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債務超過の曙ブレーキ、銀行との溝は埋まるか 経営危機の引き金となったアメリカでの失敗

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/08/11 07:10 森川 郁子
8月6日に行われた決算会見で「(金融機関との)交渉がまとまるように頑張っていきたい」と語った曙ブレーキ工業の荻野好正副社長(右)(記者撮影) © 東洋経済オンライン 8月6日に行われた決算会見で「(金融機関との)交渉がまとまるように頑張っていきたい」と語った曙ブレーキ工業の荻野好正副社長(右)(記者撮影)

 自動車部品メーカー、曙ブレーキ工業(以下曙)が危機に瀕している。

 今年1月29日に私的整理手続きの1つ、事業再生ADRを申請し、再建計画の策定を進めてきたが、金融機関が債権放棄による支援に難色を示しているのだ。

工場閉鎖や3000人規模の人員削減を提案

 当初、曙は6月11日に再建計画を成立させたいとしていたが、現状では9月18日での決議を目指している。7月18日には、シャープや日本板硝子などに出資を行った投資ファンド、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)をスポンサー候補に選定。第三者割り当てで優先株を発行し200億円を調達すると発表した。

 【2019年8月20日19時3分注記】初出時の記事における「再建計画を成立させたい」としていた期日を、上記のように修正いたします。

 7月22日の債権者会議では、国内外18工場のうち、アメリカの2工場を含む6工場の閉鎖・売却や、従業員の3割弱に当たる3000人規模の人員削減、信元久隆会長兼社長ら現経営陣の退任などが提案された。同時に、金融機関には560億円の債権放棄の要請が行われた。

 だが、2019年6月末の有利子負債1132億円の5割カットに相当する曙の要請に対し、「現預金の水準に対して債権放棄額が大きすぎる」「同意できる内容ではない」と厳しい声が飛んだ。

 8月2日にも債権者会議が開かれ、計画案には再建の実効性がある、とする第三者機関(事業再生実務家協会)の調査結果を報告したが、金融機関の姿勢に大きな変化は見られない。事業再生ADRによる私的整理の成立には、30以上の金融機関すべてから承諾を得る必要があるが、その見通しはまだ立っていない。

 8月6日に発表された2019年4~6月決算は、売上高520億円(前年同期比17%減)、営業利益8億円(同21%減)の減収減益。さらにリコール関連で78億円の特損が発生し最終損益は88億円の赤字(前年同期は3億円の赤字)となった。結果、2019年6月末に4億円の債務超過に転落してしまった。

 荻野好正副社長は「9月18日の債権者会議で債権放棄の合意がまとまり、9月末に増資ができれば、債務超過は第1四半期だけにとどめられる。まずは交渉がまとまるように頑張っていきたい」と話した。

経営危機を招いたアメリカでの工場買収

 曙は自動車用のディスクブレーキ摩擦材で国内シェア約5割を占め、プレミアムメーカーを含む世界の主要な自動車メーカーのほぼすべてと取引している。筆頭株主はトヨタ自動車(11%)ではあるが、独立系と位置付けられる。日系の競合他社が「摩擦材の技術力は世界屈指」と評価する自動車部品の名門だ。

 一方、その業績は低迷している。直近5年間で最終赤字は3期、最終損益を累計すると426億円の赤字になる。足を引っ張っているのはアメリカ事業で、2019年3月期は37億円の営業赤字となった。この背景には過去の買収の失敗がある。

 2009年に曙はドイツ・ボッシュがアメリカで運営していた2工場を約10億円で買収し、デトロイト3(GM、フォード、クライスラー)との約580億円の取引を手中に収めた。リーマンショック後にアメリカ市場が回復する過程で受注は急増。工場買収は成功したかに思われた。

 しかし、ボッシュの古い工場を曙はマネージできず、生産現場は深刻な混乱に陥った。曙は外部からアメリカ人の経営者をヘッドハントして立て直しを図ったものの、新製品の立ち上げ失敗が続いた。顧客の信頼を裏切ったことで、主要顧客であるGM向けの部品を失注。足元ではアメリカ工場の稼働は低迷したままだ。

 失注の影響が本格化するのはこれからだ。利益の改善には大規模なリストラが不可避だが、現状の財務体質ではその費用がまかなえない。資本増強や債権放棄の必要性は金融機関も認めざるをえない。それでも曙の要請に、金融機関は厳しい姿勢を崩していない。

 「提案されているリストラ計画案で再建が望めるのか、疑わしく見ている」(メガバンク関係者)、「1~2年で黒字を約束できるような再建計画でなければ、債権放棄を認めるのは難しい」(地銀関係者)。現状のリストラ案では業績回復が見込めず、残った債権の回収ができるのか、不安があるという見方だ。

 また、すべての金融機関に対し、一律5割の債権放棄が要請されていることに対し、下位行を中心に主力行の責任を問う声もある。もちろん、金融機関にとって債権放棄が歓迎できないことではあるが、それ以上に、危機的な事態を招いた現経営陣への不信感も根底にあるようだ。

事態を救えなかった経営陣の責任

 社長在任29年になる信元会長兼社長は、日本自動車部品工業会の会長と、トヨタ系部品メーカーの協力会である協豊会の会長を務めた業界の重鎮である。業績が悪化する中で有効な手を打てず、明確な責任を取ってこなかった。

 【2019年8月20日19時注記】初出時の記事における協豊会会長に関する記述を上記のように修正いたします。

 事業再生ADRがまとまった暁には、信元会長を含む代表取締役は辞任する方向だが、別のメガバンク関係者は「大して自助努力もしてこなかった」とけんもほろろだ。

 今年2月にアメリカ事業の再建役として斉藤剛執行役員が現地子会社社長として赴任した。しかし斉藤氏は、2013年に同じポジションに就いていたが、アメリカの生産混乱を収めることができなかった。社内からでさえ「一度失敗している人を送るしか、選択肢はないのか」と声が上がる。

 JISへの第三者割当増資に必要な臨時株主総会は9月27日。曙は9月18日までに金融機関を説得することができるのか。

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