古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

偽ニュースは民主主義を壊す強大な「兵器」だ 煽情的なネット情報は「一歩ためる」構えを

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/03/16 11:00 成相 裕幸
津田大介氏(右)からは「メディア・リテラシーを高めよう」と言うことを禁止しようとの提言もなされた(撮影:大澤誠) © 東洋経済オンライン 津田大介氏(右)からは「メディア・リテラシーを高めよう」と言うことを禁止しようとの提言もなされた(撮影:大澤誠)

「フェイクニュース」は民主主義を機能不全にしてしまうほどの強大な「凶器」ともなりうる。日々ニュースを消費、発信する私たちが知らないうちにその動きに加担してしまっているとしたら——。

メディア・アクティビスト・津田大介氏は『情報戦争を生き抜く』、IT企業役員を経てサイバーセキュリティに関する著作や小説を発表している作家・一田和樹氏は『フェイクニュース』をそれぞれ上梓した。

前回記事(「偽ニュース」への抜本的な対策はありうるか)に引き続き、今回はフェイクニュースと民主主義の関係、マスメディアに求められる役割、メディア・リテラシーについて語ってもらった。

津田大介(以下、津田):なぜこんなに急にフェイクニュースを使ったハイブリッド戦(直接的に兵器を使った戦争ではなく、サイバー攻撃などを駆使した他者への攻撃)が普及したのかをひと言で言うと、異様なコストパフォーマンスのよさです。

 一田和樹(以下、一田)そうです。ソーシャルメディアの普及によって、急速にコストダウンが図られました。

 津田:昔は新聞やテレビなどのマスメディアを通じて大衆に情報を届ける手段がなかった。今は理論上、数千円程度の通信料とTwitter、Facebookアカウントがあれば、ほぼ情報発信コストゼロで、ときには100万人、1000万人、1億人にフェイクニュースを届けることができる。この大きな情報環境の変化がすべての原因になっていると言ってもいい。ネットやソーシャルメディアが普及したことで、それまでマスメディアによる寡占状態だった情報流通が民主化したわけです。

 一田肯定的に言うと、そうなるのですね(笑)。

 津田僕も最初はそう思ってたんですが……(苦笑)。しかし、「情報流通の民主化」は思わぬ副作用をもたらした。政府や権力を持つ人たちが、個人を装って世論をつくり出すことが簡単にできるようになってしまったわけです。

民主主義は「脆弱性」を抱えている

 一田機能的識字能力の問題ではないのかもしれませんが、やはり必ずしも理性的に判断してくれる人ばかりではない。むしろそうではない人のほうが実は多い。私たちが有している自由とか、人権とか、多様性を重要なものとする価値観をどうやって守れる社会をつくるかが大きな課題になっている気がします。

 津田一田さんが指摘している民主主義の4つの脆弱性も重要です。少数民族の存在、内部分裂、他国との緊張関係、脆弱なメディアのエコシステムを指しますが、アメリカはすべてがありました。しかも、プラットフォーム事業者のおひざ元だったから狙われたと。その4つの脆弱性を吟味していくと、実は日本こそやばいのではないかと思ってしまいますね。すべてにあてはまっているから。

 一田ハーバード大学教授が執筆した『民主主義の死に方』という本のなかで、民主主義は民主主義によって殺されると書かれています。要するにあまり理性的でない人々が圧倒的多数で、その人が可視化されて声高く主張できるようになってきたために、ポピュリズムに陥って死んでしまうという話です。ジェイソン・ブレナン氏などの政治学者たちも同様のことを指摘しています。

 その次に独裁化が進む手法として審判を抱き込む、対戦相手を欠場させる、ルールを変えることの3点を挙げています。司法制度、法執行機関、諜報機関、税務、規制当局を為政者が取り込んだりとか、裁判所を抱き込んだりとか、裁判官にお友だちを任命するとかですね。あとはメディアを買収したり、圧力をかけて言うことをきかせたり、訴訟して逮捕させたりです。

 津田最近の国内情勢の文脈で言えば、電波の周波数帯を競争入札方式にする電波オークション導入を政府がいきなり持ち出してきたりとかね。「放送法4条を撤廃しよう」という話もそうでしょう。AbemaTVのような「ネットTVをもっと増やそう」みたいな話がありました。

 実際に日本でも起きてきていることですけど、その動きに対して既存の新聞やテレビも経済的に厳しいので、突っぱねる元気がなくなってきている。世界各国のメディアが曲がり角にきている感じがしますよね。

 一田結局、今どうすべきか、対症療法的に目の前の課題に立ち向かうこともできるんですけど、おそらく民主主義の形は大きく変わるし、フェイクニュースの影響力によっては、もしかしたら民主主義という制度は機能しなくなってしまうかもしれません。次の時代どうなるか、そしてどうするかを決めないと、きっとメディアのあるべき姿も決められないでしょう。

株価操作にも使われるフェイクニュース

 津田もう1つ、一田さんの本で重要な問題提起だと思ったのは、ハイブリッド戦が外交、政治の文脈で使われているだけでなく、株価操作にも使われていることです。実際にフェイクニュース1つで、株価が乱高下したりする。政治の文脈ではなく、経済や金融資本主義の文脈で、ライバル企業をおとしめるためにフェイクニュースを拡散することが大いにある。

 トランプ氏が大統領になった直後に、トヨタなどの具体的な企業名を挙げてTwitterに非難的なツイートをしたときに株価が動きました。それを見てなのかシリコンバレーのある企業が、トランプ氏のツイートを分析して株を売買するプログラムをつくっていた。トランプ氏のツイートが何に対してネガティブに書いているかを分析して株を売買し、相当儲けたそうです。そんなテックベンチャーがあったこと自体が、世も末感しかないんですけど(笑)。

 一田LidingoやDream Team Groupなどの金融市場に特化したネット世論操作の代理店もできているみたいですから、当然そういうのはやりますよね。アメリカの証券取引委員会(SEC)はすでにこの問題に取り組んでおり、フェイクニュースで株価操作を行った会社を摘発しています。金融資本主義は、おそらくどこかのタイミングで大きく変わるか、崩壊すると思っています。

 とくに中国の影響力が大きい。中国は意図的に人民元の為替を操作するだけで、世界の金融市場を大きく動かせる。実際に中国当局は2015年8月に米ドルに対して人民元の切り下げを行い、世界中のマーケットに影響を与えました。加えて中国の巨大IT企業、アリババとかいくつかのグループを動かせば、ものすごいインパクトを与えられる。そうするとほかの国への影響は計り知れません。

 津田ではどうするか。現状の対策は4つです。AI技術を使ってファクトチェックをできるようにする、悪意のある情報発信者のサイトに広告収入が入らないように「経済制裁」する、発信者情報開示請求を改善する、そしてマスメディアがファクトチェックを継続的に行っていくことです。

 どれも特効薬ではなく、対症療法しかありません。加えて、日本は先の4要素からいうと大変な脆弱性を抱えてはいますが、まだ地上波テレビと新聞の影響力が相対的に強い。新聞の発行部数は、世界でまだまだナンバーワンだし、地上波テレビが影響力を持っている。僕の現状認識はマスメディアが他国と比べてまだ強いことが、結果的にこのハイブリッド戦の影響を小さくしているんじゃないかということです。

マスメディアの影響力はまだ強い

 一田:その点は、結構あるような気がしますね。『民主主義の死に方』の著者、スティーブン・レビツキー氏らが書いていたのは、民主主義は、実は昔からポピュリズムの脅威にさらされていたけれど、それからどうやって守っていたかと言うと、制度化されていない、法律とか制度にはなっていない人の認識、相互的寛容と自制心があったからだと指摘しています。

 津田:一方で、僕はジャーナリストでもあるので、表現の自由をすごく重要なものと考えています。インターネットは当然、表現の自由を最後まで保護してくれる自分たちの最後のツール。その意味では、非常に悩ましいところもある。規制をかけすぎると、逆に自分たちの言論が規制されてしまう。ではGoogleやFacebookに「対策をお願いします」と言ってもどこまで期待できるのか。正直「出口なしだな」という感じです。

 一田そういう意味では、今は白紙の状態に近くて、どこも打つ手がない。だからこそ建設的なジャーナリズムを考えるうえで、新しい社会やメディアの仕組みがどうあるべきかという議論をやりやすい時期だと思います。

 フェイクニュースの実態を一般の人に知ってもらうには事例を一つひとつ紹介するのがわかりやすい。1個ずつ事例を取り上げて、「実はこれは単なるフェイクニュースというだけではなくて、市民を抑圧するためのメディアの弾圧です」とか知らせていく。あとはやはり予算と組織を充実させることです。日本にはフェイクニュースと世論操作に関する研究組織がほとんどありません。

 津田ファクトチェック・イニシアティブのように日本でもファクトチェックの動きは出てきましたが、欧米と比べると組織的にもまだまだ脆弱です。正直言ってこの10年間、日本のマスコミはネットにすでに流れている情報やデマをきちんと裏付け取材することをしてこなかった。その結果、名護市長選とかであんなにデマが流れて、選挙結果に影響したのではないかとも言われています。

 僕は単独の新聞がやるのではなく全国紙が基金などをつくって対策をするべきと考えています。フェイクニュースの問題には思想的な右も左も関係ありません。そこで得た情報を各新聞社の判断で追加取材をする協業の仕組みがあってしかるべきです。

事例を多く知って啓蒙することが必要

 加えて僕は「メディア・リテラシーを高めよう」という言葉自体を禁句にすべきだと思います。フェイクニュースの手段は超巧妙化しています。AIの自動生成画像はもう本物と見分けがつかないレベルになっています。とにかくたくさん事例を紹介していくことと啓蒙が必要です。ただ、「扇情的な情報をすぐリツイートするのはやめましょう」と言いつつも、自分も間違えた情報をリツイートしたりすることもあります。プロもだまされます。

 ネット時代はメディア・リテラシーもどんどん変わっていく。新しいコミュニケーションサービスも誕生している。教科書的に教えることはなかなか難しい。ネットにある扇情的な情報は「一歩ためる」構えが必要という基本を教えるしかないのでしょう。

 一田時代は大きく変わろうとしています。世界中にフェイクニュースがあふれ、過激な政党や政治家が台頭しているのは社会の根本が揺らいでいるからです。リテラシーという概念も変わります。日本にいると世界で何が起きているかがわかりにくい。

 既存の社会が崩壊することはリスクであり不透明ですが、考え方を変えれば新しい時代の幕開けとも言えます。これからの社会とリテラシーのあり方を決めるのは今生きているわれわれなのです。

東洋経済オンラインの関連記事

東洋経済オンライン
東洋経済オンライン
image beaconimage beaconimage beacon