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働き方改革・生産性向上に直結する「健康経営」とは何か

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/02/14 06:00 ダイヤモンド・オンライン編集部
働き方改革・生産性向上に直結する「健康経営」とは何か © diamond 働き方改革・生産性向上に直結する「健康経営」とは何か

日本企業の喫緊の課題として、生産性向上、それを実現するための働き方改革への取り組みがさまざまな形で進められている。なかでも、「健康経営」は働き方改革のベースともなる経営戦略だとして、経済産業省が「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」といった顕彰制度を開始するなど、その推進に力を入れ始めた。ここで言われている「健康経営」とは、従業員の健康管理といった側面だけではなく、企業成長につながる、経営視点で行うべきものであるという。まさに“国を挙げて”取り組みが始まった「健康経営」の本質とはなにか。経済産業省ヘルスケア産業課長の西川和見氏に聞いた。

健康経営は「コスト」ではなく「投資」

――“従業員の健康”というと、健康診断や健康管理といったイメージを抱きがちですが、今、経済産業省が推進している「健康経営」は同じ“従業員の健康”を考えるにしても、経営視点であることがキーになっています。

西川 そうですね。まず今の日本と企業が抱えている問題から考える必要があります。 マクロ的な側面から言うと、日本経済全体として、超高齢化社会にどう取り組むか、という課題がありますが、健康な人が増え、例えば65歳で一律に引退する必要がなくなれば、労働生産力の増加が期待できます。また、介護離職される人が年間10万人くらいいますが、高齢者が元気でいることでそれを支える現役世代もしっかり働くことができます。だから今、健康に投資することが重要になっているんです。

 それだけでなく、今の安倍政権の成長戦略で最も言われているのは「生産性をいかに上げるか」ということです。だから働き方改革を推進しているわけですが、みんなが健康であればいい、ということだけではなく、健康に投資することによって従業員のみなさんの生産性と活力を上げるところが狙いになっています。

 ミクロ的な側面では、生産性向上の観点、イノベーションを起こす環境・組織づくりといった経営戦略的な観点から従業員の健康管理、健康維持が重要になります。

 ここでポイントとなるのは、コストとしてでなくて「投資」として取り組むこと。そのためにも、企業経営者は企業理念に掲げ、その理念に基づく体制を作り、その体制に基づくアクションを取り、PDCAを回し、法令を守りながらしっかりやっていくということが大事になりますが、何よりもコストではなく投資として意識を持ってやっていくということが一番重要なことです。

 そして、従業員の健康と生産性を同時に管理するこうした経営は英語で言うと“ヘルス・アンド・プロダクティビティ・マネジメント(Health and Productivity Management)”と言いますが、ヘルス(健康)に投資をした結果、プロダクティビティ(生産性)が上がらないといけない。ここが健康経営に取り組む意味、本質だと思っています。

――従業員の健康に投資すると、自社の生産性が上がり、それが業績向上に寄与する、というものにならないと、経営視点で捉えられるものにならない、と。

西川 そうです。では、健康経営に戦略的に取り組むことで、従業員が健康になる、ということ以外に経営的にはどんなプラスアルファがもたらされるか。3つあると思っています。

 一つは、従業員の心身の健康度が上がり、休まなくなります。もしくは、会社に出てきてしっかり働けるようになります。それが生産性向上につながります。

 例えば、糖尿病などの持病がある従業員の方などで病院に毎週通わなくてはならなかったり、女性の従業員の方で女性特有の体調不良でちょっと力が出せなくなってしまったり、と「なかなかしっかり働けない」状況に陥ることが実際に、結構多くあります。

 そうした従業員にソリューションを提供して個人の心身の健康を上げるようにすれば、しっかり生産性は上がるようになるはずです。

 二つ目は組織の活性化につながることです。健康経営に取り組むには、風通しの悪い職場や仲が悪い職場では難しいからです。

 例えば、上司が「みんな元気かな?」としっかり様子を見る必要がありますし、メンタル面などは実際に話してみないとわからないことも多い。また「みんなで健康に留意しよう」という空気が広がってくると上司と部下だけではなく、同僚同士も気になってきてコミュニケーションが生まれやすくなります。

 何より、そもそも、会話をしてコミュニケーションが取れないと、健康経営で追求するような“項目”の達成は不可能なんです。メールだけでも無理です。その結果、コミュニケーションが活性化され、組織の一体感が強まっていく。

 つまり、健康経営を進めていくと、職場の風通しがよくなり、意思疎通もよくなり、結果的に、今の日本社会に必要なイノベーションを起こすような組織の素地が出来上がってくることが期待できるのです。

 三つ目は、企業価値の向上につながることです。企業価値というのは、労働市場からの評価や資本市場からの評価、さらに取引先からの評価、といったものがあると思います。

 労働市場からの評価、というのは、例えば採用活動ですね。我々の調査で、就活生に「将来どのような企業に就職したいか」、就活生の親に「どのような企業に就職させたいか」を聞いたところ「従業員の健康や働き方に配慮している」という項目が学生と親、共に特に高い回答率になりました。これは、学生が就職先を検討する上で健康経営が非常に大きな選定要素になっているということ。つまり人材採用につながりやすくなるということです。また、資本市場からの評価というのは企業のイメージアップにつながるといったことです。

 これら3つの点については、定量的な分析も含めて経営におけるプラスの効果としてしっかり結果が出ています。

西川 ただ、このような経営視点からのメリットを挙げても実際に何からやればいいのか。また実際、現状でどれくらいできているのか、他社と比べてどうなのか、という項目がないとなかなか実践しにくい、ということで、「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」を評価する環境整備のために、東京証券取引所と「健康経営銘柄」の選定(2015年~)や、日本健康会議と「健康経営優良法人」の認定(2017年~)といったことを開始しました。

 これは、健康経営に関わる経営理念、組織体制、制度や施策の実施、評価、コンプライアンスなど項目に答えてもらう「健康経営度調査」を行い、その結果を評価して、企業を選定します(詳しくはhttp://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_meigara.html)。

――そこに選ばれる企業、健康経営が評価されている企業の特徴にはどんなものがありますか。

西川 先ほど述べたように、経営者が経営理念として掲げ、しっかりコミットしている企業、総務・人事部がしっかり取り組んでいる企業というのは大前提です。そもそもそこがしっかりしていないと、健康経営は実践できません。

 そのほかには、「健康経営銘柄」では、短期的に「選定銘柄に選ばれたい」ということではなく、以前から従業員の健康をしっかり考える取り組みを長くやってきていて、結果的に選ばれている企業が多い印象を受けます。ですから「選ばれている銘柄企業の名前があまり変わらない」と言われることもあるのですが、それはつまり、短期間で取り繕えるようなものではないということです。

――こうした企業に選定、認定された企業からはどんな反響があったでしょうか。

西川 社内外から前向きな反響があった、と様々な声が寄せられていますが、大企業は毎年定期的に採用活動を行なっているので「優秀な人材の確保につながった」など労働市場からの高評価を挙げる声が比較的多かったのに対し、中小企業からはもっと自社内の影響、「従業員の健康に対する意識が上がった」とか「コミュニケーションが活性化した」といった声が多かったです。中小企業のほうがより自社内へ影響が出やすいのだと思います。

――大企業で1人働けなくなってしまうのと、中小企業で1人働けなくなってしまうのでは業績に対する影響もかなり違うので、中小企業ではより健康経営への取り組みは重要になってきますね。

西川 そうですね。まず、「健康経営銘柄」は東京証券取引所に上場する33業種で、1業種1社から選定するというところからスタートし、その後、健康経営銘柄に準ずる「健康経営優良法人」の認定を大企業から始め(通称「ホワイト500」)、今、中小企業にもそれを広げているところです。

西川 現状では、「健康経営」「健康投資」といったことはどうしても大企業のほうが取り組みやすいものになっていますが、今後はさらに中小企業、特に地方の中小企業にもっと周知していくことが必要になってくると思います。大企業以上に、中小企業は、健康投資をすると本当に生産性が向上するのか、という点はシビアに見られると思いますので、様々なロジックとエビデンスを整理し、中小企業経営者の方々に共有していきたいと考えています。

――「健康経営」の先進的な事例では、どのようなものがあるのでしょうか。

西川 例えば東京・丸の内では、複数の企業が連携し、情報交換して健康経営に取り組んでいたり、共同でいろんなサービスを利用していたり、また、代表的なオフィスビルである「丸ビル」の中に様々な健康管理をするスペースを作ってみたり、と、いろいろなイベントを進めています。これは世界的に見ても珍しく、とてもユニークな動きです。

 米国企業でも健康経営という考え方はあり、個社レベルで行なっているケースが多いのですが、日本企業のように「面」で広がりを見せているケースはそうそうないですね。

――個別企業で取り組むにしても、丸の内のように「面」で取り組むにしても、全社をあげて進めなければ効果・成果が出にくいだけに、経営者の本気度が要になりますね。

西川 健康経営銘柄や健康経営優良法人という観点から言うと、経営者も長期目線で取り組まないと継続が難しいですし、何より、選定・認定された後もしっかり取り組んでいかないと、従業員から指摘を受けることにもなります。また、健康経営銘柄に選定された後に、何か噂が立っているとか、行政指導を受けたなどの場合は選定されなくなります。

 一時的に選定や認定を受けたいだけとか、労働市場の評価を高めるためにとにかく認定を受けたいとか、そうしたスタンスの企業では続かないほど、現状は健康経営企業の真剣な取り組みによる“競争”が行なわれています。ですから、経営者はおのずと本気で取り組む必要性が出てきますね。

――今後の課題は。

西川 一つは、先ほども申し上げたとおり、地方の中小企業に向けてもっと周知し、中小企業経営者に健康経営をしっかり取り組んでもらうことです。

 もう一つは、企業の健康管理というと、「男性・メタボ・ワーカーホリック」といったようなイメージにどうしてもなりがちですが、生産性の向上という観点から今後力を入れていく必要があるのは、女性に対する健康経営です。女性が抱える健康問題は、実際に従業員の生産性低下に大きく影響している、という声がたくさん寄せられています。そこに対する環境整備やサービス作りがまだまだなので、そこは課題を整理していかなければいけない点だと思っています。

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