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会議をまわすにはアナウンサーの「仕切り術」に学べ

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/07/16 秋山進
会議をまわすにはアナウンサーの「仕切り術」に学べ: 右から松本和也氏、秋山進氏 © diamond 右から松本和也氏、秋山進氏

ナレーター、ビジネスパーソン向けに音声表現コンサルタントとして活躍する松本和也氏が『心に届く話し方 65のルール』を上梓した。これを記念して松本氏と本連載著者の秋山進氏が「人に伝わる話し方」について対談した。NHK時代の秘話から、場によって使い分けるファシリテーションのあり方など、ビジネスに使える手法が盛りだくさんの対談前半をお送りする。(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山進、構成/ライター 奥田由意、撮影/小原孝博)

二役を適宜切り替え視聴者を番組に導入する

秋山進 松本さんが出演された番組は「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」や「英語でしゃべらナイト」など、大変印象に残っています。報道番組やスポーツの中継などご活躍の幅は広かったと思うのですが、なぜNHKを退職されたのですか。

松本和也 2016年6月にNHKを退社しました。退社前は、体調不良のため番組を交代し、休養してからNHK放送文化研究所に異動して専任研究員になりましたが、その時点で「話す」仕事はやりきったという思いがありました。とはいえ自分にできることは司会やアナウンスという、ある種の表現に関わることです。23年間考えてきた表現についてのノウハウを役立ててもらうことはできないかと考え、スピーチのコンサルティングをする「マツモトメソッド」を設立しました。同じ頃に『心に届く話し方 65のルール』(ダイヤモンド社 7月13日発刊)を書くお話もいただきました。

秋山 松本さんの、視聴者の気持ちを捉えて離さないナレーションや司会には、いつも感銘を受けていました。動物番組の「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」では、直前のニュース番組から視聴者の意識を即座に異国や生物の世界に切り替える。ナレーションによって短時間での導入が無理なく行われていますね。

松本 映像やテロップなど複合的な演出によって、ニュースからバラエティ番組へと視聴者の意識を切り替えます。ナレーションで工夫していたのは、自分の中に「二役いる」という感覚を持つことでした。

松本 まず、視聴者の隣に座って、カメラの動きを一緒に追う。カメラが砂漠を捉え、<サバンナだ>と視聴者が思うと、視聴者と同じ目線で「サバンナに、なにやらうごめくもの影があります」とナレーションを入れる。そして視聴者が、<あれは何だろう>と思っていると、同じタイミングで「何でしょうか」と疑問を投げかける。そして、今度は情報を提供する側に立って、「虎です、虎がいままさに――」と一気にたたみかける。

秋山 それから、「親鳥の懸命の抗戦もむなしく、ヒナはえじきになってしまいました」と視聴者の悲しみを引き出したかと思うと、「ヒナは5羽になりました」と極めて客観的な描写に転換するので、視聴者は無理なく「自然の営みだ」と思って番組について来られるんですよね。

松本 この場合も視点が二つあります。自然の営みを見守る“神の視点”と、“親鳥に寄り添っている自分”の二役ですね。そして間合いを測りながら、読者が悲しんで、悲しみに沈みすぎる前に切り替えることで救いが生まれる。視聴者が悲しみを反芻する時間、冷静になる時間を見越してちょっと先んじるくらいで、視点を切り替えるのです。もちろん映像と音響効果の上に語りを乗せていくので、ナレーションだけでその切り替えができるわけではありません。

どうしゃべろうではなくどういう場面かを考える

秋山 役を切り替えるのは、こういう役で、という「ペルソナ」を設定してそれに合わせて演じていらっしゃるのでしょうか。

松本 場数を踏んでいるうちに、勝手に切り替えられるようになります。新人の頃、視聴者が高齢者の番組で、先輩に「目の前におばあちゃんがいて優しく語りかけるつもりで」と言われました。それで、猫撫で声じゃないですけれど、声色を変えると「わざとらしい」と言われた(笑)。今度は、できるだけ自然にと思うのですが、どうすれば自然なのかわからなくなってしまって。

 かつて俳優の宇野重吉さんがアナウンサー室で講義をしたとき、「どうしたらよい声が出せるのでしょうか」という質問に「思えば出る」(笑)と答えたそうです。僕は落語が大好きなんですが、立川談志師匠も「どうやって落語に出てくるおかみさんや若旦那の役を演じるのか」と聞かれて「おかみさんの了見になる、若旦那の了見になる」と答えています。「了見」は普通は「考え」くらいの意味ですが、ここでは、おかみさんの「気持ち」や「人間性」や「ものの見方」や「立場」にすっと入る、切り替わるということだと思うんです。

 でもそれには経験が必要なんですよ。実際に取材でいろんな人を前にして、これくらいの速さで、これくらいの声のトーンだと相手に伝わりやすいと知る。あるいは、アナウンスで、NHKの大先輩アナウンサーである松平定知さん、三宅民夫さん、堀尾正明さんなどの話し方を真似するようにして、真似しきれなかったり、わざとらしくなったり、自然に話すということができなくなったりと、いやというほど失敗を重ねました。

 そうやってもがき続けて10年くらい経った頃でしょうか。ふっと余計な力が抜けて「どうしゃべろうか」ではなく「どういう場面なのか」を自然に考えていました。

「どういう場面か」を「思えば」それにふさわしい声が「出る」。親鳥の了見だったり、神の了見だったり、そういうものになれた。それからは立場や役割をすっと切り替えられるようになりました。

秋山 役割の話でいうと、「英語でしゃべらナイト」にレギュラー出演されていました。釈由美子さん、パックンと見事な連携でゲストの個性を引き出しておられました。真面目すぎず、バカすぎず、賢すぎない、絶妙なボケ具合が見事でした。

本当はツッコみたいけれど場を盛り上げるために役割を守る

松本 あの番組は出演者のチームワークが抜群でした。サッカーでいえば僕はスウィーパー。ゴールを守り、皆のフォローをする役です。釈由美子さんが得点を取るフォワード、攻撃と防御の両方を担うミッドフィルダーがパックンです。お二人ともプロとして、役割を完璧に全うされていました。

 僕は関西人で、本当は絶好のツッコミどころと思ったらツッコミたいんですよ。でもあのときは我慢して(笑)。とにかくいつも視聴者の視点で、ここはゲストのツッコミが冴えるように、自分がボケることを求められている、などと、ゲストを中心とした最大の盛り上がりのために、「今何を求められているか」を考えながら司会をしていました。

 番組が始まった当初は本当に英語がわからなくて、わからないことを素直に質問していればそれで良かったんです。でも、長く番組をやっていると、最後はうっかり聞き取れるようになってしまって。いやいや、いまのはわからなかったぞと自分に言い聞かせたり(笑)。

秋山 「英語でしゃべらナイト」では松本さんもタレントのようにキャラクターが目立っていました。一方で、司会進行に徹し、キャラクターを出さないことが求められる番組もあると思います。難しいテーマの真面目な報道番組に出られることもありますが、そのギャップはどうされるのですか。

松本 基本的にしなければならないことは同じなんです。黒いスーツを来て、その場に入れば、そういう「真面目なNHKの人」になれますから。そのときのテーマが何であれ、僕は記者やその場に呼ばれた専門家のようにはそのことについて熟知していない。でも知らないことは問題ではないんです。その場における自分の役割を認識し、それを周りと共有できていることが大事なんです。

 そのときは、一般の視聴者代表として、わからないことを聞く係になる。記者や専門家だけで、専門用語を使った議論をすると視聴者に伝わらないので、「それはこういうことですか」と確認して、噛み砕くのが僕の役割ですね。

 周りや視聴者が一番困るのは、その人がどういう立場でそこにいるのかわからない、ということです。立ち位置を決める、役割を認識することで番組に適切に貢献できます。周囲も視聴者も僕の役割が明確であれば、「英語でしゃべらナイト」の松本だ、と思ったとしても、違和感なく見てくれます。

ビジネスのプロは場に合わせて役割を切り替える

秋山 ビジネスでも、会議やチームによって出席メンバーが違うと、自分の求められている役割が変わりますよね。自分の本来の性質とは別に、その場その場で、暫定的に生じた役割を担う。それは別に自分を殺すことではない。そこにいる人同士の化学反応をより有機的にして、よりよいものを生むために必要な、とても創造的な態度ですよね。実際に僕が知っているこんな例があります。

 ある会社では、どの会議でも、参加者全員がきわめて意識的に、今回は自分はなになにの役、とメンバーの顔を見て自分の役割を判断する。そして、会議では決めた役割通りふるまうことが習慣になっていました。あ、今日は私、こういう役でいくから、みたいに宣言することもあった。だからどんな会議でも、ただ座っているだけの、いてもいなくてもいい人というのはいないんです。

 午前中の会議では、饒舌に場をまぜっかえして、新しい意見が出るように挑発する係だった人が、午後の会議では、自分よりそういうことが得意な人にその役を譲って、自分はわざと「それってどういう意味ですか」とバカの役をすることで、議題を再定義する役割を果たすとか。

 残念ながら、多くの一般的な日本の組織では、とくに同僚同士、お互いにプロとプロとして、役割分担して、有機的な化学反応を起こす、というのは成り立ちにくいのが現状です。予定調和や根回しで、上意下達、既定路線どおりに進めるのがよしとされてしまいがちですね。

松本 プロフェッショナルの意味というか、あり方が変わってきたのかなと思うことがあります。

 たとえば、従来のアナウンサーは、ニュース報道でフランクな感想を述べたり、幼い印象を与えるコメントを発するべきではないと思われていたし、アナウンサー自身もそう認識していたでしょう。しかし、最近は視聴者がむしろそういうものを求める場合もある。身近な感じがする、好感が持てると受け止める人も多いようです。それに応じてアナウンサーの反応のしかたが変わってきたかもしれません。

松本 あるいは、僕がアナウンサー一年生のとき、高校野球の実況中継で、スコアを読み間違えたことがあった。そうしたら隣に座っていた先輩が椅子をガーンって蹴るんですよ。「お前、集中力なさすぎだろう。間違えるな」って。おっとっと、と椅子から転げ落ちそうになりながら、続きのスコアを読み上げたんですが(笑)。

 今思えばそれは、僕を新人でもプロとして扱ってくれていたからなんですよね。新人でもプロはプロなんだと。でも今もし僕が新人アナウンサーが言い間違えたからといって、放送中に椅子を蹴ったりしたら間違いなくパワハラでアウトですよね(笑)。新人や経験の浅い人をプロ同士としてではなく、お客さんのように扱わなくてはいけなくなっている気がします。

秋山 プロになるまでの助走期間がすごく長いという感じで、先輩や上司はそれを見守る形になってきていますね。 

松本 そうした状況の変化も含め、その場その場にいる人同士の個性を引き出せるように、撹乱して、化学反応を起こさせて、新しい知見を引き出したり、面白い見方を提示したりできる。そんなファシリテーター的な役割の人が、番組はもちろん、ビジネスの場にもいると、すごく仕事も創造的になるし、職場の人たちの力も引き出せると思いますね。司会者としては、そういうあり方が理想だと思っています。

(後半は7月31日(月)に公開予定です。)

プロフィール松本和也(まつもと・かずや)音声表現コンサルタント・ナレーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。アナウンサー時代の主な担当番組は「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」「NHKスペシャル(多数)」「大河ドラマ『北条時宗』・木曜時代劇『陽炎の辻1/2/3』」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況に加え、報道番組のキャスターなどアナウンサーとしてあらゆるジャンルの仕事を経験。株式会社 青二プロダクション所属。秋山進(あきやま・すすむ)プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。京都大学卒。リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業からベンチャー企業、外資、財団法人など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。著書に『社長が将来、役員にしたい人』『「一体感」が会社を潰す』『それでも不祥事は起こる』『社長!それは「法律」問題です』『インディペンデント・コントラクター』などがある。

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