクールの教室でも、どのようなプロフェッショナルが書いた本でもない。日々の仕事を行う「職場」こそが、最高の修業の場なのである。

 従って、日々の仕事を通じて、スキルやセンス、テクニックやノウハウ、直観力や洞察力を鍛え、磨いていくことのできない人材が、これからの人工知能革命の荒波を乗り越えていくことはできない。

 そう考えるならば、ビジネスパーソンが、その貴重な「時間」という資産を投資すべきは、「アフターファイブ」の学校でも、「ウィークエンド」の書物でもない。

 ビジネスパーソンが、最大の投資をすべきなのは、「ワークタイム」の仕事に他ならない

時間という「不思議な資産」

 しかし、「ワークタイム」の時間を投資するとは、何を意味しているのか。

 そもそも、「ワークタイム」の時間は、給料や年俸と引換えに、会社に売り渡したものである。もしそうであるならば、その「時間」を自分のために投資することはできないはずである。

 しかし、そこが「時間」という資産の不思議なところ。

 この「資産」は、不思議なことに、会社に売り渡しながら、同時に、自分のために投資することができるのである。

 例えば、会社の業務命令で、売り上げ目標達成のために必死の営業活動の日々を送る。

 これを後ろ向きに考えれば、会社に時間を売り渡し、会社のために嫌な営業活動に従事させられているとも考えられる。

 しかし、もしこれを前向きに考えれば、会社が買い上げてくれた時間を使い、会社という実践の舞台を利用して、自分の営業スキルを徹底的に磨くという自己投資を行っているとも考えることができる。

 その二つを分けるのは、ほんのわずかな視点の転換と、基本的な仕事の技法を実行することだけなのである。

 その基本的な技法については、拙著『仕事の技法』(講談社現代新書)において詳しく述べたが、日々の厳しい営業活動も、視点を変えて見るならば、顧客の表情から心の動きを感じ取るスキルを掴む優れた修練の場であり、意見のまとまらない散漫な企画会議も、それらの意見をまとめ上げるノウハウを身につける最高の修業の場なのである。

 従って、もし我々が、その視点を転換するならば、実は、「ワークタイム」の時間とは、最高の自己投資の資本であり、最も贅沢な運用資産なのである

 だから、嘆く必要はない。「アフターファイブは客先とのつきあい。ウィークエンドは家族サービス。これでは、自己投資の時間など作れない」と嘆く必要はない。

 ほんのわずかな視点の転換だけで、我々は、毎日10時間以上の時間を自己投資していることに気づくだろう。

 求められているのは、その「ほんのわずかな視点の転換」だけなのである。

 では、具体的に、日々の仕事の時間を「自己投資の資本」に変えるためには、どうすればよいか。

 そのためには、極めて重要な「二つの技法」がある。一つは、「師匠」を持つこと、一つは、「反省」の習慣を持つことである。

 この二つの技法については、次回以降、それぞれ詳しく述べていこう。

 その前に、自己投資の戦略に関する「第三の誤解」について述べておこう。

「知識と智恵」だけが自己投資の成果か

 自己投資の戦略に関する「第三の誤解」とは、「何を投資の成果とするか」についての誤解である。

 そもそも、通常の投資においては、「投資の成果」とは「金銭」に他ならない。

 では、自己投資において得られる成果は何か。

「専門的な知識」が成果である。

 多くの人々が、そう思っているのではないだろうか。

 例えば、自己投資として海外留学をして「MBA」(経営学修士)を取得したとする。この場合の自己投資の成果は、明らかに、経営学に関する「専門的な知識」である。

 しかし、すでに何度も述べてきたように、これからの人工知能革命の時代には、自己投資の成果として身につけるべきは、「専門的な知識」だけではなく、「職業的な智恵」が重要である。そして、実は、自己投資には、「専門的な知識」や「職業的な智恵」という成果だけでなく、「目に見えない四つの成果」がある。それは、何か。

「知識や智恵」という成果「関係や人脈」という成果「評価や評判」という成果「啓発や成長」という成果

 この四つである。

 すなわち、自己投資においては、単に「知識や智恵」だけが成果なのではなく、これら「関係や人脈」「評価や評判」「啓発や成長」の四つすべてが成果なのである。

 例えば、社内で、プロジェクトマネジャーとして、あるプロジェクトを進めるならば、そのプロジェクトに関する「専門的な知識」だけでなく、プロジェクトマネジメントに関する「職業的な智恵」を学ぶことができる。これは、「ノウハウ・リターン」とでも呼ぶべき成果である。

 しかし、このとき、プロジェクトに鋭意取り組むならば、社内各部署との協力、社外のパートナー企業との連携などを通じて、社内外のキーパーソンとの良い関係や人脈を作ることができる。これは、「リレーション・リターン」と呼ぶべき成果である。

 また、このプロジェクトを見事に成功させることによって、一人のプロフェッショナルとして、社内からの評価を高めることができる。さらに、連携企業からの評価、そして世の中での評判に結びつくこともある。これは、ある意味で、プロフェッショナルとしての個人ブランドを生み出すという意味で、「ブランド・リターン」と呼ぶべき成果である。

 そして、困難なプロジェクトを悪戦苦闘しながら成功に導くことによって、プロフェッショナルとしての自信を深めることができ、統率力、忍耐力、信念、志、人間力など、一人の人間として大きく成長していくことができる。こうした成長は、「グロース・リターン」と呼ぶべき成果でもある。

 このように、自己投資においては、単に「知識や智恵」という報酬だけでなく、「関係や人脈」「評価や評判」「啓発や成長」という「四つの成果」がある。従って、自己投資においては、これら四つについて、それぞれどのような成果が得られたかを考える必要がある

自己投資の戦略の「三つのポイント」

 さて、前回、今回と述べてきたように、自己投資の戦略を考えるとき、「何を投資するか」「何に投資するか」「何を投資の成果とするか」という「三つのポイント」について、考え方を誤らないことが大切である。

 もう一度、その基本を述べておこう。

 第一に、自己投資において大切なのは、「月給」や「貯金」などの資産をいかに投資するかではない。最も大切なのは、「時間」という貴重な資産をいかに投資するかである。

 第二に、その貴重な「時間」という資産を投資すべき最も大切な投資対象は、専門資格を取るための学校や、専門知識を学ぶための書物ではない。最も大切な投資対象は、すでに毎日10時間以上の「時間」を投資している「日々の仕事」である。本当に実り多い投資対象は、実は、いま我々が働いている職場であり、そこでの「日々の仕事」に他ならない。

 第三に、自己投資において得るべき「リターン」(成果)は、何よりも「職業的な智恵」を身につけるという意味での「ノウハウ・リターン」である。

 そして、その上で、「人間関係」や「人的ネットワーク」などの「リレーション・リターン」、「社内での評価」「業界での評判」「顧客からの人気」といった「ブランド・リターン」、さらには、「人間としての成長」という「グロース・リターン」を意識的に求めていくべきである。

 以上述べたように、「自己投資の戦略」における「三つのポイント」を、我々は、正しく理解しておかなければならない。

 では、「日々の仕事」において、「職業的な智恵」を、どのようにして身につけていくか。次回から、そのことを詳しく述べていこう。

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